私たちが普段使っている紙幣(お札)の正式名称は、「日本銀行券」です。日本に唯一存在している中央銀行である日本銀行が発行しているため、そのように呼ばれます。
日本銀行は、私たちの生活には直接関係がないように思えるかもしれません。しかし、実は物価の安定を保ったり、金融システムを守ったりすることで、私たちの暮らしを支える大切な役割を果たしています。
例えば、政府や一般の銀行とお金のやり取りをすることで、経済全体の健全性を維持しているのです。最近では、気候変動対策など、SDGsの実現に向けた取り組みも行っています。
今回は、日本銀行の具体的な仕事内容について、わかりやすく解説していきましょう。
日本銀行とは
日本銀行(日銀)とは、日本で唯一の中央銀行で、日本銀行法(日銀法)で制度が決められています*1)。
目的
日本銀行設立の目的は、お札の価値を安定させ、国民生活が営みやすいようにすることです。設立のきっかけは、明治時代に起きた激しいインフレでした。
明治時代、日本は欧米諸国に追いつくため、産業の発展や軍事力の強化を急いでいました。そのための費用を賄うため、政府は金や銀との交換保証のない紙幣(不換紙幣)をたくさん発行していました。
しかし、この不換紙幣には大きな問題がありました。政府が発行する紙幣であっても、あまりにたくさん発行されすぎると、人々はその価値を信用できなくなってしまうのです。特に1877年の西南戦争の際には、戦費を確保するために大量の紙幣が発行され、その結果、深刻なインフレーションが起きてしまいました。
インフレーションというのは、お金の価値が下がることで物の価格が上がってしまう現象です。たとえば、100円で買えていたパンが、150円になってしまうような状況です。これでは人々の生活が不安定になってしまいます。
このような問題を解決するため、政府は通貨の価値を安定させる必要がありました。そこで、お金の発行と管理を一元的に行う中央銀行として日本銀行を設立することになったのです。日本銀行は、通貨の発行量を適切にコントロールし、その価値を安定させる重要な役割を担うことになりました。
このように、日本銀行は国民の生活を安定させ、経済の健全な発展を支えるという重要な目的のために設立されたのです。
民間銀行との違い
日本にある銀行は、中央銀行である日本銀行とそれ以外の銀行に分けられます。両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
【日本銀行と民間銀行の違い】
日本銀行*4) | 民間銀行*5) | |
種類 | 中央銀行 | 都市銀行地方銀行信用組合ネット銀行 など |
主な仕事内容 | 通貨の管理民間銀行のサポート | 預金:お金を預かる融資:お金を貸す決済:支払いを完了させる |
個人の口座開設 | できない | できる |
銀行の利用者 | 政府、銀行 | 個人、企業など |
目的 | 物価の安定金融システムの安定 | 預金や融資、決済などを通じて、経済活動に貢献する |
中央銀行である日本銀行と街中にある銀行(民間銀行)は、役割が全く違います。
日本銀行は「中央銀行」といって、日本に一つしかない特別な銀行です。一般の人は直接取引することができず、主に政府や民間銀行と取引を行います。お金の量を調整することで、物価の上がり過ぎを防いだり、銀行システム全体がうまくいくようにサポートしたりしています。
一方、民間銀行は私たちの身近にある銀行で、みずほ銀行や三菱UFJ銀行といった都市銀行、地方銀行、信用組合、最近では楽天銀行などのネット銀行があります。
これらの銀行は、個人や企業から預金を集め、その資金を必要とする人々に貸し出すことで利益を得ています。また、ATMでの現金の引き出しや、口座間での送金など、私たちの生活を支えています。
つまり、日本銀行は国全体の金融システムを管理し、民間銀行は私たちの暮らしや企業活動を支える金融サービスを提供しているのです。
日本銀行の役割
日本銀行は、一般の銀行と違う役割を持っています。ここでは、日本銀行が持つ3つの役割について解説します。
発券銀行
発券銀行とは、お札(紙幣)を発行する権限を持つ特別な銀行のことで、日本では、日本銀行だけがこの権限を持っています。
私たちが日常的に使う一万円札、五千円札、千円札などは、すべて日本銀行が発行しています。そして、発券銀行である日本銀行には、主に2つの重要な役割があります。
- お札の発行
- お札の管理
1つ目は、経済活動に必要な量のお札を安定して供給することです。世の中に出回っているお札の量を管理するのも日本銀行の重要な仕事です。
2つ目のお金の管理とは、発行したお札の品質を管理し、破れたり汚れたお札を回収することです。*6)。
政府の銀行
日本銀行は、政府のお金の出入りを一手に管理しています。
私たちが普通の銀行に預金口座を持っているように、政府も日本銀行に口座を持っています。この口座で、政府のお金の出し入れが行われているのです。
例えば、私たちが納める税金や社会保険料は、最終的に日本銀行にある政府の口座に集められます。反対に、政府が行う支払い、例えば年金の支給や公共事業の工事代金なども、この口座から支払われます。
また、政府が国債(国の借金)を発行するときも、日本銀行がその手続きを担当します。国債の利子の支払いなども日本銀行を通じて行われます*7)。
銀行の銀行
