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エコロマルシェ|賞味期限切れでもまだまだ食べられる!買うだけで食品ロス削減に貢献できる「ワケあり食品」の店

エコロマルシェ 尾形さんインタビュー

尾形 祐介
帝京大学経済学部卒。大学時代はアメリカンフットボール主将。
大手電力会社系列企業にて営業職に従事中、20代後半にスキューバダイビングと出会い、水中の世界に魅了されインストラクター取得、パラオ共和国にてダイビングクルーズ船の水中ガイドに転身。
7年間の船上生活を経て帰国後もクルーズ会社にてパーティークルーズ、レストラン、ケータリングなどの飲食部門に十数年間携わるが、毎日大量の料理を自分の手で捨て続けている事に危機感を持ち、食品を救う側に立つべく2019年に独立、レインボーステーション開業。現在、ワケあり食品専門店「エコロマルシェ」・ワケあり食品専門サイト「食品ロス削減市場」を運営。

introduction

パーティーを対象とした飲食業に十数年勤務した尾形さんは、食べ残された大量の料理を仕方なく自らの手で捨て続けました。疑問や罪悪感に苛まれ、食べ物を捨てる側ではなく守る側になろうと決意。2019年に、流通に乗らないワケあり食品を販売する店「エコロマルシェ」を立ち上げました。

今回は尾形さんに、廃棄される食品群の実情やその削減への努力、今後の展望などを伺いました。

食べ物を捨てる側ではなく守る側に

–まずは、「エコロマルシェ」がどのようなお店かご紹介ください。

尾形さん:

まだ食べられるのにも関わらず、様々な理由で廃棄されてしまいそうな食品を回収して「再流通」させる店です。「エコロマルシェ」は慈善事業ではなく、経済活動の一環です。あくまで社会ビジネスとして、通常の流通に乗らなかった食品を販売し、多くの消費者の元に届けることで食品ロス削減を目指しています。

–食品ロスを気にかける人々が増えてはいても、廃棄されるはずの食品を販売するハードルは高そうです。それでも起業に踏み切られたきっかけは何だったのでしょうか?

尾形さん:

私はかつて、パーティーを対象とする飲食業に携わっており、食品を廃棄する側にいました。パーティーは、フォーマルな場であるほど料理に手がつけられないことが多いんです。十数年、残った料理をこの手で捨て続けるうちに、こんなことをしていていいのか、という思いが募りました。

そんな中、世の中でも食品ロスの削減が叫ばれるようになり、2019年10月には「食品ロス削減推進法」という法案もできました。これまで料理をゴミ箱に捨て続けた償いをしたいという思いに加えて、このような世の中の動きに感化され、食品を捨てる側ではなく守る側になろうと、会社を退職して起業することを決意したんです。

賞味期限内の食品までも廃棄される「3分の1ルール」

–「エコロマルシェ」起業の背景でもある、日本の食品ロスの概略をお聞かせ頂けますか?

尾形さん:

日本は食糧自給率が低く、約37%と言われています。自国で食糧をまかないきれていないのに、食べられるものの廃棄率がアジアだとワースト1、世界だとワースト3というデータもあります。さらに、日本での食品ロスの内訳を見ると、食べ残しなどの消費段階だけではなく、生産から小売りまでの流通の段階で捨てられている割合も非常に多くなっています。これは賞味期限や消費期限への認識のズレや、流通の段階で「3分の1ルール」という習慣があることも一因として挙げられます。

–日本の食品ロス問題の大きなポイントでもある「消費期限と賞味期限の違い」と「3分の1ルール」について、かんたんにご解説をお願いします。

尾形さん:

「消費期限」は、その期日を過ぎると安全ではないおそれがある、という日付です。対して「賞味期限」は、美味しく食べられる目安。必ずしも期限が切れたあとに劣化が進むとは限りませんが、それまでに食べることが推奨される日付です。

