
古里 靖
1965年生まれ。神奈川県茅ケ崎市出身。高校を卒業後、藤沢市の造園会社に就職し、3年後に渡米。カリフォルニアスタイルのガーデニングを2年間学ぶ。帰国後、様々な職業を経験した後、庭師が天職だと悟る。毎月1回定期的にお庭をお手入れするガーデンクリーンナップサービスを開業。軌道に乗った後に園芸療法に出会う。クリスチャンとなり、所属教会牧師が運営するNPO法人で、障がい者の就労支援事業を立ち上げ。3年後の2011年に独立し、ナチュラルライフサポートを創業。就労継続支援B型事業所「レインツリー」を開設。現在神奈川県内に4カ所の事業所を運営中。
introduction
ガーデニングを通して障がい者を支援するナチュラルライフサポート。さらに、ガーデニングで排出される廃材を使って、環境問題に貢献しています。
今回はナチュラルライフサポート代表の古里さんに、障がい者における働き方の現状やガーデニングを通しての取り組みについてお話を伺いました。
「ガーデニング」をキーワードに支援する
–今日はよろしくお願いします!はじめにナチュラルライフサポートについて教えてください。
古里さん:
2011年に立ち上げた、障がい者の就労支援を行う会社です。一般就労が困難な障がい者を対象に、神奈川県に4ヶ所の就労型支援B型事業所を展開しています。
核となるサービス「レインツリー」では、就職を目指している人、社会と関わりたい人、体を動かしたい人など、さまざまな障がい者の方々に、一般住宅のお庭や団地の緑地のお手入れをするガーデニング作業を通して自分らしく生きることをサポートしています。
また、剪定した際に出る枝を利用してインテリア雑貨などを作って販売したり、堆肥にしてお庭に還元したりするサービスも展開しています。障がい者の方々の特徴やできる仕事に配慮した上で、それぞれに合う仕事を提供しています。



–この事業を立ち上げたきっかけはありますか?
古里さん:
私はもともと造園会社で働いていました。その後、縁がありアメリカのカリフォルニア州で、日本式、アメリカ式のガーデニングについて勉強したんです。
私のいたサクラメントでは、芝生を中心にお庭の手入れを毎週1回行うサービスを利用する方が多くいました。対して日本では、植木屋さんがお盆と正月の年に2回行うのが一般的です。
ですが、植木屋さんを入れるほどではない規模のお庭で、特にご高齢の方や夫婦共働きの家庭では庭にまで手が回らないで困ることが多いんです。
そこで1週間に1回は無理でも1カ月に1回ならどうだろうと考え、独立し、アメリカ式のガーデニングサービスを日本に取り入れました。

–当初から障がい者の方々と一緒に活動されてきたんでしょうか?
古里さん:
いえ、最初は1人でやっていました。その中で、将来の方向性や、やりたいことについて考えていたとき、園芸療法※という言葉に出会ったんです。
色々調べていると、精神障がい者の人たちを中心に、畑で育てたハーブをジャムなどに加工する取り組みを行う事業所が町田市にあると聞き、実際に施設に見学へ行って、ボランティアをやらせてもらいました。
当時、障がい者の人たちと接する機会はほとんど初めてでしたが、彼らの一生懸命に働く姿を見て感動しました。そして、障がいがある方のために何かできないかと考えるようになりました。
そして2006年に障がい者自立支援法が施行され、一般の会社でも福祉サービスに参入できるようになったこともあって、知人が運営するNPO法人を経て、2011年にナチュラルライフサポートを創業しました。
障がい者の働く場所を提供したい
–最初は障がい者についての知見がなかったとのことですが、どのように学んでいったのですか?
古里さん:
何も特別なことをしたわけではなく、一緒に働きながら、その人の考えることや感じることを想像するようにしました。これは障がいの有無にかかわらず、人間関係を構築する上で必要不可欠なことだと思います。
とはいえ、障がいの種類や薬についてなどは知識として持っておかなければならないので、座学を通して学ぶこともしました。

