私たちはだれでも1年に1つ歳をとっていきます。歳を重ねることは自然なことと受け止め、穏やかに暮らしていきたいものですが、人生100年時代などという言葉を聞くと、長く使って老いてきた心身で大丈夫だろうか、と先行きが心配になります。
介護保険制度は、そんな高齢者を社会全体で支える制度として生まれました。上手に利用するために、是非一緒に考えていきましょう。
介護保険制度とは

介護保険制度は、高齢者の介護を社会全体で支えるための仕組みとして、2000(平成12)年からスタートしました。保険料を支払い、必要と認定された場合にいつでもサービスを受けられる、市町村運営の保険制度です。現在600万人余りの人が利用しています。
なぜこのような制度が制定されたのか、その背景や制定の目的を解説していきます。
介護保険制度の目的
介護保険制度の目的は、大きく次の2つにまとめることができます。
介護を必要とする高齢者を社会全体で支える。一億総活躍社会を実現する。 |
「家族で支える」から「社会全体で支える」へ。そして「一億総活躍社会を実現する」ためを目的とする背景には次のような状況があります。
介護保険制度制定の背景
近年は、高齢者社会が進むばかりでなく核家族化も進行し、老々介護や一人暮らしの高齢者が増えてきました。かつては家族が行うものとされてきた親の介護ですが、家族だけに負担を強いることは難しくなってきたのです。

また、親の介護のために離職する人も年々増え続け、毎年約10万人いると言われています。下のグラフからは、2017年には10年前の約2倍に上っていることが分かります。
介護離職者が増えれば、労働力不足を一層深刻化させ、経済の減速に繋がります。「介護離職ゼロ」を目指すことは、社会全体の経済成長・原則に大きく関わってくるのです。

このような背景から、それまで医療保険と年金保険を中心としてきた福祉政策に、「介護」がもう1つの柱として加えられたのです。
出典・参考:介護保険制度の概要 |厚生労働省,介護保険制度(公益社団法人 国民健康保険中央会)
介護保険制度の仕組み

介護保険制度は、40歳以上の人が加入者(被保険者)となって保険料を納め、介護サービスが必要になった時に利用できる仕組みです。加入やサービス利用などについて整理していきましょう。
被保険者とは?
介護保険の被保険者は、年齢によって第1号被保険者と第2号被保険者に分けられます。
- 第1号被保険者:65歳以上の人
- 第2号被保険者:40歳以上64歳までの医療保険に加入している人
第2号被保険者は、40歳になると自動的に資格を取得し、65歳になると自動的に第1号被保険者に切り替わります。
サービスの受給条件
第1号被保険者と第2号被保険者は、どのような時にサービスを受けることができるかという点にも違いがあります。
第1号被保険者 | 第2号被保険者 | |
対象 | 65歳以上 | 40歳以上64歳の医療保険加入者 |
受給条件 | 要介護状態寝たきりや認知症などにより、介護を必要とする状態 要支援状態家事や身支度等、日常生活に支援が必要な状態 | 要介護・要支援状態が、老化に起因する疾病 ※ に寄る場合に限定 |
※ 老化に起因する疾病(特定疾病)16種類
1 | 末期がん | 9 | 慢性関節リウマチ |
2 | 早老症 | 10 | 脊椎管狭窄症 |
3 | 筋委縮性側索硬化症 | 11 | 多系統萎縮症 |
4 | 後縦靱帯骨化症 | 12 | 脳血管疾患 |
5 | 骨折を伴う骨粗鬆症 | 13 | 閉塞性動脈硬化症 |
6 | 脊髄小脳変性症 | 14 | 慢性閉塞性肺疾患 |
7 | 初老期における認知症 | 15 | 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症 |
8 | 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症 | 16 | 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性およびパーキンソン病 |
介護サービスの利用の仕方
介護が必要になった場合、サービスを利用するには、要介護・要支援の状態であるという認定を受ける必要があります。具体的な流れは以下のようになっています。

➀申請
市区町村の窓口、または市区町村から業務を委託された公的機関「地域包括支援センター」で申請します。
➁認定調査・判定
担当の調査員が自宅を訪問し、本人や家族から聞き取り等を行います。また、かかりつけ医には医学的意見書を作成してもらい、判定の材料とします。
認定は厚生労働省の「概況調査表」に基づき、本人の身体能力の程度や日常生活の様子を調査します。詳しい項目などは認定調査票(概況調査)で確認できます。
これらの調査結果をもとに介護認定審査会で審査し、どのくらいの介護が必要か判定されます。介護必要度は、身体の状況や介護の実際などを専用のソフトで時間に換算し、分類されます。

