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Colorbath|現場の課題とつながり、偏見や分断を超える体験を届ける

Colorbath 吉川さんインタビュー

吉川 雄介

1985年東京生まれ。14歳でブラジル・アルゼンチンにサッカー留学。訪れたスラム街でのやりとりが原体験となり、途上国での活動を志す。
早稲田大学国際教養学部、米国Portland State Universityにて文化人類学を専攻。
新卒でベネッセコーポレーションに入社。教員研修や生徒講演、学校コンサルティングに従事。社外の活動として途上国支援や地方創生の複数のNPO組織を立ち上げる。
2015年に独立しNPO法人Colorbath、株式会社カラーバスを設立。グローバルな教育事業や途上国に雇用を生み出すソーシャルビジネス事業を展開。
世界経済フォーラム(ダボス会議)社会起業家Global Shapers選出。ビル・ゲイツ財団Vision Hacker Award大賞。関西学院大学非常勤講師。
好きな言葉:「微力かもしれない。でも、無力ではない」

introduction

Webでの海外交流、フィールドワーク、コーヒープロジェクトなど多岐に渡る取組を行うColorbathは、日本・ネパール・マラウイの3拠点で活動しています。様々なプロジェクトを立ち上げる上で大事にしているのは「寄り添い、学び合うこと」・「皆が自分事として捉えること」

今回は、代表の吉川さんにColorbathの取り組みと、活動を通して目指す世界についてお話を伺いました。

社会課題とつながり、自分事として捉える機会を作りたい

-早速ですが、事業概要を教えてください。

吉川さん:

日本、ネパール、マラウイを活動のフィールドとして、教育事業と雇用を生み出すソーシャルビジネス事業の2つに取り組んでいます。

-ColorbathはWeb交流プログラムのDOTS、フィールドワーク、ソーラーボイラープロジェクト、留学生のサポートなど、多岐に渡る取り組みを展開されていますよね。それぞれに繋がりはあるのですか?

吉川さん:

少し大げさな言い方かもしれませんが、世界には食糧問題や気候変動といった、人類が向き合うべき課題があります。僕たちは、これらの課題にいち早く当事者として、飛び込んでいきたいんです。自分たちで経験していない事柄は人には伝えられません。そこで様々な事柄に自らチャレンジし、実際に経験したことや学んだことを、より多くの人に届けようと思っています。

さらに言えば、僕らのプロジェクトに参加することによって課題を持つ社会と繋がり、そこから自分事として学べる機会を作りたいと思っています。ですからみんなが関心を持っていることで、かつ、参加して経験できる領域でプロジェクトを立ち上げています。

インターネットで遠い国が身近になる体験を届ける(DOTS)

-では、具体的な取り組み内容について伺います。まずはDOTSについて教えてください。

吉川さん:

DOTSは、日本の学校とネパール・マラウイの学校をZOOM等を使って繋ぎ、子ども同士が直接対話をして交流するプロジェクトです。

吉川さん:

これは、「遠い国が身近になるきっかけを作りたい。」「学校に海外と繋がる機会が当たり前にある世界を実現したい。」と考え、始めました。そもそもColorbathという言葉は『ものの見方をひろげる』という意味で、言い換えると、「偏見に気づき、変える」ということです。

-直接対面して話すことで、日本の子どもが途上国に持っている偏見を変えたかったということでしょうか。

吉川さん:

そうですね。「途上国は貧しくて危険な国」というイメージを持つ人も多いと思います。しかし、途上国に住む子どもも、日本の子どももほとんど変わりません。この世界を偏った見方だけで捉えるのではなく、DOTSを通して、一人ひとりが直接、肌で感じてもらうのが目的です。

-参加した子どもたちの反応はいかがでしょうか?

