#インタビュー

クリーク•アンド•リバー社|エンタメの力で技術と社会課題を結ぶ

株式会社クリーク•アンド•リバー社 松永さん 村上さん インタビュー

松永 雄

1979年11月1日、兵庫県西宮市生まれ。一橋大学大学院卒(MBA)。保険会社、化学メーカー、総合電機メーカーなど国内外の大手企業を経て、現職。社内プロジェクトの企画推進(戦略策定、組織風土改革、事業創出、M&A)や、AIやIoTを活用した顧客のDX支援で実績多数。2020年2月にJICAスキームで、AI・IoTの専門家として南米に派遣、グローバル視点での社会課題解決プロジェクトに参画。直近は、C&R社での新規事業立ち上げに向けて、様々なプロデューサーと連携しながら「地域での賑わい創出」に向けたユニークなコンテンツの企画開発を推進しており、活動内容はTV等でも紹介されている。

村上 瑞穂

1993年1月4日、群馬県高崎市生まれ。2011年東京電機大学へ入学。在学中に約1年間アメリカSanDiegoへ渡り語学を学ぶ。2016年に株式会社クリーク·アンド·リバー社へ入社し、同年6月に大阪支社へ配属。2022年3月には大阪支社第一ディビジョン第四セクションのセクションマネージャーに就任。事業会社やメーカーを中心にWebやイベント、動画制作からプロモーション、人材派遣営業に従事する傍ら社内人材の採用活動も兼務。現在は社会課題の解決、SDGsの取り組みなど、クライアントに近い位置での活動を行うため、大阪拠点を中心に西日本エリアのオープンイノベーション事業にも参画。

introduction

プロフェッショナルやクリエイティブ人材の派遣・紹介などのエージェンシー事業を展開するクリーク•アンド•リバー社。人材事業だけでなく、クリエイターと共にコンテンツ制作も行っています。そこで培ったプロデュース力で、最新技術と社会課題を掛け合わせたSDGs教育に力をいれています。

本日はオープンイノベーション事業部の松永さん、村上さんにクリーク•アンド•リバー社のユニークな取り組みについて伺いました。

プロフェッショナル人材をネットワークするクリーク•アンド•リバー社だからできること

–はじめに事業概要を教えてください。

松永さん:

弊社の事業としては、主に紹介・派遣のエージェンシー事業がよく知られています。ゲームやウェブコンテンツ、テレビ番組を作っているクリエイターと呼ばれる方々に加えて、医師、弁護士、会計士といったプロフェッショナルと呼ばれる専門職の方々をクライアントにご紹介しています。

他にも、クリエイターの方々と一緒にテレビ番組やゲーム、ウェブコンテンツなどを制作・開発するプロデュース事業も展開していて、例えば、最近ではライブコマースのコンテンツを一緒に企画・制作しました。

–他の紹介・派遣業とは違って、コンテンツ作りも行っているのですね。

松永さん:

そうですね。YouTube動画やライブコマースといったプラットフォーム、ツールを使ってクリエイターの方々と共に発信しています。こうしたクリエイティブを制作できるところが他社にはない強みです。

–その事業がC&R社で行っているSDGsの取り組みにも関係しているのでしょうか。

松永さん:

はい。弊社のオープンイノベーション事業部という部署では、このプロフェッショナル・ネットワークを使ってSDGsに関する教育を中心に、いくつかのプロジェクトを進めています。

取り組み①ガソリンスタンドで合唱、地域交流の拠点に

–具体的なプロジェクトをお聞かせください。

村上さん:

今一番ホットな取り組みとして、ガソリンスタンドで合唱するプロジェクトが進んでいます。私たちのビジネスの中心は人です。その思いから発展して、人を豊かにしたり笑顔にしたいと思い始めました。

–めずらしい取り組みですね。面白そうです。

村上さん:

