#インタビュー

株式会社エコロギー|コオロギは優れた栄養価を持ち、環境にもに優しい期待の昆虫食

カンボジアの契約農家さんと葦苅さん

株式会社エコロギー 代表 葦苅さん インタビュー

葦苅 晟矢
1993年12月2日大分県生まれ。2017年9月早稲田大学商学部卒業。2017年12月の大学院先進理工学研究科在学中に株式会社エコロギーを創業。2018年12月に研究成果をもとに単身カンボジアに進出。2020年カンボジアにおいてコオロギ研究・量産体制を確立に成功。現在はカンボジアと日本を往復しながら、カンボジアでの研究・生産体制の強化と日本でのブランディング強化・認知度向上を同時に目指している。

introduction

食料危機と環境危機のなかで注目を集めている昆虫食。株式会社エコロギーは、とりわけ抜群の栄養価を持ち、飼育が容易で環境負荷も少ないコオロギに目をつけました。カンボジアでのコオロギ量産に成功した同社は、環境課題に対してのみならず、人類の健康に貢献する食品ととらえ、さらに研究開発を進めています。

今回は、創業者の葦苅晟矢代表取締役に、食品としてのコオロギの有用性について伺いました。

企業理念は「地球と生命(いのち)を健やかに」

–まずは、御社の業務の概要をご紹介ください。

葦苅さん:

2017年創業の当社は、昆虫食のなかでもコオロギに着目し、飼育に適したカンボジアを拠点として、コオロギの生産から加工、販売までのすべてを一貫して事業を行っています。

「地球と生命を健やかに」という企業理念を掲げ、食料危機、環境汚染危機にある世界において、その双方に優れた有用性をもつコオロギを食品として広めることをミッションとしています。エコとコオロギから社名を「エコロギー」としたように、コオロギで地球環境にとっても社会にとっても、すこやかな持続可能性を実現していくことを目指しています。

–大学院在学中に起業されました。その詳細はのちほど伺いますが、学生時代に早々と行動に移した背景はどのようなものだったのでしょうか?

葦苅さん:

学生時代から食料問題や社会課題に関心があったことがそもそもの背景ですね。出身が大分県の日田という田舎で、幼いころから自然とふれあって育ったことも、環境問題に目が向く背景となったのかもしれません。

大学の課外活動では、模擬国連など、国連問題をディスカッションするサークルに入っていました。食や資源、環境などの社会課題をビジネスの力で解決してみたいと思っていたからです。大学では起業家養成の授業も受け、社会課題にビジネスで取り組めること、学生でも起業できることが実感でき、大学院生での起業につながったと思います。

コオロギは、極めて有望な食料資源

–コオロギに出会ったきっかけと、研究の対象に定めた理由をお聞かせください。

葦苅さん:

サークルで模擬国連をやりながら、食のなかでも、いかに新しい資源を自分の手で作れるか、ということが大きな自己テーマでした。学生であっても、東京であっても、明日にでも生産にとりかかれる食料を探し求めていたんです。

2013年に、国連が昆虫食の有用性と可能性についてのレポートを出し、タイムリーにそれを読みました。冒頭に、昆虫は少ない土地で少ない水で簡単に始められる食料生産であると言及されていて、「これは大きな可能性があるな」と思ったのが昆虫食に目を向けるきっかけとなりました。

調べていくと、昆虫のなかでもコオロギは食料資源として極めて有望で、3つのメリットがあることが判りました。1つ目は、栄養価の高さです。粉末でのタンパク質の含有量が65%と極めて高く、鉄分、亜鉛といったミネラルも豊富で、この3種は食品原料の含有量としてトップクラスです。鉄分、亜鉛は日常の食事ではなかなか摂取が難しいですし、不足すると貧血に繋がります。

養殖されたコオロギから抽出したパウダーは、コオロギのラテン名から派生して「グリロパウダー」と名付けました。グリロパウダーは、既存の高タンパク食品に引けを取らない、もしくは上回るタンパク質を含んでいます。グリロパウダーの栄養分の高さは、下記の比較表でご確認いただけます。

2つ目のメリットは、飼育に当たり環境負荷が少なく、地球環境に優しいことです。コオロギ飼育は、牛と比べ、必要とする水が2000分の1、飼料が100分の7、排出する温室効果ガスは25分の1となっています。

3つ目のメリットは、飼育が容易であり、食料として収穫できるスパンも45日と短いことです。これは生産者にとっては非常に大きな利点です。

増やし方が簡単ならまずは自分でやってみようと、コオロギを十数匹購入し、一人暮らしの部屋に虫籠を置いて飼い始めました。産む卵の数も多く、ライフサイクルも早いですから飼育箱はどんどん増えました。結果として半年で千匹ほどに達し、コオロギ生産の手ごたえと面白さを感じましたね。

