#インタビュー

株式会社華ひらく|障がいがあっても、堂々と生きられる社会をつくるために~ありのままの姿で輝くカラフルモデルたち~

カラフルモデル(株式会社華ひらく)

カラフルモデル(株式会社華ひらく) 内木美樹さん インタビュー

内木美樹

横浜市出身。高校卒業後、アメリカのネバダ州に留学。コミュニティカレッジ卒業後は州内のカジノホテルでウエイトレスとして勤務。日本人が1人もいない環境の中、マネージャーから「No.1ウエイトレス」と称される。帰国後、2010年に株式会社華ひらくを設立し、インバウンド接客専門家として全国で接客英会話レッスンやインバウンドセミナーを行う。2021年、障害があっても堂々と生きられる社会を作りたいという想いから、障害のあるキッズモデル事業を開始。北海道から九州まで、約50名の障害児が在籍。テレビ・新聞・ラジオなどメディア出演多数。

introduction

欧米諸国では、障がいのあるモデルを起用し、ダイバーシティに向けた動きを見せる企業が多くあります。しかし日本企業において、障がい者モデルの起用はまったく進んでいません。

その中で、株式会社華ひらくの代表内木さんは、自身の子どもが自閉症を抱えていることをきっかけに、障がいのある人たちが堂々と生きられる社会を作りたいと考え、障がいのあるキッズモデル事業をはじめました。今回は、そこから見えた、日本企業の抱える問題や、社会課題、そしてこれらを解決するために取り組んでいることについて、お話を伺いました。

障がいがあっても堂々と生きられる社会を目指してはじまったカラフルモデル

–まずは会社の紹介をお願いします。

内木さん:

華ひらくは、インバウンド事業とカラフルモデル事業の2つを軸に事業を展開しています。

インバウンド事業は、日本国内の飲食店を専門に、接客における英会話レッスンを行う事業です。私自身、アメリカのカジノホテルで飲食の接客業を行っていました。その時に培ったノウハウを活かして、海外の方の接客や集客、より多くの注文をしていただくためのコミュニケーションについてお伝えするようなレッスンやセミナーを行っています。

一方のカラフルモデルは、「障がいがあっても堂々と生きられる社会をつくる」という目標を掲げて行っている、障がいのある15歳までの子どものキッズモデル事業です。

–今回、カラフルモデル事業について詳しく伺います。具体的にどのような事業なのでしょうか。

内木さん:

カラフルモデルは、15歳以下の障がいのある子どもたちが登録できるモデル事務所です。モデルの案件は、写真スタジオやこども食堂などのHPに使用するお写真のモデルなどがあります。

最近は、東京工芸大学100周年記念展のコラボ企画のモデルとしても起用いただいたり、西武信用金庫様からこども店長のようなイメージのみらい大使に任命していただいたりと、幅が広がっています。

モデル登録は、私のこだわりもありオーディションなどは行っていません。現実問題、障がいがあると日常的に習い事や幼稚園、保育園でも簡単に断られてしまうことがあります。モデルの中にも、障がいがあることを理由に幼稚園を断られてしまった子がいます。こういった経験をしている人たちが多いので、せめて私の事務所は障がいや特性を理由に断ることをしたくないと思っています。

ただ、カラフルモデルはモデル事務所ですがお金を稼ぐことを目的にしていません。我が子をモデルにしたいという思いで登録されるのは当然だと思いますが、あくまでも、障がいがあっても堂々と生きるための手段の1つとして提供しているものなので、この理念に共感してくださっているかどうかは確認させていただいています。

この理念に共感いただいていれば、どなたにでも門戸を開いています。

–事業立ち上げのきっかけを教えてください。

内木さん:

カラフルモデル立ち上げのきっかけは2つあります。1つはコロナ、1つは私の息子に障がいの診断が下ったことです。

華ひらくの創業当初はインバウンド1本で事業を行っていました。2019年のラグビーワールドカップでインバウンドの需要が高まり、2021年開催の東京オリンピックでさらに発展するだろうと、予想していました。しかし、皆さまご存知の通り、2020年に新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、海外からの来日者は減少し、仕事が全てなくなる事態となりました。大げさでもなんでもなく、本当に収入が0だったんです。それでもまだ、東京オリンピックは開催されるだろうと思っていましたが、無観客の開催が決まり、会社を潰さないためにも新しい事業を考えなければいけない、と覚悟を決めました。

そしてもう1つ、2016年、私の2歳の息子に自閉症スペクトラム症と重度の知的障がいの診断が下りました。初めての子育てでわからないことばかりでしたが、それでも中学生になったらどんな部活に入るんだろう、高校生になったら彼女ができるのかな、なんてことを思い描きながら育てていました。しかしそこに「重度の障がいがあります」と、診断を受けたんです。このことは私にとって、とてもショックの大きいものでした。目の前が真っ白なのか真っ黒なのかもわからない、何も見えない状態で、どこに進めば良いのかもわからない状況になってしまったんです。

