「GDP」と聞けば「経済の話」くらいの見当はつきますか?では実際のところあなたはGDPについてどこまで理解できているでしょうか?
日本の人々は「環境問題を解決したい」や「戦争や災害に遭って困っている人たちを助けたい」と思う人は多いのですが、経済について関心を持つ人が少ない印象を受けます。まずは経済の基本として、GDPについて知っておきましょう!
そもそもGDPとは?から、GDPを知ることが大事な理由やランキングなどを、小学校5年生ほどの子どもでも理解できるくらいにわかりやすく解説します!
目次
GDPとは?
最近、日本ではアルファベットのイニシャル(頭文字)をとった言葉が多く使われるようになりました。しかし「GDP」はかなり以前から使われている言葉です。
まずはGDPの基本から確認しましょう。
GDP=国内総生産
「GDP」とはGross Domestic Productの略称で、「国内総生産」のことで、一定の期間に国内で生産された物やサービスの「付加価値」の合計です。
GDPはその国の経済の仕組みの大きさを表す値の1つです。GDPの計算は「国民経済計算」と呼ばれ、実際にはとても複雑なもので、日本では「SNA」※と呼ばれる国際連合が世界に勧めている国際的な基準に沿った方法で計算されています。
付加価値とは?
GDPが表している「物やサービスの付加価値」の「付加価値」をまずは理解しておきましょう。GDPを考える上での付加価値とは、「生産活動※によって新たに生み出された価値」のことです。
経済での「価値」とは、財産(=お金や土地・建物・家具・商品など)の価格を指します。生産活動によって製品が生産されると、その製品の価値は生産にかかった材料やエネルギーの費用よりも高くなります。企業としての利益と、働いた人たちに払う給料のための利益などを確保しなければ、企業の経営を続けられませんから当然のことですね!
この材料やエネルギーなどの価格から、生産されたものの価格の差が「付加価値」です。あなたが物を買ったり、サービスを利用したりするときに支払う値段に含まれている、企業や従業員が仕事をしたコストの部分と考えてもいいでしょう。
つまり、
- 生産額全体ー材料費ー燃料費=付加価値(GDP)
となります。
そして付加価値は、
- 労働力
- 土地・建物・機械などの生産手段
によって生産され、生産された付加価値はその後、
- 賃金(給料)
- 利潤(企業の利益)
- 利子(お金のレンタル料)
- 地代(土地のレンタル料)
- 家賃(建物のレンタル料)
- 税金
などに分配されます。
三面等価の原則
GDPには「三面等価の原則」があります。三面等価の原則とは、
- 生産された付加価値(新たに生み出された価値)
- 分配された付加価値(分け与えられた利益)
- 支出された付加価値(消費された金額)
の合計は、一定期間が経過した後、どれも同じになるというものです。①〜③をそれぞれ見ていきましょう。
①生産された付加価値(新たに生み出された価値)
生産された付加価値は「生産面から見たGDP」とも呼ばれます。生産面から見たGDPは、
- 生産額全体ー材料費ー燃料費=付加価値(GDP)
でしたね。GDPはその国内で生産されたものと定義されていますから、外国からの輸入品などは含まれません。
②分配面された付加価値(分け与えられた利益)
分配された付加価値は「分配面からみたGDP」とも呼ばれます。生産面から見たGDPは、
- 家計
- 企業
- 政府
のどれかに分配されつくされるので、
- 生産面から見たGDP=分配面から見たGDP
となります。
【家計・企業・政府の関係】
③支出された付加価値(消費された金額)
支出された付加価値は「支出面から見たGDP」や「国内総支出(GDE)」※とも呼ばれます。これは、分配されたGDPがどのように使われるかを考えたものです。
支出面から見たGDPは、
- 民間の消費
- 政府の消費
- 資本の形成(住宅・設備・公共などへの投資)
- 財産やサービスの輸出入
を合計して計算されます。財産やサービスの輸出入は、輸出額から輸入額を差し引いたもので、「経常収支」と呼ばれ、輸出が輸入より多い場合、経常収支は黒字(プラスの値)となります。
- 輸出ー輸入=経常収支
ということです。
この章では、
- GDPはその国の経済規模を把握するための値の1つ
- 付加価値とは生産活動によって新たに生産された価値
- GDPには三面等価の原則がある
の3つのポイントをしっかり抑えましょう!
