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昆虫食のentomo|昆虫食は現代の食料生産システムに欠けていた最後のピース!持続可能なSDGsのスーパーフード

株式会社昆虫食のentomo 代表取締役 松井さんインタビュー

松井 崇 

大阪府生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。学生時代は体育会系で、良質なタンパク質摂取に関心を持つ。メーカーに就職し設計開発を担当。体を壊したことを機に糖質制限と狩猟採集食(パレオダイエット)を実践し回復。「究極のタンパク源」を探す過程で昆虫食に出会う。昆虫は人類が猿の時代から数百万年以上食べ続けてきた「スーパーフード」で、国連推奨の持続可能なタンパク源だと知り、昆虫を「肉の選択肢の1つ」として普及することで、人々の健康と持続可能な食料生産システムに寄与すべく「㈱昆虫食のentomo」を創業。昆虫食の輸入・製造と、昆虫食を通じた教育・食育事業を行っている。産学連携でレトルトカレー「いもむしゴロゴロカレー」を開発。食用アメリカミズアブの販売を開始。NHK生ラジオ番組やテレビ大阪、あまから手帖、産経新聞などメディア掲載多数。京都府や長野県、一部上場企業、事業構想大学院大学等で昆虫食の講演実績多数。著書に『代替タンパク質の現状と社会実装へ向けた取り組み(共著)』、『昆虫食のすすめ~昆虫食Intelligenceシリーズ~(翻訳本)』など。昆虫食の国際会議(IFW2018)や日本昆虫学会で共同発表。

introduction

みなさんはイモムシや蝉、イナゴといった昆虫を食べたことがありますか?実は栄養価が高く優れた食品である昆虫。「株式会社昆虫食のentomo」代表(以下エントモ)の松井崇さんは、昆虫食に魅せられ、食用のイモムシやアメリカミズアブを輸入販売しています。昆虫食にはどのような可能性があるのでしょうか?松井さんに昆虫食の魅力をたっぷりと伺いました。

高タンパクで栄養豊富な昆虫食

-さっそくですが、エントモで取り扱っている昆虫食について教えてください。

松井さん:

弊社では主に西アフリカと台湾からイモムシアメリカミズアブを輸入・販売しています。

イモムシの写真

-どのように調理して食べるんですか?

松井さん:

最近ではイモムシを使った「いもむしゴロゴロカレー」を産学連携で開発しました。肉の代わりにイモムシを使ったレトルトカレーです。昆虫は約6割がタンパク質なんですよ。食物繊維がゴボウ並みに豊富で、ビタミン類をのぞけばほぼ完璧な栄養食品です。

-そんなにタンパク質が含まれているとは意外でした。

松井さん:

昆虫は高タンパク質な上、自然に生きているものを捕まえてもいいですし、養殖も衣装ケースから始めることができ、簡単です。高タンパク食品と言えば牛や豚ですが、これらを食べられるまで育てるにはかなりの時間や労力、飼料が必要です。しかし昆虫はすぐ繁殖します。養殖にも家畜ほどの飼料や水はいりません。昆虫は動物性のタンパク源としてメリットだらけなんですよ。

-確かに家畜はなかなか育てられませんが、昆虫なら繁殖も簡単そうですね。

松井さん:

そうなんです。容易に繁殖するので、昆虫ビジネスは小資本から始められます。

-参入するのに大きな資本がいらないので、貧困に陥っている人々にも始めやすいビジネスですね。

松井さん:

飽食の日本では生活習慣病や、女性・高齢者のタンパク質不足が問題になっています。世界には栄養不足の地域もたくさんあります。発展途上国の食生活は炭水化物が多く低タンパクで、人々は慢性的なタンパク質不足に陥っています。昆虫食は、途上国では人々の栄養改善に、先進国では健康増進に寄与するでしょう。

-昆虫食のメリットは大きいんですね。

昆虫食に魅了されたきっかけは現代生活への違和感

-松井さんが昆虫食に魅せられたきっかけは何でしょうか?

松井さん:

私は大学時代は体育会系で、体づくりのため高タンパク食品をずっと探していました。その後社会人になったのですが、逆流性食道炎や難聴にかかるなど体を壊してしまって。健康になるための方法を自分なりにいろいろ調べたり実践したりしたんです。その中でも、糖質制限食が体質改善に効いたんですね。さらに狩猟採集時代の食生活がいいと知りました。

-狩猟採集時代ですか?

