#インタビュー

一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会|見える化で進む!サステナビリティに配慮したフードシステムづくりを目指して

一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会 下田屋さん インタビュー

下田屋 毅

2010年日本と欧州とのサステナビリティの懸け橋となるべくSustainavision Ltd.を英国に設立。英国ロンドンに拠点を置き、日本企業へサステナビリティに関する研修、関連リサーチを実施。2018年一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会を日本に設立。飲食店・レストランのサステナビリティの向上と消費者の行動変容を促し、フードシステムを持続可能な状態へとシフトさせるための活動に取り組んでいる。英国イースト・アングリア大学環境科学修士、英国ランカスター大学MBA修了。講演執筆多数。

Introduction

フードビジネス業界に関わる環境・社会問題は数多く、飲食店が果たす役割は年々大きくなっています。そのフードサービス業界をより持続可能にするために、飲食店を中心としたフードシステムを包括的にサポートする活動をしているのが、一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会(SRA-J)です。今回は、代表の下田屋さんに活動内容や今後の展望についてお話を伺いました。

イギリスで知ったサステナブルなフードシステムが協会発足の原動力に

–まず、日本サステイナブル・レストラン協会について教えてください。

下田屋さん:

日本サステイナブル・レストラン協会は、2010年にイギリスで発足したサステイナブル・レストラン・アソシエーション(以下SRA)の日本支部で、2018年に活動をスタートさせました。

今、地球では気候変動による異常気象や、土壌・水質汚染、水産資源の減少などさまざまな問題が起きています。飲食店においては、食品ロスや従業員の過剰勤務といった問題があります。これらの環境問題および社会課題解決のために、飲食店を中心に生産者や消費者も含めたフードサービス業界全体で取り組みを進め、持続可能なフードシステムをつくり上げていくことを目指して活動しています。

フードシステムとは

農林水産業から、食品製造業、食品卸売業、食品小売業、外食産業を経て、最終の消費者の食生活に至る食料供給の一連の流れをシステムとして把握する概念のこと。

引用:コトバンク

–日本支部を発足するきっかけは何だったのでしょうか?

下田屋さん:

もともと私は2007年にイギリスに渡り、環境やビジネスの勉強をしていました。その後、サステナビリティの研修事業を行う会社を立ち上げ、ロンドンを拠点に仕事をしてたんです。

欧州のCSRやサステナビリティに関する情報を日本の企業へ伝えるなど、様々な事業を展開するなかでSRAのイギリスでの活動を知りました。当時、日本では飲食店に対してサステナビリティを推進する取り組みがなく、広めていく必要があると思ったのが始まりです。

CSRとは

Corporate Social Responsibilityの略で、企業の社会的責任を意味しています。企業が自社の利益を追求するだけではなく、環境や社会に与える影響に責任をもち、ステークホルダーや社会全体からの環境・社会課題の解決に関する要求に対して責任を持ち行動を行うこと。

–飲食店のサステナビリティとは具体的にどのようなものでしょう?

下田屋さん:

例えば、地産地消や有機野菜の利用などがあります。地産地消は、地元の食材を使うことで輸送にかかるエネルギーや、排出される二酸化炭素の削減が期待できますし、地域の活性化にもつながります。

また、農薬を限りなく使わない有機野菜を利用することで、生産者や食事をする人の健康が保たれ、生態系の保全にも貢献します。

他にも、従業員の適切な労働形態を確保し、従業員の働き方、また従業員に対する研修についても考慮する必要があります。そして提供する食事も健康的でなければなりません。

もちろんサステナブルシーフードや食品ロス、プラスチック問題など日本で関心が高くなっている取り組みも入ります。

–そう聞くと、確かに日本で包括的にサステナビリティを意識した飲食店はあまり耳にしないかもしれません。

下田屋さん:

さらに付け加えると、サステナビリティを推進している飲食店であることを認識して、お店選びをしている消費者が少ないと感じています。

–つまり日本では飲食店、サプライヤー、消費者が連携し、三者の意識を変えることが必要だったのですね。

下田屋さん:

そうですね。ただ、あくまでもメインでリードしていくのは飲食店のシェフや従業員の方たちです。

彼らが料理に使う食材の調達方法、働き方や店舗で利用する電気・ガスなどのエネルギーといったサプライチェーンも含めて、飲食店に関わる環境・社会問題を解決できるような方法を選択することで、サステナブルなフードシステムが構築できます。私たちはそのサポート役なのです。

評価診断ツールで見える化し、課題や目標を把握する

–具体的にどのようなサポートをされているのでしょうか?

下田屋さん:

ご自身の飲食店が、サステナビリティに関してどの程度取り組みができているのかを理解してもらうための診断ツールを用意しています。これは、英国のSRA本部の指針に基づいた質問項目に回答することで、サステナビリティに関する課題と目標を明確にでき、さらにサステナビリティの度合いがどのレベルにいるのかについての評価も得られるものです。

–サステナビリティへの取り組み状況を見える化できるのですね。どのような質問があるのでしょうか。

下田屋さん:

「調達」「社会」「環境」に関する質問が250項目ほどあります。簡単に言うと、調達であれば料理の食材に関わること。社会であれば従業員の職場環境やお店と地域の関係性。環境は店舗で使用するエネルギー資源の活用や食品ロスに関することなどです。

診断ツールのイメージ

–評価はどのようにされているのですか?