大阪に、旭油業という地域密着型のガソリンスタンドを運営している会社があります。そこの副社長・西尾さんが「何か面白いことをしたい」とおっしゃられて、ガソリンスタンドを起点に地域の人が交流できるような場を作ろうという話になり、このプロジェクトを提案したんです。

<ガソリンスタンドでの一コマ 最初の挨拶の様子>
<身体を動かしながら発声練習>
<合唱中の様子>

–旭油業は「ガソリンスタンドで合唱を」という提案を受けてどのような反応だったのでしょう。

村上さん:

突拍子もない提案ですから普通は「何それ」となると思いますが、「いいですね」と賛同していただき話が進みました。今ちょうど合唱隊の第1期生の募集が終わったところですが、蓋を開けてみたら10代から70代の方まで36名が集まりました。

–36名も!年齢層も幅広いですね。

村上さん:

SNSで呼びかけをしたら、2日でそのくらいの応募がありました。ゴールデンウィーク明けから毎週日曜日にガソリンスタンドに集まり合唱の練習を始めます。そして最後はガソリンスタンドで発表会をします。

–合唱をテーマに選んだのはなぜでしょうか。

村上さん:

ここ最近はコロナもあって外出できない状況でした。そのことで、特にシニア層の方は人とのコミュニケーションを取る機会が少なくなってしまいました。

そういうストレスから解放されて、かつ、世代を超えてみんなで何か楽しめることがないかなと思った時に、歌なら年齢も性別も問わず誰でも楽しめるかなと考えたんです。

–確かにそうですね。ガソリンスタンドという場所にも何か意味がありそうです。

松永さん:

実はこのプロジェクトの課題には、今後CO2排出削減が進むと少なくなってしまうであろうガソリンスタンドをどうしていくかというテーマも含んでいます。今までは給油が主なサービスでしたが、今後は何をサービスとして取り入れていったらよいのかと。

–それで、ガソリンスタンドを地域のコミュニティの拠点にしたということですね。

松永さん:

はい。この課題はおそらく、全国どこのガソリンスタンドでも抱えているはずです。CO2排出削減やカーボンニュートラルが進む一方で、そうした影の世界がある。そこを解決していく意味も込めてプロジェクトを進めています。

–SDGsへの向き合い方という点で、かなりユニークだなと感じます。

松永さん:

そうですね。私たちのやっていることはSDGsでも特殊な方法だと思います。真面目に楽しく、面白くやるということを大事にしています。

取り組み②未利用魚でフードロス解消

松永さん:

他にもフードロスの解消の取り組みもあります。現在、市場に流通しておらず、食べられていない「未利用魚」や「未流通魚」がたくさんいます。これを知ってもらおうというプロジェクトです。

<未利用魚の写真>

–未利用魚や未流通魚はなぜ生まれるのでしょうか。

松永さん:

スーパーや魚屋さんと、漁港との間には必ず卸業者がいます。卸業者は、例えばアジとかサバといった皆が知っていて売れる魚しか扱いません。

–売れる魚以外は、店頭で私達の目に触れることはないということですね。

松永さん:

そうですね。海には3,600種類以上の魚がいると言われていますが、私たちが知っていて、かつ家庭で食べられている魚はほんの一握りです。それ以外は、全て市場に流通していない未利用魚となります。

–つまり、海にいる魚のほとんどは未利用魚ということですね。

松永さん:

はい。未利用魚は、食べたらすごく美味しいんです。それなのに、皆が知らずに売れないから流通しない。それはもったいないですよね。

–確かに私も知らない魚よりも知っている魚を買ってしまうかもしれません。

松永さん:

じゃあ「未利用魚ってどれだけいるのか」、「”食べたら美味しい”ということをどう伝えるか」というと、まずは海の環境を知ってもらわなくてはいけません。

それを楽しく知ってもらうためにはエンターテイメントが必要だと考えています。そこで今、遠隔釣りという事業をRe-alというスタートアップ企業と一緒にやっています。

–詳しく教えてください。

松永さん:

