代表取締役CEO 伊東 大輔
東京大学法学部卒。2005年創業。2015年にKDDI∞Labo採択により第2創業。
広島大学デジタルものづくり教育研究センター客員教授。医仁会武田総合病院臨床研究センター研究員。コロナ禍では「COVID-19-ResQプロジェクト」を起ち上げ「AIでいのちを救う」活動に邁進。
現在「SoLoMoNR Technology(特許第6302954号)」に基づく「自律型AI」により、産業、健康・医療など多様な分野にソリューションを展開中。
健康・医療分野の「ヘルスケアAI」は、SMBCグループ、JICAおよび米州開発銀行、山梨県、科学技術振興機構(JST)などで採択多数。2022年11月「JETRO
Deep tech」採択。全米最高峰アクセラレータ「Berkeley SkyDeck」Batch15 Demo
Dayにて「ベストストーリーテリング賞」授賞。
産業分野では「省エネAI」が大手鉄道会社に導入され実績をあげる。2023年11月からJR東日本スタートアップ採択を受け、電気融雪器の省エネに挑戦中。
目次
introduction
「AIで感動を伝える。」を企業理念に掲げ、ヘルスケアや人手不足、脱炭素などの社会課題の解決を目指す株式会社アドダイス。人の自律神経のように、これからの社会のインフラのような役割を果たすAIを開発し、日々奮闘しています。
今回、同社の代表取締役CEOの伊東さんに、AIの詳細や想いについて話を伺いました。
「自律型AI」を使用し、誰もがWell-beingでいられる社会の実現を目指して
–まずは御社の紹介をお願いします。
伊東さん:
弊社は、AIのソリューションを持つスタートアップ企業です。「AIで感動を伝える」ことを企業理念に掲げ、2005年に創業しました。自社が開発し特許も取得した「SoLoMoN ®Technology」という技術を基盤に、お客様が抱えるお悩みや社会の課題を発見し、その解決を目指してAIを提供しています。
社会がものすごいスピードで変わり、複雑化している中で、環境問題や気候変動、少子高齢化、貧困と格差社会などの課題も山積みです。特に「労働人口の不足」は深刻で、それに伴う社会の活力低下や国際競争力の低下など、負のスパイラルに陥っています。
しかし、今の社会は表面的には成熟していることもあり、「縦割り社会の仕組み」ができあがっています。そのため、課題を解決しようと思っても誰も手を出せない状態となっているんです。温度や湿度、重量、音声など、様々なセンサーがあらゆるところに張り巡らされていて豊富にデータを取得できるのに、「この問題に関しては温度のデータ」「この問題なら音声データ」となっているため、連携が取りにくい。2つのデータをつなげれば解決できるかもしれないのに、社会の仕組み上難しくなっています。
私たちは、この縦割り社会にAIで横串を刺したいと考えており、「SoLoMoN ®Technology」はそれを可能にする弊社独自のAIコアプラットフォーム技術です。
「SoLoMoN ®Technology」によって、安全、安心な社会のインフラをAIで築き、皆さんが「AIがある時代に生まれてよかった」、「健康で幸せに生きていける」といったWell-beingな人生を送れるようになることを目指しています。
人の自律神経のような働きをする「自律型AI」
–「SoLoMoN ®Technology」について詳しく教えてください。
伊東さん:
「SoLoMoN ®Technology」は、弊社独自のAIコアプラットフォーム技術です。
「SoLoMoN」は、旧約聖書に知恵の象徴として登場する「ソロモン王」になぞらえたネーミングであると同時に、「Social」「Location」「Mobile & Module」「Network」の頭文字をとったものでもあります。
「Social:社会と個人、モノの代わりをつなぐ情報とその関連技術」「Location:位置情報と関連技術」「Mobile & Module:センサーとそれを搭載するデバイス、関連する通信技術」で得られるヒト・モノ・コトに関する様々なデータを「Network:すべてをネットワークで連携させる技術」し、深層学習により自律的な状況判断と状態管理、環境管理を行うAIを生み出しています。
