#インタビュー

関西学院大学|最良の教育環境を整備しながら、学生を巻き込み魅力を引き出す「大学の使命」とは

関西学院大学 阪教授 中川さん 坂井さん インタビュー

阪 智香

関西学院大学商学部 教授(専門:  環境会計)SDGs推進本部 委員

中川 冬華(写真左)

関西学院大学商学部 3年(国際ビジネスコース 藤沢武史ゼミ)KG SDGsキャンパスサポーター代表

坂井 瑞希(写真右)

関西学院大学商学部 3年(会計コース 阪智香ゼミ)KG SDGsキャンパスサポーター副代表

Introduction

関西学院大学(兵庫県)の母体である関西学院は、1889年にキリスト教主義に基づく全人教育を目指して創立されました。よりよい世界の創造へ向け尽力する「世界市民」の育成を使命とし、「Mastery for Service(奉仕のための練達)」をスクールモットーとする同大は、国際協力分野のリーダー養成やSDGsの活動に熱心に取り組んでいます。また、同大SDGs推進本部公認の学生団体「KG SDGsキャンパスサポーター」は、在学生のSDGs活動をプラットフォームとしてとりまとめ、同時に古着リサイクルなどの自主的なイベントの企画と運営、さらに他団体との協働も積極的に行っています。

今回は、関西学院大学「SDGs推進本部」メンバーでもある阪智香教授と、「KG SDGsキャンパスサポーター」の中川冬華代表、坂井瑞希副代表にお話を伺いました。

100年前から続く「奉仕の精神」で世界に貢献する人材を育成

–まずは、御校のスクールモットーとミッションをご紹介ください。

阪教授:

スクールモットーは、1912年に第4代院長のC.J.L.ベーツが提唱した「Mastery for Service(奉仕のための練達)」です。ここでの「マスター」は、人間性・学び・生活のいずれにおいても完成された人格、すなわち自律的な人間を意味します。「サービス」は、本学のキリスト教主義的な理解では、「神への奉仕」を原点として、隣人・社会・他者に仕えて生きる人間のありかたを示しています。

多くの卒業生が、年齢を重ねるにつれて「Mastery for Service」という考え方の重要性をより強く認識し、母校のスクールモットーを意識した人生を歩んでいます。本学では、自分にとっての「Mastery for Service」とは何なのか?という、人生のビジョンを見出せるような教育を心がけています。

(ベーツ第4代院長直筆)

そして、本学のミッションは「“Mastery for Service ” を体現する、創造的かつ有能な世界市民を育むこと」です。「世界市民」とは、他者と対話をして共感する能力を備え、よりよい世界の創造に向けて責任を担う人々のこと。勉強面だけでなく、世界をよりよく変革するために必要な様々な能力を伸ばす教育を行っています。

本学は、人間力を鍛える正課外教育として、クラブ活動などにも注力しています。私は体育会ラクロス部の部長を務めていますが、プレーの技術的なことだけではなく、心技体と生活の全てにおいて日本一のチームとなる教育に取り組んでいます。また、外国大学のチームとの国際交流、献血活動、小学校でのKidsラクロス教室、スポーツマネジメントやスポーツデータ分析、企業と連携した栄養学の学習などもしています。


(献血活動の様子)

ラクロス部の活動を通じて、「Mastery for Service」や、関西学院大学体育会のモットーである「Noble Stubbornness(品位ある不屈の精神)」を体現し、社会に通用する自律型人間を育成する教育を実施しています。その結果、全員が初心者として競技を始めるにもかかわらず、最多の全国優勝回数を誇るチームとなっています。他の体育会でも同様の取り組みがなされています。

                   (2018年ラクロス全日本大学選手権大会女子の部 優勝時の様子)

–世界をよりよくするために、他者のために貢献する人材を育む。SDGsにも通じるところが大きいですね。部活動以外でも、奉仕活動は盛んだったのでしょうか。

阪教授:

はい。百年ほど前の関東大震災では、発生から四日後には学生会が関西学院救援団として医療・食料品等を携えた学生を関東へ送り出し、救援活動に参加しました。また、船で神戸に避難してきた被災者を支援し、義援金募集の巡回や、数百名の学生が避難民を送迎したりしました。

阪神淡路大震災では、本学も大きな被害を受けましたが、自発的な関西学院救援ボランティアに、大学生・高等部生2,500名余りが参加しました。この活動をきっかけに、後に「関西学院ヒューマンサービスセンター」が生まれました。以降、2016年に熊本で起きた震災などでも多数のボランティアが現地に赴いています。

このような奉仕の精神が時代を越えて現在まで脈々と受け継がれていることを実感しています。

国連や国際機関で活躍するための手厚い教育制度

–よりよい世界を創る「世界市民」を育成するために、関西学院大学ではどのような点に力を入れていらっしゃいますか。

阪教授:

本学の特長として、国連との深い関わりが挙げられます。その歴史は長く、25年以上前からすでにニューヨークの国連本部での研修セミナーへ学生を派遣していました。2004年からは、大学としてはアジア初(世界3番目)となる国連ボランティア計画との協定に基づき、「国連ユースボランティア」の基幹校となり、他大学も交えた、途上国を中心とした国連機関への派遣プログラムがスタートしました。このプログラムでは、各大学から選抜された学生たちが現地で直接支援活動をしています。

2017年には「国連・外交統括センター」を設置しました(以下、センター)。センターは、国連・国際機関の職員や外交官など、国際協力分野で活躍するリーダーの養成を目指して様々なプログラムを提供しています。この活動は、文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援事業」に採択された、本学の構想の一環(「国連・国際機関等へのゲートウェイ創設」)として推進しています。

本学には国連出身の教員が多数在籍しており、センターは関学独自の実践的でハイレベルな教育を担っています。学部では、副専攻の「国連・外交プログラム」で体系的な知識と経験を身につけることができ、大学院副専攻「国連・外交コース」は、国際協力分野のリーダーを養成する本格的な演習授業を全て英語で学べるカリキュラムとなっており、国連機関等でのインターンシップへの参加も必須となっています。

さらに、センターは高校生や卒業生などに対して、幅広くサポートも行っています。

元国連事務次長の明石康氏を塾長に迎えた「関西学院 世界市民明石塾」には、本学院内外の全国の高校生が参加し、早い段階から国際的な視点を養うことができます。また、卒業・修了後も、実務経験を積みながら国連職員を目指すための様々なキャリア支援をしています。

–災害時や途上国でのボランティア活動や、国連で活躍するための授業を選択できるなど、国際的に貢献できる人材を育む環境が整っているように感じますね。

大学の使命とは、SDGsに学生を巻き込み才能を引き出すこと

–ここからは、より具体的なSDGs活動についてお伺いしたいと思います。大学として実際に行った取り組みで、特長的なものはありますか。

阪教授:

本学のSDGsへの取り組みは多岐にわたっていますが、ユニークな例ですと、株式会社スノーピークと本学、そして学生の協同で開発した神戸三田キャンパス(KSC)オリジナルマイボトルが挙げられます。KSCにオープンした「BiZCAFE」では、オリジナルマイボトルを持参した学生にコーヒーなどの飲料を無償で提供し、これまでに10万本以上のペットボトルの削減に成功しました。

大学のSDGsにおける使命として最も大切なのは、研究と社会貢献への意欲が高い学生を育てることだと思っています。環境マネジメントシステムを作るにしても、学生を巻き込むことで彼らの意識は変わり、長期的な力となります。

学生たちの行動力、柔軟な発想は本当に素晴らしいなと思っています。

学生主体で広がっていく、関西学院大学のSDGs活動

–本日は「KG SDGsキャンパスサポーター」のメンバーとして実際にSDGs活動をなさっている、関西学院大学の学生お二人にもご同席いただいています。

はじめに、活動内容についてお伺いできますか?