次の章では「名目GDP」と「実質GDP」について解説します。*1)
GDPの種類(名目GDPと実質GDP)
GDPには「名目GDP」と「実質GDP」があります。この2つの違いを理解するために、まずは「物価」について確認しておきましょう。
物価とは?
「物価」とは物・サービスの価格です。需要(買う側)と供給(売る側)のバランスによって決まります。基本的に、需要が多く供給が少ないと物価は上昇し、需要が少なく供給が多いと物価は下落します。
つまり物価は、
- 買いたい人が多く、商品が少ない→物の値段が上がる
- 買いたい人が少なく、商品が余っている→物の値段が下がる
という動きをします。物価は場面によって、
- 経済全体での一般的な「物価水準」※
- ある家計が1年間に生活するために必要な物・サービスの価格の合計
の2つの意味がありますが、ここでは1の物価水準のことを指します。物価は統計的なもの(さまざまな物やサービスの価格の平均値)で、何を対象にして計算するかによって、
- 消費者物価指数
- 企業物価指数
を代表にいくつも種類があり、その目的によって使い分けられます。消費者物価指数と企業物価指数の違いは下の表の通りです。
消費者物価指数 | 企業物価指数 |
---|---|
総務省から毎月発表 | 日本銀行から毎月発表 |
一般の消費者が購入する物やサービスの価格の変動を表す指数。消費税も含めた価格で集計される。 | 企業間で取引される商品の価格変動を表す指数。サービスは含まない。原油価格や為替相場※の影響を受けるため、消費者物価指数より変動が激しい。 |
物価について確認したところで、「名目GDP」と「実質GDP」の説明に入ります。
名目GDP
「名目GDP」はその時の「市場価格」※で計算したGDPの値です。市場価格は物価の影響を受けますが、名目GDPはこの物価の影響を受けたそのままの数値で計算されます。
実質GDP
「実質GDP」は名目GDPから物価の影響を差し引いた値です。一般的にGDPという表現の時には、特別に指定がなければこちらの実質GDPを指します。
【名目GDPと実質GDPの推移】
上のグラフからもわかるように、名目GDPと実質GDPは大まかな動きの形は似ているものの、別々の値になります。2015年から2017年ごろのように、2つのGDPの値がとても近い数値(時に同じ)になることもあります。
物価と名目GDP・実質GDPの関係
例えば物価が上昇している状態では、生産量が増えていなくても名目GDPの値は物価の上昇分増加します。実際の経済活動(生産量など)の増減を知りたいときは、物価の上昇分を差し引いた値(実質GDP)が必要です。
つまり名目GDPが4%上昇していても、その時の物価が4%上昇していたら実質GDPは増加していない、ということです。逆に物価が下落している局面では、名目GDPが0でも実質GDPは増加している場合もあります。
GDPとGNIの違いもチェック
GDPと合わせて「GNI」についても知っておきましょう。GNIとは、Gross National Incomeの略称で、「国民総所得」のことです。
GNIはGDPに日本企業の海外での利益や、外国株式・外国債権への投資による利益などを加えた値です。
※金額は1ドル130円で計算後、四捨五入
上の表は2021年の国別の実質GDPと名目GNIの世界上位国です。どの国もGDPよりGNIの値の方が多いことがわかります。
GDPとGNIの違いは、
- GDP=国内で新たに生産された付加価値の合計
- GNI=GDPに国内の企業が海外で生産した付加価値も合わせた値
と覚えておきましょう。
日本のGDPは2023年にドイツに抜かれ世界4位となる見通し
2023年10月23日、国際通貨基金(IMF)は経済見通しを公表し、日本のドル換算でのGDPがドイツを下回って4位にとなると予測しました。
日本経済の低迷や円安、ドイツの高インフレが原因と考えられます。
次の章では年々変化するGDPの動きに注目します。*2)
なぜGDPは変化するの?