釣りを体験できるロボット事業で、慶応義塾大学発の力触覚を伝送する技術が活用されております。

例えば握手をしたとき、握った感触が相手にも伝わりますよね。それと同じように、常にお互いの感触が双方向に通じ合う技術です。遠隔地から海上生簀(イケス)のタイを釣る検証をされておりますが、継続して利用してもらうには釣りを楽しむだけでない「学び」が必要だと考えておりました。

<釣りマシン、釣りロボットの写真>

–それを未利用魚の問題と繋げたということですね。

松永さん:

はい。釣りなら例えばアジとかサバとかタイとか知っている魚よりも、未利用魚を釣った方がよっぽど面白いんじゃないかなと。

そこで力触覚の釣りマシンを百貨店やスーパーに置いて、子どもに楽しんでもらえればと思っています。釣った魚が未利用魚だったとなれば、子どもは未利用魚って何だろうって思うわけです。

–釣りマシンというエンタメから、社会課題へと自然に繋がっていくということですね。

松永さん:

はい。今後はさらに発展させて、釣ってすぐにそのお店で未利用魚のフライやお刺身を食べられるといったことができたら理想的だと思います。海には生態系のピラミッドがありますが、未利用魚が増えれば増えるほど生態系のピラミッドが崩れてしまうので、どんどん食べていかなければなりません。

–未利用魚を知ることは海の生態系を守ることにも繋がっていると。フードロスに対して、廃棄物を減らそうというアプローチではなくて、そもそもロスを作らないというかなり手前からのアプローチなのですね。

松永さん:

はい。これに関しては釣りマシンとは別に、飲食店を経営されているゲイトという会社の五月女社長と一緒に、ライブコマースを通じ未利用魚について発信するプロジェクトが進んでいます。

取り組み③ARと3Dプリンターで自助具を学ぶ

松永さん:

もう一つ大きな取り組みとして、自助具のプロジェクトがあります。自助具とは、要するに障がいのある方が生活するために必要な道具のことです。

例えば腕のない方は、腕に近い機能を持った自助具を使って、食事など日常生活に必要な動作を補助します。これをどう知ってもらうかということにも今挑戦しています。

<自助具の写真>

–どのようなアプローチをしているのですか。

松永さん:

私たちが今取り組んでいるのは、AR(拡張現実)の活用です。3Dプリンターで作った自助具を理学療法士向けに展開しているファブラボ品川と連携して、自助具作りを子ども向けの教育として一緒に展開していこうと。

–子どもたちはどのように学べるのでしょう?

松永さん:

東京都にいる講師が、3Dプリンターで自助具を作るところを実演します。その映像は、5G回線を使って全国各地どこでも見られるようになっているんです。

学校の先生はその映像を見ながら、生徒に指導します。そして、現地にも3Dプリンターを置くようにしているので、生徒は学んだものをすぐ作れるわけです。

<実際の講義の写真>

–ARによって、離れた場所にいる講師と生徒をまるで同じ空間にいるかのように繋げ、リアルタイムで自助具作りを経験してもらうということですね。

松永さん:

はい。自助具をまず作ってみて、そもそもなんでこれが必要なのかな?というように、楽しく社会課題を学んでもらいたいなということです。

–ここまで取り組みを聞いていると、C&R社は「楽しむ」や「エンタメ」を大切にされていますよね。

松永さん:

そうですね。やっぱり「楽しい」っていうのがないと勉強にも教育にも繋がらないと思っています。

–なるほど。学びの入り口として「楽しい」は重要かもしれません。

松永さん:

これまで、そういった技術やサービスを提供している会社がいきなり視点を変えて「ユーザーに楽しく学んでもらおう」と言ってもなかなか難しい現状がありました。だから私たちがその間を取り持ち、最初のきっかけ作りをしています。

