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一般社団法人BRIDGE KUMAMOTO  | ブルーシートを活用したアップサイクル事業で持続可能な復興支援を!

一般社団法人BRIDGE KUMAMOTO 坂本さんインタビュー

写真:佐藤 勝昭

坂本 紫織
一般社団法人BRIDGE KUMAMOTO 事務局長。代表理事は世界最古の広告デザインの国際賞であるNYADCなど受賞歴を多数持つクリエイティブディレクターの佐藤かつあき。被災地域などで使用された廃棄予定のブルーシートを回収・洗浄し、トートバッグに縫製し、売上の一部を被災地に寄付する「ブルーシードバッグ®」は、グッドデザイン賞2017 BEST100,復興デザイン賞に選出され、これまで関連アイテムを含め15,000個以上を販売。「創造的な社会への架け橋になる。」をビジョンに掲げ、社会課題をデザインの力で解決すべく、災害復興支援、教育福祉、環境問題など幅広い課題に取り組む。見た目や意匠だけでない「社会の仕組みの設計(ソーシャルデザイン)」の普及をミッションの一つに、企業や団体・自治体の新規事業開発や伴走支援を行う。これまでの活動による寄付総額は2,300万円超(2021年時点)。

introduction

“創造的な社会への架け橋になる。”をビジョンとし、ソーシャルデザインで社会課題を解決することを目指す一般社団法人BRIDGE KUMAMOTO。熊本市を拠点にし、ソーシャルデザインの力を通じて災害支援や環境問題の課題解決に取り組んでいます。今回は、BRIDGE KUMAMOTOから坂本さんをゲストにお招きし、活動内容と持続可能な社会貢献活動に向けた思いをお伺いしました。

廃棄ブルーシートで社会課題に挑む!BLUE SEED PROJECT

–早速ですが、一般社団法人BRIDGE KUMAMOTOの活動内容を教えてください。

坂本さん:私たちは、ソーシャルデザイン※の力を活用し、ソーシャルデザインの普及、寄付文化の醸成、被災地域の復興支援を目指して活動しています。

ソーシャルデザインとは
社会をより良くするために制度やインフラ等、街に関するあらゆる要素を設計すること。例えば、「社会づくり」や「街づくり」などを指す言葉。

引用元 IDEAS FOR GOOD  

 私たちは2016年に発生した熊本地震をきっかけに立ち上がった団体で、熊本市を拠点にしています。デザインの力で災害支援ができないかというところからスタートし、今ではさまざまな社会課題にデザインの力で挑み、ソーシャルデザインの普及を目指すことをゴールに掲げています。

 中でもメインとなっているのが、設立当初から継続しているブルーシートを活用した寄付活動「ブルーシードプロジェクト(BLUE SEED PROJECT)」です。

被災地のブルーシートを活用したアップサイクル事業とは

–”ブルーシードプロジェクト”とは、どのような活動なのでしょうか。

坂本さん:被災地域などで使用され、廃棄予定となったブルーシートを回収・洗浄・縫製して制作した、アップサイクル商品を販売しています。

アップサイクルとは
本来であれば捨てられるはずの廃棄物に、デザインやアイデアといった付加価値を持たせることで、別の新しい製品にアップグレードして価値を与えたもの

引用元:IDEAS FOR GOOD

 ブルーシードの「シード」は種を意味する言葉で、「悲しみの景色の象徴であるブルーシートを少しでも明るいもの=〈復興の種〉に」という想いが込められています。

ブルーシードプロジェクトで生まれた最初の商品が、こちらのブルーシードバッグです。

写真:山口亜希子

見た目にもこだわり、普段使いしやすいようにおしゃれで可愛いデザインに仕上げています。これまでに大体4,000個くらい購入いただき、現在も継続して販売しています。

 ブルーシードバッグの売上のうち20%は、被災地域で活動する復興支援団体や社会課題に取り組む団体に寄付しています。

–なぜブルーシートを原材料として選ばれたのでしょうか。

坂本さん:

