子どもの不注意や多動が気になる…
大人になっても集中できない…
そんなあなたに、ADHDの最新情報をお届けします。発達障害のひとつであるADHD(注意欠如・多動症)。
その症状や治療法、支援について、子どもと大人両方の視点からわかりやすく解説します。
近年の研究結果を踏まえた信頼性の高い情報で、あなたのADHDについての疑問を解消します。ADHDの正体と向き合い、克服するためのヒントを手に入れましょう!
ADHDとは

ADHDとは、注意欠陥・多動性障害のことです。ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)の人は、集中力が続かず、すぐに他のことに気を取られたり、体が落ち着かなかったりします。
例えば、授業中にふとしたことで別のことに気を取られてしまい、先生の話を聞くことができなくなってしまうことがあります。また、座っていることが苦手で、机や椅子を動かしたり、手や足を動かしたりすることがあります。
しかし、ADHDの人は、注意力や衝動性をコントロールすることが苦手ですが、アイデアや創造性に優れていることも多いといわれています。
ADHDと発達障害との違い
発達障害とは、生まれつきの脳の機能の違いによって、知的発達やコミュニケーション、社会性、行動の調節など、さまざまな面で固有の特徴があり、時に一般社会の中で平均的な脳の人よりも生活の中で困難がみられる状態の総称です。ADHDは、発達障害の1つに分類されます。
発達障害には、他にも自閉スペクトラム症(ASD)※、学習障害(LD)※、知的障害※などがありますが、その中でもADHDは最も多くみられる障害です。
【発達障害とは】
ADHDの原因
ADHDの原因は、まだ完全には解明されていませんが、現在のところは前頭葉や大脳基底核などの部位の発達の違いが原因だとされています。
具体的には、脳の神経細胞間の伝達を担う
- ドーパミン
- ノルアドレナリン
などの神経伝達物質の働きが、通常よりも弱いのではないかと考えられています。また、脳の海馬や前頭前野などの部分の機能が、通常よりも弱いこともADHDの原因に関与しているとも考えられています。
ADHDは、生まれつきの脳の機能の違いによって起こると考えられているため、本人の努力だけでは、症状をコントロールすることは難しい場合があります。しかし、適切な支援を受けることで、症状を軽減したり、困難を乗り越えたりすることができます。
次の章からは、子どものADHDに焦点を当てていきましょう。*1)
子どものADHDの特徴

ADHDは、学童期の子どもの3〜7%、成人では2.5%の割合で診断されます。男の子の方が女の子よりも3〜5倍多く、成人では男女比が1:1に近づくと言われています。
ADHDの子どもは、日常生活で困難に直面することが多く、自己肯定感が傷つくこともあります。このような背景から、ADHDの人は子供も大人もストレスなどが原因で、うつ病、双極性障害※、不安障害※などの精神疾患を併発することがあるほか、他の発達障害を併発することもあります。
【発達障害のそれぞれの特性と関連性】
また、養育者も子育てで悩みを抱えることがあります。
子供のADHDの主な症状
子供のADHDに関する代表的な症状としては、次のようなものがあります。
- 注意力が散漫である
- 集中力が持続しない
- 指示に従わない
- 話を聞かない
- 物を失くす
- じっとしていられない
- 落ち着きがない
- 衝動的に行動する
これらは個人差があり、症状や強さがひとりひとり異なります。また、これらの症状は、
- 勉強や宿題が遅れる
- 授業中に落ち着いて座っていられない
- 友達とトラブルになる
- 親や先生に叱られる
など、学校や家庭生活で困難を招くことがあります。ADHDの人は、これらの症状をコントロールするのが難しいと感じていることが多いので、周囲の理解とサポートが大切です。
そして周囲の人は、冷静に対応し、理解と忍耐を持って接することも重要です。共に協力し、ADHDの人が自分らしく生きることができる環境を作りましょう。
次の章では、子どものADHDの治療について確認します。*2)
子どものADHDの治療方法

子どものADHDの治療には、大きく分けて
- 薬物療法
- 心理社会的治療