日本銀行は、民間銀行とお金の貸し借りを行ったり、民間銀行同士のお金のやり取りをサポートしたりしています。
私たちが普段利用する銀行は、預かったお金を企業や個人に貸し出して利益を得ています。しかし、銀行といえども、たくさんの人に一度にお金を貸すと、手元のお金が足りなくなる場合があります。そんな時に頼れるのが日本銀行です。日本銀行は、資金不足に陥った銀行にお金を貸し出すことで、銀行業務を支えています。
また、銀行がお金を持て余している時には、預金を受け入れる窓口にもなります。このように、日本銀行は、銀行が必要とするお金の出し入れを管理し、日本の金融システム全体が円滑に機能するように支えているのです*8)。
日本銀行の業務内容
日本銀行は、どのような仕事を行っているのでしょうか。ここでは、日本銀行の業務を以下の6つに分けて解説します。
- 紙幣の発行
- 決済サービスの提供
- 金融政策の運営
- 金融システムの安定化
- 国の業務
- 国際業務
それぞれの内容を見てみましょう。
紙幣の発行
繰り返しになりますが、日本銀行は、日本で唯一お札(紙幣)を発行することができる特別な銀行で、私たちが普段使っている一万円札や五千円札、千円札などは、すべて日本銀行が発行しています*9)。
お札は国立印刷局で作られ、日本銀行がお札を印刷した代金を支払って受け取ります。その後、一般の銀行を通じて私たちの手元に届きます。紙幣には法律で定められた特別な力があり、お店での買い物などで支払う時に、相手は必ずお札を受け取らなければなりません。
お札は人々の間を流通していきますが、傷んだり汚れたりすると銀行を通じて日本銀行に戻ってきます。日本銀行では、戻ってきた紙幣が本物かどうか、まだ使えるかどうかを厳しくチェックします。
まだ使える紙幣は再び世の中に出されますが、傷みが激しい紙幣は細かく裁断して捨てられます。使用できなくなったお札は、トイレットペーパーなどとしてリサイクルされたり、焼却処分されます。一万円札は4〜5年、千円札は1〜2年ほどで寿命を迎えるそうです。
決済サービスの提供
決済サービスの提供とは、人々や企業がお金のやり取りを行う際に、安全かつ円滑なお金のやり取りができるよう保証するための仕組みを提供することです。*10)。
日本銀行は、私たちが普段使っているお札(日本銀行券)を発行しています。これは、誰でも安心して使えるように、日本銀行が責任を持って提供しているものです。
また、日本銀行は、銀行同士がお金のやり取りをするための特別な口座(日本銀行当座預金)も提供しています。銀行はこの口座を使って、お客さん同士の振込や、国がお金を集めるための国債の取引など、様々な決済を行っています。
さらに、日本銀行は、これらの決済がより安全かつ確実に行われるように、銀行間をつなぐコンピューターネットワークシステム(日銀ネット)も運営しています。
このように、日本銀行は、私たちが安心して経済活動を行うことができるように、様々な決済サービスを提供しているのです。
金融政策の運営
金融政策の運営とは、日本銀行が日本経済の健全な発展のために行う、お金の量や金利を調整する重要な仕事です*11)。
日本銀行は、年に8回開かれる「金融政策決定会合」という重要な会議で、これからの金融政策をどのように進めていくかを決めています。この会議には、日本銀行の総裁をはじめとする9人の委員が参加し、日本の経済状況を詳しく検討したうえで、どのようにお金の量を調整するかを決定します。
具体的には、金融機関にお金を貸し出したり、逆にお金を預かったりすることで、市場全体のお金の量を調整します。
金融システムの安定化
金融システムの安定化とは、私たちが普段お金を預けたり、借りたりする銀行などの金融機関が安全に運営され、トラブルなく利用できる状態を保つことです*11)。
具体的には、各銀行がきちんと経営できているか、お金の管理は適切か、十分な資金を持っているかなどを定期的に調べています。これは、銀行が突然倒産したりして、預けているお金が引き出せなくなるような事態を防ぐためです。
また、一つの銀行で問題が起きても、それが他の銀行に広がらないように監視しています。もし銀行が一時的にお金不足になった場合は、日本銀行が必要なお金を貸し出して助けることもあります。
国の業務
国の業務とは、日本銀行が国のお金に関する重要な仕事を担当することで、国のお金を預かり、必要な時に支払いを行ったり、管理したりする仕事です*11)。また、国債という国がお金を借りる時に発行する証券について、発行や支払いの手続きなども行っています。
これは、国民が払う税金などのお金を、国が安全に管理し、必要な時にスムーズに使えるようにするための仕事です。
国際業務
国際業務とは、日本と外国との間のお金のやり取りに関する仕事のことです*11)。例えば、日本円を外国のお金(ドルやユーロなど)に換えたり、逆に外国のお金を日本円に換えたりする取引を行います。
また、世界中の中央銀行が集まる会議に参加して、世界のお金の動きや経済について話し合います。外国の銀行が日本円を使いたいときの手伝いもします。
さらに、円の価値が急に変わりそうなときには、政府の指示に従って外国のお金との取引を行い、円の価値を安定させる働き(外国為替平衡操作)もしています。
日本銀行に関してよくある疑問
ここからは、日本銀行に関してよくある3つの質問をとりあげます。
銀行の銀行と言われるのはなぜ?
