
父親が赤ちゃんや幼児と一緒に出かける姿をよく目にするようになり、「イクメン」という言葉もあまり聞かれなくなったほど、男性が育休を取ることが当たり前になってきたように見えます。
しかし日本の現状は、夫婦の希望や世界の水準に比べるとまだ隔たりがあります。その隔たりを埋めるべく制度の改正が進められてきました。本記事では、改正後の最新の状況を整理し、それぞれのライフスタイルに合った育休のあり方について、特に「男性の」という視点を持って解説しています。是非一緒に考えていきましょう。
目次
男性の育児休暇について

現在、男性の取得可能な育休にはどんなものがあるのでしょう。まずそこから整理していきましょう。
育児休業制度
育児休業制度とは、育児・介護休業法に基づいて定められたもので、原則1歳未満の子どもを養育するための休業制度です。子育て中の男女労働者が対象なので、もちろん男性も対象です。
令和4年には、条件が整えば
- 配偶者が専業主婦でも取れる。
- 有期雇用労働者もとれる。
- 最長2年まで延長できる。
- 分割して取ることもできる。
といった改正が加えられ、男性側もより取りやすくなってきました。
参考・出典:Ⅱ-1 育児休業制度 Ⅱ-1-1 育児休業の対象となる労働者
パパ・ママ育休プラス
パパ・ママ育休プラスは、2010(平成22)年から取り入れられている制度で、両親がともに育児休業をしたいときに利用することができます。子どもが1歳2か月に達する日までの間で1年間取ることができます。
参考・出典:改正育児・介護休業法について
産後パパ育休
「産後パパ育休」は「出生時育児休業」の通称で、育児休業とは別に子どもが生れてから8週間以内に4週間の休業を取得できる制度です。それまでの「パパ休暇制度」の新バージョンとして令和4年10月より施行されています。
女性は産休中であることが多いので、主に男性が対象となります。産休を取っていない女性も取ることができます。また、分割で取ることもできます。
参考・出典:出生時育児休業制度) Ⅱ-2-1 産後パパ育休の対象となる労働者
まとめると、現在男性が利用できる公的な育児休暇制度は
- 育児休業制度
- パパ・ママ育休プラス
- 産後パパ育休
となります。
この他に企業独自の休暇制度を設けているところもあり、仕事の都合ばかりでなく、家族の支援や育休手当なども考慮に入れ、柔軟な取り方ができるようになってきました。
男性の育児休暇に関する現状

では、父親となる男性は実際どのように育児休暇をとっているのでしょうか。最新の状況を見ていきましょう。
実際の育児休業取得率の推移
上のグラフに見られるように、男性の育児休暇取得率は、平成年間の終わり頃から上向き始め、育児・介護休業法改正された令和4年は急上昇しています。女性の取得率は平成年間半ばから現在まで80~85%で推移しており、「急上昇はしているが、女性に比べ低い」という状況です。
また職種によって違いがあり、国家公務員(一般職)は51.4%という取得率を出しています。対して民間企業は、公務員に比べるとまだ低い率に留まっています。


何日間くらい取っている?
男性が育児休暇として取っている日数は、平均29. 9日となっており、2019年に2. 4日だったことと比べれば、10倍以上に増えています。
大企業に限れば、46. 5日という調査結果も公表されており、多くの男性が育児に関わるようになってきた現状が伺えます。
参考・出典:「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」(速報値)(調査対象:全国の1000人超の企業・団体),男性育休白書2024 | IKUKYU.PJT | 積水ハウス及び【男性育休白書2023】男性の育休取得率 | 経営プロ
なぜ男性の育児休暇が注目されているのか

この章では、なぜ男性の育児休暇が注目されているのか、その背景をみていきましょう。
子育てへの想い
すでに子どもが生まれた時に育児休暇を取得したい、子育てに関わりたいと考える男性が、2017(平成29)年にすでに約80%になっています。パートナーである女性は、98.2%が「父親に育休をとってほしい」と思っているという調査結果が出ています。
両親で協力して子育てしたい、またはその必要があると感じている現れではないでしょうか。
核家族が標準化していることや、女性の職場復帰・社会進出の流れが顕著な中、夫婦で協力して子育てをしていこうという流れが大きく、強くなってきています。
また、「結婚当時の予定子ども数」の調査では、「2人」と回答した割合が40〜50%ほどを占め、「3人以上」と回答した割合も2割近くありました。

