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株式会社フクシン 手袋生産日本一の町で、たくさんの笑顔が循環するものづくりを目指す

株式会社フクシン

株式会社フクシン 福﨑二郎さん インタビュー

福﨑二郎

株式会社フクシン 代表取締役一般社団法人「エンづくり研究所」代表理事「手袋生産日本一の町」香川県東かがわ市に手袋専門商社の息子として生まれる。武蔵大学体育連合会ヨット部を卒業し、日本生命保険相互会社に就職後、事業継承するために帰郷する。入社後、企画営業部長、専務取締役を歴任し時代の流れを読んだ独自のブランディングと販売戦略で、年商5億円程度の売上だった会社を年商12億まで成長させる。2020年には自社サスティナブルブランド「ecuvo,」を発表。社屋屋上に太陽光発電所を設置し、再生可能エネルギー100%で工場を稼働させるなど、先進的な取り組みでSDGs推進企業として認定を受ける。コロナ禍においては、手袋メーカーとしてはいち早くマスク製造に着手し、その様子はテレビ朝日「サタデーステーション」に取り上げられ、Yahoo!ニュース、地方紙、地方テレビ局でも独自の取り組みが多数掲載される。現在は、「日本のコトづくり、モノづくりから、エンづくり」をテーマに、一般社団法人「エンづくり研究所」を設立。自身の経験を活かし、地方経営者を多角的にサポートしている。

introduction:

ファッション手袋や靴下の企画、製造、販売を手掛ける株式会社フクシン。サステナブルブランド「ecuvo,」や、再生可能エネルギーの導入など、あらゆる側面からSDGsに貢献しています。

今回は代表取締役である福﨑二郎さんに、SDGsへの取り組みのきっかけや内容、そこにかける想いなどを伺いました。

「卸売業として創業。現在では自社で企画から流通まで一貫してプロデュースできる企業に成長」

–まずは御社の事業内容をご紹介ください。

福﨑さん:

会社は手袋生産日本一の町、香川県の東かがわ市にあります。東かがわ市には日本手袋工業組合があり、現在50数社の手袋屋さんが加盟していますが、弊社はその1社です。

1977年の創業当時の主な事業は卸売業です。メーカー様から購入させていただいた商品をお客様の売り場に合わせて手袋売り場をセットアップした状態でお届けするという、手袋専門商社のような形で始まりました。

しかし問屋無用論のようなものや、商品にオリジナリティが求められていることもあり、少しずつ状況は変化していきました。そこで新しい機械を入れたり、フィリピンのセブ島に直営工場を作ったりと、他社との差別化を図るためにいろいろと試行錯誤しました。

その結果、現在は百貨店からディスカウンターまで、500社4,000店舗の手袋売り場にお届けする8割が自社オリジナル製品となっています。

また事業としては、アパレルブランドなどからデザインをいただき、その生産を手掛けるメーカーとしての仕事も増えてきました。

さらにネット販売事業も伸びてきています。弊社では、お客様の欲しいモノを、欲しいカカクで、欲しいトキに、欲しいホウホウで届けることを「4欲(よんよく)」と呼んでいます。当然お客様の「4欲」は変わっていくので、それに対して僕らがどう変化できるのかを考えてきました。その一つとして、お客様が欲しいモノをよりスムーズに届けられる方法として、ネット販売にいきついたんです。

地方零細企業ではありますが、自分たちで物を企画して、デザインして、作って、流通するところまで、お客様の「4欲」に合わせて柔軟に変化しながら、一気通貫でやれるような会社になっています。

「たくさんの笑顔を紡ぐものづくりも、SDGsの取り組みも、突き詰めればやさしさでつながる」

–御社ではSDGsにも様々な視点から積極的に取り組まれていますが、注力するきっかけは何だったのでしょうか。

福﨑さん:

どちらかというと、インナーブランディングをSDGsに被せていったという感じですね。

僕は二代目なので、2011年に代表取締役に就任したタイミングでは父親が会長でした。その後2016年に一人代表になった時、社是の「明るく、楽しく、元気よく」をメンバー全員が本当に理解しているのか?と疑問に思い、インナーブランディングを始めたんです。

最初は「明るく、楽しく、元気よく」を実現するためのコーポレートスローガンとして、「たくさんの笑顔を紡ぐ」を掲げました。明るく、楽しく、元気がいい生活とは何なのかと考えた時に、それは笑顔なんじゃないかと。弊社は手袋を編んで作っている会社なので、それを「紡ぐ」で表現したわけです。

そして、仕事の中で何か迷った時に立ち返るために、「笑顔の基本は、整理・整頓・清潔です」に始まり、最後は「笑顔の基本は、結果笑顔になる仕事をすることです」と締めくくる「笑顔の基本10カ条」を制定しました。利益や売り上げを先に求めるのではなく、笑顔のためになる仕事をしようという行動指針ですね。

さらに、メンバーに会社の方向性を理解してもらった上で効率のいい仕事をしてもらうために、インフルエンザの予防接種を全額会社負担で行ったり、脱臭・除菌効果が期待できるオゾン発生装置を設置したり、健康に気を配る取り組みもしてきました。

