
才野 英里子
埼玉県出身。2015年京都大学大学院地球環境学舎修了。大学院在籍時にインド農村部にてカーストや性別による差別を目の当たりにし、インドと環境問題双方への貢献を目指すように。新卒で入社したIT企業を退職後、インドに渡航し事業設立のための調査を行う。インド農村部のハンディクラフト品の販売などを経て、2021年1月より、サステナブルな事業を目指すアパレルブランド「CO+(コープラス)」をスタート。CO+では、地球環境への配慮と生産国での労働環境に配慮した服作りを行う。
introduction
自然環境や労働環境に配慮して作られた洋服を扱うブランドCO+(コープラス)。CO+は、見た目だけでなく生産過程においても美しくあるべきという考えのもと、商品を展開しています。今回はCO+代表の才野さんに、サステナビリティの取り組みや商品の特徴についてお話を伺いました。
インドの厳しい現状を知り、透明性を重視し始めた
–今日はよろしくお願いします!はじめにCO+について教えてください。
才野さん:
CO+は、2021年に立ち上げた洋服を扱うブランドです。現在は、Tシャツとノースリーブの2点をオンラインで販売しています。生産地であるインドの労働環境や自然環境に配慮することに重きを置き、お客様に生産過程に関する情報をお伝えすることで、透明性の高いブランドを目指しております。

–ブランドを立ち上げたきっかけについてお聞かせください。
才野さん:
学生時代にインドに滞在していたときに、経済的に弱い立場にある人や、生まれた環境によって人生が左右されてしまうような人たちと出会ったことがきっかけです。長期的には、そうした人たちの雇用に貢献していきたいと思い始めました。
–具体的にどのような状況を目の当たりにしたのですか。
才野さん:
例えば、農村部では男性のみが集まり物事を決める、カーストが違う人たち同士は一緒に食事をしない、将来稼ぎ手となる男児が女児よりも望まれる、といった状況です。
CO+を立ち上げる前に、インド農村部の女性が作るかごバッグを販売していました。その際に、商品の背景について考えるなかでファッション業界における服の製造の裏側でも、コットン畑や工場での健康被害や環境汚染、児童労働などさまざまな問題が存在することを知りました。インドはコットンの世界的な産地ということもあり、厳しい現実を知れば知るほど悲しい現実があるなかで、服だけを見て美しいと感じて良いのか疑問に感じるようになりました。
–いくら服が美しくても、その背景で苦しんでいる人々がいることを知ると見方が変わってきますね。
才野さん:
そうですね。
インドの人々や洋服製造に関わる人々の課題を知ったことで、労働者の問題や環境に配慮した服を作りたいという思いが強くなり、CO+を立ち上げることにしました。現在はインドにある工場に発注することで、現地の雇用に間接的に関わっています。
–服の製造の裏側では、実際にどのようなことが起きているのでしょうか。
才野さん:
例えば、インドではコットンを大量に効率的に育てるために農薬を使うのですが、多くの人が防具服を着ないで作業を行うといわれています。それが直接の原因となって、健康被害を負う人や死者が出るケースも多いんですよ。
製造過程の例としては、大きく報道されたのは縫製工場の入ったビルが崩壊したバングラデシュのラナプラザ崩壊事故が挙げられます。1,000人以上の人が亡くなり盛んに報道されたことで、その工場で世界的に有名な服のブランドが作られていたことが初めて世間に認知されました。
–悲しいですが、事故がきっかけでその工場のありがたみを知る人が多かったのですね。
才野さん:
なぜかというと、原料調達、加工、製品の製作、輸出など、多くの国や企業をまたいで服が出来上がっているため、生産過程を全部把握するのは困難だからです。そうですね。ですが、製造先がわからないというのは驚くべきことではありません。
こうしている今この瞬間にも、今にも崩壊しそうなビルの中で働いたり、元を辿ると児童労働があったりと、見えないところに問題が潜んでいるのです。だからこそ、私は洋服作りに「透明性」が必要なのだと考えています。
原材料も、製造過程も、すべてクリアにしたオーガニックウェア
–裏側も見せるという意味で透明性が大事なのですね。では、商品の特徴について教えていただけますか?
才野さん:
現在メインで販売しているのは、オーガニックコットン100%のGOTS(オーガニックテキスタイル世界基準)認証取得Tシャツです。
認証マークを取得するには、製品に使われている原料の70%以上がオーガニックであること、農場から最終加工までの全ての工程において環境に配慮されている必要があります。GOTSの基準に沿って外部機関が監査を行うことで、製造過程の安全性までしっかり確認された製品であることが証明されます。

