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アンモニア火力発電とは?仕組みやメリット・デメリットと問題点を解説

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近年、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を排出する火力発電が問題視されています。

その中で、日本ではアンモニア火力発電を推進しています。なぜこのタイミングでアンモニア火力発電が後押しされているのでしょうか。

ここでは、アンモニア火力発電の概要から、仕組み、メリットデメリット、国内外の普及状況まで網羅的に紹介していきます。

アンモニア火力発電

アンモニア火力発電とは、アンモニアを燃料に使用して行う火力発電です。石炭とは異なり、アンモニアを燃焼しても二酸化炭素を排出しないのが特徴です。

そもそもアンモニアとは

そもそもアンモニア(化学式:NH₃)とは、常温常圧で無色の気体です。人体にとっては有害であり、強い刺激臭を放つのが特徴です。

私たちにとってはあまり馴染みのない化学物質ですが、身の回りにある化学製品の原料として頻繁に用いられています。

例えば、衣料品に用いられるナイロンでは、中間原料としてアンモニアが用いられています。また、アクリロニトリルと呼ばれる合成ゴムの主原料となる物質も、アンモニアを原料としています。他にも、アンモニアは植物を育てる肥料としても広く活用されています。

アンモニア発電の歴史

このアンモニアを燃料として活用する発想は以前からあり、1960年代から研究されていました。しかし、アンモニアは非常に燃えにくい特性を持っており、燃料として扱いにくく実用化には至りませんでした。

その後研究が進み、現在では燃焼時に二酸化炭素を排出しないという観点から再び注目を集め、水素エネルギーや自然エネルギーなどとともに新たな発電燃料として期待されています。

2021年、電源構成にアンモニア火力発電が組み込まれた

そして、世界的に脱炭素の流れにある昨今、2021年に政府が公表した「第6次エネルギー基本計画」にて、初めてアンモニア発電が電源構成として組み込まれました。

日本でもカーボンニュートラルを実現するにあたって、電力部門の脱炭素化が不可欠です。

しかし、太陽光発電風力発電といった再生可能エネルギーによる発電は、自然状況によって発電量が左右されるため、電力の安定供給性に不安が残ります。

また、東日本大震災以降、原子力発電の活用にも反対の声が多く上がり、稼働率は減少傾向にあります。

こうしたことから、日本の電力需要を再エネ発電と原子力発電で賄うことは難しく、今後も火力発電が欠かせません。火力発電は燃料を投下すると発電できるため、電力の安定供給性に優れているのです。

電力部門での脱炭素を行うにあたって、火力発電から脱却するのではなく、火力発電をどうやって脱炭素化していくのかが重要と言われています。

参考:「第6次エネルギー基本計画」(PDF)

アンモニア発電の仕組み

続いて、アンモニア火力発電の仕組みについて見ていきましょう。

混焼

アンモニア燃料は燃焼速度が遅いことから、石炭と合わせる手法が一般的です。

このように、他の化石燃料とアンモニア燃料を混ぜながら燃焼し、火力発電を実施する手法を、アンモニア混焼と呼びます。

この場合、既存の火力発電の中に化石燃料とアンモニア燃料を一緒に投入できます。そのため、専用の火力発電設備を新設する必要がありません。

もちろん、アンモニア燃料のみで発電を行う専焼の方が二酸化炭素排出量を抑えられます。しかし、必要となるアンモニア燃料の調達量や調達コストの関係から、実現は困難とされています。

そのため、日本では当面の間、まずアンモニア混焼の実用化と普及を目指しているのです。

政府資料によると、石炭火力に用いられる燃料を20%アンモニアに代替して混焼する実証実験が進められています。

燃料電池

また、アンモニア燃料を直接供給する燃料電池の研究開発も京都大学や株式会社IHIによって行われています。

燃料電池とは、蓄えられた電気を取り出す通常の電池とは異なり、化学反応によって発生した電気を継続的に取り出せる電池です。

今回行われた研究開発によると、アンモニアを燃料とする燃料電池も水と窒素しか排出せず、二酸化炭素排出量削減を実現できます。

アンモニア火力発電のメリット

このように、アンモニアを燃料とするアンモニア火力発電は現在も研究開発が進んでおり、実用化に近づきつつあります。

では改めてアンモニア火力発電のメリットについて詳しく見ていきましょう。

新設する燃料生産設備、発電設備を最小限に抑えられる

アンモニアは肥料や化学繊維の原料として、既に世界中で広く製造されています。

また、発電設備に関しても、既存の火力発電設備をそのまま流用できます。

そのため、「燃料を生産する設備」「発電を行う設備」の新設を最小限に抑えることができるのです。

燃焼しても二酸化炭素を排出しない

アンモニアは燃料として燃焼しても二酸化炭素を排出しません。

そのため、国内の大手電力会社が運転する全ての石炭火力発電にて、20%アンモニア混焼を実現した場合、約4,000万トンの二酸化炭素を削減できます。(1*

他にも、国内の大手電力会社が運転する全ての石炭火力発電をアンモニア専焼に変換した場合、約2億トンの二酸化炭素排出を削減できると言われています。(1*

日本の電力部門における二酸化炭素排出量が約4億トンであるため、20%アンモニア混焼によって削減できる4,000万トンは排出量の約10%に相当し、専焼によって削減できる2億トンは排出量の約半分に相当します。(2*

