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2024年10月にスペインで発生した洪水の原因は?

2024年10月にスペインで発生した洪水の原因は

近年、世界各地で気象災害が激甚化しています。とりわけ2024年に大きなニュースとなったのが、10月にスペインのバレンシア州を中心に発生した豪雨と、それによる洪水被害です。この災害は、その規模の大きさもさることながら、災害対策に対して都市が抱えている問題を浮き彫りにしました。洪水はなぜ発生し、どのような対策をとるべきだったのか。改めて検証していく必要があります。

2024年10月にスペインで発生した洪水とは

スペインで起きた洪水は、その範囲が広く、長い期間にわたったことで、より深刻な事態となりました。この水害の概略を、時系列で追っていきましょう。

10月27日:スペイン南部

災害の始まりとなったのは主にスペイン南部・アンダルシア州からです。

アンダルシアでは、10月27日から30日にかけて激しい雨が降り続きました。特にアルメリア県では10月27〜28日にかけて豪雨に襲われただけではなく、エル・エヒドやダリアスなどの自治体では直径4cmを超える大きな雹も降っています。

10月29日:スペイン東部

最も災害が大規模なものとなったのが、29日に東部バレンシア州を襲った豪雨と洪水です。

この日、バレンシア州は朝から断続的に激しい雨が降り続きました。その勢いはすさまじく、各地で1時間に100mmを超える降水量を記録します。特にバレンシア西部チバの街では、8時間で一年分の降水量に相当する約490mmを超える雨量を観測しました。

干ばつで固まったスペインの土壌は水を吸収する機能が乏しく、やがて急激に増える雨量に耐えきれなくなった多くの河川で鉄砲水が発生し、氾濫が始まっていきます。トゥリア川、フカル川などバレンシア近郊だけでなく、州南部のセグラ川などでも河川が氾濫し、瞬く間に都市部や農村部は洪水に飲み込まれていきました。

11月上旬:各地で水害が継続

国内を襲った激しい豪雨は31日には収まっていきます。

しかし11月に入っても各地で洪水や土砂崩れが続き、救助や復旧活動は進みませんでした。

11月3日にはバルセロナでも豪雨と浸水が発生し、バルセロナ空港の施設の一部が冠水して発着便にも支障が生じました。8日にはカダケスとジローナでも洪水が発生。11月11日には、アンダルシアのマラガでも集中豪雨に見舞われたことにより、大規模な洪水が発生しました。

スペイン洪水による被害状況

この洪水によって、東部のバレンシア州やムルシア州、カスティーリャ・ラ・マンチャ州、南部のアンダルシア州などの広範な地域で、甚大な被害がもたらされました。

それらの多くの都市や村では町全体が水没し、家や車が流されて多くの住民が避難を余儀なくされます。さらに停電や断水によってライフラインが致命的な被害を受け、多くの街で住民が孤立することになりました。

主な被害

  • 死者232人、行方不明者3人
  • 最低保険補償額:35億ユーロ(推定)
  • 総経済損失:100億ユーロ超(推定)

と見積もられており、影響は自治体のみならず、企業、農業、などあらゆる方面に及んでいます。

主要道路や鉄道網も多数寸断され、バレンシア〜マドリード間の高速鉄道は復旧まで2週間以上を要することになりました。

最も被害が大きかったのは?

最も大きな被害を被ったのはバレンシア州で、11月8日の時点で死者219人、中でもバレンシア市の南、パイポルタの街では62人が亡くなったとされています。

パイポルタには川幅の狭い渓谷があり、ここに水路の許容値をはるかに超える大量の水が蓄積されたことが、激しい洪水を引き起こしました。普段は川の水位が非常に低いため住民の危機意識も薄く、避難が遅れたことで多くの死者が出てしまったのです。

スペイン洪水の原因

今回のような深刻な洪水被害は、なぜ起きてしまったのでしょうか。そこには、いくつもの要因が重なっていると考えられています。

原因①ゴタ・フリア

豪雨と洪水を引き起こす原因とされているのが、ゴタ・フリアと呼ばれる気象現象です。

これはスペインで毎年秋と冬の季節の変わり目に発生する気象現象で、DANA(高層孤立低気圧)と呼ばれる低気圧を発生させます。

このゴタ・フリアは

  • 地中海の暖かい海水の上に、高い緯度から大量に侵入した冷たい空気が流れ込む
  • 暖かい空気はより多くの水蒸気を含みながら上へと上昇し、冷たい空気の塊と衝突する
  • 暖かい空気と冷たい空気は激しい対流を起こし、集中豪雨、雷雨、雹、時には強風などを起こす