私たちは「SoLoMoN ®Technology」から生まれたAIを「自律型AI」と名付けました。
人の身体には神経が張り巡らされており、生きている限り、常に膨大な情報処理が行われています。寝ている間も起きているときも心臓は脈打っており、人が何か意識して「心臓を動かそう」としているわけではありません。これは人の自律神経が、生命維持に必要な一次的な処理を代行しているからです。
弊社のAIを「自律型AI」と呼ぶのは、環境、空間を自律制御する社会の「自律神経」として働くAIだからです。
あらゆるところにセンサーが張り巡らされる現代において、自律型AIが社会の「自律神経」のように振る舞い、一次的な処理を人に代わって行う、というイメージですね。
そして、自律型AIを分かりやすく活用していただくために、具体的な製品として「HORUS AI」「SEE GAUGE」「ResQ AI」などを展開しています。
画像診断ができるAIは画像だけで診断していない⁉HORUS AIの役割
–では、それぞれの製品について教えてください。まずはHORUS AI(ホルス)についてお願いします。
伊東さん:
HORUS AIは、画像診断が得意なAIです。主に採用いただいているのは、半導体の工場などです。これまでは、検査や検品、監視などを、熟練の保全技能士が「勘と経験」によって目視で判断していました。HORUS AIは、これをノーコードでDX化するシステムです。
画像診断で不良品を検出することはもちろんですが、過去に蓄積した情報から「そろそろ不良品が出るかもしれない」「機械が故障するかもしれない」など、事前に予知して教えてくれることも可能です。
HORUS AIは製品の見た目、気温や湿度などの環境、稼働期間など、色々な要素を学習した上でエラーの予知・検出を判断してくれるんです。
エラーを検知するAIのサービスは他社からも提供されていますが、当社AIの最大の差別化ポイントは、エラーの検知レベルを簡単に調節できることです。
例えば、車の金属部品における傷のチェック。チェックする人によっては、「この程度の傷であれば車の動作に問題ないからOK」とするケースもあれば、「高級車の部品だからこの傷はNG」とすることもあります。
つまり、傷というのは分かっていても、どこまでがOKでどこからがNGというあんばいは人の感覚で決めているんです。
このあんばいをAIが判断するのは結構難しくて、他社製品だとOKとNGのラインを一度決めたら、それに沿って判断されます。0か100といったイメージですね。
でも、その中間の曖昧な部分の調整、いわゆる「さじ加減」が必要な場面ってありますよね。その調整をしたいと思っても、「経験と勘」によるものなので、具体的な数値を伝えることが難しいですし、その設定を行うとなると時間もコストもかかります。
その中で、このさじ加減の設定が簡単にできるのが「HORUS AI」なんです。
クラウドのシステムであるため、現存の検査用カメラなどにつながっているパソコンが1台あれば、すぐに導入できます。
そしてHORUS AIは、従来の技術者に頼る検査よりも5~25倍の圧倒的な速さで処理を行うため、今より少ない人員で現場を廻せるようになり、人手不足の課題に貢献します。
冬期の空調コストを15.8%も削減!省エネに大きく貢献するSEE GAUGEとは
–続いて、SEE GAUGE(シーゲージ)について教えてください。
伊東さん:
SEE GAUGEは、工場・倉庫・施設など省エネ、カーボンニュートラルに貢献できるAIです。
例えばショッピングビルには、地下に中央管制室があります。今まではそこに人員を配置し、たくさん並んでいる機械のモニターを見ながら「今日は暑いからもうちょっと空調を下げよう」とか「7階からは暑いと言われるが3階は寒いと言ってきている。7階の空調を強くして、3階の空調を弱くして…」「雨が降って外気が下がってきたから空調を上げよう」などの調整を1日中行ってきました。
SEE GAUGEは、この作業を自動で行ってくれるAIソリューションです。
これだけ聞くと、人員確保の側面に貢献できると思われるかもしれませんが、メリットはそれだけではありません。
実際に導入された大手鉄道グループの駅直結ビルでは、空調だけで年間8%、冬期だけの空調だと15.8%ものエネルギーコストを削減できました。
