#インタビュー

千葉県松戸市|Z世代を起爆剤にSDGs未来都市を創造する松戸市の取り組みとは?

松戸市 総合政策部 政策推進課 インタビュー

【中平 治 (なかひら おさむ)

●大学卒業後、旅行会社などで営業職に従事。

●2014年4月 民間企業等職務経験者採用で、松戸市に入庁。経済振興部 文化観光国際課に配属され、主に国際業務(海外との都市間交流・インバウンド業務・多文化共生業務)に従事。

●2020年4月 総合政策部 政策推進課 市政総合研究室に配属。(課長補佐)

●2022年4月 総合政策部 政策推進課 市政総合研究室長となり現在に至る。

【東海林 理江(しょうじ りえ)

●大学院卒業後、食品会社で研究・商品開発の業務に従事。

●2015年4月 民間企業等職務経験者採用で、松戸市に入庁。子ども部 子ども政策課に配属され、子育ての情報発信やプロモーション、幼児教育の推進、子どもの貧困対策関係の業務に従事。

●2020年4月 総合政策部 政策推進課に配属となり、主に庁内総合調整、松戸ナンバーの推進、SDGs関連業務に携わる。

【鈴木 敦(すずき あつし)

●大学卒業後、地域金融機関で融資管理業務・再生支援業務に従事。中小企業から一部上場企業に至るまで、幅広いお客様を担当。

●2021年4月 民間企業等職務経験者採用で、松戸市に入庁。総合政策部 政策推進課 市政総合研究室に配属となり、主に地方創生、産学官民連携の業務に携わる。

introduction

2022年5月に「SDGs未来都市」に認定された松戸市。東京都と埼玉県に隣接し、東京都区部へのアクセスの良さから、首都圏のベッドタウンとして50万人ほどの人口を抱えています。「日経xwoman(クロスウーマン)社」の調査では、松戸市は2年連続で「共働き子育てがしやすい街」総合編1位に選出されました。しかし、東京に近いが故に、Z世代の地元定着が危ぶまれています。Z世代の関心が高いSDGsの取組を核に、Z世代が活躍できるSDGs未来都市の取組に迫ります。

歴史も残りつつオープンマインドな風土がある松戸市

–松戸市の概要について教えてください。

東海林さん:

歴史的な流れでみますと、松戸駅周辺は、江戸時代には、江戸幕府と水戸を結ぶ水戸街道沿いの「松戸宿」として栄え、現在も、歴史の流れを感じさせる神社や建物が多く残っています。

中でも、「戸定邸(とじょうてい)」は、江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜の弟であり、水戸藩最後の藩主である徳川昭武が後半生を過ごした邸宅で、国の重要文化財に指定されています。渋沢栄一が主役となったNHK大河ドラマ「青天を衝け」では、パリ万博に徳川慶喜の名代として出席した徳川昭武の様子が描かれ、その流れから、多くの方に訪れていただきました。

こうした歴史的な背景もあり、松戸は新しい文化や人を受け入れる「オープンマインド」な風土があると感じています。高度経済成長期には、東京の人口爆発の受け皿としていち早く多くの人を受け入れ、市内の人口が爆発的に増加しました。その象徴となるのが、初期の関東最大規模の一つとなる「常盤平団地」です。1960年4月に入居を開始し、当時は「時代の最先端エリア」として、高度経済成長期の松戸市の成長を牽引する存在となりました。

大規模団地の開発が進む一方で、市内は首都圏整備計画のグリーンベルト緑地帯に含まれていたため、都心に近い割には緑が多く残され、自然豊かな環境となっています。

新しい文化を受け入れる寛容性と、都心に近くて緑が多いという地の利が、松戸市が誰にとっても住みやすい住宅都市として発展した理由なのではないかと思います。

–松戸市では、Z世代を強く意識した政策を立案されています。その理由を教えていただけますか。

東海林さん:

松戸市では、市内に在学の高校生や大学生の市内就学率や市内就職率が低いという課題があります。交通の利便性がよいため、就学時や就職時に東京や近隣市を選択する人が多いためです。市内に高校が10校と大学が4校あり、市内事業者数も千葉県内3位の16,800あるという価値がなかなか活かされていない状況にあります。