有害物質だが、生産・運搬・貯蔵の分野で安全面への対策が施されている

アンモニアは人体にとって有害であり、過度に体内に取り込んでしまうと死に至る恐れがあります。実際、日本でもアンモニアに関する労働災害はいくつか発生しており、死亡事故につながった事例も存在します。

しかし、古くから様々な分野で用いられてきたこともあり、生産や運搬、貯蔵などの工程で安全面への対策やガイドラインが整備されています。

危険性があるため油断はできないものの、取り扱いに関するノウハウが蓄積されているのも、アンモニア火力発電を推進していくうえで大きなメリットと言えるでしょう。

アンモニア火力発電のデメリット

火力発電の燃料に使用しても二酸化炭素を排出しないアンモニアですが、メリットばかりではありません。アンモニア火力発電のデメリットについても確認していきましょう。

発電に使用できるほどアンモニアを準備できない

現段階のサプライチェーンでは、国内の石炭火力発電施設にてアンモニア混焼を実現するのは困難とされています。

これは発電設備側の問題ではなく、アンモニア混焼を実現するだけのアンモニア燃料を確保できないためです。

もし、国内の大手電力会社すべての石炭火力発電設備にてアンモニア20%混焼を実施していく場合、年間で約2,000万トンのアンモニアが必要となります。

これは2019年度における世界全体の貿易量に相当し、現段階では国内で生産量を向上するにしても、海外からの輸入量を増加するにしても実現は困難です。

アンモニア発電を実用化し、さらにはアンモニア燃料だけで火力発電を行っていくことを考慮すると、必要となる燃料の量はさらに多くなるでしょう。

今後アンモニア火力発電を普及させていくにあたって、どのようにアンモニア燃料を調達していくのかが重要となってきます。

生産時に二酸化炭素が排出される

現在、世界で行われているアンモニアの製造方法としてはハーバー・ボッシュ法が主流です。このハーバーボッシュ法では、化石燃料を用いながら窒素と水素を化学反応させてアンモニアを製造しますが、その際に二酸化炭素を排出してしまうのです。

ある資料によると、世界のアンモニア生産によって年間5億トンの二酸化炭素が排出されており、これは1年間における世界の二酸化炭素排出量の約2%に相当します。(3*

もし、日本でアンモニア火力発電を行うために、燃料であるアンモニアの生産量を増やしてしまうと、生産過程で発生する二酸化炭素排出量はさらに大きくなるでしょう。脱炭素を実現するために、アンモニア火力発電を行うのであれば、アンモニア生産時にも二酸化炭素を排出しない工夫が必要です。

コスト面で不安が残る

もし、現在の市場から燃料用のアンモニアを大量調達すると、需給バランスが崩れ、価格が高騰する恐れがあります。

これにより、アンモニアを原料として使用する多くの分野へ影響を及ぼしてしまうのです。

特にアンモニアを原料とした肥料の価格が高騰すれば、食材の価格上昇にもつながります。アンモニアを燃料用に大量調達するのであれば、新たな生産体制を整える必要があるでしょう。

また仮に、アンモニア火力発電を行う上で必要なアンモニア燃料を調達できたとしても、既存の火力発電と比較すると、発電コストは高くなってしまいます。

政府資料によると、20%アンモニア混焼を行った場合、その発電コストは石炭火力発電の1.2倍程度になると予測されています。(1*

これが100%アンモニア専焼となると、さらに発電コストは大きくなり、石炭火力発電の2倍以上となります。

燃料用にアンモニアを大量生産するのであれば、さらなるコスト低減も必要です。

燃焼時に窒素酸化物が排出される

アンモニア火力発電を行う上で大きな不安材料となるのが、燃焼時に排出される窒素酸化物です。

この窒素酸化物が呼吸によって人体へ取り込まれると、呼吸器疾患へとつながる恐れがあります。さらに、窒素酸化物は光化学スモッグや酸性雨の原因とも言われており、自然への悪影響も懸念されます。

このように、アンモニア火力発電は二酸化炭素を排出しないという観点から注目を集めていますが、人体や自然環境への悪影響がゼロというわけではないのです。

※参考:アゴラ 言論プラットフォーム アンモニアを燃やすことの愚かしさが、なぜ分からないのか?