の2種類あります。
薬物療法
1つは、薬物療法です。具体的には、
- メチルフェニデート
- アトモキセチン
- グアンファシン
- ビバンセ
などの薬剤が使用されています。これらの薬剤は、脳内の神経伝達物質の働きを調整することで、不注意、多動性、衝動性の症状を改善します。
薬物療法は、ADHDの症状を改善する効果が期待できますが、食欲不振、不眠、吐き気、頭痛などの副作用が出ることもあります。また、長期間服用すると、依存性や中毒性のリスクがあることにも留意する必要があるでしょう。
心理社会的治療
もう1つの心理社会的治療では、環境調整や行動療法などが行われます。具体的には、
- 学習環境や生活環境の調整
- 注意力や集中力、コミュニケーション能力の向上のための訓練
- 衝動性をコントロールするための訓練
などがあります。心理社会的治療は、薬物療法の副作用を避けるためにも有効です。また、薬物療法だけでは十分な効果が得られない場合に、補助的な治療としても役立ちます。
治療には家族や学校関係者の理解と協力も必要
ADHDの具体的な治療方法は、子どもの年齢や症状の程度、家族の状況などによって異なります。そのため、子どものADHDの治療を検討する場合は、専門医に相談することが大切です。
また、子どものADHDの治療は、子ども本人だけでなく、家族や学校関係者の理解と協力も必要です。家族や学校関係者が、子どもの特性を理解し、適切な対応を行うことで、子どもの困難を軽減し、生きやすい環境を整えることができます。
【発達障害の家族が学ぶコアエレメント】
ADHDの治療方法やトレーニングの方法の研究は進んでいますが、本人や家族にとって少なからず努力が必要です。このようなADHDの子どもやその家族には、どのような支援があるのでしょうか?次の章で見ていきましょう。*3)
子どものADHDに関する支援

日本政府は、2018年に「発達障害者支援基本計画」※を改定しました。この計画では、子どものADHDに対する支援として、以下の内容を盛り込んでいます。
- 早期発見・早期支援の推進
- 教育・就労・社会参加の支援の充実
- 親や家族の支援の充実
また、教育委員会や文部科学省は、子どものADHDに関する支援策として、以下の取り組みを進めています。
- 教員の研修の充実
- 特別支援教室や通級指導教室の整備
- 個別支援計画の作成
教育機関の支援
教育機関では、ADHDの子どもに対する特別支援教育を充実させることを目指しています。教師やカウンセラーがADHDの子どもを理解し、適切な支援を提供するための研修や情報提供が行われています。
また、ADHDの子どもに対して、それぞれの特徴に合わせた学習環境の調整など、個別の配慮を行う取り組みも進められています。例えば、
- 授業中の注意力を維持するための工夫
- 課題の見直しや分割など、学習内容の適切な調整
- 専門家による個別支援や相談窓口の設置
- 教師や保護者に向けた情報提供や研修など
- 騒音や刺激を遮断するための環境整備
- 特別教室や個別指導室など、適切な教育環境の整備
などが行われています。
特別支援教育とは
特別支援教育では、ADHDの子どもの特性や困難を理解し、適切な指導や支援を行うことで、これらの困難を改善し、自立と社会参加を実現できるようにサポートします。
例えば、授業中に注意力が散漫になってしまう場合には、周囲の音を遮断するためのヘッドフォンを用意したり、ノートを取ることを促したりします。
また、ADHDの子どもたちは、自分のペースで学ぶことができるように、個別指導や専門的な支援を受けることができます。
ADHDの子どもは、他の子どもと同じように、個性や才能を持っています。特別支援教育を受けることで、自分の特性を理解し、適切な方法で学習や生活を送ることができるようになります。
医療機関の支援
医療機関では、ADHDの診断と治療を提供しています。専門の医師が診断を行い、必要に応じて薬物療法や心理社会的治療を提案します。
加えて、ADHDに関する情報やサポートを親や教師に提供することも行われています。これにより、ADHDの理解や適切な支援方法についての情報提供や相談を受けることができるのです。
政府の支援
文部科学省は、「特別支援教育の充実に向けた取組の推進に関する指針」を発表し、学校における特別支援教育の充実を図るための取り組みが示されています。
具体的には、
- 障害のある幼児児童生徒の早期発見・早期支援の推進
- 特別支援教育の体制の充実
- 教員等の特別支援教育に関する専門性向上の推進
- 特別支援教育に関する情報の提供・普及啓発の推進
などを柱とし、これらの施策を効果的に実施することで、障害のある幼児児童生徒がひとりひとりの個性や能力を活かして、自立と社会参加を実現できるような環境を整えていくことを目指します。
また、各都道府県や市町村によっても、地域に応じた支援策が実施されています。例えば、東京都では「ADHDサポート事業」を実施しており、専門家による相談や支援、保護者向けの研修などを行っています。
これらの支援策からも、ADHDの子どもたちが学校や社会で適切な支援を受けることができるよう、政府や自治体が積極的に取り組んでいることがわかります。次の章からは、大人のADHDについて解説していきます。*4)
大人のADHDの特徴
ADHDはほとんどの場合、子どもの頃から特徴が現れますが、大人になっても続く場合があります。多動性や衝動性は、多くの場合は成長とともに減少する傾向がありますが、不注意は変わらず残ると言われています。
大人のADHDでは、仕事や家庭での困難やストレスが増えることで、二次障害としてうつ病や不安障害などを併発することがあります。また、子どものADHDは学校や家庭で支援を受けることができますが、大人のADHDは自分で責任を持たなければならないことが多く、周りからの理解や支援を得にくいことがあります。
大人のADHDの主な症状
先述のように、大人のADHDでは多動性や衝動性による行動は少なくなる傾向があります。その代わりに不注意の症状が目立ち、社会生活や日常生活で支障が出てくるようになる場合があります。
大人のADHDにおける不注意症状は、子供のADHDの不注意症状と同様です。
- 忘れ物や失くし物が多い
- ケアレスミスが目立つ
- 約束を守れない(忘れてしまう)
- 複数のタスクを並行できない
などです。これらは一般的な特徴であり、全ての大人のADHDの人が必ずしも該当するわけではありません。
ただし、これらの特徴が自身や身近な人に当てはまる場合は、専門家の診断やサポートを受けることが重要です。
では、大人のADHDには、どのような治療方法があるのでしょうか?次の章では大人のADHDの治療について確認しましょう。*5)
大人のADHDの治療方法

大人のADHDの治療は、子供のADHDの治療と大きく変わりません。しかし、大人のADHDの治療では、子供のADHDの治療とは異なり、自己管理能力を高めることが重要になります。
自己管理の重要性
大人のADHDの治療では、自己管理の重要性が強調されます。自己観察や自己組織化のスキルを開発し、自己効力感※を高めることを目指します。また、治療は一時的なものではなく、長期的なサポートや戦略の継続的な利用が重要です。
ADHDの大人が自己管理能力を高めるためには、いくつかの治療やトレーニングがあります。具体的には、
- 過去の嫌な思い出を捨て去る(自己肯定感を高める)
- 物事に優先順位をつけて行動する
- モチベーションを意識する
- 必要なことは習慣として身につける
- チェックリストを活用する
- 睡眠と起床を大切にする
- 目標と計画の立て方を学ぶ
- 仕事や生活の環境を整える
などが、代表的な大人のADHDの人が自己管理能力を高めるためのトレーニングです。また、大人のADHDの人は自分の特性を理解することで、自分の行動を客観的に捉え、適切な対処をとることができるようになります。
次の章では、大人のADHDの人への支援について確認しましょう。*6)
大人のADHDに関する支援

大人のADHDに関する支援は、子供のADHD同様、さまざまな場面や支援する側によって提供されています。
職場・学校の支援
職場や学校からの支援では、環境調整が重要です。職場や学校がADHDの人に合った環境を整えることで、仕事や学習がよりスムーズになります。
企業によるADHDの人の採用への考え方の変化
近年、企業によるADHDの人の採用方針は、以前に比べて前向きに変化してきています。