吉川さん:

子どもたちは、「今どんなのゲームが流行ってるの?」とか、好きなサッカーチームの話で盛り上がったりして、そこからものすごく仲良くなっていますね。

吉川さん:

交流すると、日本の子どもたちは、「外国の子どもたちがフレンドリーで嬉しい」とか、「現地の食べ物を食べてみたい、行ってみたい」と言います。そうなるともう「貧しい」とか「危険」という偏見はなくて、「同じゲームやサッカーチームが好きな友達」になっています。

-子どもたちにとっては忘れられない良い経験になりそうですね。

吉川さん:

DOTSで交流する前は、子どもの心理的な距離はものすごく遠いのですが、1〜2回交流すると、それがぐっと近づく。世界は想像以上に豊かで色んな人がいるので、子どもたちには恐れずに交流して自分の世界を広げてほしいですね。

「児童労働は可哀想」では終わらない。当事者との関わりで新たな視点を生む(フィールドワーク)

-続いてはフィールドワークについて伺います。これはどのようなことを行うのでしょうか?

吉川さん:

児童労働や教育格差、ストリートチルドレンなどの課題を抱える現場に行って、当事者と直接話をします。そこで生きている人と実際に話して関わることで、テレビや本では学べない世界のあり方、人の生き方を学べます。

-リアルな体験を通して、課題を知ろうという取組ですね。フィールドワークに参加した人の反応はいかがでしょうか?

吉川さん:

ケースバイケースですが、「現地の人は、イメージしていたよりも悲しそうじゃない」という気づきを得る人も多いですね。
例えばネパールでは、レンガ工場で子どもが働いているようなケースがあります。実際、レンガ作りってものすごく難しくて、僕ら日本人はうまくできません。でも、現地の子ども達はポンポンきれいに作っていきます。そうすると「子どもなのに働いてて可哀想」ではなく「めちゃくちゃスキルがあるね」という気づきになったりします。

-それは実際に、一緒に働いてみないと分からないことですね。

吉川さん:

現場に行くと、悲惨さと同時に子どもたちが働いて、家族と支え合っている愛の深さにも触れたりして、課題の捉え方が少し変わってきます。それがこのフィールドワークの一番の目的ですね。

-これは先ほどのDOTSの活動で言う「偏見に気づき、変える」に通ずるところがありますね。

吉川さん:

そうですね。そこにいる子どもの名前や人となりを知ることで、「彼らがなぜ貧困から抜け出せないのか?」、「なぜそういう社会構造になっているのか?」と、嫌でも目が向くようになるんです。課題をただ”情報”として知っていることに比べて、自分の人生としてちゃんと知っていることには大きな違いがあると思います。

コーヒーの専門家とネパールの農家を繋ぐ架け橋に(コーヒープロジェクト)

-次にコーヒープロジェクトについて教えてください。コーヒーと途上国(ネパール)支援を繋げようと思ったきっかけは何でしょうか?

吉川さん:

「ネパールの農村部でどうやったら仕事が作れるんだろう?」と考えて、色々な事業アイディアを試し、たどり着いたのがコーヒーでした。始めは野菜の栽培やヤギを育てたりもしていましたね。

-さまざまな試行錯誤があったのですね。ネパールのコーヒーの特徴は何でしょうか?

吉川さん:

苦みの中に優しい甘味やフルーツのような酸味があります。品質にはかなりこだわっていますから、美味しさには自信があります。

-Colorbathでは、どのような支援を行っているのですか?

吉川さん:

主に生産支援や品質向上といった農家さんの支援に力を入れています。苗の植え方・穴の掘り方・肥料の作り方・育て方を研修やマニュアルで伝えます。

<コーヒー栽培マニュアル>
<研修の様子>
<ネパールのコーヒー農家さんと>

-Colorbathにはコーヒーの専門家がいるのですか?

吉川さん:

僕ら自身の専門的な知識には限りがあります。そのため、日本で専門家を探してネパールへ行ってもらい、一緒にマニュアル作りをしました。人と人を繋いでビジネスモデルを作り出すのが僕たちの役割です。

-コーヒーの生産・販売で農家さんの生活に何か変化はありましたか?

吉川さん:

収入が今までの2倍くらいになった人もいて、すごく喜んでいました。彼らの生活の一助になる活動ですので、これからも続けていきたいです。

衛生環境向上と自然エネルギーの活用を実現(ソーラーボイラー)

-続いては、アフリカのマラウイで取り組むソーラーボイラーのプロジェクトについて教えてください。ソーラーボイラーとは、どのような仕組みなのでしょう?