とはいえ、時間の換算からは判定がイメージしにくいことも多いはずです。状態像は下の図のようになっています。

参考:要介護認定等に係る介護認定審査会による審査及び判定の基準等に関する省令
③結果通知
市区町村から認定結果が通知されます。
④ケアプラン作成
要支援と認定された場合は担当職員が、要介護と認定された場合は、専門のケアマネージャー(介護支援専門員)がケアプランを作成します。ケアマネージャーは、公的な事業所のほかに、介護老人福祉施設(老人ホーム等)におり、作成を依頼することができます。
⑤サービス利用
作成されたプランに基づいて、在宅や施設利用のサービスを利用することができます。
利用できる介護サービス

実際に利用できるサービスにはどんなものがあるか見ていきましょう。
介護サービスは大きく3つに分けることができます。
- 自宅で利用する居宅サービス
- 施設で受けられる施設サービス
- 様々なニーズに応える新しい型の地域密着型サービス
地域や施設によって違いはありますが、概ね次のようなサービス内容となっています。
居宅サービス | 訪問介護 | 訪問介護員(ホームヘルパー)が入浴や排泄などの介護や家事を行う。 |
訪問看護 | 看護師が訪問し、自宅での療養生活をサポートする。 | |
福祉用具貸与・リフォーム | 車いすやベッドなど介護に必要な用具がレンタルできる。また手すりの取付や段差解消などのリフォームもできる(20万円まで)。 | |
通所サービス | 施設に日帰りで出向き、介護サービスを受けられるデイサービス、リハビリを受けられるデイケアがある。施設によっては短期入所も可能。 | |
施設サービス | 介護老人福祉施設 | 24時間介護対応の施設。長期入所が可能。 |
介護老人保健施設 | 在宅復帰を目指す一定期間の入所施設。 | |
地域密着型サービス | グループホーム(認知症対応型共同生活施設)他 | 地域のニーズに合わせた形のサービスを提供する小規模な拠点によるサービス。 |
この他にも、公的なものより費用は高くなりますが、民間運営の老人ホームなどもあります。
また地域密着型サービスは、地域の実情に拠るので、利用したい場合はケアマネージャーと相談しながらプランを立てるとよいでしょう。
参考:公表されている介護サービスについて | 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」(厚生労働省)
介護保険料の財源はどこ?

介護保険制度は、市区町村が保険者として運営しています。しかし、財源を支えているのは、市区町村ばかりでなく、国や県、そして徴収される保険料です。気になる保険料の支払いや財源の仕組みなどについて整理していきます。
介護保険料は、満40歳に達した時から生涯徴収されます。
徴収方法は第1号被保険者は原則年金から天引きで、第2号被保険者で医療保険料と一緒に徴収されます。
財源としては、徴収された保険料と国などからの支出とが半々となっており、この財源から介護サービス費用の多くが支払われます。
利用者の負担額はこれまでは原則1割負担でしたが、現在2〜3割負担について論議が進んでいます。詳しくは後の章でお話ししましょう。
参考:介護保険とは | 介護保険の解説 | 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」
2024年の介護保険制度改ポイント
介護保険制度が有効に運用されるためのルールを定めているのは、1997年に制定された介護保険法です。実施までの準備期間を経て2000年に施行、介護保険制度もスタートしました。
近年の介護環境
少子高齢化を始め、高齢者を取り巻く環境や介護の課題は刻々と変化します。そのため、介護保険法は定期的な見直しが必要とされ、3年ごとに改正されてきています。
最新となる2024年度の改正は、
- 団塊の世代が後期高齢者(75歳)に達する目前
- 労働人口の急減
といった大きな課題をふまえた改正となっています。

