川口 信弘
1965年佐賀県生まれ
昭和5年創業の屋根の設計施工会社、株式会社川口スチール工業3代目として社長に就任。
その後、会社を発展させて軽量の太陽光パネルを設計し特殊架台の特許を取得。国内の再生可能エネルギーの普及とアフリカ等の発展途上国の地方の電化を進めている。この活動を飛躍させるために一般社団法人GOOD ON ROOFSを設立し専務理事を務める。またこのビジネスモデルが高く評価され2019「九州未来アワード」2020「Forbes JAPAN SMALL GIANTS AWARD」でグランプリを受賞。佐賀から世界を変えていく企業として脚光を浴びている。
introduction
株式会社川口スチロール工業の代表取締役を務める川口信弘さん。3代目取締役として下請け企業からの脱却を目指し、屋根への負担が少ない軽量太陽光パネルを独自開発。
視察で訪れたミャンマーやアフリカで衝撃を受け、現地の電力供給を支援する方法を模索。2019年に一般社団法人GOOD ON ROOFSを設立しました。
今回、一般社団法人GOOD ON ROOFSの専務理事である川口信弘さんに、取り組み内容や太陽光パネルがもたらした効果についてお話を伺いました。
日本とアフリカに再生可能エネルギーを
–本日はよろしくお願いします。まずは、一般社団法人GOOD ON ROOFSについて教えてください。
川口さん:
私たちは、日本国内での再生可能エネルギーの普及と、アフリカなど途上国の電化率向上に貢献することを目的とした一般社団法人です。
現在は、日本企業の屋根に太陽光パネルを設置し、私たちからお支払いする屋根の場所代(賃料)の一部を寄付してもらう形で途上国の支援事業を行っています。
法人のアイディアに関心を持った多くの方が協力してくださり、設立から2年後の2021年には国連開発計画(UNDP)と提携できるまでに成長しました。
–寄付されたお金はどのように使っているのですか。
川口さん:
いただいた寄付で太陽光パネルを購入して、アフリカなど途上国の学校の屋根に設置するのがメインです。他にもバッテリーやランタンを寄付して、人々が灯りのある生活を送れるように支援しています。
–再生可能エネルギーを、日本だけでなく途上国にも広げているのですね。
最初の関門は、下請け企業からの脱却
–一般社団法人を立ち上げる前から、太陽光パネルには関わっていたのですか。
川口さん:
いいえ、実は違うんです。私は1930年に設立された会社の三代目で、建築会社の下請けとして屋根の設置工事を行っていました。他の下請け企業との競争が激しいため、なんとかしてこの状況から脱却しようと独自技術の開発を始めました。
–もともとは屋根のプロだったのですね。
川口さん:
そうですね。動き始めた頃はちょうど世界中が環境問題に取り組んでいた時期で、太陽光パネルにも注目が集まっていました。その中で、通常の太陽光パネルでは重すぎて、企業や工場、物流施設などの屋根には設置できないことを耳にしたのです。
私たちが持つ大型屋根に関するノウハウを活かせるのではと思い、早速研究を始めました。約10年かかりましたが、軽量で耐風圧のある太陽光パネルの開発に成功したので、建設会社の下請けから脱却して社会に貢献する方向に舵を切りました。
–独自技術の獲得が追い風になって、社会貢献にも取り組めるようになったのですね。
持病の痛みが吹っ飛ぶほど衝撃を受けた途上国の現状
–社会貢献として、アフリカなどへの電力支援を選んだのはなぜですか。
川口さん:
太陽光パネルの開発を進めているときに、NGO(非営利組織)の紹介でアフリカを視察する機会がありました。ウガンダの国際空港から車で4時間の街を訪問したのですが、当時抱えていた頸椎の持病から来る痛みを忘れてしまうほど衝撃的でした。
–それはすごいですね。どんな状況だったのですか。
川口さん:
赤土の上にひしめくように立ち並んだ露店で、激しいクラクションのなか、ものすごい熱気で。人々の服装や持ち物は日本よりも数十年遅れている印象だったので、まるでタイムスリップをしたようでした。
翌日訪れた電気のない村では、煙がもくもくと出たケロシン(灯油)のランプを使って生活されているのです。その後、我々の訪問に対して、歓迎の舞が始まり長老が登場するなど、まさにテレビで見た世界が広がっていました。
私が持っていた太陽電池を見せると、確かに欲しいが買える資金がないと言われました。この視察をきっかけに、アフリカの人々のために何かできないかと、真剣に考えるようになりました。
–そうして生まれたのが太陽光パネルを使った取り組みなのですね。
学校が地域の充電ステーションに
–現在の取り組みについて、詳しく教えてください。
川口さん:
現地のニーズに応じて、大きく分けて2種類の取り組みがあります。1つ目が、アフリカのベナン共和国などで行っている学校の電化です。企業から集めた寄付金で、太陽光パネルや電灯を購入してアフリカの学校に設置しています。
子ども達が明るい電気のもとで授業を受けられるのはもちろん、学校を充電ステーションとして機能させることで携帯電話を充電してもらったり、ランタンを配布して家庭の明かりとして活用してもらったりしています。
–学校で充電したランタンを家庭でも活用できるのですね。
川口さん:
企業側のメリットとしては、ネーミングライツ契約による知名度の向上と社会的責任(CSR)の達成、SDGsへの貢献などでしょうか。
日本でも大型ホールやプロ野球の球団名に企業の名前が入るように、学校の電化をすると、寄付した企業の名前が学校の名前になる仕組みです。
–アフリカに日本企業の名前が入った学校があるなんて、すごいですね!
