#インタビュー

株式会社GCEインスティチュート|未利用熱を次世代のエネルギー源にするために、新開発の発電技術の実用化を目指す

株式会社GCEインスティチュート 後藤社長・中村さん インタビュー

後藤社長
中村さん

introduction

日本ではエネルギ―の多くを輸入に頼っていることは広く知られていますが、そのエネルギーを使用する際に「未利用熱」として廃棄されてしまう熱エネルギーがあることは、あまり知られていないかもしれません。

年間、実に6兆円分にもなる「未利用熱」や、私達の周りにある「環境熱」を使い発電する「アンビエント発電」の技術で、エネルギーの有効活用を目指しているのが株式会社GCEインスティチュートです。

同社は、この環境熱発電の技術が評価され、2022年「第3回いばらきイノベーションアワード」で大賞を受賞しました。

今回は、代表取締役の後藤さんと主幹研究員の中村さんに「アンビエント発電」の技術や実用化で可能になる未来についてお伺いしました。

新しい発電技術「アンビエント発電」の実用化を目指し、日夜研究開発を進める

–はじめに、株式会社GCEインスティチュートのご紹介と事業についてお聞かせください。

後藤社長:

株式会社GCEインスティチュートは自然エネルギーを使って発電する「環境熱発電技術」の開発と事業化を進めているスタートアップ企業で、2016年に創業しました。

社名の「GCE」は「Global Clean Environment グローバル クリーン エンヴァイロメント」で「世界規模できれいな環境を実現したい」という思いを込めています。

現在は、熱を電気に変える「環境熱発電技術」「熱電変換交換技術」に注力しています。

「アンビエント発電」と呼んでいるこの技術はまだ開発途上ですが、なるべく早い実用化を目指しています。

温度差を必要としない熱電変換技術「アンビエント発電」のアイデアは、知人からのヒントを元に具体化したものでした。熱を電気に変える熱電変換技術というのは、すでに実用化されている技術ですが、一般的には温度差を利用して発電するものが主流で、「アンビエント発電」で取り組んでいる温度差を用いない熱電変換という方法は非常にユニークな技術です。このユニークな技術について簡単な実証実験の手伝いをしながら「この技術で将来、面白いことができる可能性があるのではないか」と考えていました。それで、もう一人の創業者となる永濱氏に話を持ち掛けて2人で起業し、研究を始めたんです。

ものづくりのスタートアップ企業には、設備や材料調達のための資金に加え、研究開発を行う環境面の準備も必要です。いろいろな方に支援してもらい会社を立ち上げることができました。

熱があればどこでも発電可能!今までと全く違う発電技術とは

–「アンビエント発電」は、今までの熱を利用した発電とどのように違うのでしょうか?

後藤社長:

「アンビエント発電」は温度差や大掛かりな装置がいらない画期的な発電技術です。

従来の「熱を利用した発電」には2種類の発電方法があります。

1つは熱で蒸気を作ってタービンを回して発電する方法です。これは、高温の熱源が必要な発電です。これには大きな設備と、150度以上の熱源が必要です。

もう1つは温度差を使って発電する方法です。これは、2つの金属電極間に温度差を作り、電極間に設ける熱電変換材料を用いて発電するものです。

この方法では、2つの電極間に温度差を作る必要があるので、熱源側とは反対側を冷却するために冷却水を流すとか、放熱させるといった装置が必要になります。

「アンビエント発電」は、温度差を作る必要がなく熱源さえあれば発電ができるので大がかりな装置も冷却装置も必要とせず、使い勝手が格段に良くなります。       

発電のしくみについても、もう少し詳しくご説明します。

「アンビエント発電」を実現する熱電変換素子はこの図のような構成になっています。

《アンビエント発電熱電素子のつくり》
《アンビエント発電熱電素子のつくり》

熱電素子の構造自体は「2枚の金属板の間に、金属のナノ粒子が挟みこまれている」という、とてもシンプルなものです。

上下にある緑と青の板が+と-の電極の金属板を表しています。

それぞれ違った種類の金属でできていて、この2枚を非常に狭い間隔で接近させることで、電極と電極の間に「電界」という電圧がかかっている空間が生まれます。

そうすると、一方の電極から放出される電子が、電界の力によってもう片方の電極に向かって動きます。これが発電の基本的な仕組みとなります。

とはいっても、この2枚の電極から構成される基本構造で電界の力だけで片方の電極から他方の電極に電子を伝搬するためには、電極間隔を数ナノメートルレベルの極限まで接近させない限りできません。そこで、電極と電極の間に「金属ナノ粒子」を高密度で充てんします。この図のオレンジ色の粒が、直径数ナノメートルの「金属ナノ粒子」を表しています。電極表面から放出される電子は、電界に沿って一番近い金属ナノ粒子に熱エネルギーを使って伝搬し、そしてまた次の金属ナノ粒子へと伝搬を繰り返します。

