熱帯都市という言葉をご存知でしょうか?
その名の通り、熱帯地域に位置する都市のことで、赤道から比較的近いエリアに位置することが多くなっています。
推定30億人もの人口が熱帯地域を住まいとしており、日本でも沖縄県の宮古島や石垣島などが熱帯地域に分類されています。
しかし、日本の大部分は温帯地域に属することから、日本人にとって熱帯都市と環境問題の関連性はあまり身近ではありません。
この記事では熱帯都市の持続可能を追求するオーストラリアの都市計画・TUDLabの詳細を解説していくので、熱帯都市の懸念点、TUDLabの基本情報、サスティナブルな街づくりのために行う取り組みについて理解を深めていきましょう。
世界で進む都市人口の増加
2007年、世界の都市人口が初めて農村・地方の人口を上回りました。
都市化は世界中で急速に進んでおり、2050年までに世界人口の3分の2が都市に住むことになると言われています。
都市部の人口増加に伴い懸念されているのが、ヒートアイランド現象の加速や水質汚染の問題です。
特に気温の高い熱帯地域においては被害が深刻化する可能性も懸念されており、2024年時点で推定30億人が熱帯地域で暮らしています。
将来的に地球規模で環境問題を引き起こす可能性が高いことから、持続可能な熱帯都市マネジメントはサスティナブルな地球づくりを行う上で必要不可欠だと考えられています。
都市計画・TUDLabとは?
TUDLabは、正式名称がThe Tropical Urbanism and Design Labと呼ばれる都市計画です。
直訳すると「熱帯都市計画とデザイン研究所」という意味で、オーストラリアを代表する熱帯都市地域であるクイーンズランド州ケアンズを拠点としています。
TUDLabは熱帯地域の持続可能性を高める計画・設計を目的としており、中心となって管理しているのはクイーンズランド州北部にメインキャンパスを構えるジェームスクック大学(James Cook University)です。
ジェームスクック大学はグレートバリアリーフに程近いタウンズビルとケアンズに大規模なキャンパスを構えていることから、海洋学や海洋生物学における世界的な権威を持つ大学として知られています。
環境への配慮や保全活動にも積極的に取り組んでおり、熱帯地域での持続可能な都市を実現するためにTUDLabを立ち上げました。
TUDLabの計画・設計はオーストラリア国内の開発企業、政府、環境団体などで適用され、人口増加に対して適切に処置するためのシステムづくりに役立てられています。
以下は、TUDLabが掲げている具体的な戦略です。
・自然環境を維持及び向上させる環境配慮型インフラの推進
・科学的根拠に基づいた研究を通じて政府、企業、各施設と教育を提供する
・新しいテクノロジーを活用して環境回復に繋がる建築を導入する
・コミュニティや企業への啓発
持続可能性の高い熱帯都市をつくるには、企業や政府はもちろん、一般市民にも理解を広めることが必須です。
TUDLabでは多方面における戦略を敷くことによって、長期的に熱帯都市を機能させる対策を進めています。
TUDLabは都市デザイン大臣賞を受賞した都市計画
クイーンズランド州の州都・ブリスベンでは、毎年州内における都市デザインに関する表彰式を開催しています。
TUDLabは「2020年計画優秀賞」の「最先端の研究と教育」分野にて表彰されており、さらに翌年の2021年には都市デザイン大臣賞とマスタープラン部門でも受賞しました。
マスタープラン部門では「トロピカルデザインスタジオ:クイーンズランド州北部の田舎町の戦略的コンセプトマスタープラン(Tropical Design Studio: Strategic concept masterplans for northern Queensland country towns)」を獲得し、TUDLabの取り組みが効果的かつ実用的であることが証明されています。
以下では、実際にTUDLabが計画・設計している持続可能な熱帯都市づくりの詳細を見ていきましょう。
ヒートマネジメント
熱帯地域での都市計画を進めるにあたって、ヒートマネジメントの徹底は必要不可欠です。