ブルーシートに対して、少しでもポジティブなイメージを持って欲しいと感じたからです。

 私たちがこの活動を始めたのは熊本地震の直後でした。ブルーシートは、倒れた家屋を覆ったり、被災地のテントに使用したりと私たちの生活を守るために活躍してくれていました。ただ、被災された方々にとっては、どうしても災害を連想させるネガティブなものとして捉えられていました。

 また、災害時に活用されたブルーシートがゴミ問題の一因になってしまう点についても懸念しています。雨漏りや倒壊を防ぐために家屋にかけられたブルーシートは、耐久性の観点から3か月に一度張り替えを行うこともあります。屋根を覆うものですと10m×10mほどの大きなものが張り替えのタイミングで大量に廃棄されるため、最終的に災害ゴミ問題に繋がってしまうのです。

 私たちは、ブルーシートへのネガティブなイメージを少しでも良くするため、そしてアップサイクル商品を販売し売上の一部を寄付をすることで復興の種にしたいという想いのもと、活動を継続しています。

根本にあるのは「リメイク・リターン・リマインド」の3R

坂本さん:

また、ブルーシートをアップサイクルしている理由はもう1つあります。環境問題について調べていくと、3Rという言葉を目にする機会も多いかと思います。

一般的な3Rとは、Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)の3つのRの総称を指しますが、私たちが考える3Rは少し異なります。

私たちは、ゴミを削減することを目的とした通常の3Rとは少し違った、Remake(リメイク)、Retern(リターン)、Remind(リマインド)を基準に商品展開をしています。

アップサイクル商品を考える際には、特に3つ目の「リマインド」を特に大切にしており、災害があったことを忘れないため、そして防災意識を高めることを目的としています。

ブルーシードバッグをご購入いただくことで、「これは地震のときのブルーシートなんだな」「家の防災グッズを見直してみようかな」と、少しでも災害について考えるきっかけになるといいなと願っています。

–購入されたお客様の反応はいかがですか

坂本さん:

ありがたいことに、多くのお客様にご愛用頂いています。例えば先日、5年前にブルーシードバッグをご購入いただいた方が遊びにいらした際に、「デニムみたいに育ってきて色合いが感じでしょ!」と、当時購入なさったバッグを見せてくださったんです。

私たちからすると手を離れて巣立っていった子どもたちに再会したような感覚で、長く愛用してくださっていることがとても嬉しかったですね。

この他にも、ブルーシードプロジェクトに関わる方々からも嬉しい反応を頂いています。

プロジェクト開始当初は、ブルーシートの洗浄を被災地域でボランティアを募って行なっていました。ある日、ボランティアのお一人が「体力に自信がない私でもブルーシートの洗浄だったら参加できて嬉しい」とおっしゃってくださいました。

ボランティア活動の中には、泥かきや家具を運ぶなど、力仕事も多く、体力に不安のある方やご高齢の方ですと、どうしてもハードルが高くなりますよね。

その点、ブルーシードプロジェクトではブルーシートの洗浄がメインで、重いものを持ったりすることがありません。そのため、より幅広い方にボランティア参加のチャンスを掴んでいただくことができ、とても嬉しかったです。

–ブルーシードプロジェクトは被災地域のために貢献したいと感じている方をつなぐ架け橋になっているのですね。

ブルーシートのアップサイクル事業で就労支援も

– ブルーシードプロジェクトで、売上金の寄付以外に、災害支援のために意識されていることはありますか。

坂本さん:

障がいや病気、身体上の背景で一般的な企業で働くことが困難な方々が就労訓練を行なっている就労継続支援事業所と連携して一緒に商品を作っています。例えばこちらの「熊本城瓦御守」という商品。2016年熊本地震で破損した熊本城の瓦のかけらを、被災地で使われたブルーシートで包んで御守にしています。