素人の学生でも、試行錯誤の結果そこまではいけましたが、そこから先、さらに大量生産できるかが鍵でした。千匹を越えてくると成功効率が悪くなり、安定生産が難しいという壁にぶつかったんです。

そこで気づいたのが、起業していくには理系、バイオの知見がないと難しいということです。私は早稲田の商学部に属する文系の学生でしたので、研究のネットワークが欲しくて、大学院の理系に進む決断をしました。そこで指導教官として、研究者であると同時に、人材育成にも力を入れている朝日透教授と出会えたことが幸運でした。

様々なテーマを幅広く研究している朝日研究室が、私のコオロギの研究を受け入れてくださり、コオロギのグループを作ろうとまで言っていただけて、そこから私と先生を含めた研究者でコオロギ研究がスタートしたんです。

生産者のもとに足しげく通い、コオロギは必ず全量買い取り、ようやく信頼を築き上げる

–大学院時代での起業の詳細と、のちにカンボジアを生産拠点と決めたプロセスをお聞かせください。

葦苅さん:

コオロギで起業することを決断して以来、朝日研究室からは研究面で大きな支援をいただき、資金面では、早稲田大学にあるベンチャー起業を支援する仕組みを活用しました。2017年に株式会社エコロギーを創業し、2021年には、研究開発費や先行投資に当てる資金調達先、いわゆる株主として早稲田大学系の投資会社にも参画していただきました。

最初は日本で量産することを前提としていました。しかし、日本の気候ではなかなか安定生産が難しいことが判ったんです。コオロギは温かいところが好きですから、日本の冬には沖縄でさえ飼育箱を加温せねばなりません。コオロギ自体はエコでも、飼育に暖房エネルギーを使うのでは環境負荷が上がり、意味がありませんし光熱費もかかります。

そこで海外に目を向け、東南アジアの情報を調べてみると、カンボジアが気候的にも適し、そのうえ、昔から昆虫食の文化があるとわかりました。藁にもすがる思いで現地に行ってみると、首都ブノンペンでは、コオロギを素揚げにして屋台で売っていました。そのコオロギの出所を追ったところ、兼業で生産している農家さんにたどりつけたんです。

この農家さんは、きわめてアナログな方法で約5万匹のコオロギを生産していました。自分は、大学のラボで実験を重ねに重ねて、やっと1万匹というレベルです。これは日本で研究していても仕方ないな、と思いました。

その中で、カンボジアのコオロギ生産者の基盤をうまく活用させてもらいながら、彼らにできないことがあるなら、日本の技術や研究成果をマッチングさせればいいと考えたんです。これがカンボジアをコオロギの生産拠点と決めた背景です。そして2018年12月にカンボジアに進出、2019年4月には単身移住しました。

–カンボジアではどれくらいの数の生産者を確保しているのでしょうか。そこに至るまでのご努力、喜び、苦労なども併せて現状をご紹介ください。

葦苅さん:

現在は、ブノンペンの南に位置するタケオ州で、コオロギを兼業で生産している零細農家さんを65軒ほど確保できていますが、そこに至るまでは苦労の連続でした。田舎の住民はクメール語以外話しませんし、外国人慣れもしていません。突然現れた日本人から「そのコオロギが欲しい」と言われても、警戒するのは当然ですよね。何度も足を運び、信頼関係を築いていく時間が必要でした。

そもそも、カンボジアの農家さんには「契約」という概念もありません。例えば、この日までにこれだけの量のコオロギが欲しいと依頼し、予約注文したつもりでその日に行くと何もなかったことがあります。「前日に別のカンボジアのバイヤーが来たから売っちゃった」と言うんです。農家さんからしたら、目の前にキャッシュがあって相手が同国人なら、日本人より信頼ができるわけです。

そんな中で起きたコロナ禍が、実は当社の転換期になりました。カンボジアでもコロナが広がる中で、ロックダウンが起こり、州間移動が出来づらくなりました。ましてや、屋台でコオロギを食べる状況ではなくなり、カンボジアの既存バイヤーがコオロギの買い付けをしなくなってきたんです。

当社のコオロギの買い付けは日本での商品向けですし、どんな状況であっても、交通ルートを確保して、頼んだ量のコオロギを必ず買い取りに行き、さらには既存バイヤーよりも少し高い値段で支払いました。その頃からようやく、「エコロギー」という会社、「葦苅晟矢」という人間を認識してもらえ、信頼関係を築くことができたんです。

また、その時期に新しく開拓した、初めてコオロギ生産に着手した農家さんのおかげで、さらに生産者さんたちとの信頼関係を強固にできました。この農家さんはコオロギ生産に励んで総数を増やし、その結果、襟つきのシャツを着始めるなど、生活が非常に向上したんです。その暮らしの向上ぶりは周囲も目にしますし、そうなると、コオロギ生産に乗り出す近隣農家が増えていきます。そのようにして、点在する生産者だけでなく、村で「エコロギー」を信頼してコオロギ生産に携わる農家集団も出来てきました。

