#インタビュー

株式会社カミーノ|サステナブルが当たり前の社会に。半永久的に使えるエコ素材の開発に込めた想い

株式会社カミーノ 設立者 代表取締役  深澤さんインタビュー

深澤 幸一郎

大学卒業後、外務省に入省。本省(北米第二課、国連行政課、海外広報課)、在イギリス日本国大使館、在ガーナ日本国大使館等に勤務。在職中、途上国勤務において内戦や誘拐事件における邦人保護を経験するとともにアフリカや東南アジアのゴミ廃棄問題に強い関心を持つ。2002年に退職後、日本企業の海外向けPRマーケティング会社を設立。2015年に環境配慮型素材ベンチャーである株式会社カミーノを設立し現在に至る。

山梨県出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。ケンブリッジ大学修士。

趣味は英語落語。日本伝統の庶民の笑いを世界に広めるべく国内外で公演を行っている。

introduction

環境配慮型素材による、サステナブルな社会の実現を目指す株式会社カミーノ。脱炭素が求められる今、カミーノがチャレンジするのは環境負荷の低いエコ素材の開発です。

この事業の根底には、本物のサステナブル製品を世の中に伝えたいという想いがありました。

今回、株式会社カミーノ代表取締役の深澤幸一郎さんをお迎えし、取り組みに対する想いと事業内容について伺いました。

半永久的に使えるエコ素材の開発で環境負荷の低い社会を目指す

ーはじめに、事業内容について教えてください。

深澤さん:

食品加工の工程で使用し、本来破棄されていた紙の再生紙と植物成分を組み合わせた、プラスチックに代わる樹脂 「PAPLUS®」という素材を開発して製品を作っており、プラスチックフリーの観点から脱炭素循環型社会の実現に取り組んでいます。

植物由来成分99%以上を実現したPAPLUS®

画像提供:株式会社カミーノ

ー紙と植物成分がプラスチックの代わりを担えるとは驚きです。どんな植物が使われているんですか?

深澤さん:

とうもろこしのデンプンから取り出したポリ乳酸(Poly Lactic Acid, PLA)という成分を主原料にしています。ポリ乳酸は、プラスチック同様に通常の室温環境で長期間使えるという性質を持ち、高温にさらされない限り通常のプラスチック製品と同じように扱えるのです。

そしてPAPLUS®は、原材料の99%以上が植物由来であることから、最終的には微生物によって水と二酸化炭素に分解され、地球へと還るのでゴミになりません。

ーとてもエコな素材なんですね!ちなみに、99%以上が植物由来ということですが、残る数%はどんな原料が使われているのですか?

深澤さん:

主原料はポリ乳酸と紙ですが、一般グレードで約0.4%、耐熱を要するものは7%の石油由来の添加剤を加えています。

ー100%植物由来でないのには理由があるのでしょうか。

深澤さん:

製品化したときの強度と耐熱性を保つためです。

どうしても植物由来のみだと耐熱温度は60°前後になるため、熱湯で劣化してしまったり夏の日差しで変形しやすくなったりして、長く使えません。石油成分を加えることで熱に強く、かつ耐久性が備わった製品に仕上げることができます。

ー環境負荷が低く、使いやすさを兼ね備えた魅力的な素材ですね!PAPLUS®を使った製品はどのようなものがありますか?

深澤さん:

こちらのプラスチックフリータンブラーがあります。

画像提供:株式会社カミーノ
画像提供:株式会社カミーノ

深澤さん:

原料は植物成分が86%とタルクといわれる天然粘土鉱物が7%、耐熱温度が120°なので温かい飲み物にも安心して利用できます。

ーアースカラーでとてもおしゃれですね!タンブラーも微生物によって分解されるんですか?

深澤さん:

はい。コンポスト※の条件を満たせば3〜6ヶ月、土の場合数年で分解されます

コンポストとは

微生物の力により、野菜くずなどの生ごみを分解・発酵させて堆肥を作ること

深澤さん:

他にも、現在、化粧品メーカーと協働してPAPLUS®を使った化粧品の容器の製作を検討しています。

ー化粧品の容器もプラスチックのものが多いですよね。

深澤さん:

そうですね。化粧品の容器って、使い切ったら捨てられてしまうので資源がもったいないですし、なによりプラスチックゴミが増えてしまいます。

そこで、何度も繰り返し使えるように、化粧品に使われるアルコールに耐えられるようインナーキャップを取り入れることや、場合によっては若干石油の比率を高め機能を優先することも考えています。

ー用途に応じて比率を柔軟に変更できるんですね!

深澤さん:

はい。石油成分を高めたとしても、一度きりで使い捨てされるプラスチック容器よりも長く使える素材の製品を提供することで、環境負荷の低い製品作りが実現できます。

平和を祈念して生まれたものを平和のために生まれ変わらせたい FANO(ファーノ)の取り組み

ーほかにも、カミーノでは循環型社会のための取り組みをされているということですが、詳しく教えていただけますか。

深澤さん:

もう一つの主力事業として、折り鶴の再生紙をリサイクルしたFANO(ファーノ)という扇を展開しています。

画像提供:株式会社カミーノ
画像提供:株式会社カミーノ

ーデザインが豊富で文字も印字されていてとても素敵ですね。折り鶴は、どこから仕入れているんですか?