というメカニズムによる、温暖な地中海地域では一般的な自然現象です。

またバレンシアの内陸部に山々が走る地形も、DANAが発生しやすいもう一つの要因となっています。海からの湿った暖かい空気はこの山々に遮られ、スペイン内陸部に入ることなく風によって押し上げられて、東部地域上空でゴタ・フリアを生み出す低気圧を形成します。

ゴタ・フリアは動きが遅いという特徴もあり、特定の地域で長い間大雨を降らせ、局地的な洪水や地滑りといったまさに今回のような災害を起こす可能性が高いとされています。

原因②スプロール化した都市

バレンシアで洪水の被害が大きくなった原因には、都市計画のスプロール現象の影響があげられています。

スプロール現象とは都市の中心部から郊外へと無秩序・無計画に街が広がっていくことで、インフラや居住環境が不十分になりやすいことから、住民の生活や行政への弊害も指摘されています。

バレンシアはかつて、1957年にも大規模な洪水被害に見舞われました。そこで政府は、市の中心部を流れるトゥリア川を南に迂回させ、流水量を増やす治水工事「プラン・スール」に着手します。同時に交通インフラなども整備され、増加する人口の受け皿として川の南側にも都市を広げました。

しかし、この南側は都市拡張が優先された結果治水整備が追いつかず、洪水リスクが軽減された市中心部と比べ、より洪水被害を受けやすい場所となってしまいました。今回の洪水でも、被害がより大きかったのは洪水対策が後回しになった市の南側です。

原因③地球温暖化

今回のような災害の最大の原因として挙げられているのが、地球温暖化による気象現象の激化です。

原因①で述べたゴタ・フリアは、地中海地域ではよく起きる気象現象ですが、地球温暖化が進むことで

  • 地球の気温上昇にしたがって地中海の海水温も上昇
  • 暖かい空気の蒸発が促進されて大気中の水分がさらに増加
  • 放出される雨が過去の平均よりはるかに激しくなる

といった現象がより深刻化し、豪雨災害が発生する確率が高まるとされています。

実際に2024年には、地中海における8月中旬の水面付近の平均気温が28.47°Cと、記録上最も暖かくなりました。そして気象学者などの分析では、1℃温暖化することで空気中の水分は7%多くなり、地球温暖化が1.3°C進めばバレンシアでの豪雨リスクは2倍になると推定されています。

そしてこうした危険性は、すでに多くの研究者によって指摘されてきました。

スペイン国家気象庁のフアン・ヘスス・ゴンサレス・アレマン博士は、10月25日の時点で直近5日間の間に大規模なDANAによる深刻な災害の可能性をすでに予想しており、自らのX(旧Twitter)アカウントでも警告しています。この投稿は気候変動を否定する人々の嘲笑に晒されましたが、その数日後に彼の懸念は現実のものになってしまったのです。

原因④政府・行政の対応の遅れ

被害をさらに大きくしたのが、政府と地元行政の初動の遅れと言われています。

被害が拡大し始めた29日の午後には、バレンシア州のマソン首相は18:00までには豪雨が収まると主張したものの、実際には河川の氾濫は続く一方でした。州政府が住民にようやく屋内待機を勧告したのは、夜の20時を過ぎた頃です。

右派のマソン首相率いるバレンシア州政府は左派のサンチェスが首相を務める中央政府と事あるごとに対立していた経緯もあり、救援活動で国との連携が不十分だったことも事態を悪化させました。これにより、マソン首相は住民から責任を糾弾されることになります。

洪水を発生させないための対策

では、こうした現状を踏まえた上で、深刻な洪水被害を起こさないためには何ができるのでしょうか。その問題に立ち向かうべく、世界中で科学者や都市計画者によるさまざまな洪水対策が進められています。ここではその中でも注目すべき取り組みをあげていきましょう。

対策例①洪水対策用水路

オーストリアの首都ウィーンを守る治水システムとして早くから成果をあげてきたのが、洪水対策水路・ノイエドナウです。

これはドナウ川本流と並行するように2本目の川を掘り、間に幅250m、全長21kmの細長い人工島を建設したもので、ノイエドナウの入口には水門が設けられています。

この水門は普段は閉じられていますが、洪水などでドナウ本流の水位が上昇すると開かれて、溢れる水を受け入れるという仕組みです。

ノイエドナウは国連人間居住計画でも高い評価を受けており、スペイン洪水に先立って起きた9月のヨーロッパ豪雨でも、ウィーン市内に洪水を起こすことはありませんでした。

対策例②スポンジシティ

世界中で深刻化する水害対策のひとつとして採用が進められているのが、スポンジシティという概念です。

これは2013年に中国で初めて提唱されたもので、建物や道路、緑地、などに雨水を吸収させ、地中に浸透、保水させ、効果的に処理できるような都市のあり方を目指すものです。