松井さん:

今年はウクライナ問題のため小麦不足が問題になっていますね。米や小麦などの穀物は人類にとって主要な食品と思われがちですが、歴史を紐解けば実はそうとも言えないんです。
農耕時代以前は狩猟採集時代でしたが、この狩猟採集時代は農耕時代よりはるかに長いんですね。つまり人類は、長い間動物を追って肉を捕ったり木の実を拾って食べたりしていたんです。穀物といった炭水化物よりも、肉などのタンパク質を主に食べていた時間が長いのです。

-糖質制限食と狩猟採集時代の食生活には通じるものがあるのですね。

松井さん:

はい。現代人はパンやパスタ、洋菓子など炭水化物を摂りすぎています。私は実体験から、この狩猟採集時代の食生活こそ人間の体に合っていると確信しました。昆虫食を知ったのもその頃です。「これこそ究極のタンパク源だ!」と思いましたね。

-理想的な食材だと思われたのですね。

松井さん:

さらに昆虫食について調べると、もともと私たち日本人も昆虫を食べていたことを知りました。
大正8年に三宅恒方氏が行った「食用及薬用昆虫に関する調査」では、食用昆虫は55種類、薬用昆虫123種類確認されています。イナゴを串刺しにして焼いたり、佃煮にしたりして食べていたようです。現代でも蜂の子やローヤルゼリーを食べますよね。
「食用及薬用昆虫に関する調査」は日本の昆虫食文化を記した大変重要な文献です。私は昆虫食文化普及のために現代語に訳し『昆虫食のすすめ~昆虫食Intelligenceシリーズ~(翻訳本)』と改題して出版しました。

実際にみんなで昆虫を食べてみた!昆虫料理イベント

-食材としてはまだまだ身近にありませんが、私たちも昆虫食を食べることができますか?

松井さん:

はい、やはり実際に食べてもらうのが一番だと思い、親子参加型の昆虫料理教室を開きました。メニューは昆虫粉末入りのお好み焼きです。お好み焼きの上に、近所の公園で捕まえた昆虫を料理してトッピングしたんですよ。

-採ってきた昆虫を料理するなんて、滅多にない体験ですね!

松井さん:

ええ。参加者のみなさんにすごく楽しんでいただけました。また、大阪・梅田のバーでは昆虫料理イベントを開催しました。お店で提供したイモムシ料理がこれです。その他、お酒のオツマミに合う昆虫料理も提供しました。

松井さん:

こちらの料理は、昆虫粉末入りのパンやピザ、サラダです。産学連携の提携先の東大阪大学短期大学部製菓衛生師コースの先生に作っていただきました。

-これは昆虫食ですか?一見、そうとは見えませんね。

松井さん:

昆虫粉末入りのパンやピザなのです。外観からは昆虫が使われていることが分からないでしょう?「昆虫食初心者」にはピッタリのメニューです。

-昆虫の姿がそのままの料理と、見た目では昆虫だとわからないメニューもあるんですね。

松井さん:

こちらは、アフリカのサバクトビバッタ(左)と日本のイナゴ(右)です。

-比べると違いがわかりますね。食感にも違いがありますか?

松井さん:

はい。カリカリに乾燥させたサバクトビバッタは、食感はサクサクしていますが、イナゴより大きい分、肉感もあります。チリ味のサバクトビバッタはオヤツにも最適なんですよ。

-松井さんが好きな昆虫は何ですか?

松井さん:

私は、イナゴやコオロギなどバッタ系の中ではサバクトビバッタが一番好きですね。外で手軽に捕まえることができる昆虫の中では、蝉の成虫の食感が好きです。

日本人も、戦時中は昆虫を食べていた

-今は珍しい昆虫食ではありますが、日本でも戦時中の食糧難では昆虫を食べていたと聞きます。

松井さん:

そのような時代もありましたね。また日本での昆虫食は害虫駆除も兼ねていたんですよ。昔、水田にはタガメやゲンゴロウという昆虫が生息していましたが、稲作では害虫とされていたので駆除して食べていたそうです。

-害虫駆除を兼ねていたんですね。近年では農薬でタガメを駆除するようになり、水田ではほとんど見かけなくなりました。昔は命を無駄にしない文化があったんですよね。

松井さん:

動物も虫を捕まえて食べているんですよ。サルもシロアリの巣に木の棒を差し込んで、それを採って食べるんです。霊長類が昆虫を食べていると考えると、サルは人間の祖先ですから、昆虫を食べるのも何ら不自然ではありません。

-歴史的にみても、昆虫食は人間にマッチした食材なんですね。

昆虫食で環境保護や発展途上国の貧困、女性の自立に貢献

-他に昆虫食のメリットはありますか?