今回の改正ポイント
今回の改正のポイントは次の4点にまとめることができます。そしてそれらを「基本的な視点」とする介護報酬の引き上げも段階的に実施されます。
介護情報を管理するシステム基盤の整備財務諸表の報告を義務化介護予防支援の拡大複合型サービスの方向性確認 〇介護報酬の引き上げ |
1)介護情報を管理するシステム基盤の整備
今まで介護情報等は、各事業所や自治体がそれぞれ管理していました。それを自治体・利用者・介護事業者、さらには関連医療機関等が共有できることをねらっています。
厚生労働省では、科学的介護情報システム「LIFE」を活用することを推進しています。「LIFE」は、システムに入力したケアプランや利用者の状況を分析し、フィードバックを受けられる仕組みです。
2)財務諸表の報告を義務化
すべての介護事業者は、都道府県知事に財務状況を届け出ることが義務付けられました。国はそれらの情報を収集分析し、支援策検討の資料とします。
3)介護予防支援の拡大
これまで要支援者への支援は地域包括センターが担っていました。それを居宅介護事業所でも実施できるようになりました。高齢者および介護サービス利用者は増加の一途をたどっています。地域住民の多様な介護ニーズに対応する地域包括支援センターは膨大な負担を軽減し、より質の高い支援体制が整うことをねらっています。
4)複合型サービスの方向性確認
近年、地域密着型サービスの事業所数が大きく増加し、地域の利用者のニーズに合わせた随時巡回や複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護)等のニーズが高まっていることを受け、それらのサービスが法的に位置付けられることになりました。
まだ整備されたとは言えませんが、方向性が明らかになったことで徐々に数値的にも、構造的にも整備されてくるでしょう。
参考:介護サービス施設・事業所調査の概況(厚生労働省)
介護報酬も引き上げ
これまでも、介護保険法の改正に伴って介護報酬 ※ の見直しも行われてきました。
今回の制度改正でも見直され、1.59%の引き上げとなりました。この内0.98%が介護職員の処遇改善分です。
また介護報酬以外の増収も0.45%見込まれており、合計すると2.04%の引き上げとなります。
この引き上げは、介護人材の確保をする上でも評価されますが、近年の物価の上昇等を考慮するとまだ十分とは言えるものではないでしょう。
参考:介護分野の最近の動向について(厚生労働省)および,令和6年度介護報酬改定の主な事項について(厚生労働省)
介護保険制度のメリット
「高齢者を社会全体で支える」ために満40歳から加入が義務付けられている公的介護保険です。ここでは加入するメリットをまとめていきます。
安くサービスを利用できる
公的な介護保険制度では、原則1割の支払いで国や地方自治体から現物・サービスを受けられます。実際にかかっている経費はその10倍となります。つまり、もし介護保険に加入していなければ高齢者本人や家族に大きな負担となってしまいます。
ただ、サービスを受けるには審査があり、支給限度額もあります。審査結果よりきめの細かいサービスを受けたい場合は自己負担となります。そのため民間の介護保険にも加入したり、生命保険に介護特約を付けたりして、現金の給付を受ける方も少なくありません。
公的保険料として支払った金額は、全額が社会保険料控除の対象となります。
家族の負担軽減
高齢者を介護することは、心身共にエネルギーの必要な仕事です。医療的な知識やスキルも必要な場合も多く、また終わりの見通しが立てられない仕事です。食事や入浴などの日常の介護を専門の職員がしてくれる介護支援サービスは、ご家族にとってとても心強い味方と言えるでしょう。
今回の改正では、より利用者のニーズに合ったサービスを提供する方向が確認されました。
介護離職者の減少に繋がることを期待したいところです。
介護保険制度のデメリット・課題

安くて家族の負担も軽減する介護保険制度ですが、デメリットもあります。加入が強制であることや今回の改正では見送られた点などを整理していくと、デメリットや課題が見えてきます。
加入が強制であること
介護保険料は、介護サービスを利用していなくても払わなくてはいけません。健康で自立的な日常を過ごせている方にとっては、割りに合わないような感じがしてしまうかもしれません。しかし相互扶助・社会全体で支えるための制度として加入が義務付けられています。
滞納をすると、期間によってペナルティが課されます。始めは督促料や延滞料の納入、長く滞納すると介護サービスを利用した時の負担額が大きくなったり、全額負担になったりします。
先送りされた課題
2024年度の改正では、時期尚早と判断されたり、継続審議とされたりした課題があります。
- 介護サービス料の限度額見直し
- サービス負担金割合見直し
- ケアプランの有料化
などです。
高齢者の増加、それに伴う介護サービス利用者の増加を考えると、今後の財源不足は否めません。この財源に関しては以前から懸念されていました。現行ではほとんどの人が1割負担です。しかし、65歳以上の場合収入による枠組みを変え、今後多くの人が2割負担となる計画が練られています。審議は続けられていますが、今回据え置かれたとしても、これからも論議の的となるはずです。

