津田 郁太
“1981年 京都市生まれ
2005年 大阪市立大学 商学部卒業
2005年 京都信用金庫入庫後、営業店を3店舗、京都府外郭団体への出向を経て、
本部にて創業支援、海外販路支援業務を担当後
2020年 QUESTION開業担当を経て、現職
2020年 QUESTION8階 DAIDOKORO運営会社 株式会社Q’s取締役就任
・ WAOJE京都支部 事務局長
・「中小企業の頼りになる支援人材」近畿経済産業局2018年度紹介”
立場や業種の異なる、様々な人の問いが集まる場所
–今日は、京都信用金庫職員で、共創施設「QUESTION」の副館長をされていらっしゃる津田郁太さんをお招きしています。今日は、QUESTIONについて教えてください。
津田さん:
はい。QUESTIONは、一言で言うと、「さまざまな人々の問いが集まる場所」でしょうか。
QUESTIONという建物の中には、企業の新商品や新サービスをテストマーケティングすることのできるチャレンジスペースや、様々な立場の人々が業種を超えて一緒に仕事をすることができるコワーキングスペース、学生と企業を繋ぐスチューデンツラボ、京都信用金庫の河原町支店などの施設が入っています。
–ありがとうございます。QUESTIONを利用された方の声を教えてください。
様々な人と人が出会い、コラボレーションが生まれる
津田さん:
例えば「思ってもみなかったような出会いを作ってくれて、すごくありがたいです」っていうお声をよく頂戴します。
QUESTIONは、一般的なコワーキングスペースとは少し異なっていて、立場や業種が異なる人を繋ぐコミュニティマネージャーがいます。そこから様々なコラボレーションが生まれて、イベントを開催したりというようなことがあります。
–京都は大学も多いですから、様々な企業や学生の方とのコラボレーションもありそうですよね。
津田さんは京都という地域に根ざした金融機関、京都信用金庫の職員の方でもありますが、どうして京都信用金庫さんがQUESTIONという場所を作ったんですか?
京都信用金庫の新しい挑戦
津田さん:
大きな理由としては、京都信用金庫として新しいチャレンジをする必要性があったことでしょうか。
今は金利がとても低いですから、金融業界全体として、今はかなり厳しい状況です。いわゆる本業と呼ばれるご融資・ご預金を中心としていた収益モデルが厳しくなってきていて、この状況は今後もしばらく続くでしょう。
このように厳しい状況の中で、ご融資・ご預金という本業以外の部分で、京都信用金庫はしっかりと存在感を示していかないといけないんですね。
そもそも、私たち京都信用金庫は、その名の通り京都を中心に営業しています。地域に根ざした金融機関ですので、京都信用金庫が今後も発展していくためには、地域の事業者さんが、事業を継続し、持続的に発展していくことが欠かせません。
そのために金融機関が果たすべき役割は、従来通りの「融資だけ」で十分でしょうか?
これからの信用金庫は融資だけではない
私たちは、決してそうではないと考えました。
従来の金融機関であれば、融資することだけが仕事だったかもしれませんが、今の時代は違うんじゃないかと。従来は事業者さんの財務面だけを融資という形でフォローしてきましたが、今後は地方創生・ブランディング・マーケティングなど、今まで行政の方やコンサルティング会社さんが行ってきたような部分も含めて、私たち金融機関も包括的に支援する必要があるのではないかと考えました。
私たちはその名の通り、京都を中心とした営業エリア(大阪・滋賀県の一部を含む)を経営基盤としています。この地域から離れることは考えていません。
地域と一心同体ですから、この地域でいかに持続的にやっていけるか、ということを考えた時に、地域の事業者さんと、財務面以外でも伴走していく必要性が確実にあると考えました。
–つまり、京都信用金庫としては、京都市を中心とした地域が盛り上がってないとダメってことですよね。
津田さん:
そうなんです。本当に環境の変化が激しい今の時代で、地域の事業者さんの持続性を高めるために、私たち京都信用金庫は、財務面以外でも、包括的にフォローしていきます。
そのために、新しい使い方ができるQUESTIONという場所を作って、どこまで新しいチャレンジができるか、というところですね。
–ありがとうございます。先日、QUESTIONでは様々な業種の方や作家さんが集まる「How to be ethicalー楽しいエシカルな暮らしのはじめ方ー」というイベントを開催されていらっしゃいましたよね。
津田さんが考える「エシカル」※って何ですか?
