温暖化、海洋汚染、廃棄物の増加など、現在の私たちを取り巻く環境問題は困難を極め、もはや個人の努力だけでは解決はできないのではと思いたくなります。
しかし、そうした問題に立ち向かうべく、近年さまざまな技術・テクノロジーが投入されています。
グリーンテックと呼ばれるそれらの技術で、環境問題をどのように解決していくのか。
その具体的な内容から今の現状、注目すべき取組事例などについて見ていきましょう。
目次
グリーンテックとは
グリーンテック(green technology)とは、一言でいうと環境問題を解決するための技術全般のことです。現在、世界が抱える環境問題は、
など、枚挙にいとまがありません。
これらの人間による環境への悪影響を低減し改善させるために、新しい技術やテクノロジーの活用が求められるようになりました。それがグリーンテックです。
グリーンテックはよく「クリーンテック(clean tech)」または「環境技術」などとも呼ばれ、これらの言葉はよく混同して使われますが、基本的には同じ意味です。
グリーンテックの目的
グリーンテックを使うことで解決を目指す問題はさまざまです。取り組むべき問題としてあげられるのは
- CO2排出量削減・カーボンニュートラル
- 廃棄物を最小限に抑制
- 化石燃料の使用を削減
- 世界の生態系保護
- 海洋汚染や森林破壊の防止
などです。「グリーンな技術」というと真っ先に思い浮かぶのがCO2削減やカーボンニュートラルのための技術ですが、グリーンテックはそれにとどまらない、すべての問題の解決を目的としています。
具体的にはどんな技術?
では、グリーンテックとは具体的にどのような技術を指すのでしょうか。
まず、グリーンテックはある特定の一つだけを言うのではなく、エネルギーから建築、さらには農業まで、幅広い分野で環境への負荷をなくすためのさまざまな技術のことを言います。そこでこの章では、グリーンテックの主な分野の技術について紹介します。
エネルギー
環境技術で最も注力されているのが、太陽光や水力、風力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギー関連技術です。再生可能エネルギーは脱炭素と化石燃料の削減には必須であり、環境負荷が少なく効率の良いエネルギーを安価かつ大量に作るために、さまざまな技術が導入されています。
近年注目されているエネルギー関連のグリーンテックの例としては
- ペロブスカイト太陽電池:薄いフィルム状の太陽電池。低コスト、軽量・柔軟で汎用性が高い
- 浮体式洋上風力発電:風車を海上に浮かべる発電方法。日本の深い海でも対応できる
などがあります。
建築・製造
建築や製造業の分野は、CO2排出量が多い業種でもあります。また、化学製品を大量に扱う業種でもあり、廃棄物による自然破壊も問題となります。こうした課題を解決するために導入が進められている技術としてあげられるのが
などです。3Dプリンターは一見グリーンテックと関連がなさそうですが、製造業において従来と比べてはるかに少ない材料と部品数で製品を作ることを可能にします。これにより、CO2排出量や廃棄物の大幅な削減に貢献すると期待されています。
交通・物流
自動車産業に代表される交通業界は、化石燃料への依存度が高く環境負荷が大きい分野の代表格です。そのため、業界をあげて脱炭素・脱化石燃料への動きが活発になっています。この分野で進められている技術には
などがあり、特にEVとそのバッテリーについては、効率化や性能向上を目指して世界中のメーカーで熾烈な開発競争が繰り広げられています。
化学工業
化学工業分野でも、脱炭素や化石燃料からの脱却は重要なテーマです。特に、プラスチックや合成樹脂は私たちの生活にも密接であるため、環境負荷の少ない製品開発がより一層求められています。
現在開発や普及が期待されているものには
- 生分解性プラスチック/バイオプラスチック
- セルロースナノファイバー(CNF)
- 人工光合成:グリーン水素とCO2の反応によるCO2低減技術
などがあり、今後の生産拡大や普及が急がれます。
農林水産業・生物関連産業
農林水産業や生物関連産業は、環境との関連が深い業種であり、開発との両立が不可欠です。
動植物などの天然資源を保全しつつ、人間の食生活や生活環境を持続可能なものにするために、以下のようなさまざまな技術の開発が進んでいます。
遺伝子組み換えやゲノム編集、培養肉などには懸念される点はあるものの、今後の世界の食糧生産を担う上では重要な技術となります。
リサイクル・アップサイクル
廃棄物の削減や資源の効率的利用、CO2排出量削減のためには、すべての産業でリサイクル技術の開発や導入が求められます。日本が得意とする分野でもあり、世界的に注目を集める技術も少なくありません。この分野の主なものには