介護保険制度に関してよくある疑問

ここからは、介護保険制度に関してよくある疑問にお答えしていきましょう。
介護保険料は払わなくてもいい?
支払いを免除されるのは、
- 海外居住者
- 適用除外施設 ※ の入所者
- 短期滞在の外国人
- 生活保護受給者
です。
また、災害などの場合も減免されることがあります。免除・減免の条件および手続きの方法は市区町村によって違いますので、役所の担当窓口や地域包括支援センターに問い合わせるとよいでしょう。
何歳まで払い続ける?
公的介護保険制度においては、加入は義務なので生涯払い続けます。
月々の支払い料金は?
徴収額は市町村ごとに決められた基本額をもとに、地域の被保険者数・利用者数、所得などによって決められますが、65歳以上が支払う保険料の全国平均は、下のように変化してますので、参考になさってください。

要介護認定を受けるにはどのような条件が必要ですか?
要介護認定は、老化や病気などによって日常生活に支援や介護が必要な状態であることが条件です。
65歳以上の方は、その原因を問わず申請可能です。40歳以上65歳未満の方は、特定疾病が原因で要介護状態となった場合に申請できます。申請はお住まいの市区町村窓口で行えます。
介護保険サービスを利用する際、費用負担はどのくらいですか?
利用者の所得に応じて、介護保険サービスの自己負担割合が異なります。原則として1割負担ですが、一定以上の所得がある場合は2割または3割となることがあります。
また、具体的な負担額は利用するサービスの内容や頻度によって異なるため、事前にケアマネジャーに相談すると安心です。
介護保険制度とSDGs

高齢者を社会全体で支えるための介護保険制度です。SDGsの目標で特に関連が深いのは、
- SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」
- SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」
の2つです。
SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」との関わり
少子高齢化の著しい日本では、高齢者の健康・福祉対策は大きな問題です。高齢者が必要な介護サービスを受けられ安心して日常生活を送れれば、家族の負担も減り、介護離職者の減少も期待できます。そしてそれは、労働人口不足解決の一助になり経済活動の維持・発展に大きく貢献します。
SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」との関わり
地域の利用者のニーズに弾力的に対応できる地域密着型や、必要なサービスを組み合わせられる複合型サービスの利用者が増えていることをお話ししました。
住んでいる地域で個々にあったサービスを受けられれば、通所するにも、施設に入所する場合でも、利用者の負担は大きく軽減されます。そして家族も安心して住み続けられるのです。
>>各目標に関する詳しい記事はこちらから
まとめ
今回は、介護保険制度について、その仕組みや保険料・サービス利用負担額等を解説し、メリットやデメリット・課題を整理しました。
介護士をしていた時、高齢者のお世話は意義ややりがいのある仕事だと感じていましたし、今も思っています。しかし肉体的にも精神的にも大変きつい仕事で、しかも仕事の対価としてのお給料は決して十分とは言えず、長く続かないスタッフも多くいました。介護職員不足は慢性化しています。
移動器具を導入すれば職員の負担も減りますが、購入には多額の費用がかかります。外国人を雇用する政策も進められていますが、地方ではまだ浸透していません。
サービスの内容や財源など、問題は山積していても高齢化社会は進んでいます。この記事をきっかけに、今後の改正の動向などにも関心を寄せていただければ幸いです。
<参考資料・参考文献>
人口動態・家族のあり方等 社会構造の変化について(総務省)
介護離職の現状と課題(内閣府ホームページ)
介護保険制度(公益社団法人 国民健康保険中央会)
介護保険とは | 介護保険の解説 | 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」(厚生労働省)
介護保険(第2号被保険者向け)リーフレット1 18-0920-2
要介護認定の仕組みと手順(厚生労働省)
認定調査票(概況調査)
要介護認定等に係る介護認定審査会による審査及び判定の基準等に関する省令
公表されている介護サービスについて | 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」(厚生労働省)
介護分野をめぐる状況について(厚生労働省)
令和6年度介護報酬改定の主な事項について(厚生労働省)
介護サービス施設・事業所調査の概況(厚生労働省)
介護分野の最近の動向について(厚生労働省)
区分支給限度基準額について
介護離職の現状と課題
実際にかかる介護費用はどれくらい?(公益財団法人 生命保険文化センター)
介護保険制度の概要 |厚生労働省
SDGs:蟹江憲史(中央新書)