吉川さん:

ものすごくシンプルです。何枚ものアルミシートをパラボラアンテナのようにカーブさせ、太陽光を反射させて集めます。反射した太陽光が真ん中に置いてある鍋に集中して、その熱でお湯が湧くという仕組みです。

<ソーラーボイラー>

-ソーラーボイラーは、どのようなことに活用しているのでしょうか?

吉川さん:

集熱部の鍋に水を入れると、大体15分くらいで沸騰します。一度にだいたい12リットルは湧かせるんです。あとはお米を炊いたりケーキを焼いたり、フライドポテトなんかも作ったり。電気がなくて食糧の保存ができないので、ドライ野菜やドライフルーツを作ったりもしています。

-色々なものが作れて活躍しそうです。このプロジェクトは何を目的に始められたのでしょうか?

吉川さん:

目的は2つあります。
ひとつはきれいな飲料水を提供したり、手術器具を煮沸消毒したりなど、マラウイの衛生環境の向上です。マラウイでは綺麗な水が飲めず、そのせいで下痢になったり、病気にかかりやすくなったりしている現状があります。

もうひとつが、自然エネルギーを活用することによって、森林伐採を抑制することです。マラウイでは今、違法な森林伐採が問題になっています。森に木がないせいで、大雨が降ると洪水による甚大な被害を引き起こしてしまうんです。

-なぜ不法な森林伐採が起きているのでしょうか?

吉川さん:

マラウイは、首都でさえ停電が続き、さらには電力やガスの供給も不安定です。そのため国民のほとんどは、食事をはじめ、毎日の生活に薪を使っています。

-薪がないと生活が成り立たない。だから森林伐採をせざるを得ないのですね。

吉川さん:

昔からそうして生活してきたので、薪がないととても困る。ものすごく深刻な問題なので、ソーラーボイラープロジェクトを通して、支援を続けていきたいですね。

日本で一生懸命働くネパール人を支援(留学生のサポート)

-留学生のサポートについて伺います。どのような支援をされているのでしょうか?

吉川さん:

日本で働きたいネパール人の留学生に、日本語や日本の文化を教えています。今、ネパールにある15校の日本語学校で、Colorbathのパートナーが活動しているところです。また、日本に来てからは、進学先や就職先のマッチングのサポートも行っています。細かいところでいうと、採用試験の面談レッスンをしたり、電車の乗り方を教えたりもしています。

-日本に来るネパール人はどんな仕事に就くことが多いのでしょうか?

吉川さん:

僕らがサポートしている人たちに関しては、介護・建設業界やエンジニア、プログラマーが多いですね。努力して、スキルや資格を身に付けたらちゃんと働く先がある。そうした世界を目指して、特に注力している取り組みです。

-外国人雇用をしたいと希望する会社には、何か特徴や共通点はありますか?

吉川さん:

やはり人事や経営者の方が、外国人に対してポジティブな印象を持っている会社ですね。人を採用するには信頼関係が重要ですので、「外国人って◯◯だよね」というような偏見があると上手くいかないケースが多く見られます。

-吉川さんから見て、日本で働くネパール人はどんな印象でしょうか?

吉川さん:

もちろん人によりますが、感じるのはものすごく真面目で優秀ですね。「働きたい」という気持ちがとても強いですし、働かないと家族を養えません。一生懸命働いて少しでもお給料を増やしたい、そういう努力の姿勢やハングリー精神はすごいと思います。

ネパールの強みを生かして雇用を作る(スマートレクチャーコレクション)

-他にも英語学習のプロジェクトをネパールの支援に繋げる取り組みも展開されていますよね。

吉川さん:

スマートレクチャーコレクションといって、外国人講師が英語のライティングをオンラインで添削するサービスがあります。教科書を作っている啓林館さんが提供しているものなのですが、そこではネパールの優秀な添削者を30人ほど雇用しています。