「3分1ルール」は、食品流通業界の暗黙のルールです。まず、商品が製造された日から賞味期限までの期間を均等に3つに区切ります。例えば、賞味期限が6ヶ月間の商品は、2か月ごとに区切られます。

この場合、製造日からの2ヶ月の間に出荷されなければ、製造元が対象食品を廃棄します。無事に出荷されて棚に並んだとしても、製造日から4ヶ月間で売れなければ廃棄対象です。

このように、全体の賞味期限のうち、残り3分の1を切る商品が売れ残ってしまうと、仕入れ先に返品されます。小売店によっては、伝票上の操作で返品処理を行い、商品自体は返品せずに小売店側で廃棄することも多いんです。

そもそも、賞味期限は、安全を考慮して本来の期限より短めに設定されています。それにも関わらず、賞味期限の最後の3分の1の期間は、すでに食品としての命がないとみなされるのが現状です。

取り扱い商品は、様々な由来のワケあり商品群

–「エコロマルシェ」の存在意義がよく理解できました。取り扱い商品の具体例をお聞かせください。

尾形さん:

賞味期限切迫、賞味期限切れ商品が主です。期限切れに関しては、スタッフが実際に試食・確認したうえで販売していますので、安心してお買い求めいただけます。

その他、賞味期限内ながらもワケありの商品も扱っています。

・過剰在庫などで放出される商品
・シーズン終了による放出商品
・商品には問題がないものの外装破損などで廃棄対象となる商品
・閉店やパッケージ変更による放出商品

さらに、東日本大震災のあとは、企業が災害備蓄食品を確保し、5年ごとに入れ替えるケースが増えました。そのため、水や缶詰、アルファ米などの備蓄品の寄付が多いタイミングもあります。

もう一点、取り扱い対象は、常温で長期保管ができる商品に限っています。冷蔵物・冷凍物・生鮮食品など、温度管理や衛生管理が必要なものは対象外です。アルコールも酒税の関係で、現状では扱っていません。

–対象商品を、どのような流れで仕入れるのですか?

尾形さん:

起業当初は、企業や小売店などに働きかけて、廃棄品が出るなら買い取らせてくれないか、という営業を繰り返しました。

現在はメディアに取り上げられる機会が多くなったこともあり「買い取ってくれないか、寄付できないか」など、先方からのアプローチが増えてきました。

賞味期限の区別が一目でわかる赤・黄・青の値札

–店頭商品の陳列、価格づけなど、具体的な販売についてご紹介ください。

尾形さん:

賞味期限の区別がぱっとわかるように、値札の色を赤、黄、青で分けています。赤は賞味期限切れ、黄は賞味期限切迫(約1か月後に期限が切れる商品)、青は賞味期限内のワケあり品です。信号の色にならっています。

価格付けについては、賞味期限の状況や、元値や仕入れ値などの条件で変わります。基本的には賞味期限が近いものや、期限切れ期間が長いものは安くなります。同じ商品でも売値が異なることがあるのはそのためです。

–赤・黄・青札の商品の割合を教えてください。

尾形さん:

赤値札の商品がだいたい8割を占めます。賞味期限切れの商品は、流通の段階での廃棄率が高いからです。青や黄値札は合わせて2割ほどです。賞味期限内なのに廃棄の可能性がある商品の場合は、わりとリスクも少なくビジネスになるので、当店でなくても取り扱う店や場所はかなり多くなっています。

ディスカウント感覚での来店でも、食品ロス削減に繋がる

–お客様の購入傾向や反応を教えてください。

尾形さん:

賞味期限の色区分よりも値段のみを見て手に取る方が多いですね。もちろん、会計の前に必ず賞味期限を確認して頂きますが、正直なところ食品ロスの削減という意識からではなく「まだ食べられて安いならいいよね」というディスカウント感覚の方が多い印象です。

最初はがっかりしましたが、考えを改めました。まずは廃棄されるはずの食品を売り、購入して頂くだけで食品ロス削減につながります。やがて世の中の意識が変わり、食品ロス削減に貢献していきたい、こういうものを捨てるべきじゃないから、と食べて頂けるようになるといいですね。

このビジネスに必要なのは、お客様との相互理解

–少々お尋ねしにくいことですが、たくさんの商品が並ぶ中、売れないものがあった場合はどうなるのでしょうか?

尾形さん:

いまだかつて、商品を廃棄したことは一度もないんです。2019年11月に店をオープンして以来、何十万点という商品を仕入れましたが、さばききれなかったことはありません。

もう売れないと思った場合は、値段を1円にしたり、無料で持っていってもらったり、あるいは配ってでも消費者の手に渡るようにします。廃棄しないことがポリシー、原点ですから。

また前提として、さばけない量は仕入れ、受け入れをしません。まずは自分自身が食品ロス削減にしっかりと貢献できる量で、精一杯取り組んでいます。

–賞味期限が切れても食べられるとはいえ、いつかは劣化が進み、リミットもくるはずです。そこはどうお考えでしょうか。

尾形さん:

ここは繊細かつ大事な問題ですね。だからこそ少しでも早く売ることが原則です。先ほどの「さばける量しか仕入れない」ということにもつながります。

また、賞味期限切れの商品については、私自身が必ず慎重に試食をして、大丈夫と確信できたものだけを仕入れて並べています。しかし感覚にも個人差があるはずです。だからこそ、このビジネスに必要なのは、お客様とのコミュニケーションと相互理解だと考えます。

買いに来た方々が、私の話を聞いたうえで判断する、あるいは食べてみて美味しかったという実感をもって頂く。そういうコミュニケーションを重ねて信頼が生まれたお客様が、何度も足を運んでくださいます。

–お話を聞き、私もお店に伺ってみたくなりました!遠方の場合、郵送して頂くことは可能でしょうか?

尾形さん:

「エコロマルシェ」の通信販売サイト(https://loss-reduction.com/)「食品ロス削減市場」をご利用ください。お買い得商品を取り揃えています。

また、賞味期限切れのお菓子を定期的に企業や家庭に届ける置き菓子サービスのメニューもあります。「SDGs@OFFICE」「SDGs@HOME」として、格安でたくさんのお菓子を楽しんで頂けます。様々なコースがありますし、とりあえず一回試したい方には、トライアルプランも用意しています。

パートナー店を増やし、さらに食品ロス削減を目指す

最後に、今後の目標、展望をお聞かせください。

尾形さん:

食品ロスの削減のために、少しでも多くの廃棄対象商品を売り場に置きたい気持ちは山々ですが、店の面積には限界があります。商品の質を落とさないために、さばける量しか扱えないジレンマもあります。大規模な廃棄予定商品があっても、断らざるを得ません。

その問題を解決するために、「パートナー制度」を導入しました。これは、食品ロス削減を目的とした専門店の開業をサポートする制度です。同じく「エコロマルシェ」の看板のもと、独立・開業ができます。当店が本部というわけではなく、横並びで経営の効率化を図りましょうということです。さらに、ノウハウの提供や、開店支援および開店後の継続サポートも実施します。

私の店が大きくなることではなく、仲間が増えることが大事なんです。幸い問い合わせも多く、最終検討段階に入っているものが何件かあります。パートナー店が増えれば、大規模な提供品も分散して買取や受け入れができ、食品ロスの削減にさらにつながります。

もう一つ、長期的な展望は、食品ロス削減を目的とした、こういった店を構える必要がない世の中になることです。つまり、世界や日本から、食品ロスがなくなることです。そのゴールまでは、まだまだ年月が必要でしょう。それまでやるべきことをやっていきます。

–お店が不要となる最終目標に向けて、食品ロス削減とともにお店は発展し続けることと思います。今日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

エコロマルシェ公式サイト https://ecolomarche.com/