津田さんが考えるエシカルとは
津田さん:
私の個人的な意見ですが、「自分が一番自然体でいられるような、自分が心地よい状態を選択していくこと」がエシカルなんじゃないかと思っています。
世の中には、「これを買ったらエシカルです」とか「これをやったらエシカルです」というのがあると思うんですけども、それは本当に個人個人の選択肢に過ぎないと、私は思っています。
だから、「自分はこれを選ぶほうが、精神的に物理的にも心地よい」というのを、個人個人が選べる状態が、エシカルなんじゃないかなと、私個人としては考えています。
–具体的に言うとどういったことでしょうか?
津田さん:
例えば自分がめちゃめちゃ忙しくて、必要なものを買いに行く時間もないような時って、服でも物でも食べ物でも何でも「安くて早くてすぐ手に入る」ような物を購入すると思うんです。
でも、自分に少し時間や気持ちの余裕があれば、視野を広く持って、自分が納得する素材や手段で作られているものを探したり、それが例え注文してから届くまでに時間がかかるようなものであっても、自分自身が納得していて、素直に「これは良い」と思えるものであれば、そちらを購入するという選択を行うと思うんですよね。
QUESTIONでのイベントで、自分なりの「エシカル」が見つかった
僕自身、人生でずっとエシカルな消費ができていたかというと全然そんなことはないんですけどね。
QUESTIONで「How to be ethicalー楽しいエシカルな暮らしのはじめ方ー」というイベントを開催したことで、エシカルに関する事業をされている方や作家さんと出会ったことが、僕自身の「エシカルとは何ぞや」ということを考えるきっかけになりました。
それまでは、僕自身は、「エシカル」って言葉を知識として知っていただけだったんですよね。
でも、イベントを通して、エシカルを実践されている方や、現場で本気でエシカルに取り組んでいる方に触れたことで、僕自身の中に「エシカルな買い物をする」という選択肢が生まれたんだと思います。やっぱり、何にせよ「知らない」というのが最も良くない。
–ありがとうございます。
きっと、津田さん以外にも、QUESTIONに来て、イベントに参加したことがきっかけで、エシカルについて考えるようになった方、他にも沢山いらっしゃると思います。
津田さん:
そうだといいなと思います。
–最後の質問になるんですけれども、QUESTIONって今後どういう風になっていくと思いますか?
SDGsと絡めて、今後の展望について教えてください。
津田さん:
QUESTIONと、その運営母体となっている京都信用金庫が出しているSDGs宣言※というものがあるので、それを含めてお話しさせていただきますね。
京都信用金庫のSDGS宣言をもとに地方創生に取り組む
今後のQUESTIONの目標はいくつかありますが、まずは京都信用金庫 SDGs 宣言の1番にもある通り、地域の事業者の皆さんを、財務・非財務両面から支援して、地方創生に取り組むことでしょうか。
先ほども少しお話しさせていただいた通り、もう金融機関は融資だけやっていればいい時代じゃないと思うんです。地方創生・ブランディング・マーケティングなど、様々な手段で、地域の事業者さんを包括的に支援していく必要性があると思うんです。
具体的には、地域で、社会課題の解決や環境保護を目指していらっしゃる事業者の皆さんに、QUESTIONという場を使っていただいて、イベントを開催したり、製品やサービスのテストを行なっていただいたり、そういった取り組みを今後も続けていきたいですね。
立場や業種の異なる人と人との出会いの場になる
また、京都信用金庫 SDGs 宣言の3番「地域の絆づくりへの貢献」も、QUESTIONの今後の大きな目標です。
具体的には、QUESTIONが、立場や業種の異なる人と人との出会いの場となって、様々なコラボレーションが生まれて、地域に新しい物語が生まれて、結果として地域が豊かになっていく、そういう役割を今後も果たしていきたいですね。
「ソーシャル企業認証制度 S認証」を活用し、課題の解決に取り組む企業を増やす
