#インタビュー

ソーシャルアクションカンパニー株式会社|社会貢献活動を可視化し、新しい価値に変える画期的なアプリ「actcoin」

ソーシャルアクションカンパニー株式会社

ソーシャルアクションカンパニー株式会社 薄井大地様 インタビュー

薄井大地

1988年 栃木県生まれ。大学在学時、グラミン銀行グループとのパートナーシップのもと日本の学生・社会人をバングラデシュへ派遣するフィールドワークプログラムを友人らと創始。ソーシャルビジネスコンペティション「SIFE」国内大会優勝、世界大会出場。早稲田学生文化賞、稲魂賞など受賞。不登校生の高校進学・転学を支援する民間教育企業を経て国際協力NGO e-Educationの事務局長に就任(現理事)。TEDxICU2016登壇。松下政経塾入塾(39期)。R-SIC2019登壇。日本青年会議所主催「JCI JAPAN TOYP(旧人間力大賞/青年版国民栄誉賞)2022」会頭特別賞を受賞。情報経営イノベーション専門職大学・客員教員。

introduction:

アクトコインと称される同社独自のオンライン・コインは、アプリユーザーの社会貢献に応じて付与されます。貯まったコインは可視化され、ユーザーのモチベーションを高める役割を担います。同時に、その獲得履歴などに応じて、ユーザーは様々な特典を受け、時にはアクトコインが寄付やエシカル商品の購入に繋がります。アプリ「actcoin」は、それそのものが社会貢献への優れた手引きであり、情報の宝庫ともなっています。

今回は、薄井大地取締役COOに、同社が目指すソーシャルアクションの新しい価値や展開などについて伺いました。

社会貢献活動を多くの人に身近なものとし、社会全体のムーブメントを作る

-まずは、御社の概要をご紹介ください。

(本文中の表記について:「actcoin」はアプリを、アクトコイン(「」なし)はオンライン・コインを意味します。)

薄井さん:

社会貢献アプリ「actcoin」の開発と運営をおこなっている、2018年創業の企業です。「actcoin」は、ソーシャルアクション、すなわち社会貢献活動に関わる人々の層を広げ、社会全体のムーブメントを作ることを目指して開発されました。

アプリには、ソーシャルアクションとして「イベント参加」「社会貢献となる日々の習慣」「寄付」「アプリ内での情報の発信」の4ジャンルを設定しています。ユーザーが、該当するアクションを行ったことをアプリで報告すると、その内容に応じてオンライン・コインのアクトコインが付与される仕組みです。アクトコインに金銭的機能はありませんが、ゲーム的なモチベーションアップの要素や、様々な特典などの価値を持っています。

現在、個人ユーザーは1.6万人、NPO、企業、自治体などのパートナー団体様の数も350を越えています。アプリの運営を軸として、このようなコミュニティを活かしたコラボレーションの事業も広く展開しています。

ビジョンは<より良い未来を願う人々が繋がり、アクションの輪が広がることで多様性と包摂性のある社会へ>。そのビジョンに向けて果たす使命として、アプリの理念でもある<ソーシャルアクションを新しい価値に変える>をミッションに掲げています。

-どのようなきっかけや背景から、このアプリが誕生したのでしょうか?

薄井さん:

私は、大学在学中の2009年くらいから、国際協力やソーシャルビジネスの分野に関わっていました。不登校生を支援する企業や、アジア・アフリカに関連するNGOなどでの活動を通して、日本の社会貢献の場や事業において、関わる人々や、その活動を支える温かいお金の流れを増やし、育む必要があると実感したんです。その想いがこのアプリにつながりました。

社会課題に取り組む起業家や企業は、まだ多くの人にとって何か特別なもの、自分たちとは違う向こう側の存在と感じられています。それはなぜかと言うと、社会貢献への関わりが一般的に少ないんです。社会全体のムーブメントを作るためにやるべきことはたくさんあるな、と感じました。

アプリサービスでいえば、ソーシャルアクションを見える化することや、ITやゲーム的な力を組み合わせることで可能性が広がると考え、今回の展開になりました。

国際的な活動を通じ、社会貢献における日本と海外の温度差を感じたのですか?