少子化と生産労働人口減少
多くの夫婦が子どもをもつことに前向きであるという数値が出ているのにも関わらず、現実の出生率は、2023年には1.20と過去最低を示しました。
日本の少子高齢化は世界的にも最も顕著と言っても過言ではありません。それに伴う生産労働人口の減少も大きな問題となっています。
同調査結果から、「理想の子どもを持たない理由」として、最も大きな割合を示しているのは、
- 多額な教育資金:前回より減少
- 高年齢出産への不安:ほぼ前回と同じ
- 育児への心理的・肉体的負担:前回より増加
の3項目です。
特に「3.育児への心理的・肉体的負担」は最も増加率の大きい項目です。出産の負担のほとんどは女性にかかるものですから、出産中・後の女性は、より心理的負担の軽減をパートナーや家族に頼ろうとする傾向があります。母親の身体が充分回復するまでは父親の育児力に期待がかかる状況と言えるでしょう。
見え始めた育休制度改正等の効果
近年の改正では企業に向けて強化されたポイントがあります。
令和3年の改正では、従業員1,000人以上の企業には男性労働者の育児休暇取得状況の公表が義務付けられています。
さらに令和4年の育休制度改正では、当事者へ向けてだけでなく、次の3点が企業に向けて指示されました。
- 雇用環境の整備:研修の実施・相談窓口設置・事例収集と提供
- 個別の周知・意向確認の措置の義務化
- 有期雇用労働者(アルバイト・パートタマー等)の育休取得要件の緩和
「理想の子どもを持たない理由」の第1位に挙げられていた教育資金の問題に対しては、育児休業給付金 ※ を手厚くしたり、高等教育に関しても授業料無償化を図ったりするなどして、教育資金問題への対応もなされつつあります。
※ 育児休業給付金について詳しくは育児休業等給付について|厚生労働省
同理由の「育児への心理的・肉体的負担」については、母子保健法で産後ケア事業を位置付けるなどで対応を図ってきています。
育休取得については、まだ男女差や希望と現実との差がありながら、改善の兆しが見えています。この方向で進めることで、少子化・労働人口減少への歯止めがかかる希望が見え始め、今後に期待がかかり、注目もされているのです。
男性が育児休暇を取得することのメリット

男性の育休取得状況の公表が義務化されてから、具体的な状況が鮮明になってきました。夫婦へのメリットや、企業さらに社会へのメリットをまとめていきます。
①男性とってのメリット
各企業の社報には、育休を取った男性社員の声が掲載されています。
- 子育ての大変さを実感したが、喜びも大きかった。
- 妻との信頼関係が深まった。
の2点に集約されると言っても過言ではありません。
ワーク・ライフ・バランスをとり、自分たちなりの子育てスタイルを立てている若い世代の姿が映し出されています。
②女性へのメリット
日本は教育程度や健康に関する評価は世界トップクラスにも関わらず、女性管理職や政治家の割合が低く、ジェンダーギャップに関する全体的評価は先進国としてはかなり低くなっています。


これまで日本では、育児に関する負担は女性に偏っていました。その結果、仕事復帰が困難になり、社会進出が難しくなっていました。
しかしこの分野においても明るい兆しが見え始めています。
女性の結婚・出産後の労働力率が高くなってきているのです。特に育休制度が改正された令和3年には、それまで所謂M字型を示していた労働力率カーブが台形型に近づいており、一因になっていると推測できます。

③企業へのメリット
育休制度改正ポイントである「男性の育休取得状況公表」による成果もまとめられています。公表による効果・変化として挙げられたものでは、
- 社内の男性育休取得率の増加
- 男性の育休取得に対する職場内の雰囲気のポジティブな変化
- 新卒・中途採用応募人材の増加
の3項目が高い割合を示しています。
項目Bの「ポジティブな変化」は育休をより取りやすい雰囲気につながると考えられる変化です。
項目Cについては、労働人口の増加にもつながる効果・変化と言えるでしょう。
さらに取り組むこと自体にも効果があることが報告されています。
職場の雰囲気のポジティブな変化は、コミュニケーションの活性化にもつながっていると報告する企業は、22.6%に上っています。
④社会へのメリット
近年、若者だけでなく幅広い世代でワーク・ライフ・バランスの取れた生活を送ることが望まれるようになりました。
男性が育休を主体的かつ弾力的に取れれば、女性や若者の労働人口が増え、社会の経済性も向上させるというメリットにつながります。
男性が育児休暇を取得することのデメリット・課題

いくつものメリットを持ちながらも、目標到達とは言えない原因は何なのでしょう。デメリット・課題も考えていきましょう。
育休を利用しなかった理由から見えること
厚生労働省の公表した資料によると、男性が育休を利用しなかった理由は、
- 会社で育児休業制度が整備されていなかったから
- 収入を減らしたくなかったから
- 職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから
の順で高い割合を占めています。
前回の調査結果では、「取得しづらい雰囲気」が最も高く、次に「職場の人手不足」だったのですが、雰囲気に関しては少しずつ改善されてきているようです。


制度利用の整備不足
令和3年、4年と改正されてきた育休制度ですが、改正の趣旨は理解されつつも、それに見合う現場の対応が間に合わないことが伺えます。システムの準備や周知徹底・報告や公表への準備、時間も人も必要と思われます。大企業においても100%稼働している状況でなないので、より従業員数の少ない企業では時間がかかることが予想されます。
今後、職場の状況によって「時間をかければ解決する」問題と「更なる改正が必要」な問題とを分別する必要がありそうです。
今後男性が育児休暇を取得するために必要なこと