日本銀行が「銀行の銀行」と呼ばれる理由は、一般の銀行が困ったときに助けたり、銀行同士のお金のやり取りを手伝ったりする役割を持っているからです。
例えば、私たちが利用する銀行が、たくさんのお客さんにお金を貸して手元のお金が少なくなった時、日本銀行がお金を貸してくれます。反対に、銀行にお金が余っている時は、日本銀行がそのお金を預かることもあります。
中央銀行とは違う?
違いません。
日本銀行は、日本の中央銀行です。中央銀行というのは、それぞれの国に一つしかない、特別な銀行のことです。アメリカやイギリス、フランスなど、多くの国に中央銀行があります。日本銀行も、日本における唯一の中央銀行として、お金に関する様々な役割を担っています。
日本銀行の金融政策の目的は?
日本銀行の金融政策の目的は、日本の経済が元気に成長していくのを手助けすることです。経済が良くなりすぎたり、悪くなりすぎたりしないように、お金の流れを調整します。
たとえば、経済が元気になってほしい時は、お金を市場に多く出して、みんなが使いやすくします。反対に、物価が急に上がりすぎないように、お金の量を減らすこともあります。
日本銀行とSDGs
日本銀行は、国内経済を担う重要な機関です。SDGsとはどのようなかかわりがあるのでしょうか。ここでは、日本銀行とSDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」との関わりについて解説します。
SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」との関わり
日本銀行は、各国の中央銀行と連携しつつ、気候変動リスクに対応するための取り組みを行っています。
【日本銀行の取り組み】
年月 | 取り組み | 内容 |
2019年11月 | NGFS(Network for Greening the Financial System)に参加 | 気候関連金融リスクの分析や対応などを目的とした各国中央銀行などの集まりであるNGFSに参加 |
2020年12月 | 日銀レビューの発表 | 気候変動が金融安定に与えるリスクや特徴、把握に向けた関係者の取り組みを紹介 |
BoJWorking Paper「How Does Climate Change Interact with the Financial System? A Survey」の公表 | 資産価値と気候変動リスク、自然災害発生時の銀行の行動、保険の役割などについて発表 |
*12)
日本銀行は、金融の面から気候変動リスクに対処する方策をサポートしようとしているのです。
まとめ
今回は日本銀行について解説しました。日本銀行は、日本でただ一つの「国の銀行」です。私たちが毎日使っているお札を作る仕事や、物の値段が急に高くなったり安くなったりしないように見張る仕事をしています。
また、一般の銀行がきちんと運営されているかを確認したり、お金を貸し出したりする役割もあります。さらに、政府のお金の管理も行っています。最近では、地球温暖化などの環境問題にも取り組んでいます。
このように日本銀行は、私たちの生活がスムーズに進むように、お金に関する大切な仕事をたくさん行っているのです。
参考
*1)日本銀行「日本銀行の概要」
*2)改定新版 世界大百科事典「中央銀行」
*3)日本銀行「日本銀行創立の経緯について教えてください」
*4)日本銀行「日本銀行の目的は何ですか?」
*5)全国銀行協会「教えて!くらしと銀行」
*6)日本銀行「銀行券・貨幣の発行・管理の概要」
*7)日本銀行「おしえて!日本銀行」
*8)日本銀行大阪支店「大阪支店のご案内」
*9)日本銀行「銀行券/国庫・国債」
*10)日本銀行「決済・市場」
*11)日本銀行「日本銀行はどのような業務を行っていますか?」
*12)日本銀行「SDGs/ESG金融を巡る最近の動向」