薄井さん:

国民性として、日本人は「日本には寄付文化がない」と思い込んでいる節があるように感じ、そこに一つ問題意識があります。

例えば、神社のお賽銭やお寺のお布施などをしていても、「あなたは今年寄付をしましたか?」と聞かれると「一回もないね」と答える人が多い。しかし海外では「毎年教会で寄付しているよ」といった感覚で話されることは自然で、それが国際比較の調査で「日本人は寄付をしない」となってしまっている側面もあります。他にも、会社の同僚のお子さんが結婚して祝いの金品を送ることなどもよく見る風景ですが、日本には日本の贈与/助け合いのカルチャーが存在しているにもかかわらず、「寄付文化がない」と言われているからなんとなく「寄付」は敬遠してしまう、という言葉の罠がありそうです。他人に金品を送るという部分で、世界の感覚と日本の感覚にずれを感じます。

会社の同僚は家族の延長みたいなもので、彼らには金品を送っても、一歩外に出た瞬間にほかは完全な他人。ここまでは身内、ここから外は自分と関係ない世界、という切り分けも強い。非営利セクターに当事者意識をもって参加してもらうことへのハードルが高いのが、日本の特徴だと思います。

多くの人が非営利セクターとつながるきっかけを得て、その関係性からより自然に社会貢献に参加できるようになることが、「アクトコイン」の目標です。

コインを貯めることと、貯めたコインに価値を持たすことを連動させる          

-それでは、アプリに登録する手順と、アクションの内容、使い方を具体的に教えてください。

                

薄井さん:

アプリをダウンロードいただくか、ブラウザ版でユーザー登録していただければ、基本機能が使えるようになります。登録もニックネームやプロフィール画像、関心あるSDGsの番号などの簡単な設定のみです。

「イベント参加」「社会貢献となる日々の習慣」「寄付」「アプリ内での情報の発信」の4つのアクションについて簡単に説明しますね。

「イベント参加」は、登録団体さんが開催するイベントに参加しよう、というものです。「アクトコイン」内には、様々なイベント情報が掲載されているので、参加した際に、提示されるQRコードを読み込むことなどで、アクトコインが付与されます。

「社会貢献となる日々の習慣」は、日々の社会貢献的習慣をチェックするものです。CO₂削減とかフードロス削減などのカテゴリーの中に、様々なアクション項目が用意されています。取り組みたいものを設定(最大17項目)すると、夕方くらいに、アクションを報告しましょう!と通知がくるので、選択して報告ボタンを押すと、500コインゲットになります。

「寄付」は、寄付した日付、金額、団体名を入力し、寄付の領収書の写真を送信すると寄付金額分のコインが付与されます。アクトコインとして信頼できる団体さんをアプリ内で紹介していますので、そちらを参照していただければと思います。

「アプリ内での情報の発信」は、「参加」「習慣」「寄付」の3つのカテゴリーで一回ずつコインを獲得すると、「ソーシャルアクター」に認定され、プロフィールに星マークがつきます。そうなって初めて、アプリ内のタイムラインにポストする権利が得られます。投稿の内容は全ユーザーが見れますが、投稿そのものはソーシャルアクターのみという仕組みです。

ランクアップ機能の第一弾ですが、ソーシャルアクターならおふざけ・荒らし投稿はしないので、という意味もありますね。おすすめのイベントなどの情報、気になったニュースなどを投稿すると500アクトコイン付与という設計になっています。

-アクトコインについて、もう少し詳しく教えてください。

薄井さん:

アクトコインを、なによりもまずゲームのような感覚で楽しく貯めていただければ嬉しいですね。ユーザー一人ひとりのアクション履歴はマイページに残り、貯まったコインも「見える化」されていますので、社会貢献へのモチベーションアップにもなるかと思います。ただ、今後は貯まったコインに価値を持たせることもさらに進めていきます。現在でも、キャンペーン的に、貯まった総額に応じて「エシカル商品のプレゼントに応募できる」などの特典を様々に付与しています。