電子は飛び石を渡っていくように次々に伝搬していき、反対側の電極に到達します。これは「ホッピング現象」というものです。

この時「熱」は、電子が金属ナノ粒子から金属ナノ粒子に飛び移るためのエネルギーの役割を担います。

人間もジャンプするときは力をためて飛び上がりますよね。それと一緒で外部から熱エネルギーが加わると電子は次にジャンプできるんです。

周りの熱の温度が高いほど、電子の動きが活性化され、たくさん電子が動いて多くの電流が流れるということですね。

発電に必要な温度は、10〜20℃くらいあれば問題なく発電できます。実験では-20℃、-30℃の低温度環境でも、微小電力ですが発電を確認しています。

中村さん:

1つの「熱電素子」のサイズは数ミクロンと非常に薄くて小さいので、いろいろな形に変えられ、小スペースに入れられるのも大きな特徴で、かなり応用が利きます。

さらに、「熱電素子」を積み重ねたり大きな面積にしたりすることでより大きなエネルギーを得られ、高出力化できるんです。

《素子アレー化|素子を増やし電圧の出力を増大できる》
《素子アレー化|素子を増やし電圧の出力を増大できる》

「アンビエント発電」で社会問題の解決へ。可能性は無限大

–とても画期的な技術なんですね。では「アンビエント発電」が実用化されると、どのようなことに利用できるのでしょうか。

後藤社長:

「アンビエント発電」は熱のある所ならばどこでも発電ができるので、無限の可能性があると言えるでしょう。

例えば工場のボイラーや温水を流しているところ、車のエンジン周りにもかなりの熱があります。それらの熱を利用すれば、工場の電力の一部を賄えたり、車もエネルギー効率が上がり走行距離を伸ばしたりできる可能性があります。

身近なところでいうと、スマートフォンやパソコンの発した熱で発電すれば、次の充電までの時間を伸ばすことができますし、体温で腕時計の充電ができる可能性もあります。

家庭の給湯器や風呂周りなどの熱源があれば、その熱で発電をして家の電力を賄えるようにすることも可能になるでしょう。

実用化については、まずは身の回りにある熱で発電できる小さなものからスタートする想定です。2025年には体温で発電して小さなセンサーを動かすこと、

《Iot電源 室温・体温》
《Iot電源 室温・体温》

そして、2027〜2028年には太陽光発電とハイブリットで発電ができるようなものが出来たらよいなと思います。

《発熱活用電源 ~85℃》
《発熱活用電源 ~85℃》

工場熱を利用した何キロワット、何万キロワットの発電にはまだ10年弱はかかると思いますが、2030年くらいまでには実現できたらと考えています。

《排熱活用電源 ~150℃》
《排熱活用電源 ~150℃》

–この「アンビエント発電」のテクノロジーでどのような社会問題や課題を解決できるのでしょうか。

後藤社長:

まずは、年間6兆円にものぼる「未利用熱」を利用することができます。

日本は年間約20兆円分の燃料を輸入に頼っていると言われています。そしてその3割分がエネルギー変換の過程において排熱となり、その後私達が消費する段階でもさらに3割が未利用のまま捨てられています。

工場などで産業活動をするときには必ず熱が出ますが、100℃以下の熱はなかなか使い道がないのが現状です。

この利用されない熱を「アンビエント発電」で電力に変えることができます。未利用熱の1割でも電気に変えられたら、かなりの貢献になります。

《未利用熱の発生源》

《室温・体温》
《室温・体温》
《電子機器発電》
《電子機器発電》
《駆動部発電》
《駆動部発電》
《工場排熱》
《工場排熱》
《発電所排熱》
《発電所排熱》

こうした取り組みを通して、環境問題に大きく貢献したいと思っています。

クリーンな環境エネルギーを使うことで、火力や原子力発電などの電源に頼らずにすむ割合が増えますから、国全体として目指しているカーボンニュートラルにも対応可能です。

太陽光発電のように夜間の発電が出来なかったり、天候に左右されたりすることもありません。

火力や原子力ではない新しい発電の選択肢の一つとして「アンビエント発電」を提供し、クリーンな環境作り、地球温暖化や汚染などの問題解決に貢献することで、将来子ども達が安心して暮らせる世の中を残したいと考えています。