人間が集まることで地域の気温上昇が懸念されており、エアコンの使用率が上昇する可能性が高まります。
エアコンによる温室効果ガスの排出→地球温暖化の加速によるさらなる気温上昇→エアコンの使用率アップという悪循環に繋がるため、TUDLabでは適切な気温を維持するためのリサーチ及び管理に力を入れています。
まずヒートマネジメントのプロジェクトを開始するにあたって行われたのが、熱帯地域における温度と湿度のデータ取得です。
スマートシティテクノロジーを活用し、センサーを使ってクラウドベースのプラットフォームにリアルタイムで温度と湿度を記録しました。
その後、集めたデータを基に特に気温が高くなりやすいエリアを特定して、ヒートアイランド現象を示す都市マップを作成して各地方自治体へ共有します。
各地方自治体は建築業者と相談してヒートアイランド現象を緩和するための対策を組み、放熱性の高い建築材料の使用、街路樹や都市緑地の配置の最適化、緑の壁や屋根の設置、日陰を多く作る建築などについて計画を進めるという流れです。
ヒートアイランド現象の都市マップによって具体的に改善すべき箇所を明確化できるため、各自治体がより効率的かつ環境に優しい方法で改善しやすくなっています。
水に関するマネジメント
熱帯の都市部は、常に高温、多湿、サイクロン、豪雨といった特殊な気候にさらされています。
一般的な地域と比べると適切な水の供給、雨水、下水の管理が難しいと言われており、特に洪水が頻発するシーズンになると水質汚染の問題も発生します。
TUDLabの拠点地であるケアンズは、世界的にも高い生物多様性を誇るグレートバリアリーフがある地域です。
汚染された水がグレートバリアリーフに排出されることで海水の水質汚染や生態系破壊を招くことから、集水域管理を徹底することが大切だと考えられています。
TUDLabはケアンズ地域評議会が運営する「スマート集水域:ソルトウォータークリークプロジェクト(Smart Catchments: Saltwater Creek Project)」に協力しており、各エリアに取り付けられているセンサーを使って水質のモニタリング及びグレートバリアリーフに及ぼす影響を定量しています。
モニタリングすることで異常が生じた場合にすぐに水をせき止められるため、グレートバリアリーフの水質汚染を防ぎながら都市としての機能を果たせる点が特徴です。
ケーススタディプロジェクト
快適かつ実用性の高い建物づくりは、サスティナブルな熱帯都市を維持する上で欠かせない存在です。
推定30億人が熱帯地域に住んでいることを受けて、TUDLabではあらゆる環境、企業、家庭、コミュニティで取り入れやすい建物づくりに力を入れています。
しかし、ニーズ、予算、エリアなどに違いがあるため、全ての住宅、商業、工業、民間、公共建築で同じ建物づくりのアイデアを活かせるわけではありません。
そこでTUDLabではケーススタディプロジェクトを立ち上げ、さまざまな建物の実用例の収集及び共有を行っています。
ケーススタディプロジェクトは熱帯グリーンビルディングネットワーク(TGBN)とジェームス クック大学が共同で進めており、紹介されている建築は全て持続可能な熱帯設計で必要不可欠な以下のポイントをクリアしています。
・持続可能で回復力のあるインフラの設計と建設
・猛暑、サイクロン、湿気、豪雨に耐える建築材料と技術の開発と応用
・再生可能な天然資源の効率的な利用と自然資産の保護
熱帯都市での暮らしやすさはもちろん、環境への優しさにも配慮している点が特徴です。
ケーススタディは公式ホームページなどで公開されているため、参考にすることで熱帯都市での持続可能な建物づくりに役立てられます。
まとめ
日本人にとってあまりなじみのない熱帯地域での環境問題。
しかし、約30億人の人々が熱帯地域で暮らしていることを考えると、サスティナブルな未来づくりのためにも熱帯都市での環境保全について知っておくことは非常に重要です。
環境問題に適切に取り組んでいくためにも、まずは他の国や地域の現状や問題点から正しく理解することからはじめましょう。