#インタビュー

一般社団法人 未来技術推進協会|社会課題を解決するイノベーションの土台にボードゲームを

サイコロを振ってコマを移動する

一般社団法人未来技術推進協会 加藤さん インタビュー

未来技術推進協会加藤さま

加藤 直樹
1986年岐阜県生まれ。2011年名古屋大学大学院工学研究科修了後、上京し、外資系電機メーカー営業として就職。北欧、中国、東南アジアなどを行き来し、グローバルに産業プラント設備の案件を担当。2015年、低炭素社会を推進するコンサルティングファームへ転職し、アジア・アフリカへの日系企業進出支援を官民連携で担当。2018年からは、民泊運営に携わり、国内100施設を超える民泊ホスト営業、運営支援を担当。2020年2月よりコロナを機に、未来技術推進協会にジョインし、SDGsボードゲームのファシリテーターとして活動を展開。並行して、2022年11月にサステナビリティを軸とした中小企業向けコンサルティング会社を設立(延べ70社以上の実績あり)。また、知人と飲食店を中心とした地域活性事業会社を2020年9月に共同創業しており、パラレルキャリアを実践中。

introduction

今でこそSDGsをよく目にしますが、日常の行動が世界に繋がることはイメージしにくいこともありますよね。一般社団法人・未来技術推進協会が開発したSustinable World BOARDGAMEは、自分の身近な出来事が世界のさまざまな問題や課題解決につながることが可視化できるゲームです。今回は、SDGsボードゲーム上級認定ファシリテーターの加藤直樹さんに、ボードゲームに込められたさまざまな工夫についてお話を伺いました。

社会課題の解決を目指すイノベーターを増やすためにボートゲームを開発

–まずは、協会の概要について教えてください。

加藤さん:

未来技術推進協会は、イノベーションを生み出し、新たな事業を立ち上げるための場を創出することを目的として2017年に設立されました。

SDGsの推進活動を軸に事業を展開しており、協会オリジナルボードゲーム、「Sustainable World BOARDGAME」の制作・拡充や、認定ファシリテーターの養成に取り組んでいます。

ボードゲームでは、SDGsを達成するためのムーブメントを起こしていくために、協力することの大切さや広く深く考える思考力、現場感や課題感を養うことができます。

–なぜ、ボードゲームを作ることになったのですか?

加藤さん:

社会課題の解決を目指す人々を増やせば、その後に行動を起こす人々も増えていくのではないかと思ったからです。

2017年に協会を設立した頃は、社会課題の解決に寄与するイノベーションを生み出すことを目的に、スタートアップの卵を作っていくことを目指していました。しかし、社会課題解決型の事業やプロジェクトで、すぐに売上に結びつくものって少ないんです。そのため、社会課題のプロジェクトを始める機運が高まらず、応援していくような場が醸成されないことに課題を感じていました。また、当時日本ではSDGsがあまり認知されておらず、サステナブルな事業に関心が持たれにくいことも要因のひとつだと考えました。

そこで最初はSDGsに関するセミナーを開くなど、直接的な学びの場を提供していたんですが、参加者はSDGs自体にとっつきにくい印象をもっていたんです。

方法を模索していく中で、「楽しく学べば広がりが生まれるのではないか」と方向転換しました。きっかけは本当にたまたまで、協会の立ち上げメンバーの1人に、「ぷよぷよ」の元世界チャンピオンがいたんです。ゲームの設計についても詳しい方だったので、じゃあちょっと作ってみようかと始めたのがSDGsボードゲームの原型です。

–加藤さんはSDGsボードゲーム上級認定ファシリテーターとのことですが、ボードゲームにおいて、ファシリテーターはどのような位置付けなのですか?

加藤さん:

ゲーム自体はファシリテーターがいなくても楽しくプレイできますが、それが「楽しかった」で終わってしまうだけではもったいないですよね。そこで、ゲームを通してSDGsの理解を深めて自分ゴト化してもらい、次のアクションを考えられるように進行するのがファシリターターの役割です。

協会として、社会課題の解決について考える方を増やすためにも、まずファシリテーターを育成することに力を入れています。

–加藤さんはどのような経緯でファシリテーターになったのですか?