- 廃ペットボトル再生樹脂
- バイオマス利活用:燃料、発電など
- カーボンリサイクル:CCUS(炭素活用・貯留)
- メタネーション:CO2と水素からメタンを作る技術
などがあります。
デジタルが可能にしたグリーンテック
これらの技術革新の背景には、ICT(情報通信技術)、IoT(モノのインターネット)、クラウドコンピューティングなど、デジタル技術とインターネットが大きく貢献しています。
インターネットに接続したさまざまな機器を通して集められた膨大なデータを解析することで、製造業から農業まで、さまざまな分野での成分分析や環境測定が可能になりました。
さらにこうしたデータを活用した環境モニタリング技術それ自体も事業となり、世界中の都市で採用されています。
今後、AI(人工知能)技術の飛躍的な進歩によって、グリーンテックへの活用もさらに進んでいくことと思われます。
グリーンテックが求められる背景
環境問題を解決するために、機械や科学技術を活用するというグリーンテックの考えはそう新しいものではありません。ソーラーパネル自体は1954年に発明されていますし、1887年にはスコットランドで電気風力タービンが、さらに電気自動車は1830年代に作られています。
しかし、本格的に一般の人々の間で環境問題が関心を持たれるようになるには、20世紀終盤まで待たねばなりませんでした。
環境保護運動の高まり
1960〜70年代には、アメリカやイギリスなどを中心に環境破壊とその深刻な影響が認識され始め、多くの社会運動や環境保護団体の設立が目立つようになりました。さらに1990年代後半から2000年代初頭には、アメリカで炭素排出量削減のためのクリーンエア法改正、スウェーデンの炭素税制定など、気候対策を法制化する国も増えてきました。
グリーンテックとの関わりで言えば、
- ハリウッドの有名俳優がトヨタのプリウスを愛用することで環境意識の啓発を行なう
- 日本の太陽光発電技術が世界のトップクラスとなる
のもこの時期です。
2015年の「パリ協定」とカーボンニュートラルの必要性
大きな契機となったのが、2015年のCOP21で採択された「パリ協定」です。この協定により、将来の地球温暖化を抑えるためには、2050年までに世界のCO2排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」が必要であるという世界の共通認識が確立しました。
こうした情勢を受け、あらゆる産業で脱炭素実現のための技術を開発し、導入を目指す動きが活発化し始めました。
同時に企業も環境に配慮した経営を行うことが求められるようになり、ESG投資という形で資金が集まると同時に、グリーンテックへの期待も高まっていくのです。
グリーンテックの現状
こうした背景から、現在は世界中でグリーンテック企業に多額の投資がなされています。
世界各国では、新型コロナウイルスによる景気後退を立て直すため、デジタルと環境技術を軸にしたより持続可能な経済モデルの確立へと動き出しています。
世界
2022年の時点で、グリーンテックを展開する企業は世界100か国を数え、全世界で113億ドル(約1兆6,630億円)もの投資額を集めています。この分野で総合的に優れていると評価された上位100社の内訳を見ると、
- 北米:87億ドル、63か国
- ヨーロッパ/イスラエル:20億ドル、30か国
- アジア・太平洋諸国:6億2,800万ドル、7か国
で、主にアメリカの企業が大半を占めています。アジアでは中国やインドの企業が目立つものの、この100社の中に日本企業の名はありません。
また、力を入れている業種としては
- エネルギー・電力:41社
- 資源・環境:21社
- 交通・物流:14社
- 農業・食料:12社
- 化学工業:11社
となっており、CO2削減により関連の深い業種が多いことがわかります。
ただしここ最近では、ウクライナ紛争の長期化によって世界的に化石燃料への揺り戻しが起き、ESG投資への額が減少していることが懸念されています。
日本
日本でも、グリーンテック分野の事業の推進には力を入れています。
環境省では、中長期(2030年、2050年)を見据えた持続可能な社会に向け、環境分野、エネルギー分野それぞれに1兆円を投資するなどの方策を提示しています。
ただ前述したように、日本の企業はグリーンテックで高い評価を得ているトップ100の中には入っていません。これからの日本のグリーンテックでは
- 縮小が報じられている科学技術と環境技術関係への予算確保
- 化石燃料、特に石炭への依存が大きいエネルギー政策
- 原子力発電の扱いと再生可能エネルギーの推進強化
などをどうするかが課題となります。
