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千葉商科大学 学長 原科さん|千葉商科大学が目指す「自然エネルギー100%大学」の全貌とは

千葉商科大学学長 原科 幸彦さん インタビュー

原科 幸彦

1946年、静岡市生まれ。千葉商科大学学長。

東京工業大学理工学部卒業(1969)、同・大学院博士課程修了(工学博士)、国立公害研究所(現・国立環境研究所)主任研究員、マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京工業大学助教授・教授などを経て同大名誉教授。2012年に本学政策情報学部教授に就任、2014 年から政策情報学部長、2017年3月から現職。放送大学でも長期間講義を担当しており、国際影響評価学会(IAIA)会長、日本計画行政学会会長なども歴任。これまでIAIA ローズハーマン賞、日本計画行政学会論文賞、環境科学会学術賞、国際協力機構理事長賞など多くの賞を受賞している。専門は社会工学で、参加と合意形成研究、環境アセスメントの第一人者として国内外で広く知られている。

introduction

大学で行われるSDGsの取り組みにフォーカスし、インタビューする本企画。今回は、SDG大学連携プラットフォーム(SDG-UP)に参加する千葉商科大学学長 原科幸彦さんへインタビューさせていただきました。

「自然エネルギー100%大学」を目標に掲げる千葉商科大学。学内の取り組みに加え「自然エネルギー大学リーグ」を設立し、他大学を巻き込みながら環境負荷の抑制、脱炭素化を推し進めるなど、精力的な活動を続けていらっしゃいます。そんな原科学長が見据える未来やSDGsに貢献するために大学が果たす役割についてお伺いしました。

SGDsと建学の理念の共通点

–本日はよろしくお願いします。千葉商科大学では、SDGsに関連した様々な環境プロジェクトが行われていますが、活動を始めたきっかけを教えてください。

原科さん:

SDGsと千葉商科大学建学の理念である「商業道徳の涵養(かんよう)」に共通点があると感じたからです。

本学ができたのは、世界大恐慌が起こる前年の1928年。当時は荒っぽい商売も多く、商業道徳が乱れていました。

「これは良くない」と考えたのが本学の創設者である遠藤隆吉先生です。遠藤先生は、乱れた商業道徳に「武士的精神」を注入する必要があると考えました。ここでいう武士的精神とは新渡戸稲造がいう武士道であり、日本のモラルの源泉としてのものです。

「筋を通す、嘘をつかない、曲がったことをしない」といったような武士道の精神を、教育を通じて養って欲しいとの想いから本学が設立されました。

–モラルを持って商いができる人を育成したいとの思いがあったのですね。原科様は武士道のどういった部分がSDGsに関連していると感じたのですか?

原科さん:

新渡戸稲造の整理した武士道には7つのキーワードがありますが、そのうち最初の3つ、義・勇・仁が特に重要です。「義」とは正しいこと。何が正しいかを判断することが重要です。そして、「勇」はそれを実行する勇気のことを表します。この2つが備わっているだけでも素晴らしいのですが、リーダーとして忘れてはいけないのが周りへの配慮や思いやりの心、3つ目の「仁」です。

この「仁」がSDGsの理念である”no one will be left behind”あるいは最近では”leave no one behind”(地球上の誰一人として取り残さない)の想いと共通しているのではないかと感じました。

このことから、大学としてSDGsに取り組むことで建学の理念を未来に継承できるのではないかと考え、様々なプロジェクトに取り組むようになりました。

自然エネルギー100%大学の実現には「商いの力」が必要

–千葉商科大学で行う「学長プロジェクト」の特徴について教えてください。

原科さん:

「会計学の新展開」「CSR研究と普及啓発」「安全・安心な都市・地域づくり」「環境・エネルギー」の4つのプロジェクトから構成されるもので、2017年に本学の学長に就任した際にスタートさせました。大学という立場から持続可能な社会の実現やSDGsに貢献することを目的としています。

今回は、そのうち「環境・エネルギー」の取り組みについてお話しさせていただきますね。

このプロジェクトの一番の目的は、「自然エネルギー100%大学」の実現です。これは本学が所有する太陽光発電所や市川キャンパス内建物の屋上太陽光による発電量と、本学のエネルギー使用量を同量にすることを意味しています。

実はこのテーマは、学長プロジェクトを始める前から取り組んでいました。2013年に千葉県野田市に「メガソーラー野田発電所」を建設しましたが、これは大学単体の発電所としては日本一大きい発電所です。