–実際に当事者と接するなかで知ったのですね。現在、どのような方々と一緒に働いているのでしょうか?
古里さん:
先に障がい者における福祉サービスの内の就労支援系のサービスを簡単に説明すると、「就労支援継続支援A型」「就労支援継続支援B型」「就労移行支援」の3つが存在します。
就労支援継続支援A型は、一般的な労働形態と変わらず労働基準法が適用され、給料が支払われるのに対し、就労移行支援は、就労トレーニングを受けながら一般企業への就職を目指すところになります。
弊社の就労支援継続支援B型は、一般企業での就職や就労支援継続支援A型で働くのが困難。かといって介護が必要なほど重度ではないという方々が働いています。主に知的と精神、近頃では発達障害の方が多いですね。
–就労支援継続支援B型の場合、他の福祉サービスと異なって意識することもありますか?
古里さん:
そうですね。先ほど申し上げたように、介護が必要なほど重度な障がいがあるわけではないものの、服薬の影響などで集中力が続かなかったり体力がもたなかったりすることもあり、なかなか長時間働くことは難しい方が多いんですよね。
ですが、見た目などからはそれが分かってもらえないわけです。
障害が軽度なゆえに分かってもらえない、支援が届きにくい、そうして生き辛さを覚えている方々です。ですから一緒に汗して働くことから始めて、ゆっくりと信頼関係を築くようにしていきます。
就職することがゴールではありませんし、セーフティネットの一つとして安心していられる場所でもありたいと思っています。
個々と向き合うことの大切さ
–話は変わりますが、障がい者雇用に関して世の中の流れは変化してきていると感じられますか?
古里さん:
障がい者雇用はここ数年で進んでいる印象です。企業側も、障がい者の雇用率を満たさないとペナルティがあるので、取り組む動きを見るようになりました。
ですが、精神障がい者の50%以上が一年以内に離職するという※統計結果が出ている通り、働き続けることが難しい状況があります。
–それはなぜでしょう?
古里さん:
一緒に働くなかで、障がい者に対してどのように接するか、どう配慮したらいいかわからない企業が多いことも一つの理由です。そういう意味では、寛容な環境づくりやコミュニケーションが重要となります。
–働く場を提供する側にも責任があるということですね。その点で、御社が心がけていることはありますか?
古里さん:
ここにいる人たちは十人十色です。そのため、一人ひとりの夢や目標を叶えるためのサポートを手厚く提供しています。
一般就職を目指していきたい人には、挨拶や返事をできるように指導したり、毎日働けるように体力と自信をつけてもらったり。就職を望まず、ここで楽しく働き続けたいという人の考えも尊重します。

–個人と向き合うことを大事にしているのですね。
古里さん:
はい。サービス利用者が自信を持って働けることが大事だと思っているので、私たちは「働いて元気になろう」というコンセプトを掲げて事業を展開してきました。
その結果、現在、各事業所で20〜25人の方がサービスを利用していますが、屋外で植物や土に触れ体を動かすことで元気になっていく方が多くいて嬉しく思います。

今後の展望
–最後に、今後の展望についてお聞かせください。
古里さん:
現在の活動を自信を持って継続し、園芸療法とガーデニングの魅力をもっと広めていきたいです。私たちと同じような取り組みを行う事業所は聞いたことがないので、日本全国にこのサービスを待ってくださる人たちがいると信じています。
そういった人たちのためにも、事業所を全国各地に増やし、その先で地球環境にも貢献していきたいなと。
–唯一無二のサービスとして、世の中にもっと広まってほしいですね!
古里さん:
そうですね。最近では自然に触れ合う大切さが薄れてしまい、祖父母が大事にしていた庭を孫が受け継いだ途端、駐車場やアパートとなってしまったという話も聞きます。
なので、少しでもサービスを通してガーデニングと自然の持つ力を知ってもらえたら嬉しいです。
あとは障がい者雇用にも力を入れていきたいですね。現在は一般のご家庭を中心にガーデニングを行っているのですが、今後は企業さんにもアプローチしていこうと考えています。
建物を持つ企業だと周囲に緑地があったりするので、維持管理なども手がけて、同時に障がい者雇用の相談を受けたり提案もできたらいいなと思っております。
それから、剪定枝を使った障がい者が作るおしゃれでユニークなクラフト雑貨を多くの方に届けたいです。

–ありがとうございました!