#インタビュー

千葉県|全県に広く浸透したSDGsの取り組みが、未来を切り開く

千葉県総合企画部政策企画課 矢野さん・堀米さん インタビュー

矢野 裕太郎(やの ゆうたろう)

千葉県習志野市出身。2009年に千葉県庁入庁。土木事務所、健康福祉指導課、市町村課、酒々井町への研修を経て、政策企画課に配属となる。2020年からSDGsの推進に係る業務を担当し、千葉県SDGsシンボルマークの作成や、ちばSDGsパートナー登録制度の創設等に携わる。

堀米 英恵(ほりごめ はなえ)

埼玉県職員。埼玉県三郷市出身。2015年の入庁後、保健所、オリンピック・パラリンピック課、感染症対策課兼務を経て、2022年4月から、千葉県での派遣研修。研修生として政策企画課に配属となり、SDGsの推進に係る業務を担当する。

introduction

千葉県の形をかたどった、千葉県マスコットキャラクター チーバくん。多くの人が一度は目にしたことがあると思いますが、千葉県は新たに17色のSDGsシンボルカラーを使用したチーバくんを作りました。

1人でも多くの人にSDGsについて知ってほしいと、SDGs版のチーバくんとともに企業・団体、県民への普及活動や連携に積極的に取り組んでいます。今回、持続可能なまちづくりを地道に進める千葉県の取り組みについて、千葉県総合企画部政策企画課の矢野さんと堀米さんにお話を伺いました。

地球環境の影響を受けやすい県だからこそ、持続可能な環境作りに力を注ぐ

《鴨川市大山千枚田》

–最初に千葉県のご紹介をお願いいたします。

堀米さん:

千葉県は人口628万人、全国第6位の数を有し、1都3県と括られることから都会的な県というイメージを持つ方も多いと思います。

実際に日本の空の表玄関である成田空港や京葉臨海コンビナートのような物流や産業の拠点があり、商業面、工業面での販売額等の統計は全国10位以内に入っています。

一方で、温暖な気候の下、三方を海に囲まれた地形と豊かな自然環境を生かし、第一次産業も盛んであり、農業・水産業でも都道府県別の産出額・漁獲量が全国10位以内です。

この商業・工業・農業・水産業のいずれも一桁順位なのは47都道府県で千葉県のみで、全国的に見てもバランスの良い産業構造を持ち、都市部の良い面と地方の良い面を併せ持っているのが特徴です。

–ではSDGsへの取り組みについての考えや、現在どのように取り組みを進められているのかをお聞かせいただけますか。

矢野さん:

SDGsは「だれ一人取り残さない」社会の実現を目指し、「経済」「社会」「環境」をめぐる広範な課題に統合的に取り組んでいくものであり、その考え方は、県と同じ方向を向いていると思います。そのため、SDGsにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。

特に千葉県は農業や水産業などの第一次産業が大変盛んであり、それゆえ日本の中でも地球環境の影響を非常に受けやすい県であると思います。

この先、千葉県の住環境や産業を守り、発展させていくためには、持続可能な環境づくりをどこの県よりも重視し、全庁を挙げてSDGsに取り組んで行かなければならないと考えていますし、この姿勢を県民の皆様にもしっかり伝えていきたいと思っています。

具体的には、令和4年度からスタートした新たな総合計画に沿ってSDGsに取り組んで行くこととなります。

この総合計画には、分野ごとに6つの基本目標と目指す姿が示されており、今後10年間に渡って実行していきます。

総合計画にSDGsの考え方を取り入れたことが、各部局にも少しずつ浸透してきており、それぞれで独自の取り組みもされるようになりました。

例えば商工労働部という産業振興などを担当している部局では、「SDGsを広めるには自分達に充分な知識がなければ」と考え、有識者を招いて勉強会を開きました。

また、環境生活部は温暖化対策などを担当している部局ですが、県内の企業や団体向けに脱炭素化推進のセミナーを開くなどしています。

県としては、行政職員だけでなく、県民の皆様や企業の方々がSDGsの理解を深め、身近な・できることから取り組んでいただきたいと考えています。

「ちばSDGsパートナー登録制度」で企業・団体の連携が進みSDGsのすそ野が広がっていく

-特に現在力を入れている取り組みについてお聞かせいただけますでしょうか。

堀米さん:

現在、力を入れているのは「ちばSDGsパートナー登録制度」です。

「ちばSDGsパートナー登録制度」は、企業等がSDGsを推進するきっかけ作りや、具体的な取り組みを後押しすることを目的として、令和3年度に創設しました。

登録の条件として「経済」「社会」「環境」各側面の具体的な取り組みを推進すること、取り組みの目標を定めることが必要です。

この制度は県内にSDGsのすそ野を広げるための制度ですので、決してハードルの高いものではありません。現在取り組んでいることや、事業を見直してこれから進めていくことでも登録できます。EV車の導入や、コピー機の使用量の削減など身近な取り組みでも大丈夫です。

この制度に登録した団体には、①千葉県ホームページにて「SDGsに積極的に取り組む団体」として紹介される ②千葉県SDGsシンボルマークを名刺や会社案内等に使用できる ③低利の県制度融資(ちばSDGsパートナー支援資金)による支援が受けられる というメリットがあります。

矢野さん:

「ちばSDGsパートナー登録制度」と同じような制度は他自治体にも多くありますが、千葉県の制度の大きな特徴として「ちばSDGs推進ネットワーク」との連携があります。

このネットワークは県経済界を挙げた取り組みです。地域金融機関・主要経済団体・信用保証協会と千葉県で構成されており、各団体の取引先や会員企業に対して「ちばSDGsパートナー登録制度」を周知しています。こうすることで、地域・業種・業態をもれなく網羅して普及、啓発ができます。

このネットワークの効果は高く、パートナー登録制度の募集開始からおよそ1年となる令和4年末の時点で1,588団体が登録してくれました。この登録数は他の制度と比べてもトップクラスだと自負しています。

また、登録されている業種も、建設業・サービス業・卸小売業・学校など多岐にわたります。

「ちばSDGsパートナー登録制度」に登録されている団体の印象的な取り組みがありましたら、ご紹介をお願いします。

堀米さん:

はい、3団体の取り組みをご紹介させていただきます。

1つ目は「千葉県沿岸小型漁船漁業協同組合」の取り組みです。

この組合は5つの漁業協同組合と16の船団から成り、400人以上の漁師さんで構成されていて、協力してキンメダイの資源管理に取り組んでいます。

《外房のつりきんめ》

持続的に採っていきながら、将来的にキンメダイを絶やさないために、漁場の管理・使用可能な漁具の設定・操業時間の設定・禁漁の時期設定など、もう50年以上も自主管理をしているんです。

例えば1969年頃は漁のできる時間は日の出から日没まででしたが、1993年には6〜8時間になり、2013年からは4時間と定めています。また、7月から9月までのキンメダイの産卵期は禁漁にするなど、厳しいルールを定めています。

操業時間などのルールを破ったときにはその船が所属する船団全体が、次の日の漁を自粛しているそうです。

また、標識放流といって標識を付けたキンメダイを放流し、このデータを資源管理に生かしています。

これらのルールや取り組みは、一部の人達が決めているわけでなく、漁師さん全員で話し合って決めているそうで、だからこそ厳しい管理ができ、今でもキンメダイ漁ができているのですね。

2つ目は柏市「麗澤中学校・高等学校」の部活動でのSDGsの取り組みです。

同校の「SDGs研究会EARTH」は、学校の70周年の式典時に、小児がんの子ども達を支援するレモネードスタンドを開き、多くの支援を集めたのがきっかけで発足しました。

そして、取り組みの資金確保のためにフェアトレードコーヒーの販売を始めました。

保護者会や学校行事でドリップコーヒーを淹れて販売していましたが、2020年には東ティモール産のフェアトレードコーヒーをドリップバックにして、オンラインで販売を開始したそうです。