この時、子どもを育てることも不安でしたが、さらに不安だったことは、周囲の反応でした。正直、周囲の人は簡単に受け入れてくれないだろうと思っていました。たくさん拒絶されて、酷いことを言われるに違いないと思っていたんです。

でも、実際はそんなことありませんでした。私の夫は全く動揺せず、「別にいいんじゃない?息子は息子だよ」と、そのまま受け入れていたんです。さらに、周囲の保育園の先生も、ママ友も、拒絶することなくあたたかく受け入れてくれました。

この時、日本という国は私が思っている以上に障がい者に優しい国だということに気づきました。

一方で、障がい者雇用などのシステムはとても遅れていると感じています。そのシステムの遅れに相まって、日常的な障がい者と健常者の接点がとても少ないのが現状です。日常的な接点がないと、障がい者への理解を広めることは難しいものです。

そこで、障がい者と健常者の接点を少しでも増やすためにできることを考えて辿り着いたのが、障がいのあるキッズモデル事業です。今は障がいに興味のある人が意識的にYouTubeなどのメディア媒体や、施設を訪問しないと接点が持てません。そこで、企業が採用してテレビCMやSNSに登場する機会が増えれば、日常的に接点を作れるのではないかと考えて立ち上げたのがカラフルモデルです。

社会への認知を広げ、企業からの起用を目指す

–実際にカラフルモデルを運営していて、課題だと感じることは何ですか?

内木さん:

最初にも述べましたが、最近では弊社キッズモデルを採用していただく企業や団体様が増えてきました。

ただ、こういった起用がある一方で、SDGsに力を入れていると謳っている大企業にプレゼン営業を行ってもお断りされてしまうことが多いんです。

お断りの理由として、多くの企業が挙げる理由が2つあります。1つは「前例がない」。2つめが「クレームに繋がる可能性がある」というものです。特にクレームを恐れているという印象が強かったですね。

最近の若手の方は企業のこういった取り組みを重要視しているので、カラフルモデルの起用が優秀な人材の採用に繋がることや、ブランドイメージが向上するという説明をしても、「障がい者を見世物にしている」という消費者からのクレームを懸念しているので、なかなか起用に繋がらないんです。

多様性が進んでいる欧米諸国では、障がいのあるモデルは既に活躍していて、Appleやディズニー、メルセデス・ベンツ・グループAGなどが障がい者モデルを起用しています。日本企業はクレームを懸念していますが、海外ではこういった障がい者モデルの起用などを行うことでブランドイメージを向上させ、株価を上げていく考え方が一般的なんです。こういった部分で、日本と海外の多様性の進み方の違いをとても感じました。

–これらの課題を解決するために現在行っていることはありますか?

内木さん:

弊社は、企業の起用を通して障がい者と健常者の接点を増やし、障がいがあっても堂々と生きられる社会をつくることを目指していましたが、それが難しいことがわかりました。そこで、先に一般の方にカラフルモデルを知ってもらい、外堀を埋めながら企業に届けていく方向性にシフトチェンジしました。

その取り組みとして、写真コンテストの開催と障がい児から学ぶコミュニケーション研修を行っています。

写真コンテストは、「カラフル写真コンテスト」というものを毎年弊社が単独主催で開催しています。写真コンテストを行うためにはモデル・カメラマン・審査員が必要になるので、モデルはカラフルモデルから、カメラマンはクラウドファンディングで募集をしました。そのため、カメラマンはプロから小学4年生の、普段カメラを触っていないような若い子まで、様々な方に参加していただけました。

審査員は俳優の東ちづるさんや、声優の三ツ矢雄二さん、写真家のSAP CHANOさんなどの著名な方々にご協力いただき盛り上がりました。

ただ、目的は障がい者と健常者を繋ぐということなので、コンテストをやって終わりではなく、その後に写真展を開いてお写真をたくさんの方に見てもらうことが重要です。とはいえ、この写真展をギャラリーや、市役所、障がい者施設などに展示しても興味を持った方しか足を運びません。そこで、イオンモールやアトレ、イトーヨーカドーなどの施設にご協力いただいて、不特定多数の方の目に入る場所で約204日間かけて写真展を開催しました。

さらに、そこにメッセージを書けるようにノートを置いておきました。すると本当にたくさんのメッセージをいただいたんです。正直、メッセージの3割くらいは「障がい者なんて見たくない」「障がい児を使って金稼ぎをしようとしてるダメな親たちだ」のような否定的な意見が書かれるのではないかと思っていました。しかし、実際はそんなことはなく、本当に温かいメッセージをたくさんいただいたんです。それを見て、この写真コンテストは障がいのあるモデルたちの存在意義や、障がいのある子たちが活躍できる社会を応援してくれる人を生み出せているだろうと思えました。

そして、課題解決のために行っているもう1つの取り組みがコミュニケーション研修です。モデル事業の活動を応援してくださっていても、取り扱っている商品や業界によってキッズモデルを採用することが難しい企業もありました。これらの問題を解決するために考えたのがコミュニケーション研修です。研修であれば業界や業種関係なく必要としていただけると思っています。