また、イベントによっては、ポイント的な換金に近いかたちで使えるケースもあります。2021年にパナソニックセンター大阪さんとコラボしたイベントでは、出展団体にアクトコインで貢献できるシステムを作りました。NPOや様々なフェアトレード・エシカル商品を扱う20団体くらいのマルシェで、例えば1万アクトコインを持っているユーザーは「400円相当の買い物や寄付ができる」ようにしたんです。

(パナソニックセンター大阪で開催された「あるままフェス」のマルシェの情景)

このように、コインを貯めることと、貯めたコインに価値を持たすことの連動が、今年(2023年)から本格始動しています。運営会社とは別法人で財団を設立し、財団側でコインを価値化する企画原資を担保する体制も整ってきました。

ソーシャルアクションを新しい価値に変える

-アクトコインにお金の機能はないけれども、時には商品の購入や寄付に使える「お楽しみ」も増えてくるのですね。このあたりはどのような割合となっていくのでしょうか?

薄井さん:

このバランスの取り方が難しい部分ですね。「このアクションをしたら~円分のポイントがもらえる」というのが、これまでの価値のイメージだと思います。でも、これだけのことをしてもたった~円分の価値しかないんだ、というようなイメージを持つ人が出てしまうと、本当はとてもプライスレスで大切なソーシャルアクションが、「あなたのそのアクションは~円分相当」と、価値を狭められることになりかねないんです。

これまでのポイントのプロジェクトは、民間主導のものや省庁など行政が展開してきたものも含めて、ポイ活(ポイントを得る活動)みたいな文脈で消費されがちです。そうならないために、当社は、ソーシャルアクションの新しい価値として、機能的価値、情緒的価値、自己表現価値の3つを提言しています。

「ソーシャルアクションで自分にもちょっと嬉しいリターンがあった。」という機能的な側面だけでなく、「充実感などの情緒的な価値を感じた。」「環境問題に興味があっても『意識高い系』なんて思われるのは嫌だな」などと感じていた人が、「アクトコイン」のコミュニティの中で、一緒に行動できる仲間が生まれるという自己表現の価値を感じた…というようなことです。

「一個の価値ではないんです」というところが、私たちが提案したい「ソーシャルアクションを新しい価値に変える」というポイントですね。

        

-ソーシャルアクションの新しい価値を作り出していくためにも、御社自体がサステナブルに存続していくことが必要ですね。そのためには利益を得ることも大切ですが、可能であれば、収益性について教えていただけますか?

薄井さん:

アプリの基本機能は個人にも団体にも無償提供ですが、平行して、企業さん、自治体さん、学校さんなどとコラボしており、これは有償のビジネスです。その両輪で企業運営をしています。

同時に、アプリ単体のビジネスモデルも今後強化したいと思っています。一番の鍵として、アプリ内にクレジットなどの決済機能をつけたいですね。いろいろな企業が取り組んでいるエシカル商品の販売などに「アクトコイン」のプラットフォームを使いたい場合は購入の支払いに、またイベントなどへの参加費や寄付においても、アプリの機能強化によって、決済の商取引が発生します。そこからもアプリの継続的な運営に必要な収益を上げることができます。

アプリで学ぶ新しい寄付教育プログラム

-それを聞いて安心しました。他団体とのコラボにはどのようなものがあるのですか?

薄井さん:

350を越えるパートナー団体さんの中でも、40団体くらいが公式イベントパートナーとして登録してくださり、継続的に協働できる相乗効果が生まれています。

その他にも、先ほどお話した、パナソニックセンター大阪さんとのコラボ「あるままフェス」などの事例や、ある企業さんは、SDGs的な取組みとして従業員全員が「アクトコイン」に参加されるケースなどがあります。自治体では、北九州市さんに「ゼロカーボン推進」のための特設ページをご提供しています。

新しい試みとして、都内のある中高一貫校とのコラボレーションで、生徒さんの皆さんに「アクトコイン」を始めていただき、学校内でボランティアをしてアクトコインを貯める、というプログラムを進めています。特設ページを設け、学校でのアクションを可視化していますので、学校側が立てた企画に添って、コインを獲得した人数や、「全校で目指せ10万コイン!」などのプランの推移がウオッチングできるんです。

