NPO法人バディチーム 岡田 妙子さん インタビュー
岡田 妙子
精神科看護、音楽療法、企業の健康管理などの医療・健康関連職を経て、2007年NPO法人バディチームを設立。
▶行政との協働(委託)による事業「支援が必要な家庭への訪問支援事業(子育て世帯訪問支援事業など)」「食の支援事業」「里親家庭支援事業」
▶自主または民間機関との協働による事業 「制度の狭間」にある家庭に対する訪問支援事業・小さな居場所(ばうむ)事業 などを展開している。
目次
introduction
NPO法人バディチームは、「みんなで子育てする社会」をビジョンに、民間の力で養育困難家庭の支援・児童虐待問題解決を目指す団体です。
実際の家庭の中で家事や保育などの支援をするスタッフ「子育てパートナー」や、地域の訪問支援員の数も合計200名以上と、協力の輪も着実に広がりを見せています。
今回は、同法人の活動が始まったきっかけと、今まさに準備を進めている新たな取り組みについて代表の岡田さんにお話を伺いました。
育児をする幸せの中で知った「虐待」という言葉の衝撃
–まずはNPO法人バディチームの紹介をお願いいたします。
岡田さん:
NPO法人バディチームは、さまざまな事情で子育てが大変になっている家庭を訪問し、保育・家事・送迎・学習支援などを通じて親子に寄り添う活動を展開している団体です。
「子どもも大人も誰もが支え合い、みんなで子育てすることで子どもがすこやかに育つ社会」という、団体のビジョンにも掲げる理想の社会像の実現を目指しています。
設立は2007年で、主に自治体からの委託事業を中心に活動を続けてきました。
東京23区を中心に、現在は都内13区で訪問支援を、一部の区では里親家庭の支援も行っています。
里親というと子育てのプロというイメージがあるかもしれませんが、実際にはそうとは限りません。子育て経験のないごく一般的な夫婦が里親になっている場合もありますし、そもそも里子というのは辛い経験をしている子どもたちなので、関係性を構築するのが難しい場合もあるからです。
また、最近よく耳にする「子ども食堂」にさえ足を運べない家庭のために、江戸川区では「おうち食堂」、世田谷区では「おうちDEぽかぽかクッキング」という取り組みもしています。
通常の訪問支援でも食事のサポートは行いますが、これらの取り組みにより、より食に特化して支援している形です。養育困難家庭でも、健康的であたたかな食事を摂ってもらいたいとの気持ちからスタートしました。
–団体を立ち上げたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?
岡田さん:
2000年の虐待防止法の制定の際に初めて子どもの「虐待」という言葉を知り、衝撃を受けたのがきっかけです。現在社会問題として取り上げられることも多いのですが、その頃はまだ虐待という言葉すら知らない人が多い時代でした。
ちょうど自分自身も子育てをしていた時期でしたが、出産が遅かった私は、子どもを授かれたことの喜びでいっぱいの状態と子育ての大変さを知り、他人事ではないと思うようになりました。
そこで「自分にも何かできることはないか?」といろいろと模索する中で見つけたのが、当時東京都のある自治体が実施していた、養育困難家庭のためのホームヘルプサービスでした。
すぐに登録して2年ほど支援員として活動する中で、訪問支援の必要性と手応えを感じたことが、NPO法人設立の決め手になったと思います。
支援員としての活動では、本当にさまざまな家庭の親子と関わりを持つことになりました。
どのケースでも感じたのは、家庭の問題は家庭の中に入って問題を的確に把握し、直接的にアプローチしなければ解決には至らないということです。
また同時に、私自身の精神科の看護師としての経験も思い出すことになりました。精神科に通う患者さんの中には、育った家庭に問題があった方も少なくなく、そのような辛い経験が現在の症状に影響を与えていると感じることが多かったのです。
そのような経験や、実際の訪問支援で徐々に家庭の問題が解消されていく過程を目の当たりにするごとに、訪問支援の必要性を確信するようになりました。
制度の「はざま」にいる親子を救いたい
–では、現在力を入れている取り組みについて教えてください。
岡田さん:
