#インタビュー

Bioworks株式会社 |植物由来の合成繊維「PlaX™」で循環し続けるものづくりを。持続可能な素材が受け入れられる社会基盤の構築にも取り組む

Bioworks株式会社 小栗さん インタビュー

小栗 周作

ファッション、スポーツ、ライフスタイルなど様々なブランドビジネスの企画業務に関わった後「Bioworks株式会社」に入社。現在はクリエイティブ・コミュニケーション部のマネージャーとしてブランディング領域を中心に担当。

introduction

Bioworks株式会社は、“あたらしい「豊かさ」の種を蒔く”をミッションに掲げ、PlaX™(プラックス)という植物由来の合成繊維を研究・開発しているマテリアル・クリエーション・カンパニーです。

PlaX™により、石油由来の合成繊維がもたらす生産と廃棄による環境への負荷を軽減し、持続可能な循環型社会の実現を目指しています。

今回は、クリエイティブ・コミュニケーション部の小栗さんに、PlaX™という素材の特徴や開発の経緯、循環型社会を目指すプロジェクトの内容についてお伺いしました。

環境リスクを軽減する新素材「PlaX™(プラックス)」

–まずは、会社概要を教えてください。

小栗さん:

弊社は、素材の研究開発から得られた知見や技術を活用して、「持続可能な循環型社会」の実現を目指しています。

ミッションには、“あたらしい「豊かさ」の種を蒔く”を掲げています。これまで私たちは「豊かさ」を当たり前のものとして享受してきました。しかし、それは環境へ大きな負荷を与えて得られたものです。そこで弊社は、環境と人がともに健やかに生きることができる社会を目指すために、あたらしい豊かさの定義をしたいと考えています。

–具体的にどのような事業を展開されているのでしょうか。

小栗さん:

弊社が研究開発をして生まれたのが、「PlaX™(プラックス)」という植物由来の合成繊維です。このPlaX™を、糸や生地などの素材としてさまざまなブランドに提供しています。自社でも「bio」というブランドを立ち上げて、PlaX™を用いた製品販売を行っていますね。

元々合成繊維と呼ばれるものには、ポリエステルやナイロン、アクリルといった素材があります。それらは安価かつ利便性が高いので、綿やウール、シルクなどの天然繊維をおさえて、世界の繊維生産量の6〜7割を占めているんです。ところが、既存の合成繊維の多くは石油由来なので、大きく分けて3つの環境リスクが懸念されています。

1つ目は、地球温暖化のリスクです。実は石油を原料とする合成繊維は、繊維に加工していく過程で発生するCO2が非常に多い。

2つ目は、廃棄のリスクです。アパレル産業ではファストファッションという言葉もあるように、新しいトレンドを生み出していくことで発生する大量の廃棄が問題になっていますよね。しかも、廃棄されたポリエステル衣類の多くは焼却・埋立処理をされ、廃棄処理時に発生する地球へのダメージも懸念されています。

3つ目は、石油という原料の枯渇のリスクです。

一方でPlaX™は、原料段階でのCO2排出量を大幅に削減できますし、リサイクルをしやすい性質を持っているので廃棄問題にも対応ができます。植物由来で枯渇のリスクもありません。このような環境リスクを軽減できる特性が評価されて、アパレルブランドや生地メーカーなどからPlaX™を試したいとお声がけいただくケースが増えていますね。

他の会社が諦めても研究を続け、辿り着いた耐久性

–PlaX™を開発しようとお考えになった背景をお伺いできますか?

小栗さん:

PlaX™の主原料は、植物を使って作られるバイオプラスチックの一種であるポリ乳酸です。このポリ乳酸は、「加水分解」という性質と、微生物によって二酸化炭素と水へと分解可能な「生分解」という性質を有しています。スニーカーをほったらかしにしておくと、ソール部分がボロボロになることがありますよね。その原因は、原料であるポリウレタンは大気中の水分や温度環境によって、加水分解を起こすというメカニズムを持っているからです。ポリ乳酸の場合はさらに、加水分解でボロボロになると分子量が小さくなって微生物に食べられやすくなり、水と二酸化炭素へと分解する生分解が起こるというわけです。

