#インタビュー

【SDGs未来都市】ニセコ町|環境を生かし、資源、経済が循環する自治のまちを目指して

ニセコ町 寺地さん インタビュー

寺地 高志

福島県出身。大学卒業後、ベンチャー企業にて勤務。より社会に貢献する活動がしたいと思い立ち、環境NGOでインターンを経験。その後JICAの青年海外協力隊として、中米グアテマラ共和国にて、ごみ問題の解決のために子どもたちや教職員を対象とした環境教育を実施。帰国後は国際NGOの職員として、核兵器の廃絶をはじめとする社会課題の解決に向け取り組む。2018年より、災害支援団体の職員として西日本豪雨、及び北海道胆振東部地震の被災地支援に携わる。支援活動を通じて北海道に魅力を感じるとともに、ニセコ町を知る機会があり、そのまちづくりの姿勢に感銘を受け、2019年4月よりニセコ町に移住。地域おこし協力隊として、町役場企画環境課SDGs担当として活動するとともに、地域の活性化のために取り組みを進める。2021年度からは北海道より委嘱され「北海道地球温暖化防止活動推進員」としても活動中。

introduction

ウインタースポーツの聖地として国内外に知られる北海道ニセコ町。人口は5000人ほどでありながら雄大な自然に囲まれた町で、多くの人が観光に訪れます。

2018年にSDGs未来都市に選定された本町は、環境に配慮したまちづくりを進めている環境モデル都市としても注目を集めています。子育て世代も含めた国内外の移住者が増えているニセコ町では、SDGsの達成にむけてどのような取り組みをしているのでしょうか。ニセコ町役場企画環境課でSDGsを推進している、地域おこし協力隊の寺地さんにお話を伺いました。

SDGsと親和性の高い「相互扶助」の精神が根付く町・ニセコ

–まず、ニセコ町がSDGsに取り組むことになったきっかけを教えてください。

寺地さん:

我々がこれまで行なってきた取り組みと、まちに根付いている考え方がSDGsと親和性が高かったことが関係しています。

ニセコ町では以前から、「住民参加・情報共有による自治の実践」や「環境モデル都市※の取り組み」、「独自の開発ルールづくり」といった、まちづくりを進めてきました。

これらは、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」目標11「住み続けられるまちづくりを」などに深く関係しています。

環境モデル都市とは

低炭素社会の実現に向け、温室効果ガス削減などに積極的に取り組む都市を「環境モデル都市」として政府が選定している。ニセコ町は2014年に選定された。

–もともとの取り組みが既にSDGsの理念に沿っていたんですね。そして、ニセコ町は特に環境に力を入れているイメージがあります。

寺地さん:

そうですね。

町の二大産業は農業と観光業です。豊かな環境、きれいな景観があるからこそお客様が来てくださるし、おいしい野菜が育ち、販売することができます。豊かな自然は、町の基盤なんです。環境を大事にすることで農業も観光業も成長して経済が発展し、町のみなさんが社会的にも豊かに暮らせるようになります。これはまさに、SDGsの目指す環境・社会・経済の3つの側面のバランスがとれた社会ですよね。

–では、まちに根付いている考え方とはどのようなものでしょう?

寺地さん:

ニセコ町で大切にされている「相互扶助」の精神です。

ニセコ町にゆかりのある白樺派の文豪・有島武郎が、自身の所有する農場を小作人に無償解放したという歴史があります。その際に有島は「相互扶助」の精神で営農してほしいと伝え、その精神がニセコには今も根付いているとされています。

–お互いに助け合う相互扶助の精神は、SDGsの目指す「誰一人取り残さない」という理念と近いものがありますね。

 

白樺派の文豪・有島武郎氏 提供:ニセコ町役場

寺地さん:

はい。こうした考え方と、以前から取り組んできた環境に配慮したまちづくりが、SDGsの考え方に近いということで、ニセコ町がSDGsに取り組むきっかけとなりました。

ニセコ町SDGs街区をつくり、地域の課題を解決する

–それらの取り組みによりニセコ町は、2018年にSDGs未来都市に選定されたんですね。では、具体的にどのように取り組みを進めていますか。

寺地さん:

NISEKO生活・モデル地区構築事業(通称SDGs街区)を展開しています。その実施主体として株式会社ニセコまちが官民出資のもと設立され、事業が進んでいます。

具体的には、高気密・高断熱で長く住める高性能住宅で構成された街区を形成する事業です。町内の二酸化炭素排出の7割は建物由来であることが分かっています。二酸化炭素の排出量削減には、暖かい空気が外に逃げない省エネな住宅を増やしていく必要があると考えました。

 

SDGs街区のイメージ 提供:株式会社ニセコまち
出典:ニセコ町環境モデル都市パンフレットより一部抜粋

また、ニセコ町は国内外からの移住者が多く、全国的にも珍しい人口が増加している地域であるため、近年では住宅不足の課題を抱えるようになりました。

これによりニセコ町に住みたいけれど住めないという方も増えており、そうした人口増加圧力への対応策としても、計画を進めています。

–二酸化炭素排出と人口増にともなう問題を合わせて解決していくんですね。

寺地さん:

そうですね。さらにはSDGs街区では、新しい発電方法の導入も予定しています。

現在、町内では自然エネルギーの導入推進や二酸化炭素の排出量が少ない発電方法への切り替えを進めています。火力発電はどうしても二酸化炭素が多く排出されますし、遠方からの送電によりロスも発生しますし、発電所から生じる熱エネルギーは、利用されずに廃熱となってしまう部分が多いです。そして、支払った電気代の多くは燃料費として他国に流れてしまいます。

そこで、町では地域でエネルギーや経済が循環する仕組みをつくりたいと考えています。

–具体的にはどのようなエネルギーを活用する予定でしょうか。

寺地さん:

ニセコは、特別豪雪地帯で1年の半分ほどが雪で覆われているため、太陽光発電は効率があまり良くなかったり管理が難しかったりします。そのため現在は、LPガスを使ったコージェネレーションでの発電を検討しています。

コージェネレーションとは

LPガス(プロパンガス)のコー・ジェネレーション(熱電供給)システムは、LPガス(プロパンガス)を使って発電し、さらに、その排熱をお湯や暖房などにも利用しようと考えられた省エネルギー効果の高いシステムです。発電所の電力の場合はエネルギーのわずか35%しか利用できていませんが、コー・ジェネレーションシステムでは、80%以上のエネルギー効率が実現できます。

引用:北海道LPガス協会

住民参加の情報共有を柱に、町民とともに進めるまちづくり

–とても先進的ですね。このような取り組みを進めるには、地域住民の方の理解も不可欠だと思います。情報共有はどのように行っているのでしょうか。

寺地さん:

町民への情報の共有は密に行っています。これは、まちづくりは町民が主体になって取り組むべきだという考えから、2000年に日本で初めて制定された「ニセコ町まちづくり基本条例」に基づいています。

具体的には、広報誌やコミュニティFMでの発信のほか、「もっと知りたいことしの仕事」(ニセコ町予算説明書)という中学生でも分かるような資料を毎年度作成・全世帯に配布し、住民への情報共有をしています。

他にも「まちづくり町民講座」を不定期開催しており、役場の職員が直接取り組みを説明し、意見をいただく機会、また有識者を招いて先進的な取り組みを学ぶ機会などを設けているんです。

–積極的にコミュニケーションを取られているんですね。

寺地さん:

そうですね。加えて、毎年一回町長らが各地区などを訪問し、フランクに意見交換する「まちづくり懇談会」も開催しています。

住民参加と情報共有は町のまちづくりの重要な柱です。いろいろな方法でSDGs事業についてもお伝えし、いただいた意見を町政に反映させています。

まちづくり懇談会の様子 提供:ニセコ町役場

町民によるまちづくりを、ニセコ町外にも広めていきたい

–ニセコ町の今後の展望を教えてください。

寺地さん:

2030年に二酸化炭素の排出量を44%削減(2015年比)し、2050年には排出実質ゼロ(ゼロカーボン)を目標にしています。条例をつくったり、高気密・高断熱の基準を満たした住宅の省エネ改修に補助金を出したりと、町民の方と協力しながら長く住み続けられる町を目指します。

修学旅行生にニセコ町の取り組みを説明 提供:寺地さん

まちづくりの中心にSDGsを置いている訳ではないのですが、町の方の意見を取り入れながら、最終的にSDGsの目標達成にもつながるよう推進していきたいと考えています。

またSDGs未来都市として、SDGsの概念を取り入れながらまちをつくっていく様子を発信していくので、町内外の方々に関心をもっていただければと思っています。

ニセコ町自体は小さく、どれだけ熱心にSDGsに取り組んでも町民だけでは限界があります。修学旅行等で学生さんも多く訪れる土地ですので、現在行っているまちづくりとSDGsの関連性についてもお伝えする機会を増やしていきたいと考えています。ニセコ町に来ることが、SDGsについて考えるきっかけにもなればうれしいです。

–ニセコ町の先進的な取り組みを、観光で来た方が各地に持ち帰ってくださるといいですよね。

寺地さん:

SDGsにつながる事例を知っていただくことが、SDGs未来都市に選んでいただいた理由であり役割だと思っています。今後も、みなさんと一緒に持続可能な社会と、より良い地球環境をつくっていきたいですね。

–ニセコ町の取り組みに、今後も注目しております。本日はありがとうございました!

取材 大越 / 執筆 荒川

ニセコ町関連リンク

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