経済が常に動いているように、GDPも動いています。GDPは経済の大きさを表した値なので、GDPの変化からその国の経済成長の移り変わりがわかります。
つまり、
- GDPの推移=経済成長の推移
と考えることができます。それでは、GDPは何に影響を受けて変化するのでしょうか?
【GDPの変化要因①】人口の増減・少子高齢化
人口の増減は働く人の数に影響を与えます。付加価値は
- 労働力
- 土地・建物・機械などの生産手段
から生産されますから、人口の増減はこの「労働力」の増減に強く影響を与えます。また、社会が少子高齢化※すると、段々と働くことのできる人の数は減っていきます。
反対に、人口が増加傾向で国に占める若い世代の人口が多ければ、働く人の数も多くなり、結果として国全体の付加価値の生産量も増えます。
【世界人口の推移(1950~2050年)】
上は世界の人口推移(移り変わり)を表したグラフです。(2022年以降は国立社会保障・人口問題研究所による予測の人口です。)
世界的に見ても、将来の人口は減っていく傾向にあると予測されています。次は日本の人口の推移も見てみましょう。
【日本の総人口の長期的な推移】
日本の人口は2004年をピークに急激な減少傾向にあります。2004年を軸として過去の増加曲線と線対象に曲線を描いて減少しているようにも見えます。
【日本の年齢区分別総人口の推移】
上のグラフは、
- 若年:0〜14歳
- 生産年齢:15〜64歳
- 高齢:65歳〜
の3つに分けて日本の人口推移を表したものです。近年では15歳から働く人は多くありませんが、65歳以降も働き続ける人は増えています。
日本が少子高齢化社会であることは事実です。今後、日本が経済成長を続けるためには、少子高齢化の課題をどう解決するかがとても重要です。
【GDPの変化要因②】経済の効率性と生産性
「経済効率」とは、「時間あたりに生産できる付加価値の量」と考えていいでしょう。労働力・資源・資金などが適切に社会に分配され、無駄なくより短時間でより多く生産できれば、「効率性」が良いことになります。
似た言葉で「生産性」という言葉がありますが、こちらは「1人あたりが稼ぐ利益」です。効率性が上がることにより生産性が上がる、という関係です。
経済効率が上がり、生産性が上がればその分GDPも増加します。つまりGDPの値は経済の効率性によっても変化すると言えるのです。
今後日本では人口減少・少子高齢化が進むことが予想されますから、私たちは国・企業・個人のどのレベルでも効率性を高め、生産性の向上につなげる取り組みが必要です。
【労働生産性指数の推移】
上のグラフは日本の労働生産性の推移を表しています。情報通信産業が好調な伸びを示す一方、その他の産業は横ばい(あまり変化がない)、またはゆるやかに下降傾向にあることがわかります。
この現状を解決するための解決策として、SX・DX・GX※などの推進が重要だと考えられています。
【GDPの変化要因③】物価の変動
先ほど「GDPの種類」の章の「物価とは」でも紹介したように、物価の変動は名目GDPに直接影響します。経済に大きく影響を与える物価が安定するように、日本銀行※は金融市場に出回るお金の量を調節しています。
【日本銀行による金融政策】
この物価の調節のための政策を「金融政策」と呼びます。物価の動きは「金利」※にも影響するほか、輸出入の条件にも大きく影響します。
これは、投資家や金融機関が企業に投資・融資をする際に、なるべく有利な投資先を選んで投資するので、
- 投資家が金利の高い国への投資を増やす
- 金利の高い国の通貨が買われる
- 金利の高い国の通貨の価値が上がる(為替レート※が上がる)
- 金利の高い国から輸入する物の値段が上がる
ということが起こるからです。一方、通貨の価値が高い国への輸出は相手国から見て物の値段が安くなるので有利になります。
GDPは社会のさまざまな要因によって影響を受けて変化しています。このことから、GDPの変化はその国の経済の変化を見る重要な値の1つです。
次の章ではGDPからわかることを考えます。*3)
GDPがわかると何に役立つ?