-このサービスを展開しようと思ったきっかけを教えてください。

吉川さん:

もともとネパールの強みをどう活かして雇用を生み出していくか?ということを考えていました。ネパールには英語が話せる人が沢山いて、ITエンジニアやプログラマーもいっぱいいるので、インターネットを使った仕事作りができたらいいだろうなと。

-ネパールの強みを発揮できる仕事を探したら、このスマートレクチャーコレクションに出会ったというわけですね。

吉川さん:

僕らの意識としては、「途上国が可哀想だから支援する」ではなくて、彼らが持っている強みを日本人が借りるイメージで、そのための橋渡しをしています。

-「貧しい」とか「助けてあげなくちゃ」ではないということですね。

吉川さん:

はい。ネパールの人はものすごく英語が上手だし、オーストラリアの大学を卒業している人もいる。でもそれって日本では全然知られていないですよね。

-知りませんでした。ネパールでは英語教育が盛んなのですか?

吉川さん:

首都のカトマンズでは、幼稚園から大学まで授業は基本的に英語で行われています。休み時間の会話も英語ですね。自国に仕事がないので、良い学校に通い、良い仕事に就くためには英語は必須、という状況です。

-英語添削のスマートレクチャーコレクションは、ネパール人の強みを活かすにはうってつけなのですね。

「課題解決」よりも、共に学び成長し合う関係を

-ここまで話を伺い、様々な取り組みを進めていることがわかりました。では、吉川さんはなぜColorbathを設立しようと考えたのでしょうか?

吉川さん:

僕は大学生の頃、「将来は、恵まれない子どもたちのためになる仕事をしたい」と思っていました。それで最初は、ネパールのストリートチルドレンや孤児院の子どもたちを支援をしてたんです。

色々活動をしたり孤児院に寄付したりもしていたのですが、結局ネパールには仕事がないので、また路上に戻ってしまう子どもが多くて。良いことをしている気になっている自分、こんなことしかできない自分は、無力だと痛感しました。

そこから、「貧しい人を支援する」という考え方というよりも、「もっと現地の社会構造や現地の人の生活に密接に関わったことをしたい」と思うようになり、活動自体も「共に成長する」とか「学び合う」という観点にシフトさせて設立したのがColorbathです。

-寄付や支援という一時的なものでは足りなくて、もっと問題の根本から解決して変えていきたいという気持ちで立ち上げたということですか?

吉川さん:

僕も初めは「根本から解決する」、「課題を無くす」と意気込んでいたのですが、そのスタンス自体も違うかもしれないなと思っていました。

日本にだって、たくさん社会課題はあります。でもそれを外から来た外国人が「それは問題だ、課題だ」って言って自分たちの生活を変えられることって本望じゃないはずです。

-確かにそうですね。「いきなり来てそんなことを言われても・・・」と思ってしまいそうです。

吉川さん:

実際、現地の生活や文化を知っていくと、課題ばかりでなくてその地域の強みや豊かさ、大事な文化など、こちらが学べることがたくさんあるんですよね。それを知った上で、自分にできることを考えていくといいのかなと。

-現地の生活や文化に寄り添うことが必要だと。

吉川さん:

そこはとても重要です。だからColorbathの活動も、僕たちが主体でやるというよりは、現地のパートナーやメンバーといった、もともと頑張って活動している方々がいるので、その後押しやサポートをするという形でやっています。

<ネパールのパートナーと>
<マラウイのパートナーと>

人と人のつながりをより感じられる社会を目指す

-今後の展望をお聞かせください。

吉川さん:

SDGs、途上国、貧困解決に関心を持った人が、現地の人と繋がってそのやりとりを通して学ぶという活動を今後も続けていきたいです。社会課題に対して、どこか他人事のように感じている人はまだまだ多いと思います。でも、想像しているよりももっと世界は繋がっています。その繋がりやサスティナビリティに自覚的な人が増えてほしいですね。

-課題を抱えた人と、無関心な人の分断をなくし繋げていきたいということですね。本日は貴重なお話ありがとうございました。

関連リンク

Colorbath 公式サイト http://color-bath.jp/