山内 瑠華
立命館大学国際関係学部 Global Studies 専攻卒業。
実家は、明治時代から続く農家。コロナ禍に、家業の農業が抱える余剰野菜の問題に興味を持つ。
大学2回生の冬に、余った野菜で絵具を作る「学生団体ラピスプライベート」を立ち上げた。大学4回生の夏に「合同会社ラピスプライベート」を設立し、「べじからふる絵の具」の製作販売とワークショップの企画運営をしている。
祖父母と父親が農家である環境で育ち、野菜に真剣に向き合う家族に刺激を受けていた。幼少期から好奇心旺盛で、興味のあることには何でも挑戦し、負けず嫌いな性格を発揮していた。学生時代は、いわゆる「優等生」として勉学や課外活動に励んだ。そこで感じた「完璧でいようとするしんどさ」は、絵の具事業を通して社会に伝えている『へんてこりんでもええやん』のメッセージの基盤となっている。
現在は、子ども向けのお絵かきカフェのオープンに向けて、食育とアート教育の融合を追求中。また、関西を拠点にしながら、出張ワークショップで日本全国に出向いている。メディアにも多数取り上げられ、国内外の保育園・小学校・中学校・高校・大学でゲストスピーカー・特別講師も務めている。
目次
introduction
学生団体として廃棄野菜から絵の具を作り、ワークショップなどの取り組みを開始したLápiz Private。より充実した活動をするために合同会社として法人化し「べじからふる絵の具」を中心に事業を展開しています。
同社の活動は、中学生から60代の美術教師まで、住む国も違う多種多様なメンバーで構成され、多角的な視野で視ることを常としているからこそ生まれるユニークさが特徴です。
今回は代表である 山内瑠華さんに、大切にしているモットーや活動に掛ける思い、絵の具づくりの苦労などについてお伺いしました。
フードロスだけじゃない、違っていることを悩んでいる人のための活動とは
–まず、御社の御紹介をお願いいたします。
山内さん:
合同会社Lápiz Private(ラピス プライベート)は、「へんてこりんでもええやん」をモットーに、色や形が悪く廃棄されてしまう野菜を「へんてこりん野菜」と名付け、その野菜から作った絵の具「べじからふる絵の具」の製造販売、絵の具を使ったワークショップの企画運営、他業種や企業とのコラボレーションを展開しています。
私たちは、傷があることや色、形が「普通」とは異なる野菜の持つ違いは、個性や強みだと考えています。そんな素敵な個性があるのに廃棄されてしまう野菜が、絵の具に変身して役に立つことを通して、「へんてこりんでも輝けるよ」と伝えることを大切に活動しています。
もともとは大学3回生のときに学生団体として立ち上げたLápiz Privateですが、4回生の2022年8月には合同会社として法人化しました。
野菜の魅力をより引き出していくには、いろいろな年齢層、住んでいる国や立場などが違う人達の多様な角度からの視点が必要だと思い、現在、中学生から社会人までの20人で運営しています。
–「べじからふる絵の具」について詳しく教えてください。
山内さん:
「べじからふる絵の具」は、野菜を乾燥させ粉末状にしたものと、アラビアガムというマメ科の木の樹脂のみで作られています。自分で樹脂と混ぜ合わせて調合することで、好きな色をつくることができる粉末絵の具です。
時期により収穫できる野菜が異なるので、絵の具の種類も変わりますが、現在は15色の絵の具を主に展開していて、ネーミングにもちょっとこだわっているんです。
ただの「赤」「青」などの名前よりも、早くこの絵の具を使いたいと思うような名前をつけることで、使うときのワクワク度が上がるし、より多くの人が興味を持ってくれると考えました。できた絵の具の色をパッと見たときに連想するものを挙げていって、メンバー皆で付けた名前です。
作った絵の具は、イベント制作会社や商業施設、教育機関等に加えて、オンラインで一般に向けても販売しています。使った方からは「こんなにはっきりと色が出るのに驚いた」「自然のもので作られているので小さい子どもにも安心して使わせることができる」などの感想を頂いています。また、子ども達もウェットティッシュでさっと拭き取れるので、汚すことを気にせずに使えて嬉しいと楽しんでくれています。
人も野菜も違いは素晴らしい個性、活かして輝かせる仕組みを作る
–なぜ、廃棄される野菜を絵の具にしようと思ったのでしょうか。
山内さん:
私の家は祖父母と父が農業を営んでいます。
コロナ禍により、大学に通学できず家にいる時間が多い中、家族が手塩にかけた野菜が色や形が悪いと捨てられてしまう、そしてその多さを初めて目の当たりにし、衝撃を受けました。
廃棄される野菜であっても、よく見ると色がとても綺麗で、この野菜を使って何か面白いことができたらいいなと考えていました。その中で、私は子ども達と遊ぶことが好きなので、「この野菜を使って絵の具を作り、一緒に遊びたい」と思ったんです。
そこから本格的に絵の具づくりをしようとなり、野菜を提供してくれる農家さんを探しました。
知り合いの農家さんに声をかけ、興味を持ってくれるようにプレゼンをしてお願いしました。そのうちに農家さん同士の口コミや、私達を取り上げてくれたメディアを見て、うちの野菜も使ってほしいと連絡をくれる方が現れたんです。
また京都市では、農家さんと一緒に何か新しいことをしたいと思っている企業と農家さんをマッチングしてくれるサービスを展開していて、そこを通して好奇心旺盛な農家さんと知り合う機会もあり、現在は6件の農家さんと提携しています。
–廃棄野菜というと安い値段で流通させる取り組みをよく耳にしますが、それは考えなかったのでしょうか?
山内さん:
「へんてこりん野菜」は、あくまでも絵の具の材料として農家さんから提供してもらうつもりだったので、それをそのまま安い値段で売ることは最初から考えていませんでした。
その後、農家さんとコミュニケーションを重ねる中で、野菜の流通に関する課題を知りました。消費者はどうしても安いものに流れがちです。そうすると廃棄野菜ばかり売れて、本来届けるべき野菜が消費者に届かなくなり、農家さんの収入も確保できなくなるということでした。
こういったことからも、食べることとは違う「絵の具」という角度から、付加価値を付けて発信すれば、新しい廃棄野菜の楽しみ方も提案できるのではないかと思っています。
ちなみに「へんてこりん野菜」というネーミングも農家さんたちとのコミュニケーションの中から生まれたものです。農家さんは従来使われている「規格外野菜」という呼び方に良い印象を持っていないと感じ、もっと明るくてキャッチーで子ども達にもわかりやすい名前にしようと決めました。
–絵の具はどのように作られるのでしょうか。
山内さん:
野菜を機械で乾燥させ、パウダー状にして絵の具を作っています。
こう言ってしまえば簡単に聞こえますが、ここまでたどり着くには大変なことばかりで、納得のいくものができるまでに約1年かかりました。
私は画材などの知識が全くなかったので、最初は野菜ジュースのようなものや、煮出したものなどいろいろ試したんですが、思ったようなものができずにいたんです。コロナ禍ということもあって一人で作業をするのは、ゴールが全く見えずにしんどい時期もありました。
そこから芸大の先生や友人と出会う機会があったので相談したところ、ヒントをもらえて本格的な絵の具へ進化していきました。
一番苦労し、こだわったことは「常温で保存できる」ということです。
最初にできたのは、冷蔵保存の絵の具でしたが、それでは電気を使うし使い勝手も良くないので、なんとか常温保存のものを作りたかったんです。
そこから試行錯誤を繰り返し、現在の野菜を乾燥させる方法にたどり着きました。
その後は、乾燥の温度や時間を見極めることも大変でした。
使う野菜の水分量や糖度が違うことで、乾燥の温度や時間なども異なります。同じ農家さんの野菜でも時期などによって変わりますから、きれいな色を残すには微調整が大変でした。そこを間違えると全部茶色になっちゃうんです。
こうしてできた絵の具の特徴は3つあります。1つは、それぞれの絵の具が使われた野菜の香りがすること。2つ目は、色味が従来の絵の具よりも落ち着いていて自然な色合いであること。3つ目は、野菜の繊維感や質感が感じられ、楽しめることです。
楽しみながら学んでほしい、体験することが一番の理解
–「べじからふる絵の具」を使ったワークショップや他企業とのコラボは、どのような内容なのでしょうか。
山内さん:
絵の具のPRと野菜の新たな楽しみ方を知ってもらうために、商業施設・高齢者施設・幼稚園などの教育機関に出向き、ワークショップのイベントを開催しています。具体的な内容は、トートバックやぬり絵、アロマストーンなどにペイントしていただくというものです。
家で絵の具を使うことはハードルが高く、なかなかできないと聞くので、大人の皆さんにも子ども達にもとても好評です。特に子ども達は絵を描くことが好きな子が多く、学校と違い自分の好きなものを描けるのがすごく楽しいみたいです。
「コラボレーション」では「べじからふる絵の具」を使ったイベントなどを企業と一緒に開催したり、企画の提案をしたりします。
例えば、静岡の建設会社が地元静岡のトマトを使ったトマト祭りを開催したいとのことで、静岡のトマトで絵の具を作りワークショップを開き、祭りの企画も一緒に考えました。
企業などとコラボする際は「へんてこりんでもいいやん」のメッセージや弊社のミッション・ビジョン・バリューに共感してくれるかどうかを大切にしています。
せっかく絵の具を作っても、使ってくれる人にメッセージが伝わらないのであれば 私達の絵の具である必要性がないと思うんです。ですから、そこは毎回確認するようにしています。
この他にも、子ども達が自分で野菜から絵の具を作る体験授業をしています。
半年に渡る授業では最初はヒントを与えずに、そもそも絵の具はどうすればできるのかからはじまり、試行錯誤して何度も失敗を繰り返し、なぜうまくできないのか、どうすればいいのかを考えながら絵の具づくりを体験してもらいます。
最後にできた絵の具で地域の人達とイベントを開いたり、絵を書いて絵画展を開催したりします。
また、1日で完結させる授業では最初にヒントを与えて絵の具を作り、絵を書くところまで完成させます。
