#インタビュー

【SDGs未来都市】岐阜県高山市|脈々と受け継がれてきた地域の魅力を守り育て、SDGsを原動力に国際観光都市・飛騨高山を目指す

【SDGs未来都市】岐阜県高山市

岐阜県高山市 総合政策部 総合政策課 総合計画策定室 インタビュー

沼津 寿光

高山市総合政策部 総合政策課 総合計画策定室 室長 

平成8年 丹生川村役場入庁、平成17年 高山市に市町村合併、令和5年 現職

(職歴:派遣(国外郭団体)、企画課、都市計画課、財政課など)

小椋 直

高山市総合政策部 総合政策課 総合計画策定室 係長

平成14年 国府町役場入庁、平成17年 高山市に市町村合併、令和5年 現職 (職歴:生涯学習課、派遣(総務省、観光庁)、税務課、財政課など)

駒 源生

高山市総合政策部 総合政策課 総合計画策定室 主査

平成16年 高山市役所入庁、令和5年 現職 (職歴:都市整備課、消防総務課、商工課、福祉課など)

臼田 陽子

高山市総合政策部 総合政策課 総合計画策定室

令和3年 高山市役所勤務(会計年度任用職員)

introduction

江戸時代の面影を残す古い町並や、日本の屋根と言われる飛騨山脈、高山祭に代表される様々な伝統文化などが、多くの観光客を魅了してきた高山市。

国内外から愛され続ける国際観光都市を目指す様々な取り組みが評価され、2021年には「SDGs未来都市」に選定されました。

今回は高山市総合政策部総合政策課総合計画策定室のみなさんに、SDGsを基軸とした国際観光都市のまちづくりについて伺いました。

地域が抱える課題を、SDGsで打破していきたい

–はじめに高山市のご紹介をお願いします。

駒さん:

高山市は日本列島のほぼ中央に位置しております。平成17年の市町村合併を経て、面積が東京都とほぼ同じ大きさになり、日本一広い市になりました。そのうち森林面積が約92%を占めていることも特徴です。人口は8万4,000人ほど。アクセスの面では、車で東京からは4時間半、大阪から4時間、名古屋市からは約2時間ですが、山々に囲まれているため、どこから来てもその山を越えないといけない地域です。ただし高速道路も通っており、東京、大阪、名古屋間は高速バスの直通便が出ているので、時間はかかりますが乗り継ぎがなく比較的訪れやすい場所だと思います。

産業の主軸は観光で、そのメインとも言える日本三大美祭の一つ「高山祭」は、ユネスコ無形文化遺産にも登録されています。平成21年には、フランスのミシュランの旅行ガイドにて、東京や京都などとともに、わざわざ旅行する価値のある三ツ星観光地に選ばれています。また飛騨山脈をはじめとする雄大な山々や豊富な温泉などの自然環境にも恵まれており、飛騨の匠の技を象徴する「飛騨の家具」や、伝統工芸としては漆器の「飛騨春慶」、木工品の「一位一刀彫」なども有名です。

さらに農産物では、日本一の生産量を誇る「飛騨ほうれんそう」や「飛騨トマト」などの高冷地野菜もあり、お米や日本酒においても高い評価を得ております。

–高山市がSDGsに取り組み始めたきっかけを教えてください。

小椋さん:

高山市は人口減少や少子高齢化が進んでいる状況で、2015年からの30年間で約3割が減少するという予測が立てられています。さらに高齢者人口は42%に上昇し、年少人口は10.5%に減少する見込みで、全国と比べても少し早いペースで人口減少や少子高齢化が進んでいます。また、それに伴い、地域の祭礼行事や伝統芸能、伝統技術の担い手不足が深刻化しています。

【人口の推移と将来推計】

加えて、最近はずいぶん戻ってきたものの、新型コロナウィルスの影響で一時は観光客数が大幅に減少しました。2019年には年間470万人ほど訪れていた観光客が、コロナ禍の2020年になるとおよそ半分まで落ち込みました。外国人観光客も60万人ほど訪れていたのが、数千人にまで落ち込んだ時もあります。

【観光入込客数の推移】

このように、観光を主軸とした産業をはじめ地域全体が衰退の危機にあるため、そこを打破しようということでSDGsに注目したわけです。

高山市のまちづくりの考え方の1つに「住みよいまちは、行きよいまち」という言葉があります。これは、市民の方々が暮らしやすいまちは、観光客の方にとっても訪れやすいまちという考え方です。

地域が抱える課題を踏まえて「自分たちが住むまちはどのような姿が望ましいのか」ということを考え、市民の想いや夢を尊重しながら、この町に関わる多様な方々が力を合わせて未来に向けた取り組みを進める。そのために、SDGsを基軸としたまちづくりができないかと考えました。

経済・社会・環境の三側面を、観光を基軸に循環させていく

–2021年には「SDGs未来都市」に選定されています。高山市では「世界を魅了し続ける国際観光都市 飛騨高山の実現」を提案していますが、こちらの具体的な取り組みを教えてください。