下田屋さん:

回答が完了すると、「調達」「社会」「環境」の各分野での取り組み度合いに対するスコアが算出されます。そのスコアに応じて1つ星、2つ星、3つ星、星なしの4段階での評価がなされ、サステナビリティの達成度合いをパーセンテージでお伝えしています。

–250個も項目があるということは、かなり細かい部分まで把握できるんですね。

下田屋さん:

はい。とはいえ、初めての方はハードルが高いと感じてしまうかもしれません。そこで、15分程度で回答できるFood Made Good50という簡易版を無償で提供しています。誰でも実施できるので、ぜひ試してみてください。

–これから取り組もうと考えている飲食店にとって、簡易版があるのは着手するきっかけになりそうです。

下田屋さん:

サステナビリティを推進することは将来的に大切だと感じていたり、関心をもっていたりする方は多いと思います。しかし、「何から始めればよいのか分からない」「自分たちが取り組んでいたことは正しい方向なのか不安」といった話をよく聞きます。そういった飲食店の皆さんのお手伝いができればうれしいですね。

サステナビリティを推進する国内外の仲間とつながる

–診断ツールのほかにも、サポートされていることがありますか?

下田屋さん:

はい。会員に向けて毎月1回、オンラインでコミュニティ・ミーティングを実施しています。ここでは、私たちが実施しているキャンペーンやウェビナーなどの情報、国内外の取り組み事例やデータといった、店舗や従業員の教育に役立つコンテンツを提供しています。

協会主催で開催されたウェビナー

–メンバー同士の情報交換もされていますか?

下田屋さん:

はい。コミュニティ・ミーティングでは、他のエリアのお店の取り組みについて、メンバー同士で意見交換もしていただいております。また、「コミュニティアプリ」というソーシャルメディアのようなプラットフォームも用意しているので、国内以外にもイギリスや香港のメンバーとつながることも可能です。

–海外のメンバーとも交流ができるのは、視野が広まり、新たな発想のためにも良い刺激になりそうです。

下田屋さん:

これまでも料理や食材についてシェフ同士で話をされることはあったと思います。しかし、「サステナビリティを推進していく」という視点での会話は、ほとんどの方がおそらく経験がなかったはずです。

–そういった連携の場所があるのはうれしいですね。2021年11月にはサステナビリティアワードも開催されていますよね。

下田屋さん:

はい。日本で初めてのサステナビリティアワードで、SRAの評価指標に基づいてレーティングを行った14の国内飲食店がノミネートされました。

ノミネートされたレストランのほか、協会のパートナー企業やスポンサー企業などが集まり、サステナビリティなフードシステム構築のためのつながりをつくる貴重な機会となりました。

2021年11月に開催されたされたサステナビリティアワード

–このような取り組みを進めてきて、メンバーの皆さんの反応はいかがですか?

下田屋さん:

「自分たちは何をすべきなのか」「これまでの取り組みは正しかったのか」「さらにレベルアップするための課題は何か」など、疑問や不安に感じていたことを理解することができたというお声をいただいています。

同じ目標を持つ仲間を増やして日本をサステナブルなフードサービス業界に

–最後に、今後の展望について教えてください。

下田屋さん:

現在、メンバーとして加盟していただいている飲食店は30店舗です。関東、関西を中心に、北海道から九州まで全国をカバーしています。今後はより多くの飲食店と連携していきたいです。

他にも消費者に向けたアプローチに力を入れていきたいと考えています。

–具体的にされていることはありますか?

下田屋さん:

FOOD MADE GOODアンバサダーという、飲食店運営に関わるあらゆる課題と向き合い、持続可能なフードサービス業界のために行動できる人を増やしていこうという個人向けのプログラムを実施しています。

このプログラムでは、情報やアイデアを共有したり交流ができたりするので、ぜひ多くの方に参加していただきたいです。

FOOD MADE GOOD アンバサダーのプログラム https://community.camp-fire.jp/projects/view/377131

ほかにフェアトレード月間である5月に開催される「フェアトレード ミリオンアクションキャンペーン」に、企画協力として私たちも参加します。このように同じ志を持った人や組織と連携しながら、協会の認知度も上げていく努力をしているところです。

フェアトレード ミリオンアクションキャンペーン https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000082348.html

フェアトレード ミリオンアクションキャンペーンとは

日本全国でフェアトレードに関する「商品購入」「SNS投稿」「イベント参加」などで合計100万アクションを目指す「ミリオンアクションキャンペーン」

引用元:ミリオンアクションキャンペーン

このような取り組みが広がる事で、将来の世代に対して、よりよい環境や社会にしたいと考え、サステナビリティを推進する飲食店が増えることを期待しています。また、消費者においてもサステナブルな取り組みをしている店を選択する人が多くなると良いと思っています。

そうすれば生産者やサプライヤーもニーズに応えるために、よりサステナビリティに配慮した食材やサービスなどを提供していくという好循環が生まれるはずです。

そのためにも地道に活動を続けていきたいですね。

–本日は貴重なお話をありがとうございました。

一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会 関連リンク

日本サステイナブル・レストラン協会:https://foodmadegood.jp/

FOOD MADE GOOD アンバサダーのプログラム:https://community.camp-fire.jp/projects/view/37713

フェアトレード ミリオンアクションキャンペーン:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000082348.html