加藤さん:

私は、大学院を卒業後、電機メーカーの営業を経て、低炭素社会を推進するコンサルティングファームへ転職しました。海外展開を目指す日本企業と社会課題の解消を目指す途上国政府との橋渡しを行い、経済格差の是正や環境保護につながるBOPビジネス・環境ビジネス(当時のMDGs領域)を支援してきました。その後、インバウンドビジネスに興味をもち、民泊の事業に転職するのですが、コロナ禍の煽りを受け、泣く泣く仕事をやめなければなりませんでした。

そんな時に、協会の代表理事から声をかけていただき、今に至ります。協会としても、ボードゲームを開発していく中で、企業の研修需要に対応できるような人を探していたところだったようです。

個人的にも、ボードゲームのファシリテーターになったら、企業向けにできることがもっと増えるのではないかと考え、ファシリテーター講座を受講しました。

ゲームに込められたSDGsを自分ゴト化する工夫

–実際のワークショップの様子について教えてください。

加藤さん:

では、ここからは、中学校でワークショップを行うことを想定してみましょう。ワークショップは3部構成になっています。第一部では、そもそもの今の社会の状態についてクイズを織り交ぜながら話をします。このゲームがただ楽しいだけで終わらないように、第一部を設けています。

例えば、”手を洗ったら象が死ぬ”という事例を紹介します。一見、手を洗う行為と象が死ぬという事象は結びつかないと思いますが、実は影響しあっていて、世界は繋がっていることを感じてもらいます。

また、SDGsを考える上で外せないポイントがトレードオフの関係です。SDGsには17個の目標がありますが、何か行動を起こした時に、必ずしも全ての項目が達成に近づくとは限りません。

例えば、風力発電の施設を作ると、「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」の項目は達成されるかもしれません。しかし、その施設を作るには土地が必要になりますので、生えている木々を伐採する必要が出てきます。すると「15.陸の豊かさも守ろう」の項目は後退してしまうかもしれない。

このような問題を、SDGsでどのように解決していけば良いのか、ゲームを通して考えてもらうのです。この例に限らず、可能な限りどちらも達成に近づけるように考えることが1つの着地であることを第一部でお伝えして、ゲームのポイントを理解してもらいます。

第二部では、実際にゲームをします。ワークショップ全体の3時間の中で、実際のゲームに割く時間は3時間から1時間半ですね。ボードゲーム1台につき、4~8人を想定しています。

以下が大まかなルールです。

  1. 役割を選択する

大企業・中小/ベンチャー企業・慈善団体・大学/研究機関の中から1つずつ選びます。

  1. 予算(コイン)を受け取る

役割を決めたら、予算が配られます。配られた予算を使って、これからミッションを達成や自己成長をしていきます。どの役割を選ぶかによって配られる予算が異なります。

  1. 自己投資を行う

予算を受け取ったら、自己投資するかを決めます。役割に応じて決められたコイン数を自己投資すると、ランクアップします。ランクアップすると、毎年受け取れる予算額が増えるほか、役割に応じて特別なスキルが追加されます

  1. サイコロを振ってコマを移動する

まず、マップ上の最初のコマの場所を選びます。サイコロを振ると、その数の分だけ移動することができます。止まったマスによって、ミッションカード、またはイベントカードを引くことができます。マスには形が4種類あり、形によって引くカードが決まっています。

サイコロを振ってコマを移動する
引用元:一般社団法人未来技術推進協会
  1. 所持コインを支払い、ミッションを達成する

自分が引いたミッションカードを達成するためには、ミッションカードに記載されているコストを、所持コインから支払うことで達成します。1つのミッションを、何人かのプレイヤーで協力して達成することもできます。

  1. スコアボードに反映する

ミッションカードを達成すると、ミッション1〜16のスコアが、カードに書かれているスコア分だけ上下します。

SDGsゲーム
引用元:一般社団法人未来技術推進協会

カードの中でスコアが下がるものもあれば、上がるものもある。下がったところを他のカードでどう補うか、もしくはカードを使わないのか、そこを考えるのがこのゲームのポイントです。これを繰り返して、自分の身近のアクションに置き換え、自分ゴト化してもらいます。

SDGsゲーム2
引用元:一般社団法人未来技術推進協会

子どもたちがすぐにルールを理解できないこともあるので、最初のターンでは、スタッフが一緒に進め、ステップごとに説明します。2ターン目からは、各自のグループで進めてもらいます。

質問があっても、子どもたちが考えるべきところはなるべく答えないようにしています。教えてしまうと、「聞けばわかる」と思われてしまいますしね。自分で気づくきっかけが大事なので、「こういう風に考えるかもね」や「これってどうなんだろうね」という投げかけで留めています。

実は、カードの事例は、すべて実際の出来事に基づいて作成しています。

これらのカードを作成する際には、その地域で活動している企業や団体に、地元のファシリテーターがインタビューや調査を行っています。それぞれの地域にどんな課題があって、どういう解決策で今取り組んでいるかを聞いていますね。