また、大型商業施設では、テナントからの空調に関する意見を最大8割も減らせた実績があります。これは、施設内で快適に過ごしていただいている証拠です。まさにWell-beingの環境を作り出しました。
空調設備だけではなく、冷凍・冷蔵倉庫などでも同様のAI自動制御が可能です。商品の品質維持を最優先に、使用電力を極限まで抑えてコントロールできます。
さらに今まさに取組み中の省エネの事例として、鉄道のレールの雪を熱で溶かす装置、「電気融雪器」の省エネがあります。
実はアドダイスは昨年、JR東日本のコーポレート・ベンチャー・キャピタルであるJR東日本スタートアップ株式会社のマッチングイベントで採択を受け、2023年11月から、電気融雪器の省エネに挑戦しています。
つい先日、JR東日本スタートアップ主催の発表会があり(2023年12月6日)、アドダイスの自律型AIによる電気融雪器省エネ効果を、多くの方の前でプレゼンテーションして参りました。ちなみに自律型AIによる省エネ効果は、事前のシミュレーションでは「最大63%の電力使用量削減」という結果を出しています。
電気融雪器は、JR東日本管内に17万個もあり、1時間に一般家庭6万2,000世帯分という大量の電力を使用します。これが成功すれば、無駄な電力使用の削減になることはもちろん、カーボンニュートラルの実現へ向けた大きな一歩となることは間違いありません。
電気融雪器は、設置場所で条件もバラバラ、しかも気象や地形など経年で環境が変化する状況にあります。変化に柔軟に対応しつつ、安全性もしっかり確保しながら、人手をかけずに最適制御しなくてはなりません。
このような困難な課題を、自ら再学習し続けるAI「自律型AI」なら解決できます。
この取り組みは弊社のサイトでもご紹介しておりますので、ぜひご覧になってみてください。
ResQ AIでバイタルを見える化して分析。こころとからだの健康を見守る取り組み
–では、ResQ AI(レスキュー)について教えてください。
伊東さん:
こちらは、人を対象としたAIのソリューションです。
スマートウオッチでバイタルデータを測定し、スマートフォンアプリ(ResQ Live)でクラウド(ResQ Platform)に送信します。通常とは異なる値になった時や、AIが病気の兆候を捉えた時、ご本人や見守る人にお知らせするというものです。個人の健康ケアを簡便かつ低コストに実現するソリューションとなっています。
2020年、パンデミックでコロナが世界中に広がっていった時、医療現場ではベッドが足りなくなったり、それまで元気だった人がコロナで急に重症化して亡くなったりと、緊急事態に陥りました。そこで、私たちのこの技術で医療の分野に貢献したいと思い、プロジェクトをスタートしました。
最初は有志で声を掛け「COVID-19 ResQプロジェクト」を立ち上げました。この取り組みは社会的にも高い評価をいただき、多くのアクセラレーションプログラム等で採択され、受賞もいただいています。
伊東さん:
昨年からは、心の健康に対する見守りもスタートさせています。コロナ禍で人との接触が減りストレスを抱え、心の健康を損なう人が増えました。
しかし、心の状態はバイタルの変化として現れにくく、数値を見ても、今、心がどんな状態にあるか判断するのが難しいんです。そこで、広島大学と共同で心の状態をDX化して数値で表せるようにする研究を開始しました。さまざまな被験者から、バイタルと心の健康の重症度のデータを解析することで、データさえあれば心の重症度が測れるように開発を進めてきました。
現在は所属している団体経由で申し込んでいただく形でクラウドファンディングを行う予定で、個人の有志の方でも参加できるようにする計画です。
友人の医者に言われた一言で、SoLoMoN ®Technologyの開発を開始
–それぞれの製品の特徴を伺い、社会問題に貢献できるAIであることがわかりました。では、なぜSoLoMoN ®Technologyを開発しようとお考えになったのでしょうか。
伊東さん:
もともと個人的にAIの研究をしていたのですが、大学の同級生である医師から、「そのAIの技術は病理診断に活かせそうだ。」と言われたことがきっかけです。
