水井 裕
2002年に途上国の環境問題を学ぶためフィリピン・ベンケット州立大学へ環境留学。途上国の環境問題を学ぶと共にそれ以上に深刻なフィリピンの貧困問題に関心を持つ。2004年に株式会社ココウェルを設立。
2005年、美容用、食用オイルとしてココナッツオイルを野外イベントやインターネット通販などで販売開始。2010年、ココナッツ農家支援基金「WITH COCO FARMERプロジェクト」開始。2014年、2013年11月にフィリピンを襲った大型台風の支援から現地の就労支援として「COCO WOODプロジェクト」を開始。10周年記念イベント「ココフェス!」を開催。2016年、大阪市西区に「ココウェルカフェ」、東京で直営店舗「ココウェル自由が丘店」をオープン。2018年、第一回世界ココナッツ会議(フィリピン)に参加。2021年、創業から何度かの移転を行い大阪市浪速区に本社を移転。今夏、全国にココウェルカフェのメニューを届ける「ココウェルラボ」と量り売りなどを行う店舗「サリサリショップ」をオープン予定。
目次
introduction
フィリピン産のココナッツを専門に扱うココウェル。ココナッツを通して、人々の健康をサポートするだけでなく、フィリピンの貧困問題の解決へ向けた活動をしています。今回はココウェル代表の水井さんに、貧困問題の取り組みやココナッツの魅力についてお話を伺いました。
フィリピンのゴミ山で貧困問題を目の当たりに
-今日はよろしくお願いします!はじめにココウェルについて教えてください。
水井さん:
2014年、ココナッツ専門店としてココウェルを創業しました。フィリピンからココナッツを輸入し、原料を食品メーカーや飲食業界の方たちに届ける卸売りや、ココナッツオイル、ココナッツシュガーなどの加工製品を日本で販売しております。大阪では、フィリピン産ココナッツを使ったヘルシー料理を提供する「ココウェルカフェ」も運営しています。
-会社を創業したきっかけについてお聞かせください。
水井さん:
きっかけは、フィリピン留学中に現地の人々の暮らしぶりを目の当たりにしたことです。大学在学中に途上国の環境問題に興味を持ち、卒業後にフィリピンへ渡り環境化学について学んでいたんです。
その授業の一環で、スモーキーマウンテンと呼ばれるゴミ山を見学しに行きました。そこではゴミが積もり積もって本当に山のようになっていて、痛くて目を開けていられないほど、あちこちで煙が上がっていました。
-それは衝撃的な光景ですね。
水井さん:
本当にそうですよね。ですが、私が一番驚いたのは、ゴミの量よりも、劣悪な環境下でゴミ拾いをしている子どもたちの姿でした。
ゴミを拾っていた人々は、ほとんどが地方の農村部から来ていました。地元では仕事が少ないことから、都会に出て働こうとするのですが、そう簡単に職につけないのが現実で。生活が苦しい中で少しでも収入を得るために、最終的にゴミ山に辿り着き、拾った鉄くずやプラスチックをお金に変えてなんとか生活していたんです。
-子どもたちまで一緒にゴミを拾わないと生活できないくらい、困っていたんですね。
水井さん:
ゴミ拾いをする人々を見て、環境問題だけではなく貧困についても解決しなければと強く感じました。そして、ゴミ拾いをしないと生活できない人を減らすには、元々いた農村で魅力的な仕事があれば良いのではないかと考えるようになりました。
-確かに、農村に仕事がないから都会に出てきていたんですもんね。
水井さん:
はい。実際に農村へ行ってみると、あちこちにココナッツが生えていることに気付きました。なぜこんなに豊富にココナッツがあるのに仕事がないんだろう、と思い調べてみると、本来ならば高い価値のあるココナッツが、植民地時代の名残でかなり安く買い叩かれている事実を知りました。
水井さん:
さらに、現地の農家さんたちはココナッツオイルやココナッツシュガーといった加工製品の作り方を知らなかったので、原材料として売る以外に収入を得る方法がなかったのです。農村の人々にココナッツの価値をきちんと再認識していただき、産業として軌道に乗せることができれば、農村に活気が戻ると考えました。そうして生まれたのがココウェルなのです。
環境にも健康にも優しいココナッツの魅力
-ココナッツの特徴について詳しく教えてください。
水井さん:
ココナッツはココヤシという植物の種子で、ココナッツミルクやMCTオイルなどの原料としてご存知の方も多いかと思います。
-MCTオイル、聞いたことあります!最近ダイエットなどで注目されていますよね。
水井さん:
そうですね。糖質にかわるエネルギー源である「ケトン体」に変換される中鎖脂肪酸が多く含まれ、他の油類に比べて消化吸収スピードが4倍、代謝スピードが10倍早いので消化の負担が少ないのも特長です。
水井さん:
さらに、熟す前の果実にはココナッツウォーターがたっぷり含まれていますし、花の蜜はシロップやシュガーに、葉っぱは屋根材に、実の外側の硬い殻は食器やアクセサリーになるなど、全て捨てるところなく活用できるのも魅力ですね。太古から「生命の木」と呼ばれるほど、人々の生活にとってなくてはならない存在なんですよ。
-それはすごいですね。育てるのは難しいのでしょうか。
水井さん:
日照時間が長く、気温が高い地域であればそれほど難しくはありません。
むしろ、昨今の環境問題をクリアできる利点が多いんですよ。
-例えばどのような問題でしょうか?
水井さん:
農薬や化学肥料による自然破壊や、人体への影響が挙げられますね。多くの発展途上国では、農薬散布により土壌や水質が汚染されたり、川に流れてきた農薬を生活用水として使い、健康を害したりしています。ココナッツは農薬を使わずに育てることができるので、その点で環境に優しいと言えます。
また、地中のミネラルや塩分を養分として活用できる植物なので、地球温暖化により海水面が上がっても、塩害の影響を受けにくいんです。沿岸部では貴重な食料源にもなっています。
-確かに、海辺にたくさん生えているイメージがありますね!
水井さん:
そうですね。ココヤシの木は、背が高くて適度な日陰を作ってくれますし、根っこが幹の近くに集中していて横に広がらないので他の植物を邪魔しません。そのため、ココヤシの下でバナナやコーヒー、カボチャなど様々な植物の栽培ができ、牛や山羊といった畜産も平行することができるんですよ。
-土地を有効活用できるのですね!ココヤシ、やりますね。
ココナッツ製品を通してフィリピンの貧困問題を解決
-ココウェルでは、どんな商品が人気ですか?
水井さん:
プレミアムココナッツオイルがとても人気ですね。
香りがなく酸化に強いため、炒め物や揚げ物などに使いやすい点が好評で、年間で12万個ほどご購入いただいています。
水井さん:
あとは、最近新しく出た商品のココナッツミルクキャラメルもおすすめですね。ココナッツシュガーとココナッツミルクのみを原料とし、100%有機ココナッツ由来にこだわって作っています。
-これらの商品で使っているのは、すべてフィリピン産のココナッツなのですか?
水井さん:
はい、そうですね。フィリピンから適正な価格で購入し、化学製品を使わない精製方法で商品化したうえで販売をしています。安定した取引を行うことで農家の方々の生活をサポートし、新しいココナッツの苗への植え替えを支援するなど、安定供給と持続可能なココナッツ産業の発展を目指しています。
-安定的な取引を目指すなかで、大変だったことはありますか。
水井さん:
日本とフィリピンの、商品に対する意識のギャップを埋める点には注意しています。
例えば現地ではスーパーに並んでいるココナッツオイルにおいて、容器から中身が漏れていても許容範囲内ですが、日本ではもちろん通用しませんよね。
-そういった意識の違いは、どのようにして埋めているのですか。
水井さん:
コミュニケーションが一番大切かな、と思います。現在はコロナ禍で難しいのですが、以前は2〜3か月に一度は現地に足を運び、ココナッツ農家の方々と直接コミュニケーションを取っていました。こうした18年間の積み重ねがあるからこそ、対等な立場で良い商品を届けるための協力体制ができているのだと思います。
-ココナッツ農家の方へは、どのような支援をなさっていますか。
水井さん:
「COCO FUND PROJECT(ココファンドプロジェクト)」として、商品1点につき10円を基金として寄付し、ココナッツ農家の支援に活用したり、コロナ禍で大きなダメージを受けている子どもたちの教育援助にも充てる予定です。
-支援の詳細についても、ぜひ教えてください。
水井さん:
フィリピンは台風が多い地域なので、台風被害からの復興や、新しい苗・肥料となる塩の購入が多いですね。ココナッツ農家への就労支援として、フィリピンのココナッツ庁と協力して収入改善支援も行う予定です。
また、不登校経験、経済的困窮、発達障害など特殊な事情で生きづらさを抱えた日本の高校生たちに、海外渡航という挑戦の場も提供しています。コロナ前には、フィリピンでのスタディツアーを実施し、9名の高校生がフィリピンに渡ったんですよ。
-実際にフィリピンではどのようなことを経験するのでしょうか。
水井さん:
スラムに行ったり、同年代の学生たちと触れ合ったり、ホームステイしたり。フィリピンという街の、ありのままの姿に触れることを目的としています。
フィリピンの貧困地域で暮らしている子どもたちは、夢を持っていても叶えるのがとても難しい状況にあります。そのような厳しい状況にも負けず、強く前向きに生きている彼らの姿に、高校生たちもいい刺激をもらって日本に帰国していました。
-フィリピンの貧困問題について深く知ることで、自分自身を見つめ直すきっかけになったのですね。素晴らしいです。
ココナッツで世の中に良い循環を生み出したい
-では最後に、今後の展望についてお聞かせください。
水井さん:
今後も、ココナッツの魅力やフィリピンの貧困問題について、より幅広い方に知っていただくための活動を続けていきたいなと思っています。
ココナッツは使えば使うほど健康になり、購入した人が健康になればなるほど、現地の人たちの生活を活性化することに繋がります。この好循環を生み出すことで、購入者、労働者ともにメリットを得られる世の中を作りたいですね。
-確かに、私もココナッツについてすごく知っているかと言われたら、あまり自信がありません(笑)。
水井さん:
2014年頃に一度、ダイエット効果が取り上げられてブームにはなりましたが、まだまだ健康意識の高い方向け、という印象がありますよね。
当社のWebサイトでも、「ココウェル通信」として、ココナッツ製品の魅力や活用法、フィリピンの貧困問題や災害などについて、わかりやすく発信しているのでぜひご覧になってみてくださいね。
-拝見させていただきます!他にも新たな取り組み予定はありますか。
水井さん:
料理が苦手な方でもココナッツの健康効果を取り入れていただくために、手軽に食べられる商品を作りたいなと考えています。具体的には、ココウェルカフェで評判だったレシピを利用して、ココナッツカレーやアイスクリームなどをお届けしたいなと思っています。本社の一階に製造設備を作ろうと準備しているところなんですよ。
-完成したらぜひ食べてみたいです!今後がとても楽しみですね。本日は貴重なお話をありがとうございます。
本日は貴重なお話をありがとうございます。
>>ココウェル通信