2023年の今年一番の成果は、最初に大量の生産レベルに達したその農家さんが家を建てたことです。自分たちの事業が村の振興にもなると確信できましたし、農家さんの生活をいいかたちで支えてこれたという実感がありましたね。

コオロギを研究し、生物の力を引き出し、そこに人の力を使う

–カンボジアでコオロギがどのように飼育されているかをご解説ください。

葦苅さん:

実にアナログな方法で生産されています。畳1畳くらいの飼育箱には大きな仕掛けも技術もありません。コオロギの隠れ家となるような資材を詰め込み、そこに卵をセッティングします。孵化したコオロギはどんどん育ち、45日ほどで卵を産み終えてから収穫となります。

量産となると、ロボットやセンサーなどを導入する工場生産が効率的だと感じるかもしれません。ですが、当社の価値観としては、生物資源と人との関係性を大切にしたいんです。コオロギのことを研究し、生物としての力を引き出し、そこに人の力を使えば、ロボットを使わなくても効率的に生産ができるという挑戦を続けたいと考えています。

コオロギを収穫したあとは、カンボジアに建てた自社工場でパウダーに加工しています。全身を食品としてパウダーにするため、コオロギは雑食性とはいえ餌は大切ですし、その品質には注力しています。フードロスの削減を考慮し、食品工場の不良品や農業の廃棄物などから栄養価の高いものを回収して餌にしますが、それらは当社が厳格に日本の基準で精査します。たとえば農作物の残渣を用いる場合は、残留農薬、残留金属がないかをチェックし、独自の規格で調合したものを当社の管理のもとで生産者さんに販売しています。

餌の素材として廃棄予定食品を用い、フードロスも削減

–食用のコオロギはどのような味なのでしょう?商品のラインナップも教えてください。

葦苅さん:

味には癖がなく、エビやカニに近い香ばしい味わいと強いうまみを持ちます。小麦粉などの粉物との相性もよいので、練り物や菓子類などへの加工性も優れています。

原材料として販売している「エコロギーパウダー」は、既存の乾燥粉末を独自製法で風味も大幅に改善し、幅広い商品、製品に対応できる仕上がりとなっています。また、栄養価も高く風味も楽しめる調味料として、「エコロギーエキス」を開発中です。

「エコロギーパウダー」

原材料以外の食品としては、爬虫類用のペットフード「レオバイト」があります。これは、高い安全性と嗜好性を兼ね合わせた人工飼料です。

また、手軽に口に運んでいただけるチョコレートも、初の自社食品ブランド「ecoco」で販売しています。Bean to Barの高級チョコレートにパウダーを練りこんだところ、ビターチョコに合わせるとこくが出て、消費者の方々に喜んでいただいています。

ただ、商品を展開する中で課題も感じています。嗜好品は常食とはなりませんし、SDGsの解決につながるから、という理由のみでは食べていただけないということです。コオロギは栄養価の高い食品ですから、継続して食べる必要があります。「すぐれた栄養成分が含まれているため健康に役立つ」ということをアピールしていく段階に入っていると感じます。

コオロギはタンパク質だけでなく、亜鉛や鉄分などのミネラル、また不溶性食物繊維を豊富に含みます。この栄養食品としての部分を打ち出すべく、コオロギプロテインを、商品名「クリロプロテイン」として販売しています。今回のプロテインはこの高栄養素材であるコオロギと他の有益な原料を配合することで、女性が必要とする美容成分をトータル的に含んでいます。乳酸菌も配合しているので、腸活にもアプローチできます。

同時に、どの食品でもあることですが、アレルゲンなどの安全性をしっかりと見極める必要があります。コオロギはエビとカニに似た成分を含んでいるため、甲殻類アレルギーがある方は摂取を控えていただくよう注意を喚起していますが、特有の成分がないかを研究中です。詳細に解明してアレルゲンの発現を低くすることが課題ですね。

–今後への展望をお聞かせください。

葦苅さん:

理念にも繋がることですが、地球環境にも人間社会にとっても持続可能な食料生産を、自然由来のコオロギから成し遂げたいです。コオロギの社会的認知度は高まっていますが、どうしても話題性という域に留まっています。正しい栄養価と安全性によって、優れた栄養補助食品として日本、アジア、世界に広めて地球環境問題と同時に健康課題も解決していくことを目指しています。

–小さなコオロギに大きな希望、ですね。今日はありがとうございました。

関連リンク

株式会社エコロギー公式HP:https://ecologgie.com/

ecologgie no+e:https://note.com/ecologgie/

グリロプロテイン販売サイト:https://griprotein.base.shop/