小椋さん:

高山に来られる方は、例えば古い町並や伝統的な祭り、豊かな自然や山並みを求めていらっしゃいます。古い町並は、人がいて初めてその景観が守られ、それを求めて観光客が集まります。また自然を生かした取り組みや場所を提供することによって、そこに観光客が集まり、それによって得たお金は、また自然保護などに使うことができます。このように経済・社会・環境が観光を基軸に循環していくことを目指して、様々な取り組みを進めております。

まず経済面では、観光まちづくりの推進や、「メイド・バイ飛騨高山認証制度」を進めることで、市民へのインナーブランディングも含めた飛騨高山ブランドの強化に取り組んでいます。また市内でお金がまわる仕組みとして、地産地消の推進など、地域循環型経済の構築も進めております。

次に社会面では、歴史的町並みの保存や活用、それから重要な資源である飛騨匠の技術の継承に取り組んでいます。他にも、子どもや若者の夢や創造力を育んだり、市民が一体となったまちづくりを推進したりすることによって、関係人口の創出も狙っています。

最後に環境面では、脱炭素社会の先行的な行動を目指すことや、山岳資源の活用などを考えております。例えば奥飛騨温泉郷から高山市街地に入る間に、自然に配慮して整備した「五色ヶ原の森」というところがあります。必ずガイドが同伴して滝や森などをまわっていただく森林地帯なのですが、そういったところの活用を進めております。

SDGsを自分事として捉え、具体的な取り組みへとつなげていくために

–今お話しいただいたような、経済・社会・環境それぞれの取り組みだけでなく、三側面をつなぐ統合的な取り組みもされているそうですね。

駒さん:

はい。まずは飛騨高山ブランドや観光の魅力を国内外にしっかりとPRするために「飛騨高山プロモーション戦略部」を創設しました。国内外の観光客誘客の促進や、地域の魅力・情報発信の強化を行ったり、市民の皆さんに対して飛騨高山ブランドの理解を深めて郷土に対する誇りや愛着を持っていただいたりするような事業を進めております。

また2022年5月には、様々なステークホルダーが連携してSDGsを通じた活動に取り組むために「飛騨高山SDGsパートナーシップセンター」を設立しました。センターと名前がついていますが、建物があるわけではなく、あくまで協議体としての組織です。センター長には東海大学の細田副学長、委員には市内で経済・社会・環境の三側面各分野で活躍されている11名の方に就任いただきました。その他にSDGs全般について指導いただくSDGsアドバイザーが2名、以前から高山市をフィールドとしてSDGsに取り組んでおられる中部大学がオブザーバーとして参画しております。

–「飛騨高山SDGsパートナーシップセンター」では、具体的にどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。

駒さん:

委員の発案によって様々なイベントを開催しています。例えば今年度は、「飛騨高山陣屋前夜市」というイベントで、未来への願いを書いてもらう「SDGs短冊」を実施しました。市内の方はもちろん海外の方も大勢いらして、みなさん英語で参加されていましたよ。ほかにも小学生に未来の高山市について考えてもらったことをカードにする「SDGsカード」の発行や、仕事体験イベントの「キッズフェスタ」と同時開催で、SDGsに取り組む事業者や団体を紹介するパネル展示、ワークショップなどを行う「SDGsウィーク」も開催しました。

「飛騨高山SDGsパートナー登録制度」の運用もセンターが担っています。この前段として「私なりのSDGs宣言」というものがありまして、2021年8月に開始しました。これは市民の皆さんにSDGsを自分事として考えていただき、今取り組んでいることや、今後取り組もうとしていることについて宣言していただく制度です。現在1,900件ほど宣言いただいています。

その次のステップとして、2022年6月に開始したのが「飛騨高山SDGsパートナー登録制度」です。「私なりのSDGs宣言」が広く市民を対象にしていたのに対して、こちらは市内事業者・団体に対象を限定しております。またSDGsの具体的な実践へと結びつけるために、目標設定も設けました。現在の登録事業者数は72件。すべてオンラインで簡単に申請できるようになっております。

パートナーに登録されると、メールマガジンや市のSDGs専用ページで情報発信ができたり、「飛騨高山SDGsパートナーシップセンター」のアドバイザーに相談したりすることができます。

またマッチング支援も行っています。例えばパートナー登録事業者が「やりたいことがあるけど自分たちだけでは進まない」という困り事があった時に、アイディアを募ったり、一緒に取り組む事業者を見つけるような支援ですね。

–例えばどのようなマッチング支援を行っているのでしょうか。

駒さん:

最近だとホテルアソシア高山リゾートさんから「開業30周年を迎えるにあたり、市民のみなさんと協力してクリスマスツリーを展示したい」というご相談を受けました。そこで手を挙げていたただいたのが、高山工業高校さんと龍華保育園さんです。