具体的な取り組みとしては、

  • アスファルトを緑地や人工的な湿地帯に置き換える
  • 歩道や駐車場などでの透水性舗装の採用
  • 雨水が集まる人工池や貯水池などを作る

などがあります。

このような自然の生態系に基づく都市設計を行うことで、水害リスクの低減の他、地下水の汲み過ぎによる地盤沈下の防止、緑化推進による温暖化対策、干ばつ対策などへの効果も期待されています。

対策例③グリーンクライメート・スクリーン

グリーンクライメート・スクリーンは、デンマーク・コペンハーゲン大学で開発された雨水管理システムです。

これは高さ約3m、長さ80mほどの柳の構造物で作られたフェンスで、上部に設けられた分配溝で近くの建物の240㎡の屋根から雨水を受け、フェンスの構造物の中を経由して岩石ベースのミネラルウールに水を吸収させます。

ミネラルウールに溜まった水は蒸発するか、フェンスの下部にあるプランターへと流れ、豊かな植生を支えます。それでも溜めきれない水は100年間の降雨にも対応できる近くの緑地へと流れていく仕組みです。余分な水はフェンスの下にあるプランターに流れ出る、もしくは大雨の時には近くの他の緑地に流されます。

降雨量が非常に多い場合は、大量の水を貯留できるように設計された地域に排水することにより、洪水リスクの軽減に役立っています。

抜本的な対策は温暖化対策

洪水の被害を軽減する対策は数多く行われていますが、根本的に気象災害の激甚化を避けるには、大規模な温暖化対策をこれまで以上に進めるしかありません。

前述の通り、わずか1.3℃の温暖化でもバレンシアでの豪雨リスクは倍増するとされています。しかし、現在の気候対策シナリオのままでは、今世紀末までに予想される地球の平均気温上昇は3.1°Cにも達すると試算されています。

こうした事態を避け、異常気象の増加を抑えるためには、温暖化の重要な原因である温室効果ガス(GHG)の排出を、すべての国々が迅速かつ大幅に減らすことが必要不可欠です。

そのために世界中の指導者たちは、化石燃料の燃焼を大幅に減らし、停止を目指すことを最重要課題にしなければなりません。

スペイン洪水とSDGs

スペイン洪水の惨事は、SDGs(持続可能な開発目標)達成の必要性を改めて痛感させられる結果となりました。災害に強い都市計画を進めることは、そこに住む人間の生命と財産を守るという観点のみならず、目標11「住み続けられるまちづくりを」の達成のためにも必要となる取り組みです。

そして、地球温暖化があらゆる気候関連災害や自然災害の激しさを高めていることは、もはや疑いのない事実となっています。目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成は、そのまま災害対策へとつながっていくのです。

まとめ

2024年にスペインに大きな爪痕を残した豪雨と洪水は、特定の地域の災害がもはやその場所だけの問題ではないということを私たちに見せつけました。

世界各地でも、そして日本でも、異常気象による水害は年々頻度を増し、激しいものになっています。スペインでの惨状を繰り返さないためにも、世界中の国と地域がその原因を振り返り、抜本的な防災と気候変動対策に取り組むことが求められています。

参考資料
Floods in Eastern and Southern Spain of October 2024
Spain Floods | JBA Risk Management Event Response
2024 Spanish floods – Wikipedia
東部の洪水被害でインフラが遮断、自動車産業にも影響(スペイン) | ビジネス短信
スペイン洪水、海水温上昇で嵐が激化 気候変動による災害甚大化を避けるには – BBCニュース
Un experto de AEMET avisó hace cinco días del peligro que suponía esta DANA y fue ridiculizado en redes sociales|el Diario.es
expert reaction to flash floods in south-eastern Spain | Science Media Centre
Miles de personas toman las calles de Valencia al grito de “Mazón dimisión”|20minutos.es
Dana en Valencia | El efecto embudo y el brutal caudal de la rambla del Poyo, claves en el desastre|Levante-emv.com
衛星写真などで見る、スペイン・バレンシア州の洪水被害 | Business Insider Japan
2024年バレンシア洪水:気候変動と1957年のトゥリア川の迂回
スペイン洪水被害 日本との共通課題が判明 スプロール現象とは | NHK | スペイン
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