#インタビュー

愛媛大学|産官学民連携による人材育成と研究活動を通じて地域から世界のSDGsに取り組む

愛媛大学 SDGs推進室長 西村さん 副室長 小林さん インタビュー

西村 勝志
2001年4月 法文学部教授
2012年4月 法文学部副学部長(2014年3月まで)
2014年4月 法文学部総合政策系担当学部長(2016年3月まで)
2015年4月 法文学部長(2016年3月まで)
2016年4月 社会共創学部長(2020年3月まで)
2020年4月 副学長(SDGs担当)松山市SDGs推進協議会会長・西条市SDGs推進協議会会長・持続可能な道後温泉協議会会長

小林

国際連携推進機構 教授

introduction

四国最大の総合大学である愛媛大学。「地域を牽引し、グローバルな視野で社会に貢献する教育・研究・社会活動を展開する」というビジョンのもと、学生たちが急激な社会の変化に対応できるよう、さまざまな実践を重視した大学教育を行っています。

今回のインタビューを通して、どの取り組みからも感じられるのは「未来志向」でした。SDGsの目標達成期限である2030年以降の未来を見据えた活動について、松山市のSDGs推進協議会の会長・幹事長をなさっている、愛媛大学副学長・SDGs推進室長の西村 勝志さんと副室長の小林 修さんにお話を伺いました。

研究と学びを極めてきた大学が抱く、SDGsへの責務と覚悟

–早速ですが、まずは愛媛大学の沿革について教えてください。

西村さん:

愛媛大学は、1949年5月31日に文理学部・教育学部・工学部の3学部で発足しました。

当時は国立学校設置法が公布された頃で、松山高等学校・愛媛師範学校・愛媛青年師範学校・新居浜工業専門学校を各学部にまとめる形で、他の新制国立大学69校とともに設立されました。

1954年には松山農科大学を移管して農学部を設置。さらに、1973年には医学部が、2016年に社会共創学部、2022年には医農融合公衆衛生学環(修士課程)が誕生するなど、着実に学びの幅を広げてきました。

現在は、学生約1万人を擁する四国最大の総合大学となっています。2022年に医農融合公衆衛生学環が設置され、2023年には地域レジリエンス学環(修士課程)が設置予定されており、常に社会の情勢変化やニーズに対応できるよう進化を続けている大学ともいえるかもしれません。

愛媛大学は、今日の大変革期にあたり「学生中心の大学」「地域とともに輝く大学」「世界とつながる大学」を創造することを基本理念に「地域を牽引し、グローバルな視野で社会に貢献する教育・研究・社会活動を展開する」をビジョンに掲げ、さまざまな活動を展開しています。

–愛媛大学では、どのようなきっかけでSDGs活動に力を入れていくことになったのでしょうか。

西村さん:

愛媛大学がSDGsにより一層力を入れるようになったきっかけは、現在の学長である仁科 弘重が企画担当理事・副学長であった時にSDGs推進室の設置を前学長に進言したことでした。

その当時から、少子化による人口減少や地球環境問題といった課題は深刻で、人類のみならず、様々な生物の生存のために改革が必要な状況でした。

様々な問題の中に課題を見出し、解決のための研究を進め、研究の内容を教育に落とし込む。このような大学の活動や方向性は、もともとSDGsと深く繋がっているケースが多いといえます。

現在でも、SDGsに代表される諸問題に加え、2011年の東日本大震災以降頻発している自然災害や新型コロナウイルス感染症の拡大など、本質的かつ深刻な問題が私たちの目の前に立ちはだかっていますよね。新たな価値観の創造や、持続可能(Sustainable)で復元力のある(Resilient)な地域社会の構築は早急に求められていると思います。

こういった背景から、私たちは新たな考え方や新技術を利用して、様々な課題に取り組んでいく責務とその覚悟を持っています。SDGs推進室は、本学におけるSDGs活動をよりシステマチックに推進し、大学構成員のモチベーションをさらに高めるという目的のもとで設置されました。