SDGs未来都市の企画を立案した時は、ちょうどマスコミでもマーケティングの視点から「Z世代」という言葉が広く使われるようになりました。Z世代は、生まれた時からスマートフォンがあるなどデジタルな環境に囲まれ育っていることから「デジタルネイティブ」と言われています。また地球環境などへの意識が高く、就職時もSDGsを推進している企業を選ぶ傾向にあることから「SDGsネイティブ」とも言われています。こうしたZ世代の発信力や行動力の高さを活かして、彼らに起爆剤となってもらうことで、松戸市のSDGsの取組を担ってもらおうと思いました。

Z世代が企画していく常盤平団地のリ・ブランディング

SDGs未来都市のモデル事業では、常盤平団地のリ・ブランディング化をテーマに掲げています。なぜ常盤平団地なのでしょうか。

中平さん:

常盤平団地は、1960年の入居開始から60年以上が経過し、内装はリフォームされて綺麗なものの、間取り、水回り設備、建物全体の老朽化が生じている状況です。住人について、現在の高齢化率は50%を超えています。若い世代や子育て世代の入居者は減ってきている一方、単身者や外国人世帯が増えてきている印象があります。

なぜ、常盤平団地をプロジェクトに選んだのかという理由ですが、市内には、常盤平団地以外にも、大規模な団地がいくつかございます。大規模団地は建物の老朽化や少子高齢化、団地周辺の地域活性化が課題として挙げられています。このような課題は松戸市だけでなく、日本の様々な自治体でも見られるものです。

私たちは、常盤平団地における少子高齢化などが進んでいくことを危惧しています。持続可能なコミュニティをつくっていくためには、外から若い人が自然に入って、地域活動に繋げる仕組みが必要ではないか、そして、そのために何ができるかを考えたときに、若い人たちの力を借りて、ソフト面で魅力的な話題を作っていくことを考えました。そこから、周囲のエリアの人たちと常盤平団地のつながりをつくり、団地と地域の融合を目指していきたいと感じています。

–具体的にどのような取組を計画されているのでしょうか。

東海林さん:

まず市内在住の学生または市内の大学に通っている学生に事業に参画し、学生の募集から運営、成果発表までを、主体的に取り組んでもらいたいと考えています。具体的な取組としては、地域の課題を見つけてもらって、そこから大学生の発想で必要な取組を考え、アクションプランを作ってもらうことを想定しています。

昨年度、学生が主体となるこの運営手法で「SDGsフォーラム」を開催しました。大学への声かけは松戸市が行ったのですが、学生たち自身が友人を誘ったり、SNSで呼びかけたりして、企画・運営に関わる大学生を募集しました。

–SDGsフォーラムについて、もう少し詳しく教えていただけますか?

鈴木さん:

SDGsフォーラムは二部構成で行い、第一部では、千葉大学大学院国際学術研究院助教の田島翔太先生にSDGsについてご講義をいただきました。第二部では、松戸市内の大学生の有志4名に登壇いただき、クイズ等を交えながら、松戸市の大学生の1日を題材にしてSDGsについて考えました。

例えば、朝起きて学校の準備をする中で、ゴミを捨てますよね。今日はなんのゴミの日だったかを考える。それを調べるツールの紹介があったり、学校までの移動手段は車よりも電車の方が環境負荷が小さいとか、あとお昼にドリンクを飲むときに、その商品がフェアトレードかどうか確かめてみるというようなことですね。

そういう大学生の1日を通して、SDGsが身の回りにあるということを参加された方に気付いてもらえる内容になったのかなと思います。

–学生たちの反応はいかがでしたか?

鈴木さん:

そうですね。第二部で当日発表した4名の他にも、SNSの発信やZoomの操作など、裏方を手伝ってくれた役割の人もいました。やっぱり皆さん達成感があったようです。

フォーラムは、企画・運営に携わった約20名の大学生と、一般参加者を合わせた約50名で行われました。スタッフのある学生は、フォーラムの最後の質疑応答ができて、とてもよかったと言っていましたね。質疑応答の中で、大学の先生に直接質問をしたり、また逆に、一般参加者から「他大学の学生と活動して学んだこと、難しかったことは何ですか?」と質問をされたりすることもありました。登壇者と参加者双方向のコミュニケーションを取ることで、自分たちの考えを大勢の前で表現できたことに深い充実感が得られたようです。

–その他の取り組みはありますか?