GDPとそれに関わる経済の仕組みが確認できたので、GDPがわかると何に役立つかなどを考えてみましょう。経済関連のニュースでGDPはよく取り上げられますが、なぜGDPは大事なのでしょうか?
GDP=国の経済力
その国の経済力を見る時、GDPは最もその指標となる値の1つと言えます。下のグラフは1990年から2019年までのアメリカ・イギリス・ドイツ・日本の1人当たりの実質GDPです。
【先進諸国の1人当たりの実質GDPの推移】
過去30年間で見ても、日本の経済成長は他の先進諸国に比べて低い割合が続いていることがわかります。次のグラフは世界全体のGDPに占める中国・アメリカ・日本の割合と2050年の予測です。
【世界全体のGDPに占める中国・アメリカ・日本の比率】
日本のGDP低迷は、将来の経済成長や世界のシェア※にも影響が出ると予想されています。この低迷の原因は、
- 人口減少による国内市場の縮小
- 世界の水平分業化※への対応の遅れ
- デジタル化の遅れ
- 気候変動関連への対応の遅れ
- グローバル規模の経営戦略が進んでいない
など、多数の理由が考えられます。このように、GDPの推移や多国間との比較によって、その国の経済成長の状態を知ることができます。
【水平分業の例】
なぜGDPは重要なのか?
GDPは「国内総生産」、つまりその国の生産力を表す値の1つです。これまで見てきたように、
- 名目GDP(物価の動きの影響を受けたGDP)
- 実質GDP(物価の影響を差し引いたGDP)
があり、経済への物価の影響や成長の度合いがわかるだけでなく、これらを1人当たりの値にすることで、その国の所得(収入・給料)の水準を知ることができます。GDPと「幸福度」や「豊かさ」は必ずしも正比例の関係ではありませんが、その国の経済力を表していることは確かです。
必要なもの、欲しいものを買うためには経済力が必要です。その点では、豊かさを構成する要素の1つと考えることはできます。
GDPが幸福度や豊かさを直接表すわけではないのは、GDPは新たに生産された付加価値の量を表すに過ぎず、その内容を問わないからです。例えば、重度の環境汚染を引き起こす産業が成長していて、その環境汚染対策に多大な労働力が投入されているとします。
その上、そこで生産されているものが銃や核兵器、麻薬のようなものだったらどうでしょうか。そうして生産されたものを、公平とは程遠い売り方で供給してGDPが成長したとして、その国は本当に幸福で豊かと言えるでしょうか?
【日本のGDPの推移】
上のグラフは日本の第二次世界大戦後のGDPの推移です。戦後目覚ましい成長を遂げた日本経済ですが、大量生産・大量消費・大量廃棄の経済によって例えば、
- 大量の温室効果ガス・汚染水の排出
- 不法投棄による土壌汚染
- 化学合成肥料・化学合成農薬の大量使用による土壌劣化
- 都市開発による自然環境の破壊
- 地球資源の過剰な搾取
など、さまざまな問題を引き起こしました。結果、現在の「このままでは生き物のほとんどが住み続けられない地球になってしまう」という深刻な現状があります。
ただ、これは日本だけでなく世界的にそのような風潮でした。そのころは環境や生物などの科学的知見は政治経済と切り離して考えるのが一般的で、とにかく大きな利益を短期間で上げることを多くの国や企業が追求していたのです。
現在では、さまざまな知識・技術が進歩したことと、多くの深刻な社会問題が明らかになったこともあり、世界の風潮は「第4次産業革命」※と呼ばれる大きな変革の時期にあります。低迷が続く日本のGDPですが、この原因もさまざまです。
次の章では世界のGDPランキングを確認しましょう。その後、日本のGDPにさらに迫ります。*4)
世界のGDPランキング
世界の経済は2020年の新型コロナウイルスの影響を受けたマイナス成長から、徐々に回復傾向にあります。2020年には新型コロナウイルス感染拡大の影響で、
- 個人消費
- 輸出
- 企業の設備投資
などが大きく減少しました。感染拡大のための対応で当然のGDPの落ち込みですが、世界は新型コロナウイルス感染拡大からの復興とパリ協定※やSDGs※の目標達成のための取り組みを同時に進めなくてはなりません。