《ドリップバックコーヒー》

フェアトレードは、開発途上国の生産者を支援するために、適正な価格で生産物を直接継続的に購入する貿易のことであり、このしくみを多くの人達に知ってほしいという思いも込められています。

今までに4,000個以上のドリップバックが販売され、東ティモールへコーヒー豆の水分測定器も寄付しています。

《東ティモールの方と水分測定器》

この活動がきっかけになり、他校との合同発表会や、地域の飲食店や農家とのコラボレーション、東ティモールの駐日大使の来校など学校を超えた交流に発展しています。

また、このコーヒープロジェクト以外にも『フェアトレード紅茶のプロジェクト』『幼稚園児にSDGsをわかりやすく伝えるプロジェクト』『学校の食堂から出る廃油を元に石鹸を作るプロジェクト』『不要になった制服を回収するリユース活動』など10以上のプロジェクトがあるそうです。

《部活動の様子》

最後にご紹介するのは、「ジェフユナイテッド株式会社」の取り組みです。

ジェフユナイテッド株式会社は、サッカーチーム「ジェフユナイテッド市原・千葉」を運営する会社です。

こちらの会社では、食品ロスをはじめとした食料問題解消への取り組みに力を入れています。

サッカーの試合がある日にサポーターに呼びかけ、家にある余剰の食品を集め、フードバンクに届けています。食品ロスの問題があること、食べることが困難な人達がいることを知らせるのも大切なことだと考えています。

フードバンクでは集まった食品の仕分けが非常に大変なのだそうですが、男子・女子のトップチームの選手や、ジュニアユースの選手達がここで仕分け作業のお手伝いをしています。このクラブでは選手達が世の中で起こっていることを理解し関心を持つことは、ピッチで力を発揮するときにも生きてくると考えているそうです。

《選手の活動の様子》

また、2021年のクラブ設立30周年を機に「ダイバーシティ」をクラブ理念の一つにかかげていることから、ホームスタジアムでの除草作業やホームゲームでのプログラム配布作業などを地域の社会福祉法人に委託するなど、障がい者の就労支援もしています。

さらに、サッカースクールのコーチやレディースチームの選手が保育園・幼稚園・小学校などを巡回し教育プログラムを展開するなど、教育支援も行っています。

担当者としては「最初に触れるプロのスポーツ選手が女性であるということは、ダイバーシティの面から考えると大きな意味があるのではないか」と考えているとのことでした。

《教育支援の様子》

このように様々な取り組みをしている団体が「ちばSDGsパートナー登録制度」に登録しています。登録している皆様からは、シンボルマークを使った名刺を活用することなどで、周りからSDGsの活動を認知してもらえ、また自分達も意識と自覚を持てると良いご意見をいただいています。

矢野さん:

そして、異業種の団体が多数登録していることで、様々な連携が生まれ、おもしろい取り組みに繋がっています。

例をあげますと、東邦大学の学生が中心になり、県内企業や団体のSDGsの取り組みを紹介するウォールアートを制作し、習志野キャンパスに展示しました。

《ウォールアート》

地域におけるSDGsの普及や取り組みの発展を狙ったもので、行政、金融・保険業、製造業、地元の商店などを含む様々な企業、農業や漁業組合、市民団体など30団体以上の協力により制作が進められ、ネットワークが広がりました。

《学生の活動の様子》

17色のチーバくんの「千葉県SDGsシンボルマーク」が企業・団体・県民をつなげ、SDGsへの意識をさらに高めていく

–大変興味深い取り組みをされていますね。

パートナー団体からも良い評価を得ている「千葉県SDGsシンボルマーク」にはどういった特徴があるのでしょうか。

矢野さん:

千葉県SDGsシンボルマークは、Suicaのペンギンの作者でもあり、千葉県マスコットキャラクター チーバくんの作者でもある、坂崎千春さんにお願いして令和2年度に作りました。

チーバくんが17色のSDGsシンボルカラーになったデザインです。

 