これは2012年に大学経営陣が、再生エネルギー導入を支援するFIT(固定価格買取制度)を適用し、発電した電力を東京電力に買電する「太陽光発電事業」をスタートさせたものです。

–学長プロジェクトを始める以前から、先駆的な取り組みをされていたんですね。

原科さん:

他大学も同じようなことを検討したようですが、実行前に諦めてしまったところが多かったようです。そんな中、なぜ本学が率先して取り組めたのかというと、先ほど申し上げた「義」と「勇」があったからだと思います。ただし、この段階ではあくまでも大学の経営上の観点から、授業料をあげないで済むように収益増を目的としたもので、「自然エネルギー100%大学」の構想はありませんでした。しかし、真っ当なエネルギーによる発電事業の価値を重視したのです。

–まさに建学の理念が生きていますね!

原科さん:

そうですね。もう一つ忘れてはいけないのが、商科大学が持つ「商いの力」です。私は理工系出身の人間ですが、いくら素晴らしいテクノロジーを開発したとしても、それを広げることができなければ意味がありません。この「流通」の部分を担うのが商いであり、商科大学の役割なのではないかと感じています。

自然エネルギー100%大学の実現を進めることで、本学が持続可能な地域分散型エネルギー社会の核になっていきたいと考えています。

全学的な取り組みに向けて、周囲の理解を深めていった

–環境・エネルギーの取り組みを「学長プロジェクト」として全学的に行うようになるまでは、お時間がかかったそうですね。

原科さん:

はい。大学としてプロジェクトを行うには学内の合意形成が重要だと考えていたため、教員や学生の理解を得ながらできることから少しずつ進めていました。

2012年、私が本学に来た当時は自然エネルギーが重要だという考えはまだ学内にそれほど浸透してはいませんでした。そこで2013年には、学外への発信や学内での関心を高めることを目的に、丸の内にあるサテライトキャンパスで「持続可能な環境エネルギー政策を考える」をテーマにCUC公開講座をスタートさせました。

2014年、政策情報学部長に就任後は、鮎川ゆりかゼミ、杉本卓也ゼミと3者共同ゼミを開催しました。学外からも、各大学の環境対策を評価する「エコ大学ランキング」を実施する学生組織NPO法人エコ・リーグを招いて議論をしました。その結果、メガソーラーの発電量で大学が消費するエネルギー量の6割強に相当すると推計されました。この時はまだ学部長という立場ではあったのですが、学生に背中を押される形で千葉商科大学を「自然エネルギー100%大学にしたい」と私が意思表明しました。具体的にはプレスリリースをしました。

–この時点ではまだ大学全体での取り組みではなかったのですね。

原科さん:

そうですね。まだ政策情報学部のプロジェクトにとどまっていました。大学組織として取り組むきっかけとなったのが、外部コンサルタントの協力を得て、2015年に経済産業省から補助金をいただいたことです。自分たちで使う電力を減らしつつその分を作り出すという省エネ・創エネプロジェクトを行う上でどんな打ち手があるのか、補助金を使って調査しました。

そこで、ネット・ゼロ・エネルギー・キャンパス、言い換えると「RE100大学」になり得るという結果が出たため、全学的な取り組みをと提案できるようになりました。

原科学長が大切にする「隗より始めよ」

–一つひとつの積み重ねがあって今があるということが分かりました。学生たちを巻き込むうえで、どういったことをされたのでしょうか?

原科さん:

私はいつも「まず、隗より始めよ」という言葉を大切にしています。これは、言った本人が、まず行うことから始めようという意味です。最初のモデルを示すから、他の人にも続いてもらいたいということです。

学生たちの節電意識を高めるために2016年から始めた「打ち水大作戦」が、その取り組みの一つと言えるでしょう。これは、2015年の調査結果も踏まえて実施を始めました。7月の1週間を省エネ週間と決めて、学生たちが集まる食堂の前で打ち水を行います。海外からサマースクールで来る留学生も浴衣を着てやるなど、今や毎年の風物詩となっています。

こういった取り組みが、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」を身近な問題として考えてもらう、一つのきっかけになって欲しいと感じています。

–大学の伝統となり得る、素晴らしい取り組みですね!