【2019年を100とした先進諸国の実質GDP】
上のグラフの「Q」はquarter(四半期)※のイニシャルで、例えば「Q1」は「第1四半期」を意味します。2020年の第2四半期でどの国も大きくGDPが落ち込み、その後回復傾向にある中、日本のGDPは2020年第4四半期を過ぎても伸び悩んでいることがわかります。
それでは、このような世界の情勢をふまえながら、世界の名目GDPと、1人当たりの名目GNIのランキングを見てみましょう。
日本は2022年も世界3位のGDPです。しかし、4位のドイツとの差が急速に縮まってきていますし、2023年には中国を超え人口世界最多国となることが予想されている5位のインドが目覚ましい成長を遂げているので、日本の「世界3位」の位置はいずれ他国にとって変わられるのではないかと予想されています。
このランキングを「1人あたりの名目GNI(1人当たりの所得)」、つまり国民の平均的な稼ぎと比較すると、その順位は大きく変わることがわかります。1人あたりの名目GNIでは、日本は23位です。
日本では所得格差※も社会問題になっていますから、ここからもGDPが幸福度や豊かさを直接表すわけではないことがわかります。
【2021年の名目GDPと一人当たりGNIの順位】
もちろん所得の多さも幸福度をそのまま表すものではありませんが、豊かさや心の余裕には大きく影響すると考えられます。また、世界が気候変動への対策として温室効果ガスの削減に取り組む中、日本は他国に比べてこれまで温室効果ガスの排出量の多い化石燃料に大きな割合で依存してきたことから、その対策にも大きな努力が必要です。
このように、さまざまな面で日本経済は困難に立ち向かう時期と言えます。将来の日本が持続可能でより良い社会に成長できるように、私たちひとりひとりもできることから取り組むことが大切です。
次の章では日本のGDPについて考えます。現在の日本経済はどのような状況なのでしょうか?*5)
日本のGDP
- GDP=経済の大きさ
ということをふまえて、日本のGDPの推移をグラフで追いましょう。GDPの動きから、
- その国の経済の状態
- 経済に影響を与えるような特別な出来事が起こったとき
などがわかります。
下の左グラフを見ると、2箇所の大きな落ち込みがあることがわかります。この2つは、
- 2009年→2008年9月のリーマンショック※
- 2020年→コロナウイルス感染拡大
の影響です。右グラフは2020年第1四半期から2021年第4四半期の実質GDP成長率の内容です。0より下はマイナス成長の項目となります。
【日本の実質GDPと実質GDP成長率の推移】
次は内閣府が2023年2月に発表したGDPの速報値を見てみましょう。日本のGDPの推移は2022年12月の段階では名目GDP・実質GDPともにプラス成長で、新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ経済が、ゆっくりと回復に進んでいることがわかります。
【日本のGDP成長率(2023年2月発表)】
現在の日本では、
- 産業の供給力に対しての消費者の需要が弱い(物が売れる勢いが弱い)
- 海外からの輸入価格が上昇(海外製のものや材料の値段が高くなっている)
- 為替レートの円安(海外の通貨に比べて日本円の価値が低い)
などの影響により、景気※が良くなって物価が上がる、という状況が起きにくくなっています。2と3は物価の上がる要因になりますが、金融政策などによって日本の物価は比較的安定している状態です。
【日本の労働生産性と平均実質年収の推移】
上の左グラフの「労働生産性」は労働時間当たりのGDP、つまり先ほど「なぜGDPは変化するの?」の章の「経済の効率性と生産性」で説明した「効率性」です。実質GDPを総労働時間で割った値です。
右グラフの「平均実質年収」は実質GNI(その国の収入の合計)を働く人の数で割り、さらに働く人の平均労働時間の変化にともなう影響を差し引いたものです。どちらのグラフも1991年を100とした場合の成長で表されています。例えば平均実質年収(右グラフ)を見ると、アメリカは48%増加しているのに対し、日本の増加は3%にとどまっています。