深澤さん:

広島に届けられた千羽鶴を使用しています。

画像提供:株式会社カミーノ

深澤さん:

折り鶴を長期保存する方針により膨大に膨れ上がった折り鶴の対処に苦慮した広島市は、2011年より折り鶴に託された思いを昇華させるためのアイデアを広く求めました。

画像提供:株式会社カミーノ

深澤さん:

そこでたまたま弊社のパートナー会社が折り鶴を原材料に戻す技術を持っていると知り、ならば新しい製品に生まれ変わらせたいという想いでFANOを制作したんです。

ー社会課題にも目を向けられたんですね。FANOはどんなシーンで使われるのでしょうか?

深澤さん:

贈り物としても販売していますし、平和貢献や環境問題のイベントのノベルティにも活用されています。

また、最近ではウクライナで戦争が始まってしまったため、支援として売上の全額を寄付して復興を手助けするという取り組みも始めました。

ー平和のために折られた千羽鶴が、また平和のために貢献しているんですね。

折り鶴の再生紙で「恩返しプロジェクト」

深澤さん:

そしてFANO以外にも、折り鶴を利用した「ONGAESHI Paper(恩返紙)」というプロダクトを作っています。

ーネーミングが素敵ですね。「ONGAESHI Paper(恩返紙)」とはどのようなものなのでしょうか?

深澤さん:

折り鶴を日本の和紙技術と融合させて再生紙に変える取り組みです。

名刺や賞状台紙、結婚式のメニューカードなど記念となるものに生まれ変わらせています。

画像提供:株式会社カミーノ

深澤さん:

ほかにも、引き出物のカバーとして、有名レストランの書籍出版の際に本を包むカバーとしても活用いただいています。

ー記念として使われることが多いんですね。

深澤さん:

そうですね。ビジネス的なものより、社会貢献を軸に展開しています。

折り鶴には多くの人々の平和への想いが詰まっています。その想いをしっかりと活かしてまた平和へ返す。FANOもONGAESHI Paper(恩返紙)も、平和の象徴として活用し続けたいですね。

日本の技術を通して世界にプラスチックフリーの活動を発信したい

ーここまでお話を伺って、徹底した循環型の事業に驚かされます。この事業を始められるきっかけはありますか?

深澤さん:

私は前職で海外の人たちと接する機会が多い仕事をしていました。その中で、脱プラスチックに関しての話題になると、「日本は取り組みが遅れている」と世界から言われることが多くて。

そこから日本独自の方法で脱プラ戦略を立てようと決めたんです。日本には和紙職人など、紙に携わるプロがたくさんいます。そうしたプロの手や細かな技術を持つ企業の力を借りて、日本もこれだけ進めているんだよと証明していこうと思いました。

ー世界に向けて日本の魅力を発信していきたいと思われたんですね。

深澤さん:

もちろん一人では実現が難しいので、私たちの製品に賛同していただき、お買い物の際に環境にどう影響するか考えて購入するという消費者の意識も必要です。

チームジャパンとして、「日本も頑張っているんだよ!」と発信していきたいですね。

本物のサステナブル製品とは何かを伝えたい

ー最後に、今後の展望を教えてください。

深澤さん:

まずは本物のサステナブル製品とは何かを消費者には伝えたいですね。

最近、植物性100%、生分解性100%で環境にやさしいと謳われている製品をたくさん見かけると思います。

しかし、先ほどお伝えしたように、技術的には植物成分のみで耐久性のある製品を作ることは不可能なんです。実際は石油がたくさん含まれていたり、多くの添加物が施されていて環境に配慮されていないものも中にはあったりします。

ー環境にやさしいと書かれていたら、これを買えば環境問題に貢献している!と思いますよね。ではなぜそのように販売されているんですか?

深澤さん:

例えば環境に良いとされ注目されているバイオプラスチック。植物などの有機資源を原料とするプラスチックをバイオマスプラスチックといいますが、その定義は幅広く曖昧なんです。

そのため、植物成分が一定量以上配合されていれば、たとえ生分解がしなくてもバイオプラスチックとして販売することができてしまいます。またその逆で、石油由来成分であっても生分解するものがあり、それもまたバイオプラスチックと呼びます。

ー知りませんでした。

深澤さん:

このように、まだまだ消費者が正しい情報を知りにくい現状があると思います。

そこで私たちは、どの製品に何%石油が含まれているのかを明確に記載し、環境にどれくらい配慮されているのかを見える形で提供しています。

画像提供:株式会社カミーノ <PAPLUS® 物性データ>

ー消費者はそういった知識を知った上で消費活動を行っていきたいですよね。

深澤さん:

はい。そして誤解してはならないのが、プラスチックフリーを掲げる私たちとしては、プラスチックが必ずしも悪であると言っているのではないということです。

ーどういうことでしょうか。

深澤さん:

プラスチックは安くて軽くてとても便利なものです。密封することもできるので災害時にも活躍します。大切なのは目的によって使い分けて生活することが大事だということです。

長く使おうとするのであれば石油由来のプラスチックでもいいんですが、使い捨てでゴミになってしまうものは、もらわない、もしくは長く使える素材に変えるといいですよね。

どんな素材も付き合い方次第で環境への影響が変わってきます。消費者にはサステナブルの本質を知っていただき、そうした意識を持つことが当たり前の社会になることを願っています。

ー貴重なお話をありがとうございました!

取材 N.Sakiko /執筆 Mayu Nishimura

関連リンク

株式会社カミーノ https://ca-mi-no.jp/

PAPLUS®オフィシャルサイト https://paplus.jp/

FANO オフィシャルサイト http://fano.jp/