SDGsの取り組みは「自分ごと化」「自分の出来るところから始める」ことが大事だと考えています。県民の皆様にいかに広く知ってもらうかが行政としての大事な仕事です。

ですから、すでに親しまれているチーバくんを使ったSDGsのシンボルマークを作りたいと思いました。

実はチーバくんは作者の意向もあり、今まで赤い色しか使われていませんでした。なので、この17色のチーバくんはとても新鮮な印象があるようです。「このチーバくんもかわいい」と言っていただく機会が増えましたね。

堀米さん:

17色のチーバくんのSDGsシンボルマークは、いろいろなところで使われています。

県庁では、シンボルマークの付いたファイルをイベント時に配るなどし、啓発活動に使うとともに、SDGs関連の資料や広報紙、名刺などにも使っています。

SDGsパートナーの中では、例えば建設関連会社では工事現場の看板やヘルメットに付けたり、飲食店の紙ストローの案内ポップ、会社の紙ファイル・名刺に付けられたりしています。

自社がSDGsに取り組んでいるとわざわざPRしなくても、シンボルマークを使うことでSDGsに関する話がはずんだりすることもあるとパートナーの皆様からも好評です。

令和4年1~2月の第1回募集で登録したちばSDGsパートナーに限定配布したピンバッジは、県民の皆様にも大変評判が高く、企業でも社員全員で付けたいとの要望などもあり、一般に発売しています。

–17色のチーバくんは、県民全体にSDGsを浸透させる大きな役割を担っているのですね。

他にも啓発活動をしていらっしゃいますか。

堀米さん:

はい。未来を担う子ども達への啓発は大切だと考えていますので、子ども向けの活動にも力を入れています。

SDGsへの理解と関心を深めてもらうために、県庁のホームページに「ちばSDGsキッズページ」を立ち上げました。

SDGsの目標やスローガンの説明だけでなく、どのようなことが問題なのか、どうして取り組まなければならないのかを子どもにも分かりやすいように工夫して作っています。

身近な問題を学べるクイズなどもありますので、主体的な学びにつながると良いなと思っています。

子ども達からは「夏休みの自由研究にSDGsを取り上げた」などの嬉しい声も届いています。

また、県内の小中学校にSDGsシンボルマークを活用したポスターも配布しました。このポスターは「ちばSDGsキッズページ」の入り口として作ったもので、QRコードからホームページが見られるようになっています。

各部局でも子ども向けの啓発を行っており、例えば環境生活部では、高校生や大学生向けに、環境分野のSDGsに関するセミナーを開催する予定です。

ひとりでも多くの子ども達が、SDGsに興味を持ってくれるように啓発活動を行っていきます。

–それでは、最後に今後の展望をお聞かせください。

矢野さん:

現在「ちばSDGsパートナー登録制度」への登録は順調ですし、SDGsへの理解や意識の浸透も進んでいると思います。

しかし、千葉県には約12万社の中小企業がありますので、それを思うと1,500団体の登録は初めの一歩に過ぎません。

「帝国データバンク」の調査結果では、千葉県内の企業で「SDGsに積極的」な企業は52.8%。一方で「言葉は知っていて意味もしくは重要性を理解できるが、取り組んでいない」という企業が32.7%という結果が出ています。この結果からもSDGsをさらに広め浸透させていく必要があると思っています。

また、企業同士の連携ももっと進めていきたいと考えています。「ちばSDGs推進ネットワーク」とも連携し企業同士のマッチングにも力を入れていくことが、企業等の取り組みの更なる充実や目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」の推進にも繋がると考えています。

これから、企業向けのSDGsセミナーを開催する予定にもなっていますので、SDGsのすそ野をますます広げたいです。

もう一つは、現在の登録団体は都市部に偏りがちですので、今後は地方の団体にもアプローチしていきたいと思っています。

県民の皆様への浸透にも伸びしろがあります。世論調査を行ったところ、6割はSDGsに関する知識を持っているが、残りの4割はまだ知らないという結果でした。これからもチーバくんのSDGsシンボルマークを活用して、出来るところから取り組みを始めていただけるように周知していきたいと思います。

–本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

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