瓦が入っているので触っていただくとゴロゴロとしているユニークな御守りで、表面には、二度と落ちないことを意味する「後来不落(こうらいふらく)」という文字が刻まれています。「落ちない」お守りであることから、受験を控えられている方へのお土産としても人気なんですよ。

写真:山口亜希子

坂本さん:

この御守は、瓦を割る作業から縫製、そして紐を通して仕上げるところまで、一連の作業を熊本県内の就労支援事業所の方々にお願いしています。

–なぜ就労支援に着目されたのでしょうか

坂本さん:

就労支援事業所などで働く方々の、「働きがい」を増やしていくためです。施設を利用されている方々は、体調や状況に応じてご自身のペースで生産活動を行っており、就労の機会の提供という側面でとても重要な場所ですが、賃金がとても低い傾向にあります。例えば就労継続支援B型※の事業所の場合、厚生労働省の調査では、時給換算すると200円台と最低賃金※を大幅に下回っている状況です。

適正な工賃をお支払いすることや、受験生にも人気のお守り制作に携わっていただくことで、作ってくださっている皆さんの「働きがい」に繋がるといいなと考えています。

就労継続支援B型とは
一般企業に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して、就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供を行う福祉サービス。

引用元:厚生労働省

最低賃金とは
使用者が労働者に最低限支払わなければならない賃金の下限額最低賃金法として定められている

引用元:厚生労働省 地域別最低賃金の全国一覧

–実際に、製作に携わっている方々の反応はいかがでしょうか。

坂本さん:

事業所の職員さんにお聞きしたところ、「利用者の集中力が、これまでと見るからに違う!」と嬉しいお声を頂戴しました。

現在、熊本城瓦御守は県内外のメディアや新聞、全国放送のテレビ番組で取り上げられ、生産が追いつかず売り切れになるほど多くの方に手に取っていただいています。その状況を受けて、利用者の皆さんは「自分が作った商品を多くの人に手にとってもらえていて嬉しい!」「休みの日に熊本城へ行って、本当に売り切れているかどうかを見に行ったんだよ」と、とてもいきいきとお話しくださっているそうです。

写真:中島 昌彦

私たちの活動を通じてひとりでも多くの方の働きがい、やりがいにつながっているのであれば嬉しいですね。

もちろん、このお守りの売上の一部も、販売元の一般財団法人熊本国際観光コンベンション協会から熊本城の復興支援として寄付されています。

災害を風化させないために、ワークショップを開催し売り上げを寄付

–様々な活動を通して、復興支援への寄付をなさっているのですね。

坂本さん:

そうですね。設立当初から行なっているワークショップ活動でも、売り上げの一部を寄付しています。

「ブルーシートを活用して缶バッジやコサージュを作ってみよう!」というワークショップを、主に商業施設で開催されるイベントやマルシェの中で行っています。

写真:中島 昌彦
写真:中島 昌彦

私たちが行っているワークショップの一番の目的は、「作ることの楽しさ」を通じた復興支援です。

被災地への寄付のためにワークショップに参加するというより、楽しい工作の時間の中で、「このブルーシートってもともと災害時に活躍していたものなんだ!」「どうして1枚1枚色が違うんだろう?」という発見をしていただき、それが最終的に参加者自身の防災意識に結びついたらと思っています。

私たちは、社会課題とみんなを繋ぐ架け橋でありたいと活動をしていますが、悲壮感を感じていただくことよりも、ライトな気持ちで参加したものが実は社会貢献だったと、いう機会も重要だと思っています。

そのために、参加しやすいコンテンツを生み出し、寄付に対しても楽しく行っていただけるというところを重視しているのです。

クリエイターだからこそ、被災地域のためにできること

–一般社団法人BRIDGE KUMAMOTOが誕生した背景を教えてください。

坂本さん:

代表の佐藤自身が2016年4月に発生した熊本地震を経験し、家屋の倒壊や大規模停電、崩落した鉄橋などを目の当たりにしたことが始まりです。

代表は、連日のように自衛隊や医療従事者の方々が復興に尽力している中で、「デザイナーを本業としている自分にできる支援とは何か」を日々模索していました。そんな中、大きな転機となったのは一件の自転車屋との出会いでした。

