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石屋製菓株式会社|看板商品「白い恋人」を中心に、CSR・SDGsにも取組みつつ「100年先も、北海道に愛される会社へ」を目指す

石屋製菓株式会社 亀村さんインタビュー

亀村 建臣
北海道釧路市出身。1994年に飲料メーカーに入社。地方都市で仕事の傍ら町おこしなどの活動に興味を持っていた時、本社の広報室への社内公募があり2002年に札幌へ転勤。2005年にCSRが広報の主流になり、広報・CSR推進部に改名し、主に環境保全や地域連携などのCSR業務に従事。2011年、マネジメントシステムの事務局新設にあたり技術部門に異動。ISO9001,140001などの国際規格の構築や運用、グローバル監査対応などを担当。その後、営業部門に異動しTokyo2020プロジェクトに従事する中、道内企業で広報やCSR活動の仕事をしたいと考えていたところ石屋製菓㈱でそのチャンスがあり転職を決意。2019年、石屋製菓㈱広報CSR課にて企業ブランディング活動に従事。併せてSDGs推進チームリーダーとして社内のCSRやSDGs活動を担当し社内外への発信。2022年、広報CSRチームへ改名し現在に至る。

introduction

北海道土産の筆頭「白い恋人」を生み出した石屋製菓株式会社。同社は、2007年の大きな社内危機をターニングポイントとして、「しあわせをつくるお菓子」のみならず、CSR、SDGsにも真摯に取り組む企業として生まれ変わりました。

今回は、SDGs推進チームリーダーの亀村建臣さん(広報CSRチーム所属)に、SDGsに関連した様々な活動について伺いました。

看板商品は「白い恋人」 石屋製菓株式会社

–まず、石屋製菓株式会社について教えてください。

亀村さん:

現在は「白い恋人」を筆頭に、「美冬」「なまらバターバウム」など、北海道ならではの様々なお菓子を製造していますが、もともとは政府委託のでん粉加工業として1947年に創業しています。石屋製菓としては1959年にスタートし、駄菓子の製造を行っていました。しかし、1960年代半ばから道外から様々な菓子が入ってきて、経営が不安定になりました。そこで路線を変えて洋菓子を作り始め、1976年に誕生したのが、その後わが社の看板商品となった「白い恋人」だったのです。現在では東京、大阪にも店舗をかまえ、海外ではドバイに出店しています。

不祥事危機をターニングポイントとして、CSR,SDGsへの意識と取り組みを強化

–貴社は、CSR、SDGsに関連して次の「6つの約束」を発表されています。詳しく教えてください。

亀村さん:

私たちは、企業として以下の6つをお約束しています。

約束1.「安心安全」商品製造すべての工程で安心・安全を推進。
約束2.「コンプライアンス」法律や倫理を遵守するコンプライアンス体制の確立。 
約束3.「環境」環境負荷を軽減する取り組みで持続可能な製品づくり。
約束4.「スポーツ振興」スポーツを通じて子どもたちに夢や希望を与える。
約束5.「地域社会」北海道・地域社会に様々な形で貢献する。 
約束6.「雇用・労働環境」だれもが安心して働ける職場にする。

まずは約束1の「安心・安全」と、約束2の「コンプライアンス」についてです。

これは、「2007年」をぬきには語れません。この年、当社は賞味期限改ざんというとんでもない不祥事を起こし、倒産がよぎるほどの危機に直面しました。そのため、「二度と信頼を損なうことを起こさない」、「危機をターニングポイントとして、良き再生をする」、という強い決心のもと、「安心・安全」、そして倫理を問うコンプライアンスにはきわめて高い意識をもって取り組み続けています。

例えば、「賞味期限」の安心・安全では、箱だけではなく、個包装の菓子一つ一つに賞味期限を印字しています。

(個別包装での賞味期限印字)

