高谷 弘志
東京都あきる野市出身。大学卒業後、ICSカレッジオブアーツで建築と家具を学ぶ。その後2006年にバリ島に移住。現地で廃材を探しながら家具デザインをスタートさせ、2008年「gleam」を開業。2014年に麻布十番に実店舗を構え、オーダメイド家具やオフィス・飲食店の什器を制作。現在では企業からの廃材活用の相談やプロダクト開発にも携わり、総合的な廃材利用の活動を進める。
introduction
「旅する家具」がコンセプトの家具ブランドgleam。gleamでは、廃材を使った家具を多数展開しています。不用なものとして捨てられる廃材は、実は新しい木では感じることのできない味わい深い表情を見せるのだそう。今回はgleamの代表である高谷さんに、廃材の魅力やgleamの取り組みについてお話を伺いました。
廃材家具を通して家具業界に光を差し込みたい
–今日はよろしくお願いします!はじめにgleamについて教えてください。
高谷さん:
2008年に立ち上げた廃材家具ブランドです。gleamは、英語で木漏れ日や差し込む光という意味があります。廃材家具は家具業界では一般的ではないとされていますが、少しでも光を差し込めればいいなという思いを込めて、このブランド名にしました。
–では、gleam立ち上げのきっかけについてお聞かせください。
高谷さん:
もともと私はインドネシアのバリ島に3年ほど在住していて、新しい木を使って家具を制作していました。その時、インドネシアの森林が減っているという情報を聞き、新しい木を切って家具を作ることに疑問を抱き始めたんです。
減少している森林を守るためには何ができるか考えていたところ、バリ島には線路の枕木、船の廃材、捨てられたバイクのナンバープレートなどの廃材がたくさんあるので、それを活用するのはどうだろうと。
※環境省によると、インドネシアでは2020年の森林減少面積はたったの一年で75%減ったと報告されています。
–そこから廃材を使った家具や雑貨の制作がスタートしたんですね。では、gleamの家具について教えていただけますか?
高谷さん:
gleamではオーダーメイドの商品と、既存の定番商品を制作、販売しています。弊社の家具は、全てインドネシアの職人さんの手により丁寧に作られています。
–商品一覧を拝見しましたら、廃材から作ったとは思えないほどオシャレですよね。特に色味が趣深い印象を受けました。
高谷さん:
廃材だからこそ出る味わいだと思います。線路の枕木や古い船の木を使っているので、経年劣化により表面が剥がれていたり、色もまだらだったりします。この素材に職人によるハンドメイドの温かさが加わることで、より味わい深い家具となっております。
–確かに温かさを感じます。デザインへのこだわりはありますか?
高谷さん:
なるべく木の素材感や見た目の美しさを活かしたいと考えているので、シンプルなデザインにしています。例えば、テーブルであれば鉄足のストンとしたデザインにしたり、雑貨であればドラム缶やナンバープレートの素材感が伝わるようなデザインにしたりなど、あえて凝ったものは作らないようにしています。
–とはいえ、同じものが1つもないのが楽しいですね。
高谷さん:
そうですね。一つ一つの見た目が異なるので、出会いのように感じられるのが魅力だなと。
同じ種類のテーブルであっても、箇所によってホワイトが入っていたり入っていなかったりするので、スタッフ同士で「私はこれが好き」とか「すごいのが来た」と言って楽しんでいます。もちろんお客様にもその中から気に入ったものをお求めいただいております。
–ちなみに廃材ということで、耐久性も気になるところですがいかがでしょう?
高谷さん:
私たちが家具に採用している素材の多くは、もともと船や家などに使われていたものです。長く使われることを想定した素材であるため、耐久性にも優れています。堅牢で木目も美しく、家具として使うのには申し分がないんです。
一つ一つ違う顔をもつ廃材
–これらの廃材はどのように仕入れているのでしょうか?