–プロデュースに強い、C&R社ならではの発想が生きるというわけですね。

技術やゴールありきではない。必要とされるものを発想する力

–ここまで伺ってきた未利用魚や自助具を知ってもらおうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

松永さん:

「たまたま」だと思います。たまたま関わっている人たちのやりたいことや課題を聞く中で、これとこれを繋げたらこんなことできるんじゃないかなと。課題と技術を自由に組み合わせて推進する力は、弊社のプロデュースチームの強みです。

–すでにある技術を使おうとか、SDGsをやろうという意識で始めたわけではないということですね。

松永さん:

そうですね。むしろSDGsありきで自分たちが作っているものを活用しようという発想だと、結局は会社の自己満足で終わってしまいます。大事なのは、世の中が必要としているものは何かという発想だと思います。

よく、「C&R社って何をしている会社なの?」と聞かれることがあります。映像制作やTVディレクターの派遣、医師の紹介などカバーしている事業領域が広いために、繋がりがわかりづらいんでしょうね。

–確かに、全然違う分野ですね。

松永さん:

でもプロフェッショナルの方々の知見を活かしていく、という根本は同じなんです。そして、この領域が広がっていくことによって様々な知見が集まってきて、それを掛け合わせると新しい事業や、課題解決方法が見えてきます。

それによって人を助けられたり、新しいビジネスが立ち上がったりするところが私たちの原点なんですよね。

–今回ご紹介いただいた取り組みは、実は全てC&R社の創業の理念を受け継いでいるのですね。では、取り組みに対する反応はいかがでしょうか。

松永さん:

今は実証実験の段階で、あまり広く認知してもらうようなフェーズではありません。しかし、参画してくれている方は本気で面白いと思ってやってくれています。

例えば、ガソリンスタンドでの合唱は誰もやったことのない取り組みですが、30人以上も集まったのは西尾副社長が本当にこれをやりたいと、自ら動いてくれたからです。

–発案したC&R社だけじゃなくて、当事者も同じ熱量でいるんですね。

松永さん:

そうですね。その結果、ユーザーが沢山集まって、今後はそこからフィードバックを得て、より良い事業にしていければと思っています。

目指すは一万人の合唱、スーパーに未利用魚が並ぶ世界

–今後の展望についてお聞かせください。

松永さん:

今回、3つのプロジェクトを取り上げましたが、例えば合唱プロジェクトはどんどん規模を大きくしていきたいです。

年末に開催されている「一万人の第九」のように、私たちは5Gを使って、大阪のガソリンスタンドから遠隔で繋がる「一万人のプロジェクト」ができたら面白いなと思っています。

–すごい響きですね、面白そうです。

松永さん:

そして未利用魚であれば、スーパーに行ったときに「この間見た未流通魚が売ってるね」という会話が聞こえてくる世界を作ったり。

自助具であれば、子どもがARを通して自助具に触れた経験をもとに、理学療法士とかを目指す方が増えたりしたら嬉しいですね。

–想像するとわくわくしますね。

松永さん:

私たちの取り組みは、仲間を集めることがすごく大切だと思っています。取り組みが知られていって、その結果、社会にはこういうプロデュースチームが必要なんだよねと認知してもらえることで、C&R社自体の事業の成長にも繋がります。

–SDGsを広めることが、巡り巡って会社にとってもプラスになるということですね。

松永さん:

現在、オープンイノベーション事業部が手掛けているのは、地方創生や、スタートアップ企業、商業施設、金融機関の人たちを巻き込んで社会課題を解決していくプロジェクトです。

プロデューサー的な発想で新たなビジネスを立ち上げたり、社会の課題を解決したりする。これは会社の理念でもあり、これから進んでいきたい方向でもあります。

–今後も社会を変える面白いアイディアがどんどんでてきそうで楽しみですね。本日は貴重なお話ありがとうございました。

関連リンク

>>クリーク・アンド・リバー社