–「アンビエント発電」の他にも注力されているテクノロジーはありますか。

中村さん:

現在、新しい材料として「チューニング可能なナノ粒子」を創製し、世界に広めていこうと取り組んでいます。

「アンビエント発電」の熱電素子の中に使われているナノ粒子はかなり特殊な金属ナノ粒子なんです。

はじめ、熱電素子には市販のナノ粒子を使用していたのですが、デバイスの安定性や機能向上のため自社で独自に作った方が有利だと考え開発していました。それが、世の中にまだないものであるとわかったんです。

弊社のナノ粒子に興味を示すお客様も多くいらっしゃり、バイオ分野・触媒分野・電子デバイス関係で既存のナノ粒子と置き換えるという試みがどんどん出てきています。 

「絵に描いた餅を本当の餅にする」ために。高い目標設定と、オープンマインドで向き合う仲間の重要性

–御社では、テクノロジーを開発するうえでどんなことを大切にしているのでしょうか。

後藤社長:

テクノロジーを開発するうえで大事にしているのは現場主義です。日々実験をしていますが、その結果を素直に受け止めるということです。

目標は作りますがなかなか目標通りにはいかない。すんなりと目標達成したらその目標は甘すぎるということなんです。高い目標を作り、それに向かっていろいろ試す。ほとんどは失敗ですが、その中に新しい知見が生まれます。結果に素直に向き合い、ダメならなぜダメなのかを考えるのが重要です。ダメな結果を伏せて隠してしまうと技術は発展しません。

弊社にはいろいろな分野の技術者が集まっているので、様々な視点で意見を言い合い、オープンマインドで話し合うのが大事だと思っています。

また技術開発は自分達ですべてのことができるわけではありません。様々な人たちとの協力が必要ですから、コラボレーションし、技術を惜しみ隔さずことなくディスカッションできるようなパートナーづくりが必要だと考えています。

中村さん:

私達は日々、まだ誰もしたことがないことを、正解も良く分からない状況で研究しているんです。「絵に描いた餅を本当の餅にする」ようなものです。

大事なのはお互いに同じ方向を見て進んでいくけれど、頭を柔らかくし、決して視野を狭くしないよう常に注意することだと思います。

–最後に今後の展望をお聞かせください。

後藤社長:

弊社の大きな目標は、どこに持って行っても発電できる「地産地消の電源」の実現です。

創業当初から、私達には実現させたい夢があります。

例えばアフリカのような、電力網が整備されていない開発途上国にこの技術を持っていき、電気に恵まれない人達の暮らしを良くしたいということです。また、災害時の非常用電源としての活用も実現したいと思っています。

今は身近なアプリケーションの実用化を目指していますが、いずれはこんなこともできたらよいと思っていて、世の中に弊社の研究開発を製品にして見せ、共感してもらい、技術を広めていけるようにしたいと思います。

会社としては、ここまで「エンジェル投資家」と呼ばれる創業間もない企業や、スタートアップ企業に投資をしてくれる方と巡りあい、ご支援をいただきながらやってきました。

しかし資金は潤沢にあるわけではなく、人材も設備も最低限で活動していますので、もっといろいろな方に弊社の取り組みにご賛同をいただきご援助をしていただくというのが経営課題です。

人材についても、スタートアップでチャレンジしたいという人を増やしたいと思います。

事業を大きくしようとすると、いろいろな仕事が増えますから、技術職だけでなく、弊社の事業に共感して一緒に仕事をしたいと言ってくれる人達に来てもらうというのも課題の一つです。

わくわくするスタートアップ企業が身近にあるんだと知ってもらいたいですね。

中村さん:

ほとんどのベンチャー企業は、これができたら世の中が良くなるだろうと考えて活動しています。

弊社にはそれぞれの研究で成功体験を持った人間が多く集まっていますので、力を集結し絵にかいた餅をほんとうの餅にできるように頑張っていきたいと思います。

–「アンビエント発電」が実用化されるのを楽しみにしています。本日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

株式会社GCEインスティチュート:https://gce-institute.com/