これからの課題
これまで見てきたように、日本の経済成長は停滞していると言える状況で、今後の世界のGDPに占める日本のGDPの割合はどんどん低下すると予想されています。日本は深刻な少子高齢という問題を抱えており、国内の市場を拡大するのは難しい上に、日本企業の国際的な競争力は低下傾向にあります。
また、日本国内の消費が伸び悩んでいるのは、物価の上昇率よりGNIの成長率が下回っており、1人あたりの実質GNI(1人あたりの実質所得)が減少傾向にあるのも大きな原因です。給料が増えなければ消費活動は活性化しない上に、「働きがい」も感じにくくなってしまいます。
もちろん日本政府の低所得者への支援策なども必要ですが、経済は国や企業だけでなく、私たちひとりひとりが支えているものです。この世界的な変革の中、日本経済にとって苦しい局面であることを理解して、将来の地球環境や日本をはじめ世界の経済にとって、良い貢献となる選択・行動を心がけましょう。
例えば、買い物をするときはできる範囲で国産のものを選んで購入したり、環境に配慮した商品やサービスを選択するといった消費活動や、働いている人なら日本人が得意とする良質の仕事に、「効率性」も同時に追求するなど、前向きな意識の改革は個人でもできる取り組みです。
次の章ではGDPとSDGsの関係を考えてみましょう。*6)
GDPとSDGsの関係
日本ではSDGsの知識はもはや社会人の常識というだけでなく、中学生1年生でもすぐに「持続可能な開発目標」と答えられるほどに浸透しています。しかし、飢餓や貧困、エネルギー問題、温室効果ガス、生物多様性の目標に関心がある人が多いのに対し、経済成長や産業・技術革新に関心があるという人が少ないように感じます。
SDGsの目標を達成するためには、相応の資金が必要です。どれも地球規模の取り組みですから、その必要資金は多くの場合、莫大な額になります。
この資金を生み出すのは経済・産業・技術革新の分野です。日本人にとって、GDPの成長率にも触れている※SDGs目標8「働きがいも経済成長も」は、「仕事をしながら現実的に目標達成に向かって行動できる」ようなターゲットの多い目標のうちの1つです。
SDGsの目標やターゲットは、それぞれの国・地域・企業・団体・個人などで取り組み方は違いますが、目指しているものは同じです。例えば現在日本が直面している少子高齢化の社会問題に効果的な解決策が実証できれば、その手段や経験はこれから少子高齢化の問題を抱える国で役に立ちます。
SDGsの目標は全てが複雑に関係しあっていて、1つの目標達成への前進が他の目標達成の力になることもあります。このため、私たちは1人の日本に住む人・地球に住む人として、SDGs目標全体の知識を深めるとともに、自分でもできることを見つけて無理のない範囲で取り組むことが大切です。*7)
まとめ:GDPを知ることもSDGsへの貢献につながる
SDGsの目標全体を見渡すと、
- 経済
- 社会
- 環境
の3つの分野に大きく分けることができます。GDPはこの中の経済に深く関わる値です。
この3つの分野のどれにも損失を出さない人間社会の仕組みに、世界は生まれ変わろうと必死に努力しています。SDGsは世界の人々が同じ価値観を持って取り組むための共通の目標です。
大きな問題の解決ほど、多くの人の力が必要ですが、価値観があまりにも違っては多くの人の力が同じ方向に働くことが難しくなります。SDGsの知識は、あなたの生活の中に「気づき」を生み「目指すべき方向」を示すガイドブックのようなものとも言えます。
GDPについては、社会人なら「なんとなくは知っている」ものですが、GDPについて詳しく知ることで、経済に関連する状況やSDGsとのつながりをよりはっきりと理解することができます。資源のリサイクルや温室効果ガス削減の努力とはまた別に、「GDP=国内総生産」を支える1人として、「働き方」や「仕事の質と効率」などについても考えてみましょう。
100歳まで生きる時代が来たと言われていますが、私たちが100歳になる頃はどのような世界になっているのでしょうか?世界の人々の間で「良い選択」が多く重ねられ、持続可能なより良い社会が実現するための選択権はあなたの手にもあるのです!