入学直後から、SDGsな視点で物事を捉える力を育てる

–SDGsに特化した授業やカリキュラムはありますか。

小林さん:

2019年から、1年生で受ける初年次科目という位置付けで「SDGs-グローカル未来創生入門」を展開しています。この授業は、2006年から開講している「ESD-持続可能な社会づくり」をSDGsに対応させて内容をリニューアルしたものです。どの学部の学生でも参加可能で、なるべく多くの学生が参加できるように開講時間を夕方に設定しているんですよ。

この講義はグループワークを中心としていて、授業ごとに異なるSDGsの課題を扱います。

90分の授業×2回で1セットとして、全部で8つのテーマについてみんなで考えます。テーマごとにグループに分かれ、授業内で発表して答えを出していく、学生が主体となったプログラムになっています。

農学や理学、工学、経済、教育、医学部、新しく設置された社会共創学部の学生を含め、文理関係なくさまざまな学部の学生がグループになります。1年生の科目なので、まだ学術的な裏付けが難しいこともありますが、多様な学部生が話し合い、持続可能な社会の方向性を積極的に考えています。

–学部の枠を超えて、SDGsについて話し合う授業は楽しそうですね。課題について考える際には、どのような点を大切にしていますか。

小林さん:

持続可能な社会づくりを自分事として捉えてもらうために、一番大切にしているキーワードは「つながり」です。具体的には「物と物」「物と人」「人と人」とのつながりです。

例えば、みかんの産地である愛媛県の特産品「ポンジュース」を扱う授業もあるんですよ。
最初に、ポンジュースの原材料やペットボトルがどこから来るのかを知り、次に製造過程、そして食べたり捨てられたりした後どうなるかということを、「つながり」という視点で考えていきます。

また、「人と人」とのつながりでは、「障がいのある人」と「自分」を設定し、ロールプレイングを取り入れながら、とある出来事に対してお互いの立場で物事を考えていきます。恋愛問題に置き換えて考えることもありますね。

多様化が進む社会の中で、どうしても相手の気持ちをイメージしたり、完全に理解することが難しかったりするケースもあると思うんです。そんな時でも、相手の立場に立って考えられる力がつくように、授業内容を工夫しています。

SDGsへの課題意識が盛り上がる一方で、経験不足な一面も

–昔と今では、学生たちの意識や考え方に変化はありますか。

小林さん:

私は、2006年からかれこれ17年くらい、ずっと大学の持続可能な社会づくりに関するカリキュラム作成に携わってきました。学生たちを見ていて大きく変わったと感じるのは、社会全体の持続可能性に対して「なんとかしなきゃ」と思っている学生が増えたことですね。入学時点で、地球温暖化などの環境問題よりも大きな枠組みで捉えられている学生が多く驚かされます。いわゆるZ世代と呼ばれる学生たちですね。

さらに、以前よりもグローバルな視点で情報収集する能力が高まってきているのも感じます。2006年当初と現在では、SNSの普及率が全然違いますからね。情報を仕入れる手段も変化していて、Twitterなどで世界中から情報を入手しているようです。

実は、SDGsに関心の高い学生たちは、大学よりも中学校や高校の段階ですでに興味を持っているようです。キャリア形成においても、進路を決める1つの観点としてSDGsを意識しているのが特徴的だと思います。

–より多くの学生が、より広い視点で、社会の持続可能性を捉えるようになってきたのですね。

小林さん:

そうですね。ただその一方で、学生たちが「身をもって体験する」機会が足りていないのではないかと思うこともよくあります。

あくまで私のイメージですが(笑)、環境問題に関わりたいと思ったら野山をかけずり回っているような学生が多いと思っていたんですよ。ですが、2006年の授業開始当時、実際に環境問題の現場を見せようと思って野外のフィールドへ連れていくと、予期せぬケガをするわ、危険な動植物の見分けがつかないわ、火を使う活動では火傷するわで…。

イメージとは全然違う学生たちの姿がそこにあったんですよね。

特にコロナ禍の2年間で、実際に現地に赴いて「体験する」というチャンスがさらに減ってしまいました。社会情勢を受けて仕方ないことではあるとは思うのですが、「体験」しないまま社会に出てしまうと、リアルな世界に対応する際につまずいてしまうのではないかと心配なのです。

そのため、大学でも「経験」をなんとかして補おうと試行錯誤しています。

「SDGs-グローカル未来創生入門」の後も、なるべくフィールドワークを取り入れた体験型のカリキュラムを用意するようにしています。フィールドワークでは、地域に出向き、地域住民のみなさんと関わり、試行錯誤しながら地域の現実を目のあたりにします。そして、地域の課題に関わるための、自分の能力の足りなさを自覚することになります。このような体験を通じて学生は、大学時代に何を学ばなければならないのかについて、自ら気づきます。

外国人留学生との共同インターンで「失敗」も「成功」も経験する

–外国人留学生といっしょに参加できる体験型のSDGsカリキュラムもあるようですね。

小林さん:

はい、「留学生と日本人学生が共に学ぶSDGsとビジネスソリューション」という取り組みがあります。

このカリキュラムは、元々は外国人留学生たちの日本での就職を支援する文部科学省「留学生就職促進プログラム」に愛媛大学の取り組みが採択され立ち上がったものでした。全国で19の大学が選定されましたが、中四国で選出されたのは愛媛大学1校だけだったんですよ。

文部科学省からの5年間の委託事業が終了するにあたり、愛媛大学ではさらに時代に合わせてカリキュラムの授業内容を一部改訂しました。日本人学生・外国人留学生・企業の社員が相互に学び合うしくみを設定することによって、SDGsやグローバルな視点を持った学生と留学生が一緒になって、愛媛県内の企業のSDGs課題や可能性を深掘りする形に変えたのです。

実は愛媛大学では、学生のほぼ半分が県外から来ていて、卒業後は半数以上が就職で県外へ流出していってしまう流れができてしまっていました。

愛媛県の企業としては、地元に就職して欲しい。日本人学生や外国人留学生たちは、SDGsに力を入れている企業について知り実際の事業を「体験」したい。こうした双方の想いに貢献したい思いから、企業体験型のインターンシップという位置付けから、企業の社員と学生たちが一緒に考える「参加型」の意味合いを強めたイメージです。

–地元企業の状況や、留学生の声を元にカリキュラムを改善されたのですね。具体的に、訪問先の企業ではどのような活動をするのでしょうか。

小林さん:

愛媛大学の学生や留学生たちは、ランダムに選ばれた訪問先で、講義・インターンシップ・企業役員へのプレゼンテーションの3つを経験します。プレゼンテーションの内容によっては、実際に企業の取り組みとして採用されることもあるんですよ。

例えば、ある宿泊業の企業ではフードロスを減らすためのプロジェクトとして採用されました。その企業では、ホテルでビュッフェ形式の朝食を出していて、余った食料は全て廃棄していたそうです。そこでインターンをしていた学生たちが、最終プレゼンで「非常に悲しい」という声をあげたのです。専門性というよりは感情に近い言葉でしたが、企業が敏感に反応し、プロジェクトが始動したそうです。

「学生たちの視点が新鮮で、自分たちの社員も同じ気持ちで働いていたかもしれない、と気づくことができ非常に刺激になりました」と、企業の皆さんから嬉しいお声をいただいています。

–参加した学生たちの反応はいかがでしょうか。

小林さん:

学生たちからは、「達成感を得られた」という声がよくありますね。

最近の学生たちの中には、経験不足からか自分に自信のない子が多いんです。経験自体の量が多くはないため、失敗経験はもちろん、「○○ができた!」という成功体験も少ないというか…。そんな学生たちは、留学生たちと1つのテーマに向かって共同作業する中で「成功」や「失敗」を何度も経験し、その結果、経営者の方からすごくいい評価を受けられたときに、大きな達成感を得られるようです。

さらに、このカリキュラムは「学生がインターンシップ先を選べない」点がポイントです。

インターンというと普通は、自分が就職したい職種や目指すべき仕事に近いところに行きますよね。そこをランダムで選定することにより、自分の興味の外にある企業について深く知ることができ、将来の就職先の選択の幅が広がります。地元で活躍している企業についても知ることができ、愛媛県内の企業への就職意識の高まりにも繋がっていくと考えています。

目標達成期限で終わらせない、未来を見据えたSDGsへの取り組みとは

–この他にも、愛媛大学の特徴的なSDGsへの取り組みはありますでしょうか。

小林さん:

三浦 猛先生(愛媛大学農学研究科・昆虫の飼料利用科学)による、世界初の「昆虫を原料とした飼料によるマダイの養殖実証実験」が始まっています。愛媛県は元々養殖業が盛んな地域のため、宇和島市の水産会社の協力をうけて、飼料の10%をミールワームという幼虫にする実証実験を行っています。

この実験により、水産養殖用の資源の持続的な確保を目指しています。実は、マダイ1キロを育てるために天然資源の餌は5キロも必要なんですよ。天然マダイの減少を補うための養殖のはずが、結局別の天然資源を大量に消費してしまっているのです。

実際の味や油の乗り方、人体への影響などについて研究を進め、2023年3月の出荷を目指しています。

–今後の研究成果が楽しみですね。最後に、今後の展望について教えてください。

小林さん:

国立大学は、本年度から第4期中期計画に入ります。愛媛大学としては、地域のニーズに応えながら国際地域にも貢献する人材育成と研究推進に注力していきます。

「地域を牽引する人材と未来をよくする研究のシーズをどれだけ輩出できるか」という大目標に向かって、学生の教育・誰もが活躍しやすい環境の整備・カーボンニュートラルなどについて取り組んでいく予定です。

西村さん:

まず、「学生の教育」という観点では、再来年度から「未来思考支援科目」を開講するため準備を進めております。SDGsへの取り組みは2030年の目標達成期限で終わるはずがないと考えておりますので、ポスト2030を見据えた持続可能な未来科目として開講する予定です。

その前段として、今年度は「Beyond SDGs 〜ポスト2030年の持続可能な未来」を開講しました。再来年からは全学部必修とし、2年次の後半から3年次にかけて履修してもらいます。来年からは「インクルーシブ社会実現に向けて」という新しい大学院科目をスタートさせる計画です。

西村さん:

「誰もが活躍しやすい環境の整備」という観点では、既存の「女性未来育成センター」の活動を進めていこうと考えています。大学の世界はまだまだ女性の役員や教授の数が少なく、男女問わず活躍しやすい環境にあるとは言えません。また、女性の数が増えてくると、お手洗いの数など、設備面でも課題が生じます。先を見据えて、女性を取り巻く環境を見直していきたいと考えています。

そして同時に、障がいのある方の雇用や高齢者雇用にも着手して参ります。DX(デジタルトランスフォーメーション)も積極的に取り入れ、働き方改革を行う予定です。全体の業務量を現在の8割程度にまで削減することを目標にしており、新たに活用できるようになった2割を有効活用できるように取り組んでいるところです。

西村さん:

最後は「カーボンニュートラル」です。地球規模で見ると、温暖化はさまざまな問題を派生的にもたらしています。本学でも、2020年に「環境・エネルギー工学センター」が設置され、工学部が主体となって再生可能エネルギー研究を行っておりますが、今後全学をあげてさらに力を入れていく予定でおります。

–愛媛大学と、そこで活躍する職員や学生の皆さんの今後が一層楽しみになりました。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

愛媛大学:https://www.ehime-u.ac.jp/

愛媛大SDGs特設ページ:https://www.ehime-u.ac.jp/about/sdgs/

松山市SDGs推進協議会:https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/keikaku/SDGs/SDGssuisin/index.html

【関連記事】 SDGs未来都市 愛媛県松山市役所 |先人から受け継いだ地域の宝を守り続けたい