田邉 めぐみ
東京都出身。日本女子大学文学部卒業後、株式会社アペックスに入社。営業企画、販売企画の業務を経て、環境部へ。J.C.Q.A認定コーヒーインストラクター2級。コーヒーのない生活は考えられない。環境負荷の観点から“カップ式自動販売機で飲む一杯の飲み物”が優れていることを広く認知してもらうための活動や、コーヒー生産地に寄り添う活動に取り組んでいる。また、自社の取り組み内容をまとめる「サスティナビリティレポート」作成のうち、取り組みのコンセプトや思いを表紙に具現化することに腐心している。紙容器メーカーや製紙会社に長年働きかけ、2013年当時、自動販売機オペレーター業界初の取り組みとして“間伐材を含む国産材100%”にこだわり、間伐材紙カップの使用を実現させることができた。 “環境”や“SDGs”を上っ面で考えない、を肝に銘じている。休日はもっぱらカメラと過ごし、日常をどう切り取るかに苦楽を味わっている。
目次
introduction
1963年の創業以来、カップ式自動販売機オペレーターの先駆者として、サービスエリアやオフィスなど、あらゆる場所で飲料を提供してきた株式会社アペックス。今回は、株式会社アペックス環境部の田邉さんに事業内容や、SDGsへの取り組み、今後の展望などを伺いました。
「最高の一杯、最高のひととき」をすべての方に
-はじめに事業内容を教えてください。
田邉さん:
弊社では、カップ式自動販売機の飲料開発から設置、運営管理までをトータルに手がけており、その他にもペットボトル、紙パック飲料自動販売機、カフェサーバー、とろみ自動調理機/サーバーなども取り扱っております。
自動販売機は、オフィスや工場、駅中や高速道路のサービスエリア、病院、学校などに設置していただいております。
-先ほどの「とろみ自動調理機/サーバー」というのは初めて聞きました。どういった製品でしょうか?
田邉さん:
嚥下障がいを持った方向けに、とろみのついたコーヒーやお茶をご提供できる機械のことです。施設等のロビーに設置いただける自動販売機タイプと、医療機関や介護施設で導入いただけるサーバーシリーズをラインナップしています。
-”とろみ”があることで、どういった効果があるのですか?
田邉さん:
嚥下機能が低下した方にとっては、サラサラとした飲み物は誤嚥のもとになりやすく非常に危険です。とろみをつけることで、ゆっくりと飲み込んでいくことができます。
自動販売機タイプは、世界初となる「とろみボタン」を搭載しており、薄い/中間/濃いの3つの中からとろみの加減を選ぶことができます。
-自分の分だけ好みに合わせてとろみをつけられるのはありがたいですね。サーバータイプはどういった製品ですか?
田邉さん:
医療機関や介護施設で働くスタッフの調理の負担を軽減する製品です。
飲み込む力が弱くなってしまった方には、その人にあった適切な粘度の付いた飲料を提供することが推奨されています。
これまで、人の手で調理すると、調理時間が長くなってしまったり、その日によってとろみの具合が変わってしまうという課題がありました。
そこで、この「とろみサーバー」を導入いただくと、約2分で最大20杯分の安定した粘度のとろみ付き飲料がつくれます。調理時間も大幅に短縮できるので、時間と人材の有効活用にもつながります。
-嚥下機能が低下した方と調理をする方、どちらにとっても素晴らしいサービスですね。
田邉さん:
そうですね。ありがたいことに病院を中心として、導入実績も増えてきています。
これからというタイミングでコロナが蔓延し、病院への立ち入りができなくなってしまいましたが、私たちのブランドの約束である「最高の一杯、最高のひととき」を実現できるよう、営業活動を加速させてまいります。
生産地・生産者への支援で、伝統的なフォレストコーヒーを守る
-今のお話はまさにSDGsの考え方ですね。御社はSDGsが採択される前から環境に配慮した取り組みを行っているそうですね。
田邉さん:
はい。我々が扱っているコーヒーや原料となる水、それを入れる紙カップなどは森林資源のたまものです。ですので、我々の事業は「自然との共生」があってこそだと考えています。
そのため2013年から、まずは間伐材(※)を含む国産材100%にこだわった紙カップの使用を始めました。
これは、森林の手入れが進み、日本の健全な森林育成と林業の成長産業化の実現に貢献できると考えたからです。また、二酸化炭素の吸収源としても森林保全は欠かせません。
田邉さん:
また2019年には、コーヒーを通して南北問題にアプローチしたいという考えからコーヒーの生産地・生産者支援をスタートしました。
それまでも有機栽培や認証マークのついたコーヒー豆を購入することで、間接的に生産地、生産者を支援してきましたが、NPO法人マザーツリープロジェクトと手を組み、より直接的な支援に踏み切りました。
-NPO法人マザーツリープロジェクトとは、どのような支援を行っているのでしょうか?