その理由の1つは、ADHDの人の特別な能力による活躍が、企業にとってもメリットがあると考えられるからです。
ADHDの人は、注意力散漫や多動性などの症状によって、さまざまな困難を抱えていますが、その一方で、独創性や発想力、行動力などの強みも持っています。これらの強みを活かすことで、企業は新たな価値を生み出すことができる可能性があります。
また、近年では、ADHDの理解が進み、偏見や差別が減少してきていることも、企業の採用方針に変化をもたらしています。ADHDの人の能力や活躍を認め、ひとりひとりの個性を尊重する企業が増えています。
もちろん、ADHDの人は、症状によって仕事に困難を感じることもあります。しかし、自分の強みや弱みを理解し、適切な支援を活用することで、活躍できる可能性は十分にあるでしょう。
医療機関の支援
医療機関やカウンセラーは、大人のADHDの人に対して、適切な治療やサポートを提供します。専門医師による治療を通じて、ADHDの人は自己管理や問題解決のスキルを身につけることができます。
また、個別の指導やアドバイスを受けることで、日常生活や社会的な関係における困難に対処することができるのです。
家族・友人の支援
家族・友人は、ADHDの人の理解者であり、一番身近な支援者です。家族はADHDの人の特性や困難を理解し、適切な配慮や支援を行うことで、本人の生活を支えることができます。具体的には、
- ADHDについての情報収集
- 本人の特性や困難の理解
- 本人の行動への理解と受け入れ
- 本人の自己肯定感を高めるサポート
などに取り組みます。家族や友人がADHDの特性を理解し、その上でサポートすることで、生活がよりスムーズになります。
大人のADHDは、適切な治療と支援を受けることで、症状を改善し、生きやすい社会生活を送ることができます。家族や医療機関、行政や民間団体など、さまざまな側からの支援によって、ADHDの人をはじめ、どのような人も社会に希望が持てる社会の実現を目指しているのです。
【発達障害者自身の情報発信と支援機関の関係】
次の章ではもし、自身や身の回りの人がADHDかな?と思ったらどうしたらいいのか考えていきましょう。*7)
自身や身の回りの人がADHDかな?と思ったときの対応

もし、身の回りの人がADHDの症状や特徴に当てはまるとしたら、本人や家族に相談してみましょう。本人に伝えるときは、否定的な言葉や決めつけの言葉は避け、理解を示し、共感することが大切です。
また、相談するときは、ADHDに関する情報を一緒に調べたり、具体的な困りごとを聞いてあげたりするとよいでしょう。ADHDの症状に苦しんでいる人にとって、周りから理解されることはとても大切です。
まずは、相手に興味を持ち、話を聞いてあげましょう。相手が自分自身や自分の問題について話したいときは、積極的に聞き、共感してあげましょう。
ただし、相手が話したくない場合は、無理に聞き出さないように心がけることも大切です。
自分や家族がADHDだと気づいたら
自分や家族がADHDだと気づいたら、早めに医療機関を受診しましょう。医療機関では、ADHDの診断を受けることができ、適切な治療や支援を受けることができます。
また、自分や家族がADHDだと気づいた時は、先述したようにADHDに関する情報収集や勉強をすることも大切です。ADHDについて理解を深めることで、自分の特性や困難を受け入れ、適切な対処をとることができるようになります。
具体的な接し方
ADHDの人たちは、集中力が続かず、すぐに興味を失ってしまうことがあります。そのため、相手が話している最中に無関心になってしまわないように注意を払いながら話しましょう。
相手が落ち着かないと感じた場合は、一緒に運動したり、気分転換を促したりすることも効果的です。
また、ADHDの人たちのストレスを減らすことも大切です。相手が自分のペースで物事を進められるように協力することで、ストレスを軽減することができます。
【ADHDの人と接するときの工夫】
ADHDへのマイクロアグレッションの存在
そして、もうひとつ押さえておきたいポイントとして、ADHDへのマイクロアグレッシブの存在が挙げられます。
マイクロアグレッションとは、日常的な言動や態度によって、人種や性別、性的指向、障害などのマイノリティに属する人たちに対して、無意識的に差別や偏見を示すことを指します。ADHDの人たちに対しても、マイクロアグレッションが存在することがあります。
マイクロアグレッションは、被害者に心理的な負担を与え、自尊心や自己肯定感を傷つける可能性があります。ADHDを持つ人々は、自分が普通ではないと感じることが多く、マイクロアグレッションによってさらに不安や孤立感を抱えることがあります。
このようなことを理解し、教育現場や職場などでADHDの人たちが自分自身を受け入れ、個性を活かすことができるよう、適切な支援策を検討することが必要です。
このように、自身や身の回りの方がADHDかな?と思った場合は、相手の気持ちに配慮し、専門家のサポートを受けることが重要です。相手を非難するのではなく、一緒に対処することで、ADHDの人たちに負担にならず本当に必要なアクションを提供することを目指しましょう。
次の章では、ADHDを理解する上で重要な「ニューロダイバーシティ」について理解しておきましょう。*8)
ADHDとニューロダイバーシティ
ニューロダイバーシティとは、脳や神経の違いによる個人の特性や多様性を尊重しようという考え方です。具体的には、自閉症スペクトラム症やADHD、学習障害などの発達障害を、能力の欠如や劣等ではなく、人間のゲノム※の自然な変異として捉えます。
ニューロダイバーシティの考え方は、発達障害の当事者が社会で生きづらさを抱えていることに着目し、彼らの特性や強みを活かせる社会の実現を目指しています。
ADHDの人は、注意力の欠如や多動性、衝動性などによって、日常生活や社会生活でさまざまな困難に直面することがあります。しかし、その一方で、発想力や創造性、集中力や実行力など、他の人には真似できない強みも持っています。
【国内外で注目されているニューロダイバーシティ】
生物学的な観点から考えても重要
生物学的な観点から考えても、ニューロダイバーシティをはじめとする遺伝的多様性※は、生き物が繁栄していくために非常に大切な要素です。これは、生き物が環境の変化に適応していくために、さまざまな特徴を持つ個体が必要だからです。
【関連記事】遺伝的多様性とは?メリットと失われると困る理由、身近な事例を解説
一方で、遺伝的多様性が失われると、生物は環境変化に適応できなくなり、病気や害虫に対する抵抗性も低下します。
つまり、生物はできるだけ多様な個性が存在する集団の方が、突発的なトラブルや環境の変化などに対応できる選択肢を多く持つことになり、さまざまなリスクへの備えが厚くなるということです。自然の生み出した多様性の意味を理解せずに、社会が作り出した偏見で、ADHDをはじめ特徴的な脳を持つ人に
- 「平均的ではない」
- 「普通の人ができることができない」
と否定的な評価をすることを見直すべきという認識が広がってきています。
それぞれの人が持つ特性を的確に見つけ出し、それぞれに合った支援や教育を経て、社会の中で適材適所で働けるようにすることが、今後の社会の持続可能性にも繋がります。
差別や偏見を排除することも目的
ニューロダイバーシティにおいて、差別や偏見を排除することは非常に重要です。差別や偏見を持つ人々が、ある特定の脳の構造や機能に基づいて、ある人種や性別、性的指向、障がいの有無などを判断することは、その人々にとって不利益をもたらすだけでなく、社会全体の成長の可能性を制限するなどの影響を与えます。
ニューロダイバーシティにおける差別や偏見の排除は、個人的な幸福だけでなく、社会全体の発展にもつながるのです。
【企業が発達障害人材を積極的に採用する理由】
これからの発達障害への考え方の1つ、ニューロダイバーシティを理解しておくことは社会人として重要です。次の章では、ADHDに関してよくある疑問に答えます。*9)
ADHDに関してよくある疑問

ここでは、ADHDに関してよくある疑問に回答します。正しい情報を知ることで、ADHDの人たちに適切なサポートができるように心がけましょう。
自己診断のチェックリストはある?
はい、ADHDの自己診断のチェックリストはあります。インターネットや書籍などで、簡単に見つけることができます。
しかし、ADHDの自己診断は、あくまでも自己判断に過ぎません。ADHDの診断には、医師による問診や行動観察、心理検査などが必要になります。
ADHDは見た目でわかる?