せっかくよい方向を向いてきている男性の育休取得状況です。より推し進めるために必要なこともしっかり探っていきましょう。
ハラスメント対策
育休を利用しない理由の「育休を取得しづらい雰囲気」は、割合として減ってきているものの未だ低くはない数値を示しています。
育児休業等の申出・取得を理由に、事業主や上司が従業員に不利益な取扱いを行うことは禁止されています。最新の改正では、
- 妊娠・出産の申し出をしたこと
- 産後パパ育休の申し出・取得、
- 産後パパ育休期間中の就業申し出・同意しなかったこと
などを理由とする不利益な扱いも禁止されています。
上司や手続き担当者が、育休取扱いの途中で「みんなに迷惑がかかる」のような、利用を控えさせる言動の禁止が改めて明記されています。同僚からのハラスメントを防止する対策を講じることも事業主には義務付けられています。
パタハラ ※ という言葉も広まっています。職場全体のハラスメントに対する意識改革が、「育休を取得しづらい雰囲気」の払拭につながります。
研修の実施
前述の調査結果には、研修の実施と男性育休取得率の関係にも言及しています。
表からは、男性の育休取得率の高い企業は、研修や情報収集・提供、育休取得促進方針の周知などの取組割合が高いことが分かります。
効果的な実施方法などはまだ考察の余地が有ります。しかし、男性の育児休暇取得に対するバイアスがまだかかっていることも否定できません。昔の価値観や知識のみで現代を判断することを防ぎ、正しい情報をていねいに伝達し、現代に合った価値基準を共有できる企業風土は、社内のコミュニケーション活性化の土壌となります。
男性が育休を取得することとSDGsの関係

最後に、男性の育休取得とSDGsの関係をみていきましょう。
もっとも関わりの深いのは、SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」です。
SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」との関係
目標5には9つのターゲットが示されています。そのうち5.4には「各国の状況に応じた世帯・家庭内の責任分担を通じて、無報酬の育児・介護や家事労働を認識し評価する」という文言があります。
日本では、この目標の達成度に大きな偏りがあることをお話ししました。経済・政治への参画が大きく低くなっているのです。改善されつつ有りますが、まだ女性に負担の大きい「無報酬の育児・介護や家事労働」の見直しは、この目標の達成に直結します。
また「ジェンダー」とは、「社会的・文化的に形成される性別」ですから、男性も対象です。「男のくせに」といったバイアスをはずし、子育てに関わりたいと考える男性に対しても育休を取りやすい状況をつくることが、「ジェンダー平等」の大きな側面になります。
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ

男性の育児休暇取得について、現状と注目される理由、メリット・デメリットなどを解説し、今後についても提案してきました。
男性の育児休業取得率は、確実に上がってきています。若いパパが育児をする姿も当たり前になり、ことさらイクメンと呼ぶこともなくなってきました。
しかし、改善についての方向性も見えていながら、充分な成果はまだ得られていません。まだパタハラが存在したり、取得への対応策が充分に取られていない企業もあります。デメリットの原因を整理することで課題も見えてきました。
夫婦がそれぞれ希望する数の子どもを持ち、安心してワーク・ライフ・バランスを取りながら子育てのできる社会は、ジェンダーの平等、経済の発展の期待できる社会です。
<参考資料・文献>
Ⅱ-1 育児休業制度 Ⅱ-1-1 育児休業の対象となる労働者
出生時育児休業制度) Ⅱ-2-1 産後パパ育休の対象となる労働者
改正育児・介護休業法について
「令和 5年度雇用均等基本調査」の結果概要
2-19図 男性の育児休業取得率の推移(内閣府)
「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」(速報値)
男性育休白書2024 | IKUKYU.PJT | 積水ハウス
【男性育休白書2023】男性の育休取得率 | 経営プロ
【過去最高】男性の79.5% 子供が生まれたときには、育休を取得したい
第16回出生動向基本調査 結果の概要
去年の合計特殊出生率 1.20で過去最低に 東京は「1」を下回る | NHK
総務省|令和4年版 情報通信白書|生産年齢人口の減少
育児休業等給付について|厚生労働省
男女共同参画に関する国際的な指数(内閣府)
2-4図 女性の年齢階級別労働力率(M字カーブ)の推移 | 内閣府男女共同参画局
男性の育児休業取得促進等に 関する参考資料集(厚生労働省)
【効果はあった?】イクメンプロジェクトとは?メリット・デメリット(Spaceshipearth)
男性の育児休業取得促進等について(厚生労働省)
「男性の育児休業取得促進事業(イクメンプロジェクト)」の取組について 厚生労働省雇用環境・均等局職業生活両立課
SDGs:蟹江憲史(中公新書)
この記事を書いた人

くりきんとん ライター
教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。
教師・介護士を経た、古希間近のバァちゃん新米ライターです。大好きなのはお酒と旅。いくつになっても視野を広めていきたいです。