高谷さん:
主にカリマンタン島とジャワ島で廃材のある場所の情報を収集し、選別作業を行っています。選別した廃材はボロボロだったり半分朽ちているものばかりであるため、使えない部分を取り除き、見た目がきれいなものを残すなど、通常新しい木で作る家具に対しては行わない工程が加わります。
–すべて現地の方々が作業しているのでしょうか?
高谷さん:
以前は私たちも一緒に行っていましたが、コロナ禍でインドネシアへ行けないので、現地のスタッフにこの作業をお願いしています。そして選別が終わったら、こちらが渡したデザインに沿って制作してもらっています。
廃材に対するマイナスのイメージを払拭する
–家具についてわかったところで、ユーザーの反応などについて教えてください。2008年のブランド立ち上げ当初は、廃材家具に対するイメージはどういったものだったのでしょうか?
高谷さん:
予想していた反応ではありませんでしたね。個人的には廃材の素材感が素敵だと思っていたので、うまくいくだろうと思っていたのですが、現実はそうはいかず。
廃材に対して汚い、ボロいなど、マイナスの印象をもつ方が多かった。それでも諦めずに事業を続け、2011年ごろからようやく認知されるようになりました。
–ブランドが広まるまでに3年かかったのですね。
高谷さん:
そうですね。始めは少しでも多くの人に廃材家具について知ってもらうため、東京デザイナーズウィークやroomsといったイベントにgleamの家具を出展しました。この出展がきっかけで、青山にあるワタリウム美術館からお声がけいただき、展示会をやらせていただくことになりました。
その頃から少しずつお客様が増えていき、飲食店などからも関心を示していただけるようになって。その流れで2014年には麻布に実店舗もオープンしています。
問題意識から問いを生む
–どのような方が購入されるのでしょうか?
高谷さん:
30〜40代の方が多く、新しい家に置くための家具や、リモートワーク用の机、テーブルなどをご購入いただいています。また、最近では企業さんから一人用のデスクがほしい、オフィスの引っ越しで新しい家具がほしい、今使っているものをリメイクしたいなどの相談をよく受けます。
–リメイクの相談もあるんですね。
高谷さん:
はい。例えばオフィスを引越しする際、これまでは何十台もの椅子やテーブルを捨てることが多かったらしいんです。それが今はリメイクして引っ越し先でも使いたいと。他にも鉄道会社であれば、使えなくなった車両や信号機を何かに変えられないかなどの相談に対してアドバイスすることもありました。
–今まで使っていたものをもう一度使いたいと思っても、どうしたらいいのかわからない人は多いと思います。ちなみにどのようなアドバイスをされるのでしょうか?
高谷さん:
それぞれの物に合わせて、制作面やデザイン面でアドバイスしています。
以前受けた、運動会で白線を引くために使われるライン引きを、別の何かに活用したいという相談を例に挙げますね。
その方は、容器に土を入れて観葉植物入れに使いたいとおっしゃっていたのですが、ライン引きをそのまま使うとデザイン性があまりよくない。そこで一回解体したり、車輪や蓋の部分だけ使うなど、さまざまな使い道があることをお伝えしました。
–ここまでお話を聞いてきて、「今あるものを大切にしよう」とか、「環境に配慮した製品を選ぼう」と言った方々が増えているように感じます。
高谷さん:
サステナブルやエシカルといった言葉が注目されるようになったここ1〜2年は特に増えていると感じますね。この流れを大事にし、我々の廃材家具にさらに興味を持っていただけるよう取り組んでいきたいです。その結果、森林減少、ひいては地球全体の環境問題の解消につながれば嬉しいですね。
今後の展望
–最後に、今後の展望を聞かせてください。
高谷さん:
今は主にインドネシアの材を扱っているのですが、将来的には日本にある使われなくなった建材や家具も使いたいと思っています。あとは、役目を終えたものでも使えるものはあると思うので、そういった意識が広まるよう、何か発信できることはないかと模索中です。
–本日は、ありがとうございました。