松井さん:

昆虫の養殖は畜産に比べると環境負荷が少ないです。昆虫は家畜と比べると、少ない飼料、土地、水で育てられます。豚に比べて温室効果ガスの排出量は10~100分の1と非常にクリーンなんですよ。また昆虫は人や家畜が食べない食品残渣なども食べることができます。更に昆虫は食用だけでなく、家畜や魚の餌にすることも可能で、養殖時に発生する昆虫の糞は肥料としても使うことができます。

-エントモではアメリカミズアブは台湾からの輸入と伺いましたが、イモムシはどこから輸入していますか?

松井さん:

イモムシは西アフリカからフェアトレードで仕入れています。イモムシは自然採集ですね。シアバターの木にいて、シアバターの葉を食べているんですよ。イモムシの日本名がないため、私は日本でイモムシを販売するにあたって、「シアワーム®」という商品名を付けました。昆虫採集は現地の女性たちが担っています。

シアバターの木 出典:wikipedia/作者Marco Schmidt

-昆虫採集の仕事が女性の収入源になっているんですね。

松井さん:

昆虫採集は、初期投資がほぼ0でスタートできます。極端ですが、虫取り網があれば始められますからね。温暖な地域の途上国では、先進国と違って捕まえられる昆虫の量も多いです。発展途上国では貧困や女性の自立が問題になっていますが、女性の仕事として昆虫採集は適しているんです。

-誰でも簡単に始められるビジネスなんですね。

松井さん:

はい。昆虫養殖をする場合でも、農業や畜産業と比較して初期投資が少ないです。また家畜と比べて昆虫は小さくて軽いので、作業する際の体への負担も軽いです。また、発展途上国は綿花やコーヒーなどのプランテーション農業が盛んですが、これらは労働者自身が食べたり利用することはほぼありませんよね。これらの農作物は海外に輸出しないとお金にならず、食べ物に代わるまで時間がかかります。昆虫は、食糧不足や飢饉など、いざというときには自分たちで食べることができます。

-売値は市場により変動する可能性がありますし、自分たちで採ったものを食糧にできるのは理想的なのかもしれませんね。

松井さん:

その通りです。アフリカの人々はタンパク質不足や鉄分不足にも陥っている地域が多いです。昆虫はタンパク質も鉄分も補えるため、途上国の人々の栄養状態の改善にも役立つと期待されています。

-昆虫食にはメリットが多いんですね。

松井さん:

はい。昆虫食は、現代の食料生産システムに欠けていた最後のピースを埋めるものだと確信しています。卵や牛乳のように、昆虫も食品の選択肢に加わり、家畜の飼料や農業の肥料としても広く利用されるようになれば、食料生産システム全体の合理化が進むでしょう。もちろん昆虫食は私たちの健康にも役立ち、食文化が豊かになると思います。昆虫食は持続可能なスーパーフードだと考えています。

「昆虫食と昆虫飼料の国際会議(IFW2018)」に参加した時の写真。一番右が松井さん

昆虫食の普及に向けた取り組み

-様々なメリットがある昆虫食ですが、普及させるのに何か課題はありますか?

松井さん:

価格を安くするのが課題です。今は昆虫は自然採取か養殖ですが、自然採取は生産性を高めることは難しく、価格低下と安定供給は難しいです。また昆虫養殖は生産効率がまだまだ低いため昆虫の値段が高いのです。一般的に流通させ、家庭の食卓にのぼる食品にするには価格を下げないといけません。現在では養殖でも高いですから。

-蜂の子にしても高級品ですものね。

松井さん:

普及させるためには、養殖技術を向上させ、効率的に生産量を増やさなくてはなりません。また、ガイドラインや法整備もまだ整っていない状況です。畜産や農業ではしっかりと決まりやルールが制度化されているので、昆虫の生産にも必要です。私が所属している「昆虫ビジネス研究開発プラットフォーム」という団体が日本初のコオロギ生産のガイドラインを作成中で、近日公開予定です。

-土台となる制度を整えながら、広く昆虫食が普及するよう取り組まれているのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

昆虫食entomo 公式サイト:https://entomo.jp/

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