SDGsゲーム3
引用元:一般社団法人未来技術推進協会

47都道府県でボードゲームが行われることを目指して

–最後はどのように終わるのでしょうか。

加藤さん:

第三部で、振り返りの時間を設け、ゲームについての感想や、特に興味をもったカードを1枚選んで話してもらいます。

ゲームの前は、どこか遠い世界のことで、自分の日常とは関係ないと思っている子も多くいます。その中で、ゲームを通じてSDGsの考え方を知り、自分ゴト化に繋げられているように思います。

例えば、よく中学生の振り返りから出てくるのは、日常の歯磨きの時間に水を節約するということです。小さなことですけど、身近なところから考えるきっかけがたくさんあるということに気付いてもらえています。

–年代による反応の違いはありますか?

加藤さん:

ゲームが終わった後の自分ごと化は、年代による違いはあまり変わらないと思いますね。

どちらかというと、一緒にゲームをする人同士の関係性の変化で大きな違いがあるように感じます。このゲームは競争ではなく、みんなで勝つか負けるかのチーム戦であるため、チームビルディングの要素が強いものです。元々関係性のある人たちがこのゲームを通じて関係性を深めたり、初めて遊ぶ人同士がチームになれば、ゲームを進めることで親しくなったりすることができます。

学校の先生からは、「普段率先して動くような子ではないけれど、ゲームの時にそういう一面が見られた」という声を聞いたこともあります。

先端テクノロジーを社会にどう取り込むかが大切

–今後のボードゲームの目指す方向性や、協会として取り組んでいる新しいプロジェクトがあれば教えてください。

加藤さん:

現在、各都道府県をテーマにした「ふるさと版」を積極的に作成していくことを計画しており、全国をカバーする新しいバージョンを鋭意製作中です。

「教育」という言葉は大げさかもしれませんが、我々の願いは、学校の子どもたちがボードゲームを通じて社会について考えるきっかけを得られることです。ハードルは高いですが、各地域の学校で、子どもたちが実際に体験できる状態が理想ですね。

現在、一番力を入れているのはSDGsのボードゲームですが、私たちの名称が「未来技術推進協会」なので、テクノロジーに焦点を当てた活動も行っています。

例えば、ロボット技術を活用した新プロジェクトの立ち上げです。また、テクノロジーを用いて社会課題を解決するプロジェクトをアイデア段階から形にする勉強会を開催しています。

新しいプロジェクトとしては、”ワーケーション”という新しい働き方が大きく広まったことに注目しています。今、ワーケーションと地域の課題をマッチさせるようなプラットフォームの制作に取り組んでおり、ボードゲームと合わせてこれが協会の活動の一つとなっていくと考えると楽しみです。

–テクノロジーといえば、ChatGPTに代表される生成AIが話題になっていますが、どのように感じていますか?

加藤さん:

すでに、協会内部でも、頻繁にChatGPTを利用しています。例えば、ボードゲームの制作においても、カードの文章をChatGPTに書かせて、最終的に文章を校正する、といった流れです。

協会というよりは、私個人の考えとしてお話すると、イノベーションとは本質的にSDGsの一部であり、生成AIはそのための有効なツールであると考えています。

これまで、誰かが何かに取り組みたいと思っていても、費用の問題で行動できなかったことが、ChatGPTや生成AIのような技術の進歩によって解決できるかもしれません。新しいサービスが生まれる可能性が大幅に増えたと感じています。

しかし、生成AIはあくまでツールであり、使う人がどんな気持ちで新しいサービスを生み出すのか、どのように仕事で活用するかによって、結果がガラッと変わってくると思います。AIとの付き合い方の根底にSDGsがあれば、社会と生成AIの関係は良くなっていくのではないでしょうか。

これは、車が登場してきた頃と似ているかもしれません。産業革命の時代に車が登場し、馬車の仕事が奪われたと感じる人もいれば、車の存在によって新たな仕事が生まれ、社会がより豊かになったと考える人もいます。つまり、どういう視点で社会に組み込んでいくかが大事だと思います。

ですから、SDGsとAIは単に並列に存在するものではなく、生成AIを社会にどう組み込んでいくか、その考え方のベースにSDGsが含まれているかどうかが重要だと思いますね。

–テクノロジーを使う人のマインドが重要なのですね。貴重なお話をいただきありがとうございました。

関連リンク

一般社団法人未来技術推進協会:https://future-tech-association.org/