奥村 麻奈美
愛知県生まれ。大学卒業後、愛知県庁に入庁。秘書、広報、国際等の部署を経て、2020年4月から愛知県政策企画局企画調整部企画課でSDGsの業務に携わっている。2017年度、2018年度には、国連本部のSDGs所管局に属する国連地域開発センターでSDGs推進業務に従事。その経験を活かし、愛知県でSDGsの普及啓発に取り組んでいる。
Introduction
2019年7月に内閣府から「SDGs未来都市」に選定され、全庁を挙げてSDGsの目標達成に向けた取組を推進している愛知県。県民のSDGs認知度が71.1%とかなり高いのは、県が普及啓発活動に力を入れていることが大きく影響しているようです。
今回は、愛知県庁政策企画局 企画調整部 企画課の奥村さんに、SDGs未来都市としてどのような取り組みを進めているのか、具体的に伺ってきました。
愛知県内のすべての人を巻き込むべく、「SDGs未来都市」に立候補
-愛知県がSDGsに力を入れることになったきっかけについて教えてください。
奥村さん:
愛知県としては、SDGsの達成に向けて取り組むことには3つの意義があると考えています。
1つ目は、グローバル化が進む中で、世界から選ばれる地域になるためには、国際目標であるSDGsの達成が不可欠であること。
2つ目は、愛知県が重要施策の一つとして取り組む地域創生を推進する上でも、SDGsの理念は重要であること。
3つ目として、SDGsの理念「誰一人取り残さない」は、愛知県が目指す「すべての人が輝く愛知」と方向性が同じであることです。
取り組み自体は以前から行っているものがほとんどですが、SDGs採択後は、SDGsに沿って施策を整理し、進めているところです。
-SDGs未来都市に手を挙げたのはどのようなお考えだったのですか。
奥村さん:
SDGsの目標達成のためには、自治体だけでなく地域を挙げて取り組む必要があったからです。
そのためには、県内の市町村、企業、大学、NPO、さらには県民の皆様の機運醸成を図ることが重要であり、国の「SDGs未来都市」に選定されることが有効だと考えました。
COP10の開催地として、地域特性を生かした方法で生物多様性を守る
-具体的には、どのような取り組みを進めていらっしゃいますか。
奥村さん:
「愛知県SDGs未来都市計画」に沿って、経済面・環境面・社会面から様々な取組を進めています。
経済面では、自動運転の実証実験の実施、ロボットの社会実装の推進、スタートアップの支援などを行っています。
-スタートアップの施設を整備するんですよね。
奥村さん:
はい。スタートアップの創出・育成・展開を図るための拠点施設となる「ステーションAi」の整備を進めているところで、2024年の供用開始を予定しています。
-続いて社会面について教えてください。
奥村さん:
社会面では、「すべての人が活躍する愛知」を目指し、女性、若者、高齢者、障害者、外国人など、すべての方の活躍を応援する取り組みを進めています。例えば、女性の活躍促進では、企業トップの更なる意識改革を図るため、女性の活躍促進サミットを開催したり、女性起業家の育成のため、女性起業家と起業支援機関とのマッチング支援などを行っています。
-多角的な取り組みを進めているんですね。
奥村さん:
環境面では、生物多様性の保全に向けた取組や次世代自動車の普及促進、地球温暖化防止に向けた取組などを進めています。
-愛知県は名古屋市のような都市部が県の大部分を占める印象があります。生物多様性とは縁遠いように思いますが、どのように進めているのですか?。
奥村さん:
2010年の生物多様性条約締約国会議(COP10)の開催以降、県内9地域の生態系ネットワーク協議会等による生物多様性保全活動を進めてきたところです。
2019年度からは、次代を担うユース世代を中心とした活動を推進するため、「生物多様性 あいちプロジェクト」を展開中です。このプロジェクトを通して、オール愛知で生物多様性に取り組む学生組織「GAIA(ガイア)」が立ち上がっていて、企業やNPO、大学等の多様な主体と連携して保全活動や情報発信に取り組んでいるんですよ。
ガイドブックや登録制度でSDGsの普及啓発を進める
-愛知県は県民の方のSDGsの認知度が非常に高いですよね。普及啓発のためにはどんなことをしていらっしゃるんですか。
奥村さん:
県民の皆様一人一人がSDGsの認識を深め、行動につなげられるように、パンフレットの作成やセミナー、ワークショップの開催などを行っています。
こうした取組を進める中、2019年には25%だったSDGsの認知度が、2021年には71.1%になりました。SDGsの内容まで知っていると回答した人も42.2%まで上がっています。
-中学生のためのSDGsスタートブックを拝見しました。愛知の特徴などを交えて、より身近に感じられそうな内容ですね。
奥村さん:
そうですね。SDGsって貧困や飢餓といった、一見日本とは関係なさそうな目標もたくさんあるので、難しい印象を持ってしまうんです。
そこで、SDGsを自分事として捉え、具体的なアクションを起こせるよう、身近な事例を分かりやすく説明するなど、ハードルが下がる工夫をしました。
-SDGsに関する教育は学校でも始まったばかりで教材が少ないので、スタートブックがあると先生方も指導しやすくなりますよね。
奥村さん:
そうですね。実際に県内の中学校でスタートブックを用いたモデル授業を実施し、そのレポートを県内の全中学校に配布しました。
ガイドブックやレポートはwebで公開していますので、愛知県にお住まいの方以外でもダウンロードが可能です。ぜひご活用ください!
愛知県SDGs登録制度で企業への普及活動も
奥村さん:
2021年度は特に、企業等や若者への普及活動にも注力しています。
-具体的にどのような取り組みを行っているのですか?
奥村さん:
例えば、2021年9月に「愛知県SDGs登録制度」を創設しました。愛知県内に事業所を置く企業・団体等なら、条件を満たせば無料で登録できます。登録者には、県産間伐材を使用し、障害者福祉施設で製作した木製の登録証を交付するとともに、県のホームページで紹介するなどしています。
制度開始からまだ3か月ほどですが、現在292もの企業・団体等(取材日2021年12月23日時点)に登録していただけています。
今後は、登録企業・団体等向けの交流会も計画していますので、登録者同士の新たなコラボレーションが生まれるきっかけとなればと思います。
また、SDGsの達成に向けて先進的・積極的に取り組んでいる企業等の事例を紹介する事例集の作成も進めています。
この事例集には、県内大学の大学生等が実際に企業を取材して執筆した記事を掲載することとしていて、学生さんのSDGsの理解を深めることにもつなげていきたいと考えています。
全庁を挙げた取り組みでSDGsの目標達成を目指す
-最後に、県としての今後の展望についてお聞かせください。
奥村さん:
現行の「愛知県SDGs未来都市計画」の計画期間が2021年度をもって終了するため、現在、2022年度から3か年を計画期間とする第2期計画の策定に向けて準備中です。次期計画では、カーボンニュートラルやデジタル化といった新しい課題にも対応していく予定です。
今後も、SDGsの達成に向け、経済・社会・環境の3側面の取組を全庁挙げて進めつつ、県民・企業等の皆様への普及啓発もさらに進めていきたいと考えています。
-先進的で、他の自治体でも実施できそうな取り組みを多数伺うことができました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
取材 大越 / 執筆 荒川