川口さん:
もう一つの取り組みは、国連開発計画(UNDP)と協力したITセンターの電力強化です。
西アフリカのブルキナファソという国に、UNDPが設立したインターネットスキルを磨くためのITセンターがあります。多くの若者達がそのセンターで学んでいるのですが、よく停電が起きるのです。
UNDPと連携して私たちが太陽光パネルを設置することで、停電時でも授業を受けられる環境を作ろうとしています。
太陽光パネルがもたらすのは電気だけではない
–そうはいっても、遠く離れたアフリカでの支援は大変ではないですか。
川口さん:
そうですね。ここ最近は私がずっとアフリカにいるので、私がいなくても日本での事業が回るように人材育成に勤しんでいます。
そしてアフリカでも、人材育成は大きな課題です。トラブルがあったときに、その都度日本から人材を派遣するわけにはいきませんからね。
さらに言えば、たとえばベナンだと、離れた農村で日本人がコミュニケーションを取るのは不可能に近いです。
そのため、現地の人たちで事業を行えるように、現地で会社を設立して人材を採用し、太陽光パネルのメンテナンスなどを行っています。
–現地の雇用にもつながっているのですね。
川口さん:
そうですね。春からはランタンの組み立て工場を設立し、50人を雇用する予定です。ランタン事業のオペレーションが始まりますので、700人程の現地人を雇用します。最終的には2000人程の雇用が生まれることになりますね。
明かりがつくことで思わぬ効果も
–現地の方の反応はどうですか。
川口さん:
子どもたちの学びの質が、目に見えて上がりましたね。
学校の校庭に街頭を立てれば、暗くなった後に子ども達が街頭の明かりを頼りに勉強を始めます。ランタンを貸し出すと、みんな家でしっかり勉強できるようになり、1ヶ月後には授業中に活発に手を挙げる子が増えたそうです。
ベナンでは小学校から中学校へと進学する際に、進級試験があります。試験にパスしないと追試があるのですが、最初の試験の合格率が平均70〜80%から100%までアップしました。この結果には正直驚きましたね。
–質の高い学びにつながっていることが、よく伝わってきます。
川口さん:
他にも嬉しかったのが、治安の向上にも役立ったという声をいただいたときです。
–治安ですか?
川口さん:
もともと、いろいろな人から「アフリカでは街灯を設置すると盗まれる」と言われていたので、バッテリーを上に設置し対策をとりました。
ところが、ナイジェリアの村に設置した66本の街灯は今までに一本も盗まれていません。村人にとって街灯は、商売や生活に欠かせない存在なので、村人同士で盗まれないよう監視しているわけです。
難民キャンプでも、様々な国から届く物資をねらって泥棒が入るそうですが、明かりを設置することでセキュリティが強化されたようです。
–太陽光パネルの設置は、人々の暮らしのいろいろな面で効果を発揮するのですね。
アフリカ中の小学校に明かりを灯すのが夢
–最後に、今後の展望を教えてください。
川口さん:
今後も、アフリカの子ども達の教育支援に邁進していきます。一つのゴールとして、ベナンに住む20万人の子ども達に40万個のランタンを提供することを掲げています。さらに、ベナンと同様の学校の電化をガーナでも展開予定です。
ゆくゆくは、アフリカ中の小学校に太陽光パネルを設置して、安定した明かりを届けたいですね。
–ベナンだけでなく別の途上国でも、再現可能な事業であることを実証していくのですね。
川口さん:
そうですね。ケニア共和国の首都ナイロビでは、積水化学工業・伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社と3社で協力し、新しい太陽光電池のプロジェクトが動く予定です。
加えてブルンジという小さな国では、日本のODA(政府開発援助)による食料援助の資金を活用して、街中に街灯を設置しようとしています。
–地域のニーズや状況に応じて、臨機応変な支援を行っていくのですね。本日は、貴重なお話をありがとうございました!