–オーガニックの原料を使用しているかだけではなく、製造過程までチェックされているのですね。
才野さん:
今ではオーガニックという言葉が浸透していますが、オーガニックコットンの配合が1%入っているだけでもオーガニックの製品と言えてしまうんですよね。なので残りの99%のコットンはどこから来たのかわからないまま、児童労働や環境問題に加担してしまうこともあり得るのです。
–確かに最近、オーガニックとか、サステナブルファッションとか、環境に配慮したお洋服も増えてきましたもんね。
才野さん:
そうですね。多くの方が関心を持ってくれたことは喜ばしいのですが、「どの商品を買えばいいのか」とか、「本当にサステナブルな商品なのか」と迷う方も多いのかなと感じています。
さまざまなモノや情報が流れる時代だからこそ、誰もが簡単に適切な物事にアクセスできることは重要だと思います。商品を購入する際の目安として、認証マークをチェックしておくのはいいかもしれませんね。
–厳しい条件をクリアした製品しか取得できない認証マークということで、お客さんからもより信頼を得やすいですよね。ノースリーブもトレーサブルな製品なのですか?
才野さん:
はい。ノースリーブに使用している素材のテンセル™リヨセルは、持続可能な管理をされた森林から調達された木材を原料としています。作る過程で利用する溶剤の(*1)99%以上が再利用されていることからも、循環型の製造工程となっております。

–個人的な感想ですが、デザインもシンプルで年齢問わず着られる点も素敵だなと思いました。
才野さん:
ありがとうございます。流行りに乗りすぎないデザインを意識しています。売れ残りが出てしまうと処分するしかなくなってしまうので、何年経っても飽きのこないシンプルな洋服を目指しています。
配送やショップカードにも、環境を守るこだわりが
–商品以外でも、環境に配慮している点はありますか。
才野さん:
梱包やショップカードも環境に優しい素材を使用しています。ショップカードは、東北コットンプロジェクトで栽培されたコットンの茎から作られています。本のしおりとして再利用できるようにもなっているんですよ。

–そのまま捨てられてしまわないよう、工夫なさっているのですね。東北コットンプロジェクトというのはどのような施策ですか。
才野さん:
東北コットンプロジェクトとは、2011年の津波被害により稲作が困難となった農地にコットンを植え、土地を再生する取り組みのことです。
さらに梱包に関しては、パッケージにプラスチックを使わず、リサイクル率の高い段ボールにしています。配送時のCO2排出も可能な範囲で削減できるように、カーボンオフセットプログラムに参加する、出荷日は週に一度に設定するなど、できることから取り組むようにしています。

–配送時のCO2まで配慮なさっているなんて、素晴らしいですね。
環境問題への意識の高まりを、解決の糸口にしたい
–それでは最後に、今後の展望をお聞かせください。
才野さん:
まずは、さらに透明性を高めていく取り組みをしていきたいですね。CO+の扱う商品は、農場から最終加工までトレーサブルではあるのですが、実際に自分の目では見れていないのが現状です。
近いうちに自分の足で現地の生産工程を一つずつ辿っていき、サイト上のマガジンを通してお客様にもすべての過程を見ていただけるようにしたいと考えております。
–製造過程を見ることができると、環境問題についての意識も高まりそうですね。
才野さん:
そうですね。最終的には、服を買うときに服の裏側まで想像する力をもつ人が増えることを願っています。今は同じ見た目の洋服が二つあったら安い方を買う人が多いと思います。ですが、どんな地域で、どんな労働環境で、どんな素材を使って作られたかまで考えて洋服を選ぶ人が増えれば、自然環境や労働環境の問題も少しずつ解消されていくのかなと。
今後はおそらく、企業側が生産過程の情報を開示していく必要性は高まっていくとは思いますが、消費者側としても問題意識をもつ人が増えたらいいなと思います。
–本日はありがとうございました。