–そのようなインナーブランディングがどのようにSDGsにつながったのでしょうか。

福﨑さん:

実は僕も田舎者なので、SDGsが国連で採択されたと新聞で読んでも、自分たちが取り組むものなのかどうかも分かっていませんでした。でもセミナーを受けたり、本を読んだりしていると、だんだん「あれ?これって僕らがやっていることとちょっと近くないか?」となってきたんです。

さらに会社のスローガンにも掲げた「笑顔」は、「やさしくなること」じゃないかと社内ミーティングで出てきたりして。じゃあ僕らがやっていることと近いと感じたSDGsって何だろう?と考えた時に、キーワードとしては17の目標の中に一言も書いていませんが、「SDGsの達成もやさしくなること」なんじゃないかと結論づけたわけです。

やさしいというのは、隣の人にやさしい、自分が住んでいる町にやさしい、川や山にやさしいということです。それを大きく言えば、地球にやさしいとか、隣の国にやさしいとなります。僕たちがスローガンに掲げた「笑顔」と国連が採択した「SDGs」、すべてが「やさしくなること」でつながったんです。

そこで福﨑二郎という田舎者の社長が、インナーブランディングとしてこんなことやあんなことをやります!と言うよりも、国連で採択されたSDGsというものにのっとりブランディングをしていきます!と言った方が、メンバーたちも納得できると思いました。そこからSDGsの理念に基づいたコーポレートブランディングをしていくことになったんです。

「人にも地球にもやさしい。サステナブルブランドecuvo,の誕生」

–御社のSDGsに関連する取り組みの一つに、サステナブルブランド「ecuvo,」がありますが、これはどのようにして生まれたのでしょうか。

福﨑:

「ecuvo,」は、SDGsの理念に基づいたインナーブランディングが社内で定着してきたので、それを僕らの活動としてアウターブランディングしていこうという話の中で生まれたブランドです。僕らの会社のスローガン「たくさんの笑顔を紡ぐ」から、笑顔の象徴である「エクボ」をブランド名に掲げました。やっぱりやさしい言葉ですしね。

「ecuvo,」は再生ポリエステルや再生ウール、オーガニックコットンなど、環境にやさしい素材を使っています。また、廃棄予定の食品から抽出した染料で染めた商品もあります。これは右側からブルーベリー、赤カブ、コーヒー、桜、何も染めていないものになります。

さらに会社には、作ったり直したりができる職人がいるので、永久修理保証を付けました。他にも片手片足だけの販売も始めました。手袋や靴下って、なんだか片方だけなくなることってありますしね(笑)。

もう一つは永久定番化ですね。アパレルは毎年新しいデザインやカラーを出すことが慣習になっていますし、お客様もそれを求めているのかもしれませんが、このブランドについては永久定番化しました。永久定番なのでバーゲンもしません。残った糸も、在庫商品も廃棄する必要がないので、永久定番化は僕らにとってもメリットがあることでした。

シンプルなデザインなので、家族で同じものを使えるなど、お客様にもメリットがあります。また、同じデザインでいろいろなサイズがあるので、家族みんなで使って笑顔になるとか、子どもが大きくなった時にお父さんやお母さんが使っていた商品を使って笑顔が生まれるとかもあるかもしれません。そうやって商品との付き合い方まで提案しようというのが「ecuvo,」のコンセプトになっています。

–素敵なブランドですね。その中でひとつ伺いたいことがあります。オーガニックコットンなどは、本当にサステナブルなのか?とたびたび議論にもなる素材ですが、その点について福﨑さんはどのようにお考えですか。

福﨑:

誤解を招くかもしれませんが、環境にやさしいであろう物を使うということは、何もやらないよりマシなんじゃないかと思っています。オーガニックコットンの場合は、農薬を使う綿花の栽培よりも90%以上水を使わないで済むと文献で読みました。しかし、いろいろな角度から見るとそれが本当のところでサステナブルなのかは分かりません。ただ、それを言い出したら、太陽光パネルを作るのにもエネルギーは使うし、ペットボトル削減のために水筒を持ち歩くにしても、10個も持っていたり新しい物をどんどん買ったりしたら意味がないですよね。とにかくそういった議論は尽きないんです。

僕はゴミ拾いをしながらランニングするプロギングをやっていますが、日本の街はきれいなのでゴミなんて落ちてないだろうと思うじゃないですか。でも実際ゴミを拾おうと意識して走っていると、タバコの吸い殻やペットボトル、空き缶、マスクだったり、本当にたくさん落ちてるんです。拾うという行為を意識してみることで、見えなかったものが見えるようになる。だから、いろいろ議論してる間にやってみれば見えること、分かること、身につくことがあると僕は思います。

SDGsについても、それは本当にSDGsなのか?という議論はあるんですよね。でもとにかく今自分たちができることを一つひとつやっていくってことが、一番大事なんじゃないかなと思います。

–なるほど。オーガニックコットンについても、御社では認定団体からの認証を受けた物を使っているということが、今自分たちにできることだということですね。

福﨑さん:

そうです。いろいろ調べた上で、自分たちが信じることをとりあえずやってみるということが大切だと思います。

「サステナブルな商品を作る現場も、サステナブルであるべきだ」

–御社では太陽光発電システムも導入されていますが、きっかけは何だったのでしょうか。

福﨑さん:

展示会で「ecuvo,」を発表した時はすごい反響がありました。そしてその反響を見たデザイナーたちが、商品企画会議で「ecuvo,を作る機械を動かすためには電気が必要。その電気が二酸化炭素をいっぱい出して作られているというのはどうなんでしょうか」と言ったわけです。

そこでいろいろ調べてみると、弊社に太陽光発電システムを設置すると、82台ある機械を動かす電力も含めて、全使用電力の25%くらいが賄えることが分かりました。それならとりあえずやってみるかとなったんですが「あと75%はどうするんですか?」と言われて…。

25%で勘弁してよと思いつつも、さらに調べると、非化石証書付き電力の再生可能エネルギーを購入するという契約ができることが分かりました。それなら「ecuvo,」のブランディングもありますし、会社としてSDGsを推進しているし、会社全体が再生可能エネルギー100%で動いていたらいいよねとなり、費用負担は非常に高いけどやってみましょう!となったんです。そして2020年の12月1日から再生可能エネルギー100%で動き出しました。その後、2021年6月29日からは太陽光発電システムも稼働して、現在では全使用電力の25%が賄えている状況です。

また、388灯あった蛍光灯を2020年8月にすべてLED化しました。弊社はできる限り自分たちが使う電力についても気を使い、そこで「ecuvo,」というサステナブルブランドを作ってるんだよ、ということを知っていただくことが、お客様に商品を買っていただくひとつのトリガーになれば嬉しいなと思いながらやっています。

「50年後、100年後の子どもたちのために、今できることを」

–サステナブルブランドの展開や太陽光発電システムの導入など、様々な角度からSDGsに取り組む御社ですが、ほかにもSDGsに関連した取り組みはありますか。

福﨑さん:

いろいろありますが、女性のライフスタイルに合わせた雇用環境づくりに取り組んでいます。特に女性の場合、妊娠出産子育てなどでライフスタイルが変わりますよね。例えば正社員で入社した方が出産を経て正社員の仕事が叶わないということもあります。その場合、育児休暇後はパートタイムで自分の好きな時間で3時間だけ働くことができたり、その後子どもが大きくなったら正社員に戻れたり。パートで入ってきた方も、子どもが大きくなってきたら正社員にステップアップすることもできるなど、一人ひとりの状況に合わせて柔軟に雇用環境を変化させ、長く働いていけるようにしています。

–とても魅力的な職場環境ですね。さきほど、太陽光発電システムの導入も社員の方の意見がきっかけになったというお話がありましたが、やはり社員の方のSDGsへの関心は高いのでしょうか。

福﨑さん:

そうですね。2020年の2月に「ecuvo,」を発表していますが、そこから12人正社員で採用できているんです。このぐらいの時期から入社してきている人たちは、我々が出している「ecuvo,」の広告を見て、「あーなんか優しい会社なんだな」とか「こんな会社があるんだ」と僕らがSDGsに積極的に取り組んでいる会社だということを知って志望してくれているので、特に関心は高いと思います。

また、インナーブランディングをしてSDGsを推進することによって、みんな同じベクトルを向いているので、社内の心理的安定性が保たれている気がします。

新規人材採用と、メンバーの心を合わせることによる仕事の質の向上が、SDGsを推進することによって生まれた1番大きなメリットだと思うんですよね。

–意外なところにメリットがあったんですね。それでは最後に今後の展望をお聞かせください。

福﨑:

環境をよくするとか、SDGs的な発想というのは、我が社だけが一生懸命やっていても仕方のないことなので、ひとりでも1社でも多くの方にご理解いただくような生産活動を僕自身もやっていきたいですね。

僕らの仕事は、9割方冬の売上で成り立っているんです。だから僕らは冬がないと困るんです(苦笑)。つまり気候変動や地球温暖化問題に取り組むということは、最終的に僕らにとって最大のメリットを生み出すはずなんです。

それにやっぱり、春には桜の下でお花見をして、夏になったら海水浴に行って暑い暑いと言いながらかき氷を食べて、秋には栗を食べながら紅葉を愛でて、冬はこたつで温まりながらミカンを食べて紅白歌合戦を家族で見たい。そういった日本の四季やきれいな地球を、50年後、100年後の子どもたちにバトンタッチするのは、今地球を使わせてもらっている僕らの義務なんじゃないかなとつくづく思います。そういったことを、事業やライフワークにしているプロギングなどを通してこれからも伝えていきたいですね。

–本日はありがとうございました。本当にいろいろな角度からSDGsに取り組んでいらっしゃることに驚きました。「ecuvo,」というブランドがますます気になります。

関連リンク

株式会社フクシン:https://www.fukushin.co.jp/ 

ecuvo,:https://www.ecuvo-japan.com