〈参考・引用文献〉
*1)GDPとは?小中学生にもわかりやすく
国民生活センター『経済規模ってどういうもの?』(2022年5月)
金融庁『私たちの生活と金融の働き』p.3
*2)GDPの種類(名目GDPと実質GDP)
内閣府『GDPとGNI(GNP)の違いについて』
国民生活センター『経済規模ってどういうもの?』p.22(2022年5月)
GLOBAL NOTE『世界の名目GNI(国民総所得) 国別ランキング・推移』(2023年1月)
GLOBAL NOTE『世界の実質GDP 国別ランキング・推移』(2023年1月)
外務省『世界いろいろ雑学ランキング 国民総所得(GNI)の高い国』内閣府『用語の解説』p.11,p.12
内閣府『93SNA移行による 主な変更内容 (6)国民概念の測度を国民総生産(GNP)から 国民総所得(GNI)へと変更する。』
*3)なぜGDPは変化するの?
総務省統計局『世界の統計2023 第1章 地理・気象 2-1 世界人口の推移(1950~2050年)』
内閣府『第3章 人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題 第2節 経済をめぐる現状と課題』
総務省『我が国における総人口の長期的推移』
少子高齢化とは?日本の現状と原因・問題点・解決策、若者ができることを徹底解説
総務省『デジタルで支える暮らしと経済』金融庁『資本効率/経営資源の配分等』(2022年1月)
日本証券業協会『生産性と効率性はどこが違うのか』
内閣府『構造調整の現状と経済活性化の課題 』
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは?企業が取り組むSX事例の紹介も
日本銀行『日本銀行の概要』日本銀行『日本銀行はどのような業務を行っていますか?』
金融庁『私たちの生活と金融の働き』p.11
日本銀行『経済・物価情勢の展望』(2022年10月)
野村證券『金利と為替』
*4)GDPがわかると何に役立つ?なぜ重要?
経済産業省『事務局説明資料』p.5,p.11(2022年11月)
経済産業省『産業技術ビジョンの検討状況』p.36(2021年1月)
日本経済新聞『水平分業とは 垂直統合に比べ投資負担・リスク軽減』(2021年2月)
経済産業省『第3節 日本のグローバリゼーションの歴史』(2020年6月)
日経ビジネス『GDPとは? 定番の経済指標が示すこととその限界』(2021年8月)
日経ビジネス『GDPが人を不幸にする理由 幸福な世界をつくる方法』(2020年12月)
*5)世界のGDPランキング
パリ協定(COP21)とは?目標やSDGsとの違い、企業の取り組みを解説
SDGsとは|1〜17の目標一覧と意味や達成状況、世界・日本の取り組み事例を紹介
内閣府『第1章 景気の持ち直しとウクライナ情勢等による物価上昇(第1節)第1節 世界経済の動向』
外務省 経済局『主要経済指標』p.3(2023年3月)
日本経済新聞『インド人口、23年に中国抜き最多 世界は11月に80億人』(2022年7月)
日本経済新聞『日本の名目GDP、ドイツが肉薄 世界3位危うく』(2023年2月)
*6)日本のGDP
中小企業庁『2022年版中小企業白書 第1節 我が国経済の現状』
国民生活センター『日本の物価は安い?』(2022年3月)
内閣府『2022年10~12月期四半期別GDP速報 (1次速報値)』(2023年2月)
日本経済新聞『日本のGDP年率0.6%増 10〜12月、2四半期ぶりプラス』(2023年2月)
経済産業省『「経済産業政策の新機軸」の進捗状況と 今後の進め方について』p.20(2022年11月)
内閣府『第3章 人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題 第2節 経済をめぐる現状と課題』
内閣府『令和4年度 日本経済2022-2023 – 物価上昇下の本格的な成長に向けて -』(2023年2月)
*7)GDPとSDGsの関係
経済産業省『通商白書2022 第Ⅰ部 第3章 世界経済の長期的展望 第2節 グローバルで加速するトレンド』
外務省『SDGsとは?』
農林水産省『SDGsの目標とターゲット』
SDGs8「働きがいも経済成長も」現状と日本企業の取り組み事例、私たちにできること
オードリー・タン『まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう