早坂 奈緒
『エシカルコンビニ』ディレクター兼バイヤー。大手アパレルブランドのプレスを13年務めた後、布ナプキンを扱う会社の取締役を経て、『アッシュ・ペー・フランス』に入社。エシカル事業部のPR・企画営業を担当後、現在に至る。展示会、マーケット、メディアを内包した新時代の複合型イベント「NEW ENERGY(ニュー エナジー)」にディレクターとして参加予定。
Introduction
エシカルなモノ・コトを陳列する「エシカルコンビニ」を運営するエシカルコンビニ様。今回は、エシカルディレクター兼バイヤーの早坂奈緒様に事業内容や、事業を始めるきっかけ、SDGsへの取り組み、今後の展望などを伺いました。
衣食住に身近な商品を届けるエシカルコンビニ
– はじめに事業内容を教えてください。
早坂さん:
エシカルコンビニは「コンビニ」と付いているものの、みなさんが想像するコンビニとは少し毛色が異なります。
衣食住すべてにおいてエシカル、つまり倫理的かつ道徳的な生産を行なうアイテムを集めた、いわばセレクトショップのような場所です。
-確かに、衣服やアクセサリーのようなアパレルアイテムから、石けんや歯ブラシといった日用雑貨まで幅広いラインナップが揃っていますね。そもそもエシカルコンビニを始めようと思ったきっかけは何ですか?
実家の惣菜店での出来事から学んだ「人は気づけば変われる」
早坂さん:
エシカルコンビニを始めるに至った大きなきっかけは、2つあります。
まず1つめは、家族が営んでいた惣菜店での出来事です。
元々は添加物の入った一般的な総菜を作っていましたがある時、食に精通した先生に「まずい!」と言われてしまって…。その方が無添加の食品を推奨していたこともあり、事業を180度転換して、無添加の惣菜を作るようになりました。
– 今まで当たり前にやってきたことを急に変えるのは、相当な勇気が必要だったと想像します。
早坂さん:
そうですね。祖父母は当時50代で、事業としては成功していたので、かなりの覚悟だったと思います。
この出来事を目の当たりにして、「人は気付けば変われる」ということを私自身学ぶことができました。
-何歳からでも、行動に起こせば変わることができるということを実体験として経験されたんですね。
早坂さん:
はい。祖父母のように「本当にやるべきことは何か」を知り、信念を持って行動すれば自分自身や周りを変えることもできるのだな、と実感しました。その時はまだ、無添加の総菜を作ることについて何が正解かも分からない時代だったはずなのに、それでも事業転換の決断を下したこの勇気は、今の私にも大きな影響を与えてくれていると思います。
布ナプキンが、エシカルな世界を考えるきっかけに
-エシカルコンビニを始める、もう1つのきっかけについて教えてください。
早坂さん:
娘の出産を機に、暮らしに関わる様々なアイテムを見直すことができたことです。食べるもの、着るものなど、手の届く範囲のすべてのアイテムについて、より環境や倫理観に配慮したものを探すようになりました。中でも特別なアイテムが、オーガニックの布ナプキンです。
-布ナプキンは身体を冷やさない点で女性に嬉しいアイテムですね。
早坂さん:
最初は自分や娘の身体のために使い始めました。でもオーガニックの布ナプキンを知れば知るほど、それを使うことがまわりまわって生産者の命を救ったり、土壌汚染や環境改善にもつながることが分かったのです。
-具体的にどういうことでしょうか。
早坂さん:
布ナプキンの原料となるコットンは、通常の栽培方法だと大量の農薬や化学肥料を用いるため、生産者の健康を害したり栽培地周辺の環境を壊してしまう可能性が高くなります。しかしオーガニックコットンを選択すれば、そうした被害を防げます。また布製で繰り返し洗って使えるため、使い捨てナプキンの生産や処理の際に出るCO2削減にも貢献できます。
-生理用品を使い捨てでない布ナプキンに変えるだけで、ごく自然にエシカルなことを実践できるということですね。エシカルコンビニで扱う商品の多くが消耗品という点も納得です。
生産者の熱意ある商品を羽ばたかせる場に
-エシカルコンビニでは、生活雑貨のような消耗品やアパレル用品、一部食品も扱っていらっしゃいますが、商品を選ぶ基準はありますか?
早坂さん:
基本的には、エシカルコンビニが掲げる6つのコンセプトに沿ったものを選んでいます。
資源への配慮(Less Waste)、動物への配慮(Animal Welfare)、自然への配慮(Natural Materials)、海への配慮(Ocean Friendly)、クリエイティビティ(Creativity)、そして気づきの連鎖(Experience)です。
このコンセプトに加え、私が直接生産者と話をして、商品への熱量を感じ取り、自分自身が共感できるかどうかで判断します。
-1人で買い付けを行っていらっしゃるのですね。たくさん商品があって大変そうですね。
早坂さん:
それがそうでもないんです。実は元々アパレル企業のエシカル事業部に所属していて、ある合同展示会のエシカルエリアのディレクターを任されていた時期がありました。現在はその際に出会った生産者さんやアイテムを中心に紹介しています。
生産者・販売者さんの熱意ある商品を世に羽ばたかせる場として、今のエシカルコンビニがあるといっても過言ではありません。
エシカルコンビニを通して、お客様自身に気づきを
-現在は全国4店舗を展開しているとのことですが、どのようなお客様が利用されているのですか?
早坂さん:
お客様の多くは、たまたま立ち寄ってみた、というケースが大部分です。
商品の説明文や、一部アイテムについているQRコードを読み取って当社ウェブサイトのコンセプトを知り、「こんな商品があるんだ!」と発見や気付きを得てから、必要なものを購入される場合が多いですね。
-エシカルやフェアトレードといった分野に興味関心がない方にも広まっているんですね。
一方で、該当アイテムを生産・販売する人たちの中には「概念や思考を押し付けたくない」と考える方もいるようです。エシカルコンビニさんは、そのあたりはどのように対応しているのでしょうか?
早坂さん:
その通りだと思います。そのため、うちのお店では、スタッフ自らが接客に行ってお客様にエシカルの概念を説く、ということは基本的にありません。
-あえてやらないのはなぜでしょうか。
早坂さん:
商品を通してお客様が自らエシカルに対する気づきを得て、商品の認知や購入をきっかけに、行動を変えてもらえればいいなと考えているからです。強制して広めていくものではなく、少しずつ広げていくことが大切だと思います。
-まさに「草の根運動」ですね。
早坂さん:
そうですね。先に紹介した6つのコンセプトの中にある「体験(Experience)」も、私たちは大切にしています。店舗を通じてエシカルな体験を増やしていただくのが、いま最も重要なミッションかもしれませんね。
日本の企業がエシカルな方向へ変わるために、”共創”する
– お店の形態は場所によって違うようですね。
早坂さん:
東京の店舗とオンラインショップは、まさにエシカルコンビニのショールームのような感じで、100%私たちが運営しています。
ほかのお店では、私たちがセレクトしたものの中から選んでもらった商品を卸すのですが、大阪の店舗だけは百貨店に入っているので少し特殊かもしれません。
-店舗のある場所は食品フロアではありませんが、ドライフルーツや洗剤の量り売りも行なっていますよね。百貨店でこのような形は、あまり見かけないような気がします。
早坂さん:
そうなんです。エシカルコンビニは「自分たちのお店を出したい」という意識はあまりなく、競合といわれるような企業さんと一緒にエシカルなものを広めることでそれが当たり前の世の中を作りたいと考えています。
つまり「競争」ではなく「共創」なんですよね。
-「共に創る」で「共創」ということですか。
早坂さん:
はい。うちが掲げる6つのコンセプトの中では、特に「クリエイティビティ(Creativity)」が当てはまります。
商品選びの段階だけでなく、企業が持つ従来の概念を打ち破り、消費者のみなさんにエシカルな選択肢を一つでも多く与えられるようにしたいと思っていて。
百貨店での量り売りについては、始めこそコスト面や衛生面で懸念があったようですが、こちらから真摯に「なぜ量り売りが大切なのか?」を説明し、納得してもらいました。それでお互いに最大限出来ることをやろうとなり、おそらく百貨店でも珍しい量り売りの導入に至っています。
-エシカルコンビニの目指す方向がはっきりしているからこそ、相手にも信念を理解してもらえるのだと感じました。出店場所だけでなく、エシカルコンビニで取り扱う商品についても「共創」の点で意識していることはありますか?