製造では、詳細な取り決めが多種多様にあり、きっちりと守られています。機械の洗浄剤の変更においてさえ、時間をかけて何度もテストして決めていく慎重さを保っています。

続いて、コンプライアンスについてです。賞味期限改ざん事件は、そもそも法令違反の事例でした。繰り返すことのないよう、会社のしくみ自体を大きく変えました。法令順守の徹底化をはかり、「内部通報窓口」も設け、透明性を図っています。

また、当社の特色である、社員の女性比率が約60%であること、平均年齢が30代半ばという若さであることからも、パワハラ、セクハラについての対策を強化しています。その結果、若い社員が上司とスムーズに意見を交わせるような自由な社風が育ってきました。

–女性比率が高いというお話が出ましたので、6の約束「雇用・労働環境」についてを先に伺います。労働環境への取り組みの具体例をご紹介頂けますか?

亀村さん:

まず、育休がとりやすい環境です。以前は、女性は子どもが生まれて退職というケースが多かったため、産前産後・育児休暇の取得制度の制定、社内保育施設の設置などサポート体制を整えました。

さらに、年齢、性別、国籍にこだわらず、誰もが活躍できる職場を目指して、外国人を採用したり、経営層の選抜プロジェクトを行ったりしています。

経営層の選抜プロジェクトでは、課長以上でゼネラルマネージャーに立候補したい人を募集し、道内の大学の協力を得て特別なカリキュラムを半年かけて徹底的に勉強してもらいました。その後、経営層へのプレゼンによって選抜される仕組みです。2021年は初の女性ゼネラルマネージャー2人が誕生しましたが、「女性だから」「SDGsだから」ではなく、たんに本人たちが優秀だったからです。

また、選抜に参加しなかった人でも、エキスパート、シニアエキスパートという専門性を高めていけるような道が用意されています。

バイオマストレーの導入で、CO₂削減も達成

「白い恋人」バイオマストレー

–次に、3「持続可能な製品づくり」について教えてください。

亀村さん:

環境に配慮して、次の三点を実施しました。

・以前よりバイオマス化していた「白い恋人」のトレーを、国産材料の小樽メーカーのものに切り替え(以前は中国産材料を用いた九州のメーカーのバイオマストレー)
・二番手の売れ筋商品「美冬」トレーのバイオマス化
・包装紙、化粧箱、紙袋をFSC認証紙へ

環境に配慮した活動がさらに本格化したのは、2019年7月に若手社員を中心にSDGs推進チームが発足したことがきっかけとなりました。工場、営業、パーク事業部など様々な部門から、兼務のかたちで10人ほどが集っています。

(SDGs推進チームの会議)

発足の翌年はコロナ禍となり、観光客の減少による「白い恋人」の売り上げ低下や、お菓子のテーマパーク「白い恋人パーク」が休業要請の対象になるなど、思うように仕事が進まない時期でした。しかし、時間はたっぷりありましたので、SDGsにどう取り組むべきかの基礎をじっくり固めることにしました。まずは、すべての業務の「棚卸」をして、SDGsの17の項目に添って集計を行ったのです。

その結果、環境面での対応が非常に遅れているとわかり、以下の取り組みを始めました。

・工場から出るプラスチック廃棄物の徹底した分別とリサイクル
・工場や白い恋人パーク、本社事務所棟などのCO₂排出量を測定し、抑制。

発足時はチームも知識不足でしたが、2年ほどかけて詳しく学び、データ集計なども重ねてここまで来ました。最初は社内でもなかなか浸透しませんでしたが、トップの意識が高く、理解があるのでやりやすかったですね。トップの意識のありかたは、大事です。

地域へ啓発活動 「白い恋人パーク」にSDGs見学コースも

–石屋製菓株式会社はもともと、地域社会との結びつきが強いと伺っています。最後に、5「北海道・地域社会への貢献」について具体的な取り組みを教えてください。

亀村さん:

1995年に「白い恋人パーク」が宮の沢にオープンして以来、地域の顔のような存在になりました。YOSAKOIソーラン祭に場所を提供したり、マルシェを開催して地元の野菜や花などを販売するイベントなども行っています。地元のお客様を大切にし、地元に親しまれることの大切さを共通認識としています。

「白い恋人パーク」

また、SDGs推進チームが発足し、コロナ禍で持続可能な社会についてじっくりと検討し、実践を重ねてきたからこそ、地域の皆さんへSDGsの啓発・普及に繋がるような取り組みも行えています。

例えば2021年夏、「白い恋人」パーク内に、対象年代別に3種類のSDGs見学コースを設けました。修学旅行にも最適な児童向けや学生向け、さらには企業の研修にもご利用頂ける大人・社会人向けのコースです。

児童のコースは、楽しくお菓子作りを体験してもらいながら、ゴミは分別しよう、などの身近なことを学べるかたちです。学生のコースはもっと詳しいことも紹介していきますし、大人・社会人向けのコースは、さらに専門的にSDGsを学んで頂けます。いずれも、最後は個人でもSDGsに関わる行動を起こせるような構成になっています。

また企業参加の場合は、当社の事例が、それぞれの会社の取り入れるヒントになれば嬉しいですね。逆に、我々より取り組みが進んでいる会社から教えて頂くこともあります。

他にも、ローカルラジオにて、ISHIYAプレゼンツ「ISHIYAプラス」という農業や地域社会、環境への取り組みなどのSDGsについて地域の方々と語る番組がスタートしたり、道外の北広島工場では、街づくりに小さなことでも貢献したいという声があがり、2021年から月に一度ほど街の清掃活動が行われていたりと、積極的に地域活動を行っています。今後も、さらに地域社会に貢献できるような取り組みを展開していきたいですね。

国産バニラの商品化という挑戦もしつつ、100年先の北海道に夢を託す

–今後の目標について教えてください。

亀村さん:

我々は2018年、「北海道農業の新しいスタンダードを創り続け世界に発信」というキャッチフレーズのもと、他社二社との共同出資で株式会社北海道150年ファーム」という会社を設立しました。ここでの事業で、世界的に供給不足になっている「バニラ」の国産栽培を成功させることも目標の一つです。バニラは熱帯の植物でもともと高価なものですが、近年は価格が高騰しています。輸入に頼るしかないこのバニラを国産栽培できないかという試みです。

未知の植物で育て方の本もなく、ハワイに研修に行ったり、鹿児島の植物専門の先生に教えを乞いに行ったりと試行錯誤を重ね、2022年3月、実が取れてエッセンスを抽出するという一連の工程を確立しました。商品化にはまだ遠いものの、次のステップに入ることができました。

(バニラ栽培)

熱帯の植物を北海道という寒冷地で栽培する挑戦ですが、成功して事業が拡大できたら、北海道の農業の価値が高まりますし、産業の発展にも繋がります。「白い恋人」は北海道産小麦100%を使用していますが、このバニラで「100%北海道産」が実現するかもしれません。そんな壮大な夢を掲げてチャレンジしています!

–本当にワクワクします!このチャレンジが実現したら、北海道だけでなく日本が元気になれそうです。最後に石屋製菓株式会社としての今後の展望をお聞かせください。

亀村さん:

当社の企業理念は「しあわせをつくるお菓子」です。そして長期ビジョンは「100年先も、北海道に愛される会社へ」を掲げています。100年先にも、美味しいものが溢れ、美しい自然がある北海道が続いていてほしいという願いです。それを守るためにも、道内の会社としてSDGsに取り組んでいかなければなりません。そういう強い思いをもってやっていきたいんです。

–創業時の経営難、2007年の危機、コロナ禍、すべてピンチをチャンスに変えながら、壮大な夢に挑戦されていることに感動しました。今日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

石屋製菓株式会社公式サイト https://www.ishiya.co.jp/