ADHDは見た目でわかるわけではありません。ADHDの人たちは、見た目には健康的で普通に見えることが多く、症状が外から見てわかることはありません。
これは大人に限った話ではなく、子どもの場合も同様です。ADHDの人は、見た目ではなく行動に特徴があらわれます。
女性・男性のADHDの特徴ってある?
女性と男性のADHDには、一般的にそれぞれ異なる特徴があります。ADHDの人には、不注意と多動/衝動性の2つの特徴がありますが、女性の場合は不注意が目立つことが多く、男性の場合は多動や衝動性が目立つことが多い傾向があります。
ただし、これらは一般的な傾向であり、すべての男性や女性が必ずしもこれらの特徴を持っているわけではありません。ADHDは個人によって症状や特徴が異なることに留意しましょう。
大人になったら自然に治るの?
ADHDは、大人になっても自然に治るということはありません。以前は、年齢を重ねるとADHDの症状が治まる傾向にあるとされていましたが、最近の研究では、約60%の人では成人期にも症状が残ると言われています。
症状が軽度である場合や、症状が社会的に支障をきたさない場合は、自己管理や習慣化などの方法で対処することができるかもしれません。
しかし、症状が重度で、日常生活に支障をきたす場合は、専門家のサポートを受けることが重要です。
ADHDの人に向いている職業はあるの?
一般的に、ADHDの人に向いている職業はあると言われています。ADHDの人は、以下の特性を持っていることが多いので、
- 好奇心旺盛で、新しいことに興味がある
- 独創的で、発想力がある
- 行動力があり、積極性がある
- 視覚や聴覚に優れ、感覚が敏感
これらの特性を活かせる職業としては、以下のようなものが挙げられます。
- クリエイティブな職業:デザイナー、イラストレーター、漫画家、ミュージシャン、作家など
- 技術系の職業:エンジニア、プログラマー、科学者など
- 営業や販売の職業:営業マン、販売員、コンサルタントなど
- サービス業:接客業、保育士、介護士など
ADHDは薬物治療だけで改善できるって本当?
ADHDは薬物治療だけで改善できる場合がありますが、それだけでなく、心理療法や習慣化の方法など、多角的なアプローチが必要とされています。薬物治療は、脳内の神経伝達物質のバランスを調整し、注意力や集中力を改善する効果があります。しかし、薬物治療だけでは、症状の根本的な改善にはつながりません。心理療法や習慣化の方法を取り入れることで、自己管理や社会生活における支障の軽減が期待できます。
単なる「わがまま」や「甘え」とどう見分けるの?
ADHDは、脳の機能障害によって引き起こされる病気ですから、わがままや甘えとは無関係です。しかし、ADHDと「わがまま」や「甘え」を見分けることは、簡単ではありません。
以下のような特徴がある場合は、ADHDの可能性が高いと考えられます。
- 集中力が続かず、すぐに飽きてしまう
- 組織化された活動が苦手で、片付けや時間管理が苦手なことが多い
- 衝動的な行動をとることが多く、自制心が弱い
- 多動性の症状がある(落ち着きがなく、じっとしていられない)
- 緊張感やストレスを感じると、症状が悪化する
ただし、これらの症状があっても、必ずしもADHDであるとは限りません。また、子供の場合は、発達段階によって行動が異なることもあります。そのため、専門家に相談して、より正確な診断を受けることが大切です。
ADHDは、脳の機能的な障害であり、意志の弱さや怠慢によるものではありません。適切な治療と支援を受けることで、症状を改善し、社会で活躍することができます。
ADHDの人に対する理解とサポートは、持続可能でより良い社会の実現に向けたSDGsの一環です。次の章ではADHDとSDGsの関係について考えてみましょう。
ADHDとSDGsの関係
ADHDは、SDGsの「誰一人取り残さない」という目標に繋がる問題であり、周りの人が理解し支援することが必要です。特に関連の深い目標を確認しましょう。
SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」
ADHDの人も含め、全ての人が質の高い教育を受ける権利があります。その一環として、ADHDの人も含め、すべての学生が適切な教育を受ける権利を持つべきです。
適切な支援や質の高い教育を受けることで、ADHDの人も十分な学びや成長を遂げることができます。ADHDの人への適切な支援と教育の提供は、個々の能力やポテンシャルを最大限に引き出し、SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」の達成に貢献します。
SDGs目標8「働きがいも経済成長も」
SDGs目標8「働きがいも経済成長も」は、働くことによって生計を立てることができる社会を目指しています。その一環として、ADHDの人も含め、すべての人々が適切な職業や雇用に就く権利を持つべきです。
ADHDの人は、適切なサポートや環境が整えられれば、能力を最大限に発揮することができます。ADHDの人への包括的な雇用政策や働きやすい環境の整備は、SDGs目標8「働きがいも経済成長も」の目標達成につながります。
SDGs目標10「不平等をなくそう」
ADHDの人への適切な支援と社会的な不平等の解消は、個々の能力やポテンシャルを最大限に引き出し、社会参加や自己実現を促進することにつながります。また、社会的な不平等を解消することは、社会全体の発展にもつながります。SDGs目標10「不平等をなくそう」は、不平等をなくし平等な社会を実現することを目指しています。ADHDの人への適切な支援は、その実現に向けた重要なステップとなります。
SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」
ADHDの人は、自己統制や社会的な関係の構築に困難を抱えています。平和で公正な社会を築くためには、ADHDの人に対する理解とサポートが不可欠です。
ADHDの人は、周りの人に理解されず、支援されないことで、社会的に孤立してしまうことがあります。ADHDの人に対して、教育や雇用、社会的な偏見のない環境を提供することは、全ての人が平等な権利と機会を持つ社会の実現を目指すSDGs目標16「平和と公正をすべての人に」の目標達成につながります。*10)
>>SDGsの目標について詳しくまとめた記事はこちらから
まとめ
近年ではADHDは、ニューロダイバーシティや遺伝的多様性の一例として捉えるようになっています。従来持たれることが多かった、ADHDは単なる「問題児」や「集中力がないだけ」という偏見は見直すことが必要です。
ADHDの人は、他の人と同じように、生きる権利と可能性を持っています。しかし、ADHDの症状により、学習や就職、社会生活などで困難を抱えることがあります。
この記事を読んだあなたは、
- ADHDの症状は、単なるわがままや甘えではない
- ADHDの人は、周囲の理解と支援を受けることで、症状を改善し、社会で活躍することができる
- ADHDは、ニューロダイバーシティの一種であり、遺伝的多様性の賜物である
- ADHDの人の困難を理解し、偏見や差別をなくすことが重要である
などに留意しましょう。
ADHDの人々の困難を理解し支援することで、偏見や差別をなくし、SDGsの多くの目標達成にも貢献します。ADHDの人の特徴を多様性として尊重し、社会全体で包括的な支援体制を整えることで、より多くの人が自分らしく生きることができる社会につながるのです。
また、自分が「ADHDかな?」と思った時は、まず医療機関に相談し正確な診断を受けることが大切です。その指導に従って、ADHDの特性や困難を理解し、自分自身を受け入れるようにしましょう。
社会全体が異なる個性やニーズを尊重し、包括的な支援体制を整えることで、ADHDの人々が自己実現し、能力を最大限に発揮できる環境を作り出すことができます。これは今後の社会の繁栄にもつながります。
あなたも、より良い社会を築くためにADHDを正しく理解し、できることから行動を起こしましょう!