研修の種類は4つで、「アート研修」「写真コンテスト研修」「ショッピングモール研修」「運動研修」があります。それぞれの研修では、弊社のカラフルモデルたちがカラフル先生となって、受講者たちと触れ合ってもらいます。目的は、企業の社員が障がいのあるカラフル先生とコミュニケーションをとることで、自分のコミュニケーションスタイルがいかに狭かったかという気づきを得てもらうことです。

弊社のカラフル先生は、会話の難しい子たちが圧倒的に多いです。私の息子も含めて、「お名前はなに?」と聞いても返ってきません。そういった子とコミュニケーションを取る時に重要なのが、身振りや手振りを使った非言語コミュニケーションです。会話の難しいカラフル先生たちも、身振り手振りを加えてコミュニケーションを取ると意思疎通が可能になります。

こういった体験をしていただくことで、今まで行ってこなかったコミュニケーションの方法があることに気づき、社内で活用してもらうことでチームビルディングがうまくいくようになります。数時間の研修ですが、その短い時間でいかに自分の見ていた世界が狭かったのかということに気づいてもらえると思います。そしてこの気づきこそが、いわゆるダイバーシティだと考えています。

ありのままの姿で輝くカラフルモデルたち

–実際にモデルや研修の現場で大変だったことはありますか?

内木さん:

現時点で、現場において問題だったことや大変だったことはありません。モデル事業の話になりますが、先ほど紹介した東京工芸大学さんの100周年記念の撮影会の時、撮影場所が何もない、背景のみのスタジオでした。モデルとして参加してくれた子の保護者の方も「うちの子は3分ももたないと思います」と心配していたのですが、実際に撮影してみると40分、50分とみんな楽しそうに撮影していました。

これは、モデルの子たちが凄く良くできる子だったという話ではありません。カメラマンとして撮影してくれた学生の子たちや教員の方々みんなで、モデルたちにとって心地のいい空間づくりを意識してくれたおかげです。

一般的にモデルと言われると、服を良く見せるため、自分を良く見せるためのポーズを取ると思うのですが、カラフルモデルの撮影の時は、ありのままのこの子たちを撮ってほしいので、カメラマンからの指示出しは控えていただいています。

これらのことをカメラマンさんたちがきちんと理解し、名前を呼んだり褒めたりして盛り上げてくれました。モデルたちも、会話は難しくても自分たちが好意的に見られているかどうかはわかるので、褒められていることが嬉しくてさらに良い表情になっていました。

これは、私も保護者の方たちもみんなで驚いた経験です。

一方で、研修として座学講習を行う中で課題だと感じるのは、障がいに対する知識のある人が少ないということです。

座学講習を行う時、私は「障がいには3つの種類がありますが何だと思いますか?」という問いを投げかけます。ほとんどの場合、答えとして挙げられるのが身体障がいのみで、知的障がいや精神障がいの認知度は低いんです。弊社以外にも障がいを体験する企業研修がありますが、車椅子体験や白杖体験などの、身体障がいに関するものばかりです。パラリンピックでさえ、知的障がい枠が用意されている競技は22競技中3競技だけです。この、障がい=身体障がいのイメージが強い部分は、研修を通して課題だと思いました。

–サービス利用者の反応はどんなものですか?

内木さん:

座学のみの研修だった企業の従業員からは、話を聞くだけではなくて実際に触れ合ってみたかったという意見が多かったですね。座学だけでは想像できないことが多いと思うので、次回はぜひ直接触れ合っていただきたいなと思います。

実際に触れ合った方々は、それまで障がい者と接点を持ったことがない方が多く、最初は怖いと思っていたり、どう接したら良いのかわからず不安が大きく大変そうなイメージを持っていたみたいですが、最終的には「思ったより普通だった」「ただただ可愛かった」という感想が多くありました。

触れ合っているのを見ていても、最初はみなさん若干緊張しているのですが、最後の方は仲良くなって抱っこしたりおんぶしたりと、純粋に楽しそうでしたね。

–今後の展望を教えてください

内木さん:

まずは、今の事業の応援者を増やしていくことです。まだまだ認知度が低いので、カラフルモデルがもっと世に知られて、障がいのあるモデルの存在意義や、障がい者が活躍できる社会がどういったものなのかを訴えていく必要があると思っています。

もう1つは、海外発信です。少し前までデンマークからインターンの子が来てくれていたこともあり、やはり日本よりも海外の方が感度が高いと感じました。

英語のブログ記事で海外へのプロモーションを強めて、海外の企業がアジアの障がい児キッズモデルという形で起用してもらい、それがまた日本に入ってくる形が理想的なのではないかと考えています。

–本日は貴重なお話をありがとうございました!

関連リンク

カラフルモデル:https://colorfulkidmodels.com/

株式会社華ひらく:https://hana-hiraku.com/