今は検索すれば何でも答えがわかる時代ですが、頭を使って考え、五感を使い、手を動かすのはとても楽しいことだと体感し、あえて時間をかけて何かを作ることの良さを感じてくれる子どもも多いと思います。
また、子ども達にSDGsやサステナブルの考えをどうやって自分ごと化してもらうかが課題だと感じている先生方も多くいます。私達の絵の具は、楽しく使いながらフードロスや農業の抱える問題などについても学べるので、この体験授業が子ども達にとって自分ごと化する良いきっかけになっているようです。
私自身中学からSDGsを学んできて、何か取り組むならSDGsに関連したことをしたいと考えてきました。「べじからふる絵の具」でフードロスやSDGsについても勉強できることを伝え、多くの人に興味を持ってもらえれば良いなと考えています。
廃棄野菜と重なる人の「生きづらさ」を少しでも解消するためにできること
–Lápiz Privateを学生団体として立ち上げた頃はちょうどコロナ禍でしたが、このように様々な活動をするのは大変なことも多かったのではないですか。
山内さん:
そうですね。2〜3回生のときはほとんど大学にいけませんでした。このままでは大したこともできずに学生生活が終わってしまうという危機感を持ち、何かしたいとずっと思っていたんです。
最初は絵の具を使ってボランティア活動をしていたのですが、イベントを開催してほしい、絵の具がほしいなど需要があることがわかり、これが仕事になればと思い始めていました。
しかし、学生団体の地位は低く、活動を継続するには資金も必要ですが学生では集めにくいこともあります。企業とコラボする際にもお互いにどういう立場で関わったら良いのか、難しいことも多かったんです。
それならば、きちんと事業として法人化しようと4回生の夏に決断しました。法人化することで他の企業と対等に契約が結べますし、提案を通すこともできるので決断して良かったと思っています。
不安なこともありましたが、京都市や大学の職員、銀行や企業のサポートが手厚くあり、
周りにも就職せずに起業する人が多かったので、悩みを共有しながら相談できる環境はありがたかったですね。
京都には大学が多くあるので、熱意を持ち何かしたいと思っている学生がイノベーションを起こし、新しいことに取り組む環境を整えようという取り組みが始まっていて、良いタイミングで起業できました。
また、活動をはじめるにあたり、私達のモットー「へんてこりんでもええやん」を広く沢山の人に伝えたいと思っていました。
廃棄されてしまう野菜を見ていたら、「普通」じゃなければ生きづらい私達人間に重なって見えたんです。私自身小学生の頃から完璧でないといけないという思いにとらわれて生きてきて、学生生活が辛かったんです。
世の中には「こうでないといけない」という思いにとらわれている人達が一定数いて、そこから外れてしまうと除外されてしまう。人と違っても輝けるということを伝えたいと強く思いました。
「へんてこりんでもええやん」を広めるために「おやさいマーチ」という歌も作りました。イベントや授業の時などに聞いてもらうのですが、この歌を聞いてつらい思いをしている人がいたら、少しでも明るい気持ちになってくれればと思います。
–では、今後どのように事業を展開していくのか、展望をお聞かせください。
山内さん:
今、新しく計画していることが2つあります。
1つは、新たな絵の具のパッケージを作り、食育ブックと絵の具を一緒に販売しようと思っています。絵の具を使うことで野菜を好きになり、食べてみたいと思うようになればと願っています。
完成したら、どんどんPRして全国の方に手に取ってもらいたいですね。
もう1つは、大阪に新しい拠点を作り「お絵描きカフェ」を開こうと準備しています。地域の子ども達が集えるような場所を提供したいと考えています。
その他にも、ワークショップに理科の実験の要素を取り入れたいと考えています。化学メーカーやフラスコや試験管などを作るメーカーとコラボして、野菜の色の不思議を実験できるようなカリキュラムを作りたいですね。
これからも「へんてこりん野菜」を使って『へんてこりんでもええやん』を広め続けていきたいと思います。
–私も「べじからふる絵の具」で絵を描きたくなりました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
合同会社Lápiz Private :https://www.lapizprivate.com/about-4
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