その自転車屋は、地震による大きな被害を受けた地域にあり大変な状況下にも関わらず、昼も夜もずっと営業されていたそうです。

代表は店主の方に「お店が被害を受けて大変な状況なのに、なぜ休まず営業されているんですか?」と聞きました。すると、その店主の方は、「阪神淡路大震災のときに道路が使えなくて自転車が活躍したというニュースを思い出して。パンク修理でも良いから困ってる人がいたら修理してあげたい」と答えてくださったそうです。

 その言葉に、「これまで培ってきたことを社会貢献に変えられる」と気付かされ、代表の強みを活かしてデザインの力で継続的な支援の仕組みを創ることを思い立ち、現在に至ります。

災害を風化させないために。継続的に行える支援を意識する

– 支援を続ける上で大切にしていることはありますか。

坂本さん:

支援を継続的に行うための、社会の仕組みづくりです。

私たちは、”創造的な社会への架け橋になる。ソーシャルデザインを活用し、主体的に活動する社会の担い手が拡がり、誰も取り残さない豊かな社会の実現に向けて変革し続ける社会の実現」をビジョンに掲げて活動をしています。

ですが、社会課題といっても様々で、環境問題や人権問題、先ほどの雇用環境の課題など、文字だけ見るとどうしても難しく考えられがちです。だからこそ、皆さんが社会課題に対して気楽に一歩を踏み出せるよう、先ほど申し上げたブルーシートを活用したワークショップや、普段使いできる商品の提供など、日常でカジュアルに参加できるコンテンツづくりを大切にしています。

また、継続的にできる社会の仕組みづくりというところで、企業や団体、個人で活動されている方々などの今持っている強みを繋ぎ合わせて社会貢献していこう!という、パートナーシップも大切にしています。

社会課題に取り組みたいけれど何から始めたらいいのか分からないという企業も多くいるかと思います。私たちの強みであるデザインという強みを活かして、そうした方々を繋いで新しいプロジェクトを一緒に立ち上げ相乗効果を生み出していけたらと考えています。

–継続的な支援を意識されているのは何か理由があるのでしょうか

坂本さん:

災害が起きたという事実を風化させたくないからです。

メディアの露出が減ってしまうと、どうしても時間の経過と共に被災地への関心が薄くなってしまいがちです。

しかし、自然災害はいつどこで発生するかは誰にもわかりません。そのため、常に防災意識を持ち続けることがとても重要です。私たちがコンテンツを提供する際に根本にしている3Rの一つ「リマインド」を意識することで、少しでも多くの方に、災害の意識を心のどこかに留めておいてほしいと思っています。

ソーシャルデザインの考え方をより多くの方に広めたい

写真:山口亜希子

–最後に、今後の展望を教えてください。

坂本さん:

今後も、社会課題を解決する架け橋になる活動を継続しつつ、パートナーシップ事業に注力していきたいと考えています。

これまで環境問題、災害支援、障がい者福祉の3つを軸に取り組んできましたが、全国の企業、団体、クリエイターさんと一緒にソーシャルデザインという考え方を広げていくことで新しい貢献の形が生まれると考えています。

この記事を見てくださった読者のみなさまには、私たちの活動を知っていただき、よりカジュアルに・楽しく様々な社会問題に取り組んで頂けたら嬉しいです。

–より多くの読者の方に坂本さんの思いが届くことを願っています。本日はありがとうございました!

関連リンク

・一般社団法人BRIDGE KUMAMOTO 公式サイト
https://bridgekumamoto.com/

・オンラインストア公式サイト
https://shop.bridgekumamoto.com/

・熊本城瓦御守(熊本城売店 Yahoo!ショッピング店)
https://store.shopping.yahoo.co.jp/kumamoto-castle-shop/castle-49.html