また、京都信用金庫は、京都北都信用金庫、湖東信用金庫、龍谷大学ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンターとともに、2021年の4月から、「ソーシャル企業認証制度 S認証」※(以下、S認証)という制度を立ち上げました。
これは、社会課題の解決に貢献している事業者さんに対して、どんどん地域の中で認証していきましょう、という仕組みです。
S認証は、地域で活動する事業者さんの大半が社会的な課題解決に寄与している、それぞれが何らかの形で社会の役に立っている、という状態になることを目指しています。
大学と連携して、まずは京都という地域を中心に、社会課題の解決に取り組む企業が増えることを目的としています。
–なるほど!認証を受けた事業者さんが増えれば増えるほど、結果的に、京都という地域を中心に、社会課題の解決に取り組む事業者さんや企業が多いということになりますね。
津田さん:
そうなんですよ。
今までは、事業者さん側からすると、「社会課題の解決なんて余裕がある大企業がやったらいいやん」とか「 NPO がやったらいいやん」みたいな空気があったように思うんですよ。そんなことよりも自分たちが飯を食っていくことの方がよっぽど大切だった。
それは当然、今までの資本主義社会の中では致し方ないことですけど、今後10年20年後も事業を継続していくということを考えた時に、「わが社は、こんな風に社会に貢献しています」ということを説明できない事業者さんが、今後どこかで淘汰されていったり、消費者から選ばれなかったりする時代が、今後おそらく訪れます。
–そうですね。エシカル消費※という言葉にもあるように、消費者は、社会に貢献している事業者から購入するという流れがあるように思います。
地域の事業者さんの持続的な発展のために
津田さん:
そうなんですよ。私たち京都信用金庫としては、社会課題の解決に取り組んでいない事業者さんはさよなら、ということにしたくないし、当然できない。
何度も申し上げている通り、私たち京都信用金庫は、京都を中心とする営業エリアの中で存在していて、この地域と一心同体なんです。
だから、いかにこの地域の事業者さんが、持続的に今後も事業を継続していくか、ということは、私たちにとって一番大切な部分です。
時代の流れがエシカル消費の方向に向かっていくのであれば、我々は事業者さんに対して、社会貢献をすることの意義をしっかりとお伝えして、社会課題の解決に取り組む事業者さんが増えたらいいと思っています。
あと、QUESTIONの大切な役割として、社会課題に対する取り組みを行っている事業者さんや企業の取り組みを、地域の方々に見ていただくための場所というのが挙げられます。
今回、コロナ禍で、我々の地域にも相当な打撃がありました。
外国人向け需要に頼った経済モデルをとっている事業者さんが多くて、「京都の外から人が来なくなったら事業が成り立たない」みたいなことになると、それはやはり持続可能ではないんですよね。
一定の域内経済で回る循環モデル
一方で、コロナ禍においても、地域の皆さんに支えられている事業者さんは、ある程度しっかり生き残っています。京都市内から1時間圏内といったところでしょうか、その範囲内で、経済と人の流れがしっかりと循環しているんですね。
日本各所で、そういった近距離での循環が増えていけば、それはすごく持続可能な成長モデルだと思うんですよね。近距離であれば、物や人の移動に必要なエネルギーや資金も少なくて済むし、何より環境負荷が小さい。
地域の信用金庫と、地域の事業者さんと、地域の住民の方が、一つの好循環を生むために協力し合う、いわゆる一定の域内経済で回る循環モデルを、QUESTIONから発信していきたいですね。
–すごい!そういった一定の域内経済で回る循環モデルが実現するなら、日本のあちこちの地方が元気になりそうです。
津田さん:
そうなんですよ。日本には、地域の信用金庫ってたくさんありますからね。
様々な地域の信用金庫と、地域の事業者さんと、地域の住民の方が、一つの好循環を生むために協力し合う、一定の域内経済で回る循環モデルは、様々な環境負荷が小さいので、SDGsにも繋がると思います。
これはまだ全然想像の域を超えてないんですけど、これからQUESTIONを通じて挑戦していきたいな、というところです。
–今日は面白いお話聞かせていただいてありがとうございました!