ホテルが用意した間伐材を、高山工業高校の生徒さんが加工し、そこに龍華保育園の園児たちが絵を描いて、クリスマスツリーに飾るオーナメントを作りました。当日はみんなが集まって一緒に飾りつけもしました。パートナー登録事業者のホテルアソシア高山リゾートさんからは、高校生や保育園児、普段あまり関わることがない方たちとつながり、ひとつのプロジェクトに取り組めたことがとても良かったと伺っております。

様々なツールを使い、誰もがSDGsに触れられる機会を創出していく

–まちづくりには事業者だけでなく、子どもを含めた市民の力も必要となります。様々なステークホルダーに向けた情報発信やSDGsの啓発活動は、どのように行っていらっしゃいますか。

臼田さん:

基本的にはFacebook、Instagram、XなどのSNSで情報発信を行い、市のSDGs専用ページに誘導しております。パートナー登録事業者の方には一斉メール配信もしております。子どもたちに対しては、学校を通じてチラシを配布したり、SDGsについて学べるリーフレットや動画コンテンツを作成したりして、一人ひとりに周知しております。動画はYouTubeでも公開しているので、いつでも誰でも見ることができます。他にも、地元のケーブルテレビ局ヒットネットTVに取材・制作していただき、SDGsに取り組む事業者を紹介する番組も放映しております。

【小学生用リーフレット】

【中学生以上用リーフレット】

–子どもたちに向けて、SDGsの出前講座も実施されていますよね。

臼田さん:

はい、ご依頼があった場合に行っております。よくあるのが、「修学旅行や校外学習での学びの内容をSDGsにどうつなげたら良いか」というご相談です。例えば水族館に行ったので水をテーマにSDGsの授業を作りたいというご依頼がありました。それに対して、水に関する取り組み事例をたくさんご紹介しましたね。なかなか大変でしたが、私自身も調べていく中で「市内にこんな取り組みがあったんだ!」という学びにもなったので面白かったです。意外と地元の企業のことは知らなかったりするので、子どもたちが知ることで、将来的に高山に戻ってきて、地域を盛り上げたいという想いを持ってくださるお子さんが一人でも増えると良いな、という想いも持ちながら取り組んでいます。

高山の多彩な魅力を絶やすことなく、次世代につないでいく

–「SDGs未来都市」に選定されたことで何か効果は感じていらっしゃいますか?

沼津さん:

高山市は豊かな自然や伝統文化、食、温泉などの地域資源、伝統工芸などの匠の技、住む人の温かさなど多彩な魅力があります。これが今後もしっかりと守り続けられていくことが非常に重要です。そのことがSDGsの視点を持って経済・社会・環境の三側面から考えることで可視化され、市民の皆さまに周知しやすくなったことは一つの効果だと思います。

また、社会的にもSDGsという言葉をよく見聞きするようになったので、それも相まって市民の皆さまのSDGsへの関心も徐々に高まってきていると実感しております。事業者さんで言えば、今後の会社経営にとって重要な要素だと認識されてきているのではないでしょうか。結果として、「私なりのSDGs宣言」や「SDGsパートナー登録事業者制度」への登録は増えてきているので、高山市としては引き続きSDGsの啓発活動に取り組んでいきたいと思っております。

–職員の皆さんのSDGsに対する意識はいかがでしょうか?

沼津さん:

「SDGsパートナーシップセンター」が中心となって職員向けの研修も実施しているので、職員の意識は非常に高いと思います。また、行政の計画や事業の一つひとつにSDGsの17のゴールのマークをつけることで、この事業がどういったSDGsのゴールに関連しているのかが分かるようにしています。当初は我々の部署が旗振りをして実施していましたが、今は職員一人ひとりが意識して取り組むようになってきました。

小椋さん:

各事業に対して、SDGsを全く意識しないで取り組むのか、それとも「この目標につながっているんだ」と意識して取り組むのかでは大きく違います。SDGsのゴールを意識することによって、そこに向かうにはどういう行動をしたらいいのかという、行動変容を促すような取り組みを、市民の方々も含めて促していきたいと考えています。

–最後に今後の展望をお聞かせください。

沼津さん:

高山市には先人たちが守り続けてきた様々な地域資源があるので、我々の世代で絶やすことなく、持続的に次の世代につなげていくことが基本的なスタンスです。その上で、住んでいる人が住みやすいまち、さらに訪れていただく人に満足していただけるようなまちづくりを進めていく必要があります。

例えば観光を維持するためには、自然をしっかりと守っていく必要があります。またそこには地域のコミュニティや生活感がないとただのテーマパークになってしまいます。さらに産業が息づいていないと、そこに暮らす人々は生活していくことができません。環境を守りつつ、それを見に観光客に来ていただき、そこでいろいろなものを買っていただいて産業が成り立つ。今、国際観光都市・飛騨高山を標榜しておりますが、まさにこの経済・社会・環境の三側面の有機的な連携が、今後のまちづくりでは重要になってくると思っております。

–ありがとうございました。様々な魅力が詰まった国際観光都市・飛騨高山。ぜひ私も訪れてみたいと思います。