10万コインが達成できたら、当社の財団が寄付原資1万円を負担させていただき、候補団体の中から生徒さんの投票で寄付先を決めていただく予定です。これまでの学校教育では、共同募金などをしても、どんなところにお金が行き着くのかわからないといった声も聞かれましたが、今回は自分たちでソーシャルアクションしてアクトコインを得て、団体を調べて投票して寄付先を決めるわけです。こうした新しい寄付教育のプログラムを提示し、全国に広めていきたいと考えています。

(寄付先の紹介ページ)

-アプリで寄付教育ができるとは!ほかにも、「アクトコイン」で学べるものはいろいろありますね。アクションの項目の<「普通は」「常識的に」という言葉を使いそうになって留まった><自分と違う立場の人の気持ちを受け入れた>などの内容を読み、社会貢献のベースとなるような人間性も育めるアプリだと実感しました。

薄井さん:

ビジョンに、多様性と包摂性のある社会の実現を掲げていますし、そこに尽きるという感はあります。耳聞こえのいい言葉を並べるだけにはしたくありません。

私たちのクレド、すなわち大切にする価値観・行動指針の一つは<Be the Change, Change the Future>です。大きいものを変えていくスタートとして、私たち自身がまず変化を体現していこう、と思っています。それに加え、<「今」も「未来」も大切な瞬間><「自分」も「他者」も大切な存在><「半径5メートル」も「海の向こう」も大切な視点>ということも掲げ、それらを実現に繋げるために、アプリの項目に具体性を持たせているんです。

こういったところに共感してくれるパートナー団体さんとのコラボによるアクション項目も追加していますから、必然的に当社の運営メンバー以外のきめ細やかな視点もどんどんアプリに反映されていく環境ができています。

サービスを軸にどのようなコミュニティを育めるかが大切

-最後に、今後の展望をお聞かせください。

薄井さん:

アプリはしょせんツールでしかないので、サービスを軸にどのようなコミュニティを育んでいくかが一番大切だと感じます。

2021年からは、多くのソーシャルアクションを行ったソーシャルアクターたちを表彰するイベントを開催しています。また、今年はようやくのコロナ明けで、二年半ぶりにミートアップイベントも再開します。ユーザーの方々から、「アクトコインでは素敵な人々と多く出会える」と言っていただけたことは、とても嬉しかったですね。まさに価値提供の部分だと思えましたから。ユーザー同士が繋がる場をさらに提供していきたいです。

(第1回ソーシャルアクター表彰式にて)

また、ソーシャルアクションで貯まったコインの使い方を、新しいソーシャルアクションに繋げる魅力的な企画も立てたいです。例え話としてよくミスチルの桜井さんを例に挙げるのですが、彼はアーティストとして大人気であるのと同時に、環境課題に熱心に取り組んでいることでも有名です。もし、100万アクトコインを貯めた人限定で、「桜井和寿さんと一緒にゴミ拾いしよう!」というイベントを企画したら、ものすごくたくさんの人が一生懸命コインを貯めると思うんです。「ポイ活」にならないようバランスを取らねばなりませんが、人をソーシャルアクションに導く仕掛けは様々に作れると感じます。

アプリの特徴として、ユーザーは三分の二くらいが三十代以下、そして半分ほどが二十代以下と、若い世代が多いんです。日本の人口バランスからいうと少数派になりがちな若年層が起点になってどこまで新しいムーブメントが作れるか、だと思っています。

「上の世代の価値のイメージと若い人の感じる価値が溶けあって、ソーシャルアクションを新しい価値としていく」成功モデルを目指したいです。これは新しい事例だ、研究してみよう!などと、多くの人に「アクトコイン」が探求しがいのある存在として認知されたら嬉しいですね。

-お話やアプリの内容そのものから、たくさんのことを学ばせていただきました。ありがとうございました。

関連リンク

actcoin公式HP:https://actcoin.jp/index.html