商品の生産企業にとっても、エシカルコンビニは学びの場
早坂さん:
当社で扱う商品は国内外問わずエシカルな視点からセレクトしていますが、中には様々な事情があって包装がプラスチックのままだったり、コスメ用品の成分がヴィーガン仕様でなかったりする場合もあります。セレクトショップとして完璧を目指そうとすると、そのような成長段階の企業さんを排除することになってしまいますよね。それではもったいないと思っていて。
-もったいない?
早坂さん:
はい。私たち含め、どの企業も製品も発展途上の段階であり、多くの生産者さんはこれからどんどん進化していきたいと思っています。
そのため、セレクトするアイテムの基準をあえて細かく設定せず、エシカルレベルの異なる商品を同じ棚に並べることで、お互いに行なっている努力を知ることができますよね。すると次のシーズンには、商品の成分や包装がアップデートされていることがあるんですよ。
-エシカルコンビニは、企業にとっても学びの場であり、相乗効果につながっているのですね。
早坂さん:
そうですね。エシカルコンビニは企業もお客様も、みんなで一緒に成長できる場所でありたいと思っています。そのためには、企業側に働きかけるだけでなく、私たち自身も学びながら常にアップデートを続けるように努力をしています。その例がオンラインショップの梱包材です。
常に「今できることをやる」がエシカルコンビニの根幹
早坂さん:
オンラインショップから発送する際は、基本的にすべて(※)FSC認証を取得した紙や段ボールでの梱包を行なっています。瓶や割れ物には最低限のプラスチック資材を使うこともありますが、配送の面でもできるだけエシカルで環境に配慮したものを選択しています。
-それは素晴らしいですね。一方で、商品の仕入れを含めた輸送の際に出るCO2や、そもそもエシカルなお店を持つことについて、苦労やジレンマを感じたことはありますか?
早坂さん:
そうですね。もちろん、輸送までエシカルにするなら自転車や人力でやるのが一番なんじゃないかと思うことはあります(笑)。でもそれは現実的ではないですし、輸送業界をはじめ多くの企業が発展途上の段階です。新たな技術やアイディアによって、よりエシカルな選択肢が今後増えていくと思いますので、エシカルコンビニチームも、情報が入り次第よりよい方向へ切り替える準備はできています。
-私たち全員が発展途上、ということですね。
早坂さん:
はい。また、エシカルといった考え方は、「やるか・やらないか」の2択だけで考えてしまうことってあると思うんです。
でも行動ひとつですべての課題を解消できるわけではないので、とりあえず良いと思うことを実践してみることが大切かなと思います。常に学びと実践を繰り返しながら進んでいけたら素晴らしいですよね。
-企業として、いつでも学びを大切にしながら、エシカルに貢献したいという意思の強さが感じられます。
「エシカルが当たり前」な世の中にしたい
-最後に、今後の展望を教えてください。
早坂さん:
エシカルコンビニは、私たちなりのやり方・あり方を通して、必要な場所・人に製品を届けられる場でありたいと考えています。そのため今後はお店以外の形で、みなさんの目に触れる機会を増やせるようなシステム構築を考えています。
また私個人としては、私たちが当たり前に空気を吸っているように、皆がエシカルやSDGsの理念を普通のこととして、買うものや生活習慣が自然とエシカルに近づく世の中であってほしいと願っています!