グリーンテックに関する企業の取組事例
ここまで述べてきたように、グリーンテックが扱う環境問題と技術は多岐にわたるため、グリーンテックに関する企業も多様です。その中から、注目すべき事業を進めている企業の取組事例をいくつかあげていきましょう。
事例①大成建設【CO2活用地熱発電】
大成建設では、地中に貯留させたCO2を地熱によって高温にし、発電に利用するという「カーボンリサイクルCO2地熱発電技術」の実証実験を行なっています。これにより、熱水量が不足して十分な発電力が得られない、という従来の熱水型地熱発電の課題を克服し、地熱発電の普及拡大を目指します。
事例②鹿島建設ほか【環境配慮型コンクリート】
建築業界では、製造過程でCO2を吸収する「環境配慮型コンクリート」の開発が進んでいます。
鹿島建設が2012年に中部電力や電気化学工業(株)と共同で開発したのが、炭酸化反応によってCO2を吸収させ、貯留・蓄積するコンクリート「CO2-SUICOM」です。
こうしたCO2吸収コンクリートは、大成建設や清水建設などの大手ゼネコンでも開発や実用化が進んでおり、建築分野での大幅なCO2排出削減が期待されています。
事例③Poralu Marine【海岸清掃ロボット】
フランスで設立された海洋事業関連会社のPoralu Marine社は、インドネシア・バリ島で海洋廃棄物問題に取り組む団体、4Oceanと提携し、海岸清掃ロボット「BeBot」を開発しました。
BeBotはバッテリーとソーラーパネルで動き、海岸侵食や野生生物への影響も、有害物質の排出もないBeBotを活用することで、1時間で3,000㎡の海岸清掃が可能になっています。
事例④Aclima【環境モニタリングサービス】
米カリフォルニアのスタートアップ企業Aclimaでは、大気中の温室効果ガスと汚染度合を測定し、可視化できる独自のソフトウエアを開発しました。このシステムには何十億もの膨大なデータが反映されており、これによって得られたデータは多くの企業や政府、自治体での明確な環境指標の設定に貢献しています。
グリーンテックとSDGs
あらゆる環境問題の解決を図るグリーンテックは、SDGs(持続可能な解決目標)の達成に大きな役割を果たします。関連する解決目標には
- 目標7.「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
- 目標9.「産業と技術革新の基盤をつくろう」
- 目標11.「住み続けられるまちづくりを」
- 目標12.「つくる責任 つかう責任」
- 目標13.「気候変動に具体的な対策を」
- 目標14.「海の豊かさを守ろう」
- 目標15.「陸の豊かさも守ろう」
といった多くの目標と関連しており、グリーンテックの重要性がうかがえます。
中でも、気候変動や廃棄物の削減、クリーンエネルギーの普及といった観点から、グリーンテックは目標7や目標12、目標13の各目標の達成と密接な関連があると言えるでしょう。
>> 各目標に関する詳しい記事はこちらから
まとめ
グリーンテックは、現在の複雑で膨大な環境問題に取り組むには、もはやなくてはならない手段のひとつです。今後、AIやバイオテクノロジーの進歩に伴い、その効果もより目覚ましいものになっていくでしょう。しかし、テクノロジーがすべてを解決できると私たちが思い込み、過剰に盲信してしまうことはかえって解決を遠ざけてしまいます。最も重要なことは私たち一人ひとりの意識と行動であり、それがあって初めてグリーンテックはその効果を最大限に発揮してくれるはずです。
参考資料
60分でわかる!カーボンニュートラル超入門/前田雄大 著,Energy Shift 監修/技術評論社,2022年
グリーンテックとは?— グリーンテック・アライアンス (greentech.earth)
What Is Greentech? Greentech & Cleantech Definition | Built In
環境省_環境研究・環境技術開発の推進 (env.go.jp)
日本の廃棄物処理・リサイクル技術 – 環境省
Cleantech_Global_100_2022_Report.pdf
世界の投資家が注目 グリーンテックの展望と先鋭スタートアップ3選 デザイン会社 ビートラックス: ブログ (btrax.com)
グリーンテックの活用が、サステナブルな成長の新時代を拓く | 世界経済フォーラム (weforum.org)
「カーボンリサイクルCO2地熱発電技術」の開発に着手 – 大成建設
CO2を強制的に吸収させるコンクリート「CO2-SUICOM」を 建築分野で初適用|鹿島建設
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