〈参考・引用文献〉
*1)ADHDとは
厚生労働省『発達障害の理解』p.1(2019年10月)
厚生労働省『発達障害』
厚生労働省『ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療』
文部科学省『ADHDの定義と判断基準』
発達障害ナビポータル『注意欠如多動性障害(ADHD)』
厚生労働省『海外の情報 注意欠如・多動症 Attention-Deficit Hyperactivity Disorder』(2022年11月)
NCNP病院『”ADHDタイプ”の方の対処策』
日本財団ジャーナル『知らずに相手を傷つけてしまう言動「マイクロアグレッション」を防ぐには? 専門家に聞いた』(2023年6月)
NHK『マイクロアグレッション 日常に潜む人種差別の”芽”』(2020年12月)
情報労連『SOGIにかかわらず 働きやすい職場へ ダイバーシティーを進めよう 性的マイノリティーが直面する困難 マイクロアグレッションとアウティング』(2023年6月)
*2)子どものADHDについて
厚生労働省『ペアレント・トレーニング実践ガイドブック』p.5
NCSP病院『ADHD(注意欠如・多動症)』
American Psychological Association Logo『Psychologists are teaching health care teams to identify and address microaggressions』(2023年7月)
厚生労働省『発達障害の特性(代表例)』
厚生労働省『第一章 軽度発達障害をめぐる諸問題』
*3)子どものADHDの治療について
厚生労働省『ペアレント・トレーニング実践ガイドブック』p.12
厚生労働省『発達障害支援におけるペアレント・トレーニングはじめの一歩』
厚生労働省『厚生労働省における「子どもの心の診療」に関する取組』
厚生労働省『メチルフェニデート』
厚生労働省『発達障害児者の初診待機等の医療的な課題と対応に関する調査』(2020年3月)
厚生労働省『一般精神科医のための子どもの診察テキスト』
*4)子どものADHDに関する支援
Medical Note『ADHD(注意欠如多動性障害)とは?大人と子どものADHDの特徴や男女比』(2017年12月)
発達障害教育推進センター『注意欠如多動性障害(ADHD)がある子どもの合理的配慮』
発達障害教育推進センター『発達障害のある子どもの指導・支援に関する実践事例』
発達障害ナビポータル『注意欠如多動性障害(ADHD)のある子どもの指導・支援』(2021年8月)
文部科学省『注意欠陥多動性障害に関する学校における配慮事項』
内閣官房『子どものメンタルヘルスの現状とEBPM』(2023年3月)
*5)大人のADHDとは
政府広報オンライン『大人になって気づく発達障害 ひとりで悩まず専門相談窓口に相談を!』(2023年2月)
Medical Note『大人のADHDの症状や特徴―ADHDでも働ける?』(2022年3月)
Medical Note『ADHD(注意欠如多動性障害)とは?大人と子どものADHDの特徴や男女比』(2017年12月)
厚生労働省『発達障害』
厚生労働省『発達障害の理解のために』
武田薬品工業株式会社『大人の発達障害ナビ』
NHK『大人の「注意欠如・多動症(ADHD)」とは?特徴や治療を解説!』(2023年7月)
昭和大学附属烏山病院『発達障害専門外来』
*6)大人のADHDの治療について
厚生労働省『成人期注意欠陥・多動性障害の疫学、診断、治療法に関する研究』
厚生労働省『注意欠陥多動性障害に対する補完療法について知っておくべき7つのこと(7 Things To Know About Complementary Health Approaches for ADHD)』(2021年2月)
日下部記念病院『大人の発達障がいについて』
*7)大人のADHDに関する支援
厚生労働省『発達障害の理解』(2019年10月)
総務省行政評価局『発達障害者支援に関する行政評価・監視 結果報告書』(2017年1月)
佐々木 洋子(大阪市立大学)『日本におけるADHDの制度化』(2011年9月)
厚生労働省『発達障害者支援施策』
厚生労働省『発達障害者の就労支援』
厚生労働省『厚生労働省における発達障害者支援施策』
*8)自身や身の回りの人がADHDかな?と思ったら
厚生労働省『発達障害の理解』(2019年10月)
*9)ADHDとニューロダイバーシティ
経済産業省『令和4年度 産業経済研究委託事業 イノベーション創出加速のための企業における「ニューロダイバーシティ」導入効果検証調査事業』p.2(2023年3月)
経済産業省『令和4年度 産業経済研究委託事業 イノベーション創出加速のための企業における「ニューロダイバーシティ」導入効果検証調査事業』p.3(2023年3月)
経済産業省『ニューロダイバーシティの推進について』
NRI『デジタル社会における発達障害人材の更なる活躍機会とその経済的インパクト-ニューロダイバーシティマネジメントの広がりと企業価値の向上-』(2021年4月)
日本財団ジャーナル『発達障害の特性を企業の成長戦略に。「ニューロダイバーシティ」へ転換するには?』(2022年2月)
*10)ADHDとSDGs
経済産業省『SDGs』