病理診断とは、プレパラートに挟んだ患者さんの細胞を光学顕微鏡で観察し、病気を診断する検査です。時間のかかる作業ですが、患者さんが多いと短時間でこなしていかなくてはなりません。
そうなると、人力で行っていることもあり、見落としてしまうケースもあります。見落とせば命に関わりますし、発見が遅れて亡くなってしまう可能性もあります。つまり、リスクの大きい作業なんです。
この作業をAIに任せられないかというところが、私たちのスタートラインでした。
そこから、AIが検知した結果を他のデータと関連付けていけば、人間では気がつかない病気の予兆も判断できるようになるんじゃないかと考え、研究を進めました。
他にも、人間が得意ではない「モノを数値で表す作業」も任せられるようにしたくて。例えば、Zoomで相手の顔が分かったとしても「この人の顔がどのくらいのサイズで、容量はこのくらい。」という情報は判断できませんよね。10人に「この人の顔のサイズと容量を答えてください。」と質問したら、それぞれ回答が異なるはずです。
これを手術に置き換えると、例えば「腫瘍を発見したけど、私はこのサイズであればまだ大丈夫」「いいや薬を投与しなければならない」「これは切除するべきだ」と人によって判断が異なります。
でも、対処すべき腫瘍の基準はあるわけで、十人十色の回答では問題なんです。
その点、AIは基準をもとに判断することが得意なので、誰でも分かるような客観的な数値を示すという技術を開発していきました。
加えて、「健康」にも注目しました。健康は遺伝子との関わりが大きいと言われる中で、実際は環境や生活習慣にも左右されますよね。この環境や生活習慣をAIで整えられるのではないかと考えたんです。
「快適な気温の場所にいればこのような健康状態になる」「何時に寝て何時に起きると健康で、逆にどのくらい睡眠不足だと不健康になる」といったデータをAIに学習させ、数値で表せられれば、心身ともに良好な状態でいられるんじゃないかと。
そうやって開発されたのが、「SoLoMoN ®Technology」です。
生活空間を整え、ヘルスケアを行う。社会をよりよくするための取り組みを拡大させていきたい
–今後の展望をお聞かせください。
伊東さん:
日本だけでなく、世界が大きな転換点にあると考えています。
- 急速に進む少子化、高齢化
- 社会の構造変化によるひずみの発生
- 環境問題、エネルギー問題、脱炭素
これらの「三重苦」とも言える課題を、一気に解決できるのがSoLoMoN ®Technologyに基づく自律型AIです。自律神経のように働くAI基盤を、人の生活空間とそれを支える施設管理業界に普及させていきたいと考えています。
また一方で、人の心と身体の健康も、AI基盤で実現していきたいです。メンタルの問題が深刻化し、こころの問題で苦しむ人が増えています。AIで「心の危機(メンタルリスク)」に気が付いて、心が整うサービスを提供していきたいと考えています。
さらに、海外展開も視野に入れています。
今、ボリビアでは、妊産婦さんの周産期鬱が問題となっています。これには体液の量が関係しており、心身ともにバランスが変化することで、ダメージを受けてしまっているんです。
アメリカでもメンタルが弱ってしまう人が増えていますし、もちろん日本も例外ではありません。
このような問題を気にせずに生きられるような仕組みを普及させていきたいですね。
「自律型AI」は、社会の自律神経のような存在でありたいという思いからつけた名前です。今この記事を読んでいて、「息をしなきゃ」と思った方っていないですよね。何かやるたびに「息をしなきゃ」と思って息をしてたら、煩わしいといいますか。
これを社会に照らし合わせると、人間ってやりたいことがたくさんありますし、それ以外のことって裏で片付いていて欲しいんと思っているはずです。
それ以外のこと=困難とかリスクの一次処理は、自律型AIに任せてもらって、本来やりたいことに集中できる状況を整えていきたいですね。
そのためにも、開発はもちろん、当社のサービスについて認知を広めることが重要な課題です。私たちの取り組みは生活空間を整え、ヘルスケアを行い、社会をより良くしていこうという事業です。多くの人に知っていただくための方法を考えていきたいですね。
–本日は貴重なお話ありがとうございました!
株式会社アドダイス:https://ad-dice.com/