東海林さん:

大学生が主体となって事業を企画・運営する他にも、大学や大学附属の研究機関と連携して、Z世代の考えを事業に反映していきたいと思います。常盤平団地エリアで住民参加型のイベントを行っていただいた際には、市で補助していくことを考えています。大学でも、研究の舞台として、積極的に活用してもらえたらと思います。

加えて、常磐平団地では自然が多く、いわゆるグリーンインフラが充実しています。歩道や道路がとても広いので歩きやすく、また団地内は、松林などもあり、とても素敵なんです。そのような特色を生かして、住民の健康増進につながるような、ウォーキングコースの設置を計画しています。

ウォーキングコースには、目印となる屋外サインの設置も想定しています。屋外サインの中に表示されているQRコードを読み取ると、LINEから、地域の資源の情報が得られるような仕組みを大学の知見を活かして開発いただく予定です。

この取組では、SDGsの要素も入れて、SDGsについても身近に感じられる仕組みにしていきたいと思います。

より深く広く充実するこれからの子育て支援

–これから、子育て世代になるZ世代が増えてくるかと思います。子育てに関する新たな取り組みがありましたら教えてください。

東海林さん:

松戸市は、50万人規模の都市でありながら、2016年から7年連続で待機児童ゼロを達成しています。保育園の増設はもちろん、地域の子育て支援に関わる方にもご協力いただき子育て支援を充実させていく中で、「日経xwoman(クロスウーマン)社」が実施した「共働き子育てがしやすい街」で、2020年度から2年連続総合編1位という評価をいただいております。

SDGsの目標1には「貧困をなくそう」がありますが、松戸市でも、子どもの貧困対策の推進やヤングケアラー支援ついても、見守り体制の強化や家事支援を通じて、取組を充実させていく予定です。

また、子どもの医療費の助成についても、これまで中学3年生までとしていた対象者を高校3年生までに拡大しています。こちらも市民の皆様からも好評をいただいている取組の一つとなります。

「自分ゴト化」でSDGsを身近に

–改めて、松戸市をどのような未来都市にしていきたいですか?

東海林さん:

この未来都市計画のキーワードを挙げるなら、「自分ゴト化」だと思っています。「SDGs」と聞くと少し大きなテーマで自分自身の手で変えられない目標と思いがちですが、地域にある具体的な課題を「自分ゴト化」して取り組みながら、自分が住むまちの未来や、SDGsについて、一緒に考えていけたらと思います。Z世代はその「自分ゴト化」が得意な世代ですから、Z世代の行動力や発信力を活かして、色んな方に「自分ゴト化」してもらうかが大事だと思っています。

少し話がそれますが、松戸市は、「すぐやる課」という課を全国に先駆けて作った市役所なんですね。全国的に展開しているドラッグストア「マツモトキヨシ」の創業者の松本清さんが松戸市長だった時に設置しました。

昭和44年の発足当時は、ちょうど松戸市の人口が急激に増えている時で、多様化する市民の声にすばやく対応し、また行政を市民の方々にとって身近に感じもらうために、市長直轄の部署を置いたのが始まりです。

すぐやる課

東海林さん:

設置から50年以上たつ現在も、「すぐやる課」は存在しており、スズメ蜂の巣の駆除や道路での動物の死体処理などをはじめ、様々な対応を素早く行っています。コロナの感染が急激に広まった際は、県の受託を受けて、酸素濃度計を持っていない人の自宅に直接届ける応援を行いました。すぐやる課の理念である「すぐやらなければならないもので、すぐやり得るものは、すぐにやります」の精神は、「すぐやる精神」として、松戸市のアイデンティティに根付いているものです。

このような「すぐやる精神」を活かして、SDGsの取組についても多くの方に「自分ゴト化」して参画してもらいたいです。

市役所だけでできることは限られています。今後、SDGsの相談窓口を設置する予定で、市民の方や企業の方がどのようにSDGsに取り組んだらいいか相談でき、さらには、SDGsを接点に連携を推進していきたいと思っています。

様々な人に参画いただき、その方々の声を反映させる中で取組内容や方向性は流動的に変化するものだと捉えています。

そこからまた次の一歩を踏み出せばいいのかなと思っています。

–Z世代を巻き込んだ松戸市の未来の姿が楽しみになりました!本日はありがとうございました。

関連リンク

松戸市HP:https://www.city.matsudo.chiba.jp/