設立当初から委託事業を中心に活動してきましたが、ここ数年は助成金などを活用して、自主事業にも力を入れているところです。
特に今年は日本財団の助成事業が3年目となり、最終年を迎えます。
この事業では、市町村や児童相談所の助けが届いていない、制度の「はざま」にある家庭の支援を同業団体と連携して叶えています。
ここで言う「はざま」とは、たとえば「18歳問題」に該当する家庭です。各自治体で実施される子育て支援は、18歳までの子どもがいる家庭を対象としています。
ところが、18歳を迎えても「ヤングケアラー」に該当しているなど、まだまだ支援を必要としている家庭があるのも実情です。
他にも、DV(家庭内暴力)で施設に避難していて、今いる場所に住民票がないため、すみやかにサポートが受けられない場合があります。
また、そもそも自治体の支援を受けたくないと考えている方もいます。これは過去に自治体の窓口で嫌なことを言われたなどの経験があって、自治体に不信感を持っているケースです。このような場合でも、民間の支援員ならば受け入れてくれることも少なくなく、取り組みを続けていく中で必要性を強く実感してるところです。
そもそも、家庭の問題は児童相談所の面談室で解決できることではありません。
養育困難家庭の保護者には、自身も養育困難家庭で育ち、一定程度に清潔な居住環境で過ごしたり、適切な時間に温かい食事を出してもらったりした経験がない方も多いからです。
お手伝いするのは掃除や食事の準備などの誰にでもできるようなことです。しかし、そのような当たり前と思われることを知らずに育った保護者にとっては大きな気づきになります。
そんな活動をする中、あるお母さんから「私も子育てが落ち着いたら、岡田さんのように困っている家庭を支援したい」と言ってもらえたことが強く心に残っています。
このような地道な活動が家庭を変え、ゆくゆくは社会も変えて行くのだと思います。
小さな居場所づくりを社会みんなの力で
–理想の社会像の実現に向けて歩みを進めていく中で、今後さらに進めていきたい取り組みはありますか?
岡田さん:
すでに動き出している取り組みとして、「小さな居場所づくり」があります。こちらは「子ども未来応援基金」から支援を得て始まりました。
これまで当法人は訪問支援を中心に活動してきましたが、活動の中で、訪問支援だけでは解決できない課題があることを知りました。
たとえば、子どもの不登校が長期化して引きこもり状態になってしまい、解決の糸口が見出せずにいるようなケースです。このようなケースの場合は「子ども食堂」などの支援の場であっても、不特定多数の人がいる場所に出ていけない場合も少なくありません。
そこで、まずは1、2組の親子が安心して一緒に過ごせる場所を作ろうと考えました。
新宿区内の当事務局近くに一室を借り、内装はIKEAさんからご寄付をいただきスタートしました。
ここでは、親子一緒に食事を作って楽しんだり、少し慣れた段階ではショートステイに挑戦してもらったりと、外に出るきっかけづくりをする場所になってくれればと思っています。こじんまりとしているので、友人や親戚のお家に遊びに行く、そんなイメージです。
ちなみに、この事業は「ばうむ事業」という、ちょっと可愛い名前がついています。「ばうむ」というのは、焼き菓子のバウムクーヘンのばうむでもあります。
もともと「ばうむ」はドイツ語で「樹木」の意味なので、「親も子も年輪のように少しずつ年齢を重ねて前進していこう」という願いを込めました。
また、「ばうむ」の音に「場を生む」という意味も掛け合わせています。誰もが安心して過ごせる場所を作るということです。
この名前はみんなで考えて、最後は投票で決定しました。
このばうむ事業は「小さな居場所」のモデル的な取り組みでもあります。小さな居場所であれば敷居が低く、他の子育て支援関係の事業者さんたちにも、ぜひ「居場所づくり」に一緒に取り組んでもらいたいとの思いです。
どの事業についても言えることですが、「みんなで子育てする社会」という理想の実現に向け、まずは自分たちが行動で示していきたいです。
–今度のご活躍も楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました。
NPO法人バディチーム:https://buddy-team.com/