田邉さん:
エチオピアの南西部にあるカファ(kaffa)地方のコーヒー栽培に従事する集落の支援です。ここはコーヒー発祥の地とも言われています。
この地域の小規模農家は、自生しているコーヒーの木から実を収穫する伝統的な「フォレストコーヒー」を売ることが大きな収入源となっていますが、収穫後の実の乾燥工程における知識や機材不足により品質が上がらず、貧しい生活を送っている状況でした。
そこで、ネットを寄贈し乾燥方法を改善したり、できるだけ完熟豆のみを乾燥させることを徹底させるような指導を行いました。
-支援してからどのような変化がありましたか?
田邉さん:
エチオピアコーヒー豆にはG1からG8までのグレードがあり、G4以上が輸出が許されるレベルになります。支援後は、大半の豆がG2レベル、そして少量ながらも最上級レベルG1のものまで生産できるようになりました。
グレードの高いコーヒー豆は高値で取引されるので、おのずと彼らの収入も上がります。
このように、コーヒー豆のグレードをあげられるような支援や継続的な購入を続けることで、コーヒー生産者の生活改善につながればと思っています。
コーヒー2050年問題や生物多様性の保護にも貢献していきたい
-フォレストコーヒーの伝統や質を守りながら、現地の人々の収入が上がるのは素晴らしいことですね。フォレストコーヒーを守ることはほかにもメリットがあるそうですね。
田邉さん:
そうなんです。現在、温暖化の影響から2050年にはアラビカ種のコーヒーの収穫量が今と比較して半減するだろうと言われています。これはコーヒー2050年問題と言われていますが、エチオピアのフォレストコーヒーは品種が混在しており、病虫害が発生しても全滅する可能性が低い強い品種です。そのため、フォレストコーヒーを守るということは、コーヒーそのものを守ることにつながると考えています。
また近年のエチオピアの発展に伴い、環境も変化しています。エチオピアは生物多様性の宝庫ですので、フォレストコーヒーを守ることが生産者や土地だけでなく、そこに住む動植物を守ることにもつながると考えます。
-2050年問題について現地の方は危機感を持っているのでしょうか?
田邉さん:
一番危機感を持っているのは、コーヒーを消費している我々の方かもしれません。
実際にコーヒーを栽培している現地の人は、より自分たちの生活が豊かになるように現金を得たいと考えるようになっていますので、「コーヒー守りたい」というよりも「コーヒーがうまく育たなければ別の農作物をやろう」という気持ちの方が大きいかもしれません。
“SDGs目線”で、取り組みを強化していきたい
-最後に、今後の展望について教えてください。
田邉さん:
活動を始めた当初は、我々の活動がSDGsのどの目標に関連するかという形で情報を整理していました。でもそういった紐づけではなく、SDGsを達成するために何ができるかという目線での取り組みを強化していくべきだと今は考えています。
SDGsの丸いカラーホイールのように、17個の目標は全て連鎖していると考えています。NPO法人と協力しながら、SDGsの1つでも多くの目標達成に貢献できるよう、中長期的に見据えて取り組んでいきたいと考えています。
我々のできることは限られているかもしれませんが、それでも行動し続けることが重要だと思います。
-行動すれば、必ずそこから何かが広がっていきますよね。
田邉さん:
そうですね。私達の取り組みをより多くの消費者の方に知っていただくことも大切だと思います。支援の輪が広がり、やがて大きな力が生まれると信じているからです。そのためにも、このようなインタビューを積極的に受けたり、年次レポートの発行、ホームページでSDGsの取り組みを紹介するなど、多くの方にメッセージを伝えていく活動もしていきたいです。
私たちはあくまでも事業者であり、SDGsは我々の事業を持続可能なものにするための手段でもある、という意識を忘れずに取り組みを加速させていきたいです。
-本日はありがとうございました。