#インタビュー

株式会社アクポニ|魚と植物を一緒に育てる新しい循環型農業「アクアポニックス」で地球と人をハッピーに

株式会社アクポニ 孫田さん インタビュー

孫田 賢佑

1984年10月12日、山形県山形市生まれ。アクアポニックスをyoutubeで知ったことから興味を持ち、2021年2月に株式会社アクポニに入社。現在は教育部として、アクアポニックス無料説明会、農場見学会(どちらも毎週水曜・土曜開催)の担当を務めている。また、2023年から法人向け研修として、アクアポニックスを教材とした「循環型ビジネス研修」を実施。アクアポニックスを体系的に学べるアクアポニックス・アカデミーでは、講師として生産管理の方法はもちろん、事業化への検討に必要な情報の提供や、新規就農希望者向けの実習付きコースの運営まで行っている。自宅でも3台の自作キットで、子供とアクアポニックスを楽しんでいる。

introduction:

「アクアポニックス」とは、魚の淡水養殖と野菜の水耕栽培を掛け合わせた次世代型循環農業です。微生物の働きによって魚の排泄物を分解し、それを野菜の肥料成分として水耕栽培を行う仕組みです。アクポニは、日本初のアクアポニックス専門企業として、システムの設備販売、生産管理コンサルティング、教育・フォローアップ事業を担ってきました。

今回は、同社教育部の孫田賢佑さんに、SDGs的視点も含めたアクアポニックスの利点や今後の可能性などを伺いました。

農薬に頼らず、生態系の循環の仕組みを使って野菜を育てる

–まずは、御社の業務概要をご紹介ください。

孫田さん:

シンプルにいえば、「アクアポニックスを日本に広めていく活動」をしている会社です。

「アクアポニックスで地球と人をハッピーに」をビジョンに掲げ、まずは日本でアクアポニックスの認知を広め、国内どこに行っても色々な方が体験できたり、そこで生産された野菜や魚を手にしたりすることができる状態を目指して、日々業務に取り組んでいます。

主な事業は、アクアポニックスを新規事業として検討されている方に、農園を導入し、その生産管理をリモートで支援しています。弊社ECサイトでは、農園の資機材だけでなく、趣味やベランダ菜園などの個人向けキットも展開しています。

日本で初のアクアポニックスを学べる学校「アクアポニックス・アカデミー」も運営しています。特に、2013年から始まった「就農準備コース」では、藤沢市に試験圃場「湘南アクポニ農場」とアクポニハウスのショールーム「ふじさわアクポニビレッジ」を構えているため、受講者はそちらで生産実習もできるようになりました。

アクアポニックスの歴史やシステムの原理を教えてください。

孫田さん:

アクアポニックスという言葉は、「水産養殖(Aquaculture)」のアクアと「水耕栽培(Hydroponics)」のポニックスを合わせた造語です。その農業の原型は、古くから世界のいろいろな地域で見られました。商業用システムにおけるアクアポニックスは、アメリカのバージン諸島が発祥と言われています。島嶼部は淡水の資源が乏しく、農業をする土地も少ないんです。土地自体もやせていますし。バージン諸島も例外ではなく、農業そのものが難しい地域でした。そのため、より少ない資源で魚も野菜も育てられる技術が発展したとされています。

現在、市場規模が一番大きいのがアメリカで、30年ほど前からすでにアクアポニックスの市場が出来上がっていました。海外、特に欧米では、アクアポニックス野菜といえば「安全な野菜」と認知されており、オーガニックスーパーなどでも販売されています。

(アメリカ・ケンタッキー州の大規模農場)

ただ、日本ではまだまだ知られてないと思います。弊社は2014年設立ですが、当時はアクアポニックス専門企業はほとんど無かったと思います。現在は多くの企業が導入しており、弊社も過去2年間で全国に40農園の開園を支援しています。

続いて原理についてお話ししますが、とてもシンプルです。水槽の水は、魚の糞から発生するアンモニアを含んでいます。これを微生物が窒素へ分解します。窒素は植物の肥料になり、植物はこれを吸収して育ちます。窒素が除去された水は、再び水槽に送られます。このようにして、農業と魚の養殖が同時に成立する循環システムになっています。

この、フィルターから野菜ベッドまでの働きは、下水処理場の機能とほぼ同じです。下水処理の場合は、窒素を除去するために微生物を使いますが、アクアポニックスでは、野菜によって窒素が吸収(除去)されます。

アクアポニックスは、農薬や化学肥料を使用することなく、生態系の循環を利用して、より効率的に食料を生産するシステムです。

–アクアポニックスについてよくわかりました。では、代表の濱田さんが、日本でアクアポニックスを広めようとしたきっかけは何だったのでしょうか。

孫田さん:

濱田はもともとは外資系の企業に勤めていました。当時から魚好きではありましたが、農業・漁業に携わっていたわけではないんです。ある日、海外に住んでいた友人から、魚を飼育している水を畑にまくと野菜の育ちが非常に良い、という話を聞いたそうです。どんな原理なんだろう?と調べるうちにアクアポニックスというものがあると知り、自宅のベランダに小さなキットを自作しました。この時、資源を有効に循環させて食料を生産するシステムを初めて体験したわけです。これを日本にも広めたいと一念発起して会社を辞め、アクポニを立ち上げました。

その後さらにアクアポニックスを本格的に学ぶようになり、海外の様々な農場を二年ほど回って研修を積んだのち、2021年に神奈川県藤沢市に「湘南アクポニ農場」を立ち上げました。私は、その農場を見学して感銘を受け、一緒に広めていきたいと思って入社しました。

利用用途や規模に合わせて様々なシステム構築が可能

–続いては、「ビジネスとしてアクアポニックスを採用したい顧客」に対して、御社の技術や生産管理がどのように活用されているのかを、扱える野菜や魚の種類、販路なども含めて教えてください。

孫田さん:

扱える野菜の種類は、どのような野菜ベッドのデザインにするかで異なります。一般的な水耕栽培では、レタス、ハーブなど、背が低くて倒れない葉物野菜が基本となります。ハイドロボール(微細な穴がたくさんあいた石)を用いた培地※栽培であれば植物が根を張れるため、様々な品種を育てることができます。魚の養殖事業では、イズミダイ・チョウザメ・ホンモロコ、ニジマスなどを中心とする淡水魚が対象となります。

※培地

土の代わりに用いるもの

事業者向けのシステムは、用途、ご予算に合わせてパッケージ化したアクポニ農園プランからお選びいただけます。いくつか事例を紹介しますね。

小規模なものでは、障がい者の就労支援用に導入したシステムがあります。

他の小規模なシステムでは、カフェの屋内に設置したケースもあります。野菜の下を泳ぐ魚を見ながら、その場で収穫した作物を使った料理も楽しめるというわけです。

中規模のアクアポニックス農場としては、屋外のビニールハウスの中に発泡スチロールのラフトと呼ばれるものを浮かべるタイプがあります。

空間を有効活用することで、従来の平段と比較して7倍の栽培面積を確保できる「縦型の水耕栽培装置」を導入した農場もあります。国内最大級のアクアポニックス農園では、月産二万株ほどの野菜栽培が可能です。

大規模農園でもフィルターの掃除はいたって簡単です。一週間に1~2回くらいの頻度で大丈夫ですし、バルブ操作だけで短時間で洗浄できます。土耕においては、除草、農薬散布、土を耕すなどが必要ですが、その労役も皆無ですので、労働効率はきわめてよいですね。

–家庭用ではどのようなシステムを導入する必要があるのでしょうか?

孫田さん:

ハイドロボールを敷き詰めるだけの手軽な仕組みでアクアポニックスを導入いただけます。葉野菜だけでなく、ハーブや観葉植物も育てられますし、金魚やメダカなど観賞用の魚も楽しめます。

最近はデザイン性の高い新製品もあり、緑と魚の癒しあるインテリアとして人気です。完全オーガニックの新鮮な野菜をすぐに食べられることも好評ですね。

–アクアポニックスに挑戦してみたい法人や個人には、どのような教育・フォローアップシステムを実施しているのでしょうか?

孫田さん:

冒頭でお話しした「アクアポニックスアカデミー」では、新規事業立ち上げを目指す法人向けに2日間で網羅的にアクアポニックスを学べる事業化検討コース、新規就農や週末農業などアクアポニックス生産者を目指す方向けの就農準備コースをご用意しております。また、循環型ビジネスのワークショップ(法人向け)など、多彩なプログラムを用意しています。

最近は、個人のお客様のニーズも高まっています。趣味でアクアポニックスを楽しんでいるうちに、もう少し規模を大きくして個人で週末農業をやってみたい、という方々が増えているんです。

そのような方向けに、2023年春からスタートした就農準備コースですが、その座学では生産管理・システム設計のノウハウ、ブランディングなど個人で発信していく方法などを学んでいただき、実習は弊社の農場で行います。3か月12回の授業ですが、我々が思った以上のスピードで皆さん実践に移されて驚いています。この春の受講のあと、千葉での認定農業者をアクアポニックスで取られた方がいて、おそらく日本初の事例となると思います。

SDGsの様々な課題への貢献と今後への大きな可能性

–続いては、アクアポニックスとSDGsの関係について教えてください。

孫田さん:

アクアポニックスは、SDGsの課題におおいに貢献できます。詳細は、弊社HPの「アクアポニックスとSDGs」という項目に網羅してありますが、17のゴールのうち11ゴールに貢献できます。

環境負荷を軽減する面からは、農薬・化学肥料をいっさい使わないため、化石燃料から農薬類を作る際の温室効果ガスを削減できます。肥料についても、通常は蓄糞などを堆肥センターのような所に運搬し、半年くらいかけて堆肥化してまた輸送します。そのコストや往復輸送の排ガスも、アクアポニックスでは不要です。

通常の農業は大規模になるほど環境負荷をかけざるをえなくなりますが、アクアポニックスは、大規模になってもさらに環境負荷を下げながら資源効率よく運営していくことができます。土壌汚染の心配もありませんし、最小限の水を循環させるため、水資源も有効に活用できます。

もう一点が、障がい者福祉への貢献です。これまでの農業と比べると、非常に肉体的負担が少ないため、障がいのある方や高齢の方にも非常に取り組みやすいんです。

また、過疎地などの「地域起こし」分野での貢献も大きいですね。休耕地や未利用地、廃校などの利活用や雇用創出などを目的として、自治体さんからの問い合わせが増えています。実際に現在、青森県の藤崎町と連携したプロジェクトを進めています。

子どもたちへの教育という面でも、「生態系を活用した野菜や魚の生産」という食育や、環境面での学習にも大きな貢献ができる分野です。弊社は2022年から一年間、東京の実践女子学園さんでアクアポニックスの実践授業のお手伝いもいたしました。今後も、弊社の農園も含め、日本でアクアポニックス農場が広まるにつれて、教育現場でも様々な使い方の可能性が増えていくと思います。

–視点を地球規模に移すと、水資源や肥沃な土地に乏しかったり、食料や収入が圧倒的に不足したりしている地域がとても多い状態です。アクアポニックスが地球全体の食料危機を救う可能性はどれくらいあるのでしょうか?

孫田さん:

地域資源が乏しい中東やアフリカなどにとって、アクアポニックスはきわめて有効な生産技術だと思います。アクアポニックスであれば、土地がやせているかいないか、塩分を含んでいるかいないか、豊富な水資源があるかないか、などの資源状況に関係なく野菜栽培や魚養殖ができますから、果たせる役割も可能性も大きいですね。

もっと大きな話だと、宇宙でも農業ができる可能性があります。

宇宙船や宇宙ステーション内で野菜を育てるという話が現実的に出てきていますので、「地面がなくてもその場で肥料を生成して野菜を育てる」というアクアポニックスの技術やノウハウが活かせるのではないか、と期待しています。

–将来への展望をお聞かせください。

孫田さん:

最終的には世界での貢献を目指しますが、まずは日本の中でアクアポニックスを広げることが弊社の大きな目標です。2025年の大阪万博で、アクアポニックスがメインモニュメントの一つになることが決まっていますので、そこでもアクアポニックスへの認知が急速に広まると考えています。その時に、日本のどこでもアクアポニックスの野菜が食べられたり、システムに触れることができたりするという状態を早い段階で作っていきたいと思っています。

その生産管理と高い品質のノウハウをもって海外に出ていき、貧しい地域を支えたり、先進国でも日本と同様に我々の技術を活用したりしてもらう。そのようにして、弊社のノウハウをどんどん広めていきたいと考えています。

–まさに、「地球と人をハッピーに」ですね。今日はどうもありがとうございました。

関連リンク

株式会社アクポニ公式HP:https://aquaponics.co.jp/

アクアポニックス無料説明会(毎週水曜・土曜開催)お申込み:https://aquaponics.co.jp/meeting/