AGRIST株式会社 | 農業×テクノロジーで100年先も持続可能な農業を

AGRIST株式会社 秦 裕貴さんインタビュー

秦 裕貴
高専では機械工学と制御を学び、ロボットや自動化システム開発の基礎を学ぶ。2014年、当時高専学内で黎明期であった合同会社NextTechnologyへ参画。スタートアップから中小企業まで幅広く研究開発を受託し、ホームロボットの試作機開発や特殊3Dプリンタの開発などに従事。2017 年より同社の代表へ就任。2019年には、研究開発を受託できる企業が高専内にあることの可能性を再認識し、全国の高専へこの仕組みを広めるべく、全国の志ある高専生がチャレンジするためのプラットフォーム「高専起業部」を立ち上げる。「高専から日本を強くする」をテーマに、自動車メーカーやJICA、地方自治体などと高専生とのコラボ企画を展開している。

introduction

“100年先も続く 持続可能な農業を実現する”を経営理念に、テクノロジーで農業が抱える課題解決を目指すAGRIST(アグリスト)株式会社。

宮崎県新富町を拠点に、収穫作業を自動化するための自動収穫ロボット「L(エル)」を開発し、2022年10月より本格的なリリースが開始されます。

今回は、AGRIST株式会社 代表取締役社長兼CTOの秦さんに、農業が抱える課題にテクノロジーが必要不可欠な理由、そして持続可能な農業についてお伺いしました。

生産性と効率性の向上を同時に実現する自動収穫ロボット「L(エル)」

–自動収穫ロボット「L(エル)」の特徴を教えてください。

秦さん:

ピーマンの収穫を手伝うロボットです。ロボットにはカメラが付いていて、AIで学習させた画像をもとに収穫に適したピーマンを見つけ出し、収穫します。

収穫されたピーマンは、あらかじめ設置したコンテナに集められます。これにより生産者は収穫時間を短縮でき、かつ生産性をアップすることが可能になります。

Lの最大の特徴は、吊り下げ式であることです。ビニールハウスに設置したワイヤー上を走行しているためハウス内を自由に動き回ることができます。ハウス内と言えども、地面がぬかるんで移動しづらかったり、資材が置かれていてそれが障害物になったりと様々な問題が生じます。ロボットを走らせるために、地面を毎回掃除したりするのは非常に手間ですよね。その点、吊り下げ式にすることで、そうした問題に直面することなく収穫作業を行うことができます。

安価でシンプルにこだわって開発

–Lを開発した際に、安価でシンプルにこだわったということですが、何か理由があるのでしょうか。

秦さん:

農家さんが導入するハードルを下げるためです。私たちは、実際に農家さんのリアルな声を聞きながら開発を進めてきた経緯があります。

今、世の中にある収穫ロボットの大部分は企業の研究開発のために作られている側面が強く、販売価格が高い現状があります。そのため、「導入しても採算を取ることが難しい」といった声を聞いてきました。個人で経営されている農家さんなら尚更です。

そこでたどり着いたのが、手の届きやすい価格帯と、かつ必要な機能だけを持ったシンプルなロボットです。我々のロボットは1台150万円(※)で提供を予定しており、機能も収穫だけに特化しています。

もちろん、栽培段階から行える高機能なロボットがあれば農業の全自動化も目指せるとは思いますが、それはまだまだ先のこと。まずは農業×テクノロジーの市場を作ることが重要だと考えているので、人の手でなくてもロボットに任せられるところへの導入を進めています。

※初期導入費150万円(10a分のワイヤー設置費用含む)+ロボットが収穫したピーマン出荷額の10%(想定)

–農業の一連の流れの中でなぜ、収穫という点に着目されたのでしょうか。

農作業の時間の中で収穫作業が半分以上を占めていていること、収穫のタイミングを逃してしまうと苗全体が疲れてしまい、新たな実が育たなくなってしまう、でも時間がかかって困っているという悩みを知ったからです。

もう一つ、収穫自体が単純作業である点にも注目しました。自動化できれば、人手不足がネックになっている農家さんの役に立ちますし、その分浮いた時間で栽培や販売に集中することができて所得アップにもつながります。

農業の人手不足の根本の原因は様々ですが、収益がなかなか上がらないという点が大きいと考えています。農業全体の効率を上げることで収益性が生まれ、魅力的な仕事につながります。だからこそ、一番時間のかかる収穫作業をロボットに任せることで、生産性・効率性を同時に向上することが可能となるのです。

–自動収穫ロボットLは2022年10月に本格リリースを予定されていますが、先駆けて導入した農家の方々からの反応はいかがでしょうか。

何件かの農家さんから導入の意向をいただいている状態で、特に新しいことへのチャレンジ精神の強い20代、30代の若手農家の方々から支持が得られています。

導入意向を示される農家のみなさんに共通しているのは、これからの農業にロボットは絶対に必要だということ、農業界をもっと良くしていきたいと考えられている点です。

単純に、売り手と買い手のような関係ではなく、「テクノロジーを活用して農業の未来を一緒につくっていこうよ」「まずは導入してみるから一緒に改良していこうよ」とおっしゃって頂いています。これからの新しい農業を創る仲間のような関係性を築けることに喜びを感じています。

「土バック方式」採用で農業の難易度を減らす

–アグリスト株式会社では「土バック方式」も採用されているということですが、どういったものなのでしょうか?