原科さん:

ありがとうございます。2017年学長に就任後、千葉商科大学として「自然エネルギー100%大学」を目指すことを正式に表明し、11月には記者会見も行いました。これは、たくさんのメディアの方に取材していただき「大学全体で取り組んでいく」ことの周知とともに、活動の後押しになったのではないかと感じています。

学長プロジェクトがもたらしたプラスの変化

–学長プロジェクトを通して、どういった成果を感じていますか?

原科さん:

2つあります。1つは「自然エネルギー100%大学」を達成し、エネルギーに関してSDGs目標12「つくる責任 使う責任」を果たすことができたことです。

2019年1月に電力での自然エネルギー100%大学を達成し、その年の8月には「みんな電力株式会社」協力のもと、電力の調達においても再生可能エネルギー100%としました。

–もう1つの成果とは一体何でしょうか?

原科さん:

「千葉商科大学で〇〇をやりたい」と具体的な想いを持って本学への入学を希望される方が増えたことです。ありがたいことに、高校の進路指導の先生方も「千葉商科大学は面白いことをやっているよ」と学生たちに薦めてくださっているようです。

2019年12月3日号の「週刊エコノミスト」では表紙を飾り、2014年度から2019年度までの5年間で本学への志願者が7.6倍になったことを取り上げていただきました。これは、日本一の伸び率でした。

教員や学生たちの頑張りのおかげですが、様々なプロジェクトを行ったことで、本学の考えや活動内容を外部に発信できたことも大きな要因ではないかと感じています。

–7.6倍とは驚異的な伸び率ですね。学内の学生たちにも何か変化はありましたか?

原科さん:

以前と比較して、目指す就職先の解像度が上がってきたように感じています。例えばプロジェクトに関わってくれた学生が「みんな電力株式会社」へインターンシップに行き、その働きっぷりを社長に評価してもらい採用に繋がったというケースも聞かれるようになりました。

–原科学長が時間をかけて積み上げてきたものが、たくさんの人に届いた結果ですね。

原科さん:

大学は質の高い教育を提供することがベースですが、さらに、そこに「何か」を掛け合わせることが必要だと考えています。しっかりと心に訴え続ければ、人は動いてくれるんですよ。

自然エネルギー100%大学の輪を広げていきたい

–最後に、学長プロジェクトの今後の展望を教えてください。

原科さん:

先ほども申し上げた「まず、隗より始めよ」に全てが詰まっていると感じています。

例えば、「自然エネルギー100%大学」を広げていくこともその一つです。理工系の大学は電力消費が多いので、現状では全てをまかなうのは難しいですが、まずは電力消費が少ない文系大学での取り組み事例を増やすことで、理工系の大学にも輪を広げていきたいと考えています。

目標を達成する大学が増えれば、他の大学もそれに続いてやってくれると信じています。実際に、和洋女子大学や東京医科歯科大学教養部でも取り組みが始まり、そこから国際基督教大学、聖心女子大学、東京外国語大学などの大学へと広がってきました。

最初は文系色が強い大学が中心でしたが、当初は教養部だけの取組みだった東京医科歯科大学が、その後「全学的に取り組みたい」と言っていただけるまでになりました。

すぐに達成できなくても良いので「将来必ず実現する」と宣言し、それに向かって動いていくことが大切なんだと思います。

–千葉商科大学の取り組みを前例として、輪が広がっていますね。自然エネルギー100%の大学を増やすことを目的とした「自然エネルギー大学リーグ」も設立されたそうですね。

原科さん:

はい。2021年6月7日に発足しました。私が代表世話人を務める自然エネルギー大学リーグは、各大学における自然エネルギーの活用を促進し、自然エネルギー100%の大学を増やしていくことを目的としています。大学が変わると、企業も変わり、自治体も変わる。そうして、社会を自然エネルギー100%で支えていけるよう変えていく。SDGsの目指す社会改革の一つです。しかも、重要な一つです。

設立当初は9大学でしたが、2021年11月の時点では参加大学は13大学にまで増やすことができています。さらに、他の大学とも相談しています。色々な大学の取り組みを互いに見ることで「自分の大学でもできるのでは?」という気づきや考える機会を与えられたら嬉しいです。

ここまでくるのに多くの失敗もありましたから、その失敗も学びに変えていただけるよう惜しみなく伝えていくつもりです。

–今後もどんどん輪が広がっていくことを期待しています。本日はありがとうございました!

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