そのため、2000年初頭に起きたエコブームで注目された素材でした。弊社のCTOである寺田も、そのタイミングでポリ乳酸を研究開発していた1人だったんです。

しかしプラスチックの代替として注目されたポリ乳酸ですが、耐久性や耐熱性に難があり、広い用途で実用化されることはありませんでした。ほとんどの会社はそんなポリ乳酸の耐久性向上ができず、研究開発もストップしたと聞いています。

それでも寺田は、環境への貢献度を鑑みて「ポリ乳酸の研究は続けるべきだ」と判断しました。そして長年独自に開発を続けた結果、ポリ乳酸に植物由来の添加剤を加えることで、課題であった耐久性や耐熱性を改善することに成功したんです。そして生まれたのが「PlaX™」です。

–PlaX™の商品化はスムーズにできたのでしょうか?

小栗さん:

PlaX™を繊維にして製品にする過程でも、小規模、中規模、大規模な量産へと至るまでには試行錯誤を繰り返してきました。弊社は工場を持たない会社ですので、繊維生産に関わる紡績工場や、紡糸・生地メーカー、アパレル繊維に関する企業や商社など、さまざまな会社にアシストいただきながらここまで進んできました。

その中で、製品化につながりやすかったポイントが1つあります。それは、PlaX™がポリエステルを作っている工場で作りやすいという点です。既存の工場設備を利用しながら生産が可能という点がPlaX™の大きなメリットでもあります。

現在では、ベビー&キッズのためのギフトブランドMARLMARLさんや、大手セレクトショップのSHIPSさん、パリコレクションに出ているdoubletさんといったブランドにPlaX™を採用いただいているほか、マッシュスタイルラボのemmiさんや、THE NORTH FACEなどの大手アウトドアライフスタイルブランドを取り扱うゴールドウインさんともPlaX™を使った製品化に向けた取り組みが始まっています。

PlaX™と再生ポリエステルの違い

–PlaX™は、ポリエステルなどの合成繊維に比べてCO2排出量が少ないというお話をお伺いしましたが、具体的にはどれくらいの違いがでるのでしょうか?

小栗さん:

製造から利用、廃棄まで含めた衣類のライフサイクルの中で、CO2排出量が多く最も環境負荷が高いのは製造工程だと言われていて、その割合はおよそ6割とも言われます。その中で、糸を1㎏製造する時点でのポリエステルとPlaX™を比較してみると、およそ41%ほどのCO2が削減できるというデータがでています(これはLCA手法で算定した数値を元にしたものです)。

その他の違いとしては、抗菌性が天然由来で備わっているのもポイントです。肌荒れの原因菌とも言われる黄色ブドウ球菌や大腸菌、部屋干し臭の原因菌と言われるモラクセラ菌に対して、PlaX™は抗菌・防臭効果を発揮することで、繊維上の菌の増殖を防ぐことができます。

実際に自社ブランド「bio」で展開しているPlaX™が20%入った自社製品「bioTowel(バイオタオル)」と、普通の綿100%のタオルに、黄色ブドウ球菌を付着させてその推移を調べてみました。すると、綿のタオルでは黄色ブドウ球菌が増えていく一方で、PlaX™入りのタオルでは99.9%減少がみられました。

–環境に配慮したポリエステルに、再生ポリエステルがあります。再生ポリエステルと比べてもPlaX™の方が優れているのでしょうか?

小栗さん:

確かに、CO2排出量の削減効果という点においては、再生ポリエステルとPlaX™にはそれほど差がありません。ただ、現在再生ポリエステルの主な原料となっているのは廃棄されたPETボトルです。環境問題に先進的なEUでは、PETボトルの使い捨てが禁止され、飲料用PETボトルにリサイクル材の利用を義務付けようとしています。PETボトルはPETボトルへとマテリアルリサイクルした方が、エネルギーコストも少なくて済みます。そのため、再生ポリエステルの原料にPETボトルを使用することが難しくなる可能性があります。中長期的な目線で見ると、日本でも同様の傾向が強まり再生ポリエステルの原料は確保できなくなるかもしれませんが、PlaX™にはそのようなリスクがないと言えます。