秦さん:

土バック方式とは、土耕栽培をせず、土バックを用いて栽培する方法です。

従来のピーマン栽培は、その土地の土を耕して作物を育てるのが一般的です。対して土バック方式は、土バックに植えることで土づくりをせず、場所を選ばずに作物を生産できるというメリットがあります。

土作りは農業の中でも難しい工程の一つで、土壌環境が整っていないと作物が育たなかったり、連作障害によって枯れてしまったりと様々な問題があります。

連作障害とは

毎年同じ場所に同じ作物を栽培することを 連作といい、特定の作物を、同じ場所で長年栽培していると生育が悪くなったり、枯れてしまったりする現象。

秦さん:

また、土壌環境は目に見えない部分が多く、微生物の世界など解明されていない部分が多く、先読みが難しいという課題があります。土バックを使用することで、そうした制限にとらわれることなく安定した生産が行えます。農業の難易度自体を少し下げられるかもしれません。。

また、土バック方式を採用することはCO2削減にも貢献します。通常、土壌を必要とする栽培方法は生産地から消費地までトラックなどの輸送が必要になりますよね。

運輸部門から発生するCO2排出量

2020年度における日本の二酸化炭素排出量(10億4,400万トン)のうち、運輸部門からの排出量(1億8,500万トン)は17.7%を占めています。
国土交通省

しかし、場所を選ばない土バッグを活用することで、消費地で生産ができ、輸送時に発生するCO2の削減が可能になります。

–土バックの開発も、農家さんから直接お話を伺ってきた中で見つかった課題を元にされているのでしょうか。

秦さん:

はい。実は土づくりの難しさというのは、農業全体の社会課題も関わっています。

今、農業を主体で行っている方の平均年齢が67歳と高く、その方々が引退を迎えても後継者がいないという問題に直面しています。そうなると空きハウス、耕作放棄地が増え、放置し続けることで荒廃農地となり、復元したとしても農業の継続が難しくなります。

荒廃農地とは

耕作の放棄により土壌が荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が不可能となっている農地を示す 


農林水産省

仮に、若手の方で農業を始めたいという方がいても、そうした土地の復旧作業に時間を要してしまうことで開始時のハードルが高くなってしまいます。

農業を行える土地が減ってしまう…そうした声からどんな環境下でも農業が行える土バックを開発しています。

農業が抱える課題をなんとかしたい。農家目線で始まったAGRIST

–AGRIST誕生の背景を教えてください。

秦さん:

私自身、「ものづくり」が好きということもあり、高専でロボットや自動化システム開発の基礎を学んできたと同時に農業自体にも関心がありました。人が生きていくために重要な「食」に関わる仕事がしたいという気持ちが強く、その中で農業の現状を知る必要があると感じました。そのタイミングで、新富町でこゆ財団という地域商社で地元農家さんと一緒に農業研究会という勉強会が開催されていることを知り参加しました。

そこで農家の方々が抱える収穫作業の課題や農業従事者が減少していること、さらに土壌環境の問題を聞いたんです。

このままでは農業をビジネスとして維持継続することが難しくなってしまうことへの懸念の声を受け、今こそ自分たちが立ち上がるべきだと感じ、AGRISTを立ち上げました。

–AGRISTが考える持続可能な農業とはどのようなものでしょうか。

秦さん:

時代の流れに合わせて変革し続けられることが持続可能な農業だと考えています。

会社のビジョンとして、”100年先も続く持続可能な農業”をビジョンに掲げていますが、100年先がどうなっているのかって想像することは難しいですよね。今は土バックや自動収穫ロボットなど、特定の手法で課題解決を目指していますが、それがこの先もずっと必要かどうかは誰にもわかりません。だからこそ、時代や環境の変化に適応できる農業が重要だと思います。

–SDGsとの関係性も伺います。貴社の取り組みはSDGsにどのように貢献すると考えますか。

秦さん:

SDGsの観点では、目標2「飢餓をゼロに」に深く関わっていると考えています。

目標2には、持続可能な農業や強靭(レジリエント)な農業の実現が目標に挙げられており、達成するために必要なのは食料の安定的な供給です。

ただ、SDGsのための農業という話ではなく、農家目線で考えた時にまずは事業として成り立たないといけません。地球環境にも人にも負担をかけない農業を行うためにも、テクノロジーの力を借りて変化していく必要性があると思っています。

その結果として、SDGsの目標達成につながると信じています。

新たな農業スタイルのノウハウ提供を目指す

–今後の展望を教えてください。

秦さん:

創業当初から収獲用ロボット開発に注力してきましたが、今後はロボット単体を提供するだけでなく、消費地の近くで安定して生産できる農業スタイルのノウハウ提供を目指しています。

例えば工場の隣にビニールハウスを設置して、工場排熱を使って自然光型の植物工場を設営したり、土バックを使用したビルの屋上における作物栽培のノウハウ提供など、製品と栽培ノウハウをセットでパッケージにして展開していきたいと考えています。

食べるものを自ら生み出せることは、人間が生きていく上で最も重要な能力です。誰もが食べるものに困らない未来を創造できる、各個人の尺度の違いはあれど、それが持続可能な未来の第一歩だと思います。

–農業×テクノロジーの可能性に期待しています。本日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

AGRIST株式会社 https://agrist.com/