中川さん(学生団体・代表):

私は、2022年4月に本格的に活動を開始した「KG SDGsキャンパスサポーター」の代表を務めています。同席している坂井が、副代表を務めています。

現在は9つの学部から20名の学生が参加しており、阪教授が所属する「SDGs推進本部」と連携して、プラットフォームとしての活動とSDGsの啓発に取り組んでいます。当初は、本学の学生によるSDGs活動の取りまとめ役でしたが、今ではみずからイベントを企画するなど、実際の活動にも取り組んでいます。

–例えば、どのような団体を取りまとめているのでしょうか?

中川さん:

Re.colab KOBE」(通称「リコラボ」)という学生団体は、神戸市北区の耕作放棄地で里山の再生などに取り組み、須磨海岸や烏原貯水池でブルーカーボン(海草や水草によって吸収された炭素)を活用したCO₂削減にも貢献しています。

この他にも、フェアトレードに取り組む団体「Spica」が休み時間にフェアトレードマカロンを販売したり、SDGs共通科目の受講生たちが「SDGsダイアリー」の制作と販売を行ったりと、様々な取り組みがあります。

中川さん:

これまでの活動をいくつか紹介させていただきます。

1.古着リサイクル

SDGsの12番目の目標である「つくる責任 つかう責任」へ向けて、学生から回収した200着弱の古着を学園祭で来場者に無料配布しました。140着ほどが新しい持ち主の手に渡り、捨てられるはずだった古着を有効に活用してもらうことができました。また、残った古着は、INNOVATION PARK OSAKA IZUMI(大阪府和泉市)で行われた、ハンディキャップを持つ方と学生によるコラボファッションショーで活用しました。

2.学食でプラントベース食を提供

学生団体「KAKEHASHI」との連携により、学食で、肉を使用しない「プラントベース食」のメニュー(大豆ミートのタコライス)を6日間限定で販売しました。「牛肉や豚肉の生産によって、多量の水が消費されるとともに多量のCO₂も排出され、地球環境に負荷がかかっている」ことを考えてもらうための企画でした。味の評判もよかったようです。

3.留学生との清掃活動

GS Network」という外国人留学生との交流団体と協同し、プロギング(街中をジョギングしながらのゴミ拾い)とGPSランニングをかけ合わせた「GPSプロギング」を行いました。イベント終了後のディスカッションでは、SDGsへの認識が各国で異なることを知ったり、日本の遅れを実感したりと、お互いの理解が深まり、とても有意義な時間を過ごせました。

(GPSプロギングの様子。左上の画像は、GPSアプリで描いた文字アート)

学生自らが行動することで、得られる気づきがある

–実際にSDGsの活動をする前と後とで、意識の変化などはありましたか?

中川さん:

実は私自身、最初からSDGsについて深い知識があったというわけではなく、どんなことをすれば貢献できるかも、よくわかっていませんでした。

ですが、実際に活動をしていくなかで、「SDGsという言葉は難しいけれど、簡単に出来ることもたくさんある」と気づくことができました。SDGsが皆にわかりやすく触れやすい、身近なものになっていくといいなと思っています。

坂井さん(学生団体・副代表):

私の場合、環境問題に興味を持ったきっかけは、入学後に受けた阪先生の授業でした。カードゲームで楽しく遊びながら、実際に世界で起きていることを具体的に感じることができたんです。テレビで見聞きするだけの問題も、身近なところで起こるかもしれない…と思い、自分ごととして捉えるようになれたのは大きかったと思います。

(商学部科目「ビジネスプロジェクト:ビジネス&SDGs」の授業風景)

坂井さん:

ただ、コロナ禍ということもあり、SDGsについて学び自分ごととして捉えられても、どこで・どのように行動に移せばよいのかわからないことが悩みでした。「KG SDGsキャンパスサポーター」に参加し、インプットとアウトプットの両方の側面で経験を重ねられたのはよかったなと感じています。

さらに、阪先生との出会いや、キャンパスサポーターの活動を通して、SDGsに繋がる行動は自分にとって「やらねば」ではなく「自然な気持ち」であることに気づきました。大学では「自分だけではなく他者のためにもなるように」という教育を受けてきましたし、「支え合って生きていくのが当たり前」であるという考え方が自分の根底にあります。この、自分の根底にある考え方が体現されたのがSDGsなのかな、と思えるようになりました。

–具体的な活動への参加によって、行動を通して気づくことが多いと感じたのですね。他のメンバーの方々も同じでしたか?

坂井さん:

そうですね。「KG SDGsキャンパスサポーター」に参加した他のメンバーも、SDGsに強い興味があって入ってきた学生たちばかりではありません。「何かやってみたい」「イベント企画って何?」「就活に役立つかも?」など、入り口は様々です。

ただ、一緒に活動に参加していた物静かな子から、「この団体に入ってイベントなどで自分の意見を言えるようになってきた」と聞いた時は嬉しかったです。視点を変えたり、ちょっとしたことが誰かの役に立ったりする経験が、意識の変化を生むんだなと感じています。

(Zoomミーティングの様子)

主体的に活動の幅を広げる学生たちを、教育の力で支援する

–最後に「KG SDGsキャンパスサポーター」と「関西学院大学」、それぞれの今後の展望をお聞かせください。

坂井さん:

今後は、プラットフォーム機能と具体的な活動の両方を強化していきたいなと考えています。

結成して一年ほど経ちますが、まだ学内にはSDGsに寄与できる団体がたくさんあるはずです。それぞれの繋がりを広め、深め、連携し、イベントを通じてSDGsの活動にいろいろな人を巻き込んでいきたいです。

また、直近の活動予定としては、関西学院大学の併設校である関西学院千里国際高等部で、SDGsについての出張授業を行う予定があります。それぞれの視点からSDGsについての考えを深めたり広めたりできるのではと期待しています。

阪教授:

大学の使命として、教育が一番大事だと思っています。

関西学院大学では、SDGs教育により一層力を入れていきます。

現在、全学部生が学べる「SDG入門科目」や、各学部によるSDGsの授業がありますが、来年からは国際教育・協力センターで、「国連SDGs入門科目」を開講します。本科目については、現在、国連大学SDG大学連携プラットフォームにおいて開発・オンライン授業の試行が進んでおり、志甫啓先生(国際学部)が開発責任者の一人を務めるとともに、「多文化・共生」に関する一コマを担当しました。

さらに、「キャンパスを出て、社会に学ぶ」というコンセプトを持つハンズオン・ラーニング・センターでも、来年度から、「グリーン・イノベーション」という魅力的な授業を開講する予定となっています。2019年のダボス会議で共同議長を務めた坂野晶さん(一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事、本学総合政策学部卒業)が講師を務めます。学生たちが脱炭素に向けて最前線で活躍されている実践者から広く学べる機会になると期待しています。 授業への取り組み以外では、2022年10月に兵庫県庁が設立したプラットフォーム「ひょうごSDGs Hub」にも入会しました。様々な企業や自治体が122団体(2022年12月末時点)参加していますので、多様な会員と連携を深め、「Mastery for Service」の実践の一環として、今後も幅広い社会貢献にかかわれることが楽しみです。

–教える力と学ぶ力が合わさり、大きな実りになることが楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

関西学院大学:https://www.kwansei.ac.jp/index.html 

関西学院SDGs情報発信HP:https://kgc2039.jp/sdgs/ 

KG SDGsキャンパスサポーター:http://kg-sdgs.com/

(インスタグラム)https://www.instagram.com/sdgscampus_kg/