さらに、ポリエステルは不純物が混じると再生したときに強度や品質に影響するため、原料に戻して新しいものを作る「ケミカルリサイクル」は非常に難易度が高く、ポリエステルとコットンを混ぜた素材などではリサイクルできません。

その点PlaX™は、例えばコットンとPlaX™が混ざったものも意図的に加水分解させると、PlaX™部分だけがボロボロになります。ボロボロになるということは分離しやすいわけですから、PlaX™部分だけを回収してケミカルリサイクルに回すことも可能です。ここに関しては実証実験も含めて今後も研究開発が必要な分野ですが、ケミカルリサイクルのしやすさは再生ポリエステルとの違いとして挙げることができますね。

社会基盤がなければPlaX™も意味を持たない

–このPlaX™という素材の特徴を多くの人が知れば、ポリエステルからPlaX™への移行が進み、日本をもっと持続可能な社会に近づけられますよね。

小栗さん:

PlaX™という素材は、持続可能な社会の実現に貢献する素材です。しかし、その受け手となる社会基盤がないと、どんなに良い素材・技術であっても、結局そのポテンシャルをうまく使えないんですよね。

例えばお掃除ロボットも革新的な技術ではありますが、床が散らかってる部屋に置いても意味がありません。その素晴らしいテクノロジーを生かすには、部屋を片づけたりお掃除ロボットが動きやすい導線にしたりする必要があります。そうして初めて、お掃除ロボットが果たす装置機能も100%発揮できるわけです。

PlaX™も同じように、社会の受け手側が意識変容して行動を起こさなければ、素材だけ頑張っても社会を変えることはできません。そこで立ち上げたのが「サステナブルなアイデアやテクノロジーを実装するためのアクション」NESSENTIAL PROJECTです。

–NESSENTIAL PROJECTにはどのようなものがあるのか、詳しく教えてください。

小栗さん:

社会基盤を整えるためには、「こんな技術があるんだ」「こういう社会課題があるんだ」ということを多くの人が学んでもらわないといけません。その中で弊社では、特に今後の将来を担う学生たちに、学んでもらう機会を作りたいと考えていました。その理由は、「SDGsネイティブ」とも表現できる学生たちが社会人になったとき、スピーディーに社会実装が進んでいくのではないかという考えからです。そこで、ファッション産業に携わることを目指している学生が学ぶ、京都芸術デザイン専門学校さんと産学連携での取り組みを行いました。

当時、京都芸術デザイン専門学校では「サステナブル」をテーマにした卒業制作を予定していました。弊社はその制作において、講義をしたりPlaX™素材を提供したり、企画へのアドバイスを実施したりしたんです。提供したPlaX™素材は、弊社でサンプルを作る際に余ってしまう端材です。このプロジェクトは、NESSENTIAL PROJECTであると同時に「アップサイクルプロジェクト」でもありました。

同じく学校の事例ですと、白金にある聖心女学院さんの高等科では、プラスチックフリーキャンパスという活動を行っています。その活動に参加されている生徒さんがプラスチックを削減する活動をしている中で、PlaX™を発見してくださったことをきっかけに、産学連携がスタートしました。昨年は、講義や実験を通してPlaX™への理解を深めた学生たちが、PlaX™の環境性能や抗菌・防臭性を生かしたお弁当バッグを企画して商品化までしました。今年度も引き続きお声がけいただき、新入生に向けた講義や、学生が主体となった新しい商品企画プロジェクトも予定されています。

最近では、海外の学生さんからアプローチをいただくこともあります。日本、海外問わずPlaX™を素材として提供したり学習する機会を作ったりしながら、社会の意識や行動を変えるプロジェクトに、ますます力を入れていこうと考えています。

–今後の展望をお伺いできますでしょうか?

小栗さん:

PlaX™という素材は、まだまだ研究開発途上です。

短期的には、さまざまなブランドさんに気軽に使って頂けるような量産体制を整え素材の販売を加速させることが目標ですね。そして中長期的には、PlaX™のケミカルリサイクル、生分解の仕組みを生かし「持続可能な循環型社会の実現」ができるよう、研究開発を続けていきたいと思います。

–本日は貴重なお話をありがとうございました!

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