アンモニア火力発電の普及状況

ここまで見てきたように、アンモニア火力発電は様々なメリット・デメリットを抱えています。しかし、今後の脱炭素社会を目指す上で、火力発電を行いながら二酸化炭素を排出しないという点は魅力的です。

では、アンモニア火力発電が現在どこまで普及しているのか世界と日本それぞれで確認していきましょう。

世界におけるアンモニア火力発電の普及状況

国際エネルギー機関であるIeaでは、アンモニア火力発電のメリットに着目しているものの、国単位で導入しようとする動きは多くありません。

実際、現在生産されているアンモニアの内、発電に用いられているのは1%にも届いておらず、あまり普及していないことが分かります。(4*

そもそも世界では火力発電に大きく依存している国は少なく、アンモニア発電を行うメリットが少ないこともあるでしょう。

例えば、環境意識の高いヨーロッパでは、地形を活かした風力発電や水力発電が盛んに行われており、他の主要な発電方法としては原子力発電が行われています。

また、アメリカでは再エネ発電の供給量を増やしていく方針がとられており、2022年には発電量の再エネ比率が20%を超えるとも予測されています。(5*

そのため、火力発電における二酸化炭素排出量を抑えるアンモニア火力発電は、世界的に見ても特殊な発電方法に位置するのかもしれません。

日本におけるアンモニア火力発電の普及状況

2022年現在、日本におけるアンモニア火力発電は、混焼・専焼ともに実現できておらず、研究開発と実証実験が日々行われています。

特に日本トップクラスの火力発電会社JERAは、アンモニア火力発電の導入に積極的であり、「JERAゼロエミッション2050」にてアンモニア火力発電について言及しています。

これによると、2020年後半には20%アンモニア混焼の商用運転が行われ、さらにアンモニア比率の高い50%混焼も2030年代前半に商用運転が行われるとしています。

現段階では日本でアンモニア火力発電が普及しているとは言えません。しかし、今後の研究開発と実証実験の結果によっては、日本でもアンモニア火力発電が拡大していくでしょう。

※参考:JERA JERAの脱炭素に向けた取り組みについて(PDF)

アンモニア火力発電の今後の課題

日本でも政府や民間企業を問わず、アンモニア火力発電普及に向けて取り組んでいます。

最後に、アンモニア火力発電の課題に対して政府や企業がどのように取り組んでいるのか紹介します。

課題①:アンモニアを燃料として活用できるよう供給体制を構築

アンモニアが燃料として使われるようになれば、すぐに供給不足になることが予想され、不足すれば価格の高騰をまねく恐れがあります。

そのため、政府は短期的には2030年に向けて、国内の燃料アンモニアの生産拡大を目指し、製造プラントの新設を進める予定を立てています。

また、長期的には2050年に、世界全体で1億トンのアンモニアを調達できる環境を整える目標を立てています。

※参考:燃料アンモニア導入官民協議会 燃料アンモニア導入官民協議会 中間取りまとめ(PDF)

課題②:すべての過程で二酸化炭素を排出しない取り組み

アンモニア火力発電を行う上で、燃料製造時に発生する二酸化炭素を抑えていくことも重要です。

そのため、政府はアンモニアの大量生産に伴い供給体制を整え、発電コストを抑えられるようになった後、アンモニア製造の際に発生する二酸化炭素排出量を抑える技術を開発していくと述べています。

現在考えられている対策としては以下の3つです。

  • CCS:発生した二酸化炭素を地下に貯留し、大気に流出させない方法
  • カーボンリサイクル:発生した二酸化炭素を再利用する方法
  • 再エネを利用してアンモニア製造:再エネを利用してアンモニアを製造することで、製造時に二酸化炭素を排出させない方法

今後の技術開発によって、これらの方法の更なる効率化、コスト低減が求められるでしょう。

※参考:燃料アンモニア導入官民協議会 燃料アンモニア導入官民協議会 中間取りまとめ(PDF)

まとめ

アンモニア火力発電は燃料を用いた火力発電でありながら、燃焼時に二酸化炭素を排出しないため、カーボンフリーの発電方法として注目を集めています。

特に日本では再エネ発電が伸び悩んでいる現状があり、電力部門の脱炭素化を実現していくうえでもアンモニア火力発電は期待されています。

しかし、アンモニア火力発電も完璧な発電方法というわけではなく、様々なデメリットや課題が存在します。今後日本でアンモニア火力発電を普及していくのであれば、これらの課題をどのようにして解決していくのかが重要となってくるでしょう。


<出典>
1.燃料アンモニア導入官民協議会 燃料アンモニア導入官民協議会 中間取りまとめ
2.JCCA 4-4 日本の部門別二酸化炭素排出量(2020年度)
3.THE ROYAL SOCIETY Ammonia:zero-carbon fertiliser,fuel and energy store,
4.IREA INNOVATION OUTLOOK RENEWABLE AMMONIA
5.JETRO 米エネルギー情報局、2022年の発電量の再エネ比率が22.5%に拡大と予測