#インタビュー

株式会社大川印刷|ソーシャルプリンティングカンパニーとして実現したい社会とは

株式会社大川印刷 大川さん インタビュー

大川 哲郎(おおかわ てつお)

1881年創業「風と太陽で印刷する」大川印刷の六代目。本業を通じて社会課題解決を行う「ソーシャルプリンティングカンパニー®︎」をパーパスに掲げ、数々の社会課題解決プロジェクトを立ち上げる。再エネ100%、印刷物のCO2排出に関してサプライチェーン排出量を全てゼロ化する「CO2ゼロ印刷」を展開する他、難民申請者の雇用実績もある。2018年第2回ジャパンSDGsアワード受賞。その他の役職として神奈川県ユニセフ協会評議員、ソーシャルビジネスネットワーク理事など多数。

Introduction

神奈川県横浜市で141年続く株式会社大川印刷では、クオリティの高い印刷物をつくることはもちろん、社会的課題を解決できるソーシャルプリンティングカンパニーⓇとして、持続可能な社会の実現を目指しています。環境への配慮を第一に掲げることになった経緯や社会課題解決への具体的な取り組みについて、代表取締役社長である大川哲郎さんに伺いました。

再生可能エネルギー100%。風と太陽で刷る「環境印刷」

–はじめに、事業内容をお聞かせください。

大川さん:

大川印刷は「風と太陽で刷る印刷」をコンセプトとする1881年創業の会社です。本業である印刷を通じた社会課題解決を実践したいという思いから、「ソーシャルプリンティングカンパニーⓇ(社会的印刷会社)」として持続可能な社会の実現をめざして活動しています。

–「風と太陽で刷る印刷」とはどういうことでしょうか。

大川さん:

2019年から、使用する電力を風力と太陽光でまかない、再生可能エネルギー100%の工場で運営しています。印刷時に使う電力のおよそ20%は工場屋上の太陽光パネルで自家発電、残りのおよそ80%は青森県横浜町の風力発電所の電気を使用し、100%再生可能エネルギーを使っています。

営業活動や印刷物の納品等に使う自社所有の車両からの温室効果ガス等も算出しカーボンオフセットし、CO2削減に注力しています。

–環境への負荷を減らすことに注力されているのがよく伝わってきます。

大川さん:

電力だけでなく、印刷に使用するインキや用紙も環境に配慮して選び、提案しています。我々は、これらの取り組みを「環境印刷」と呼んでいます。

環境印刷

–環境問題を始めとする社会課題に取り組むことになったのはどのような経緯なのですか?

大川さん:

やりたいことと、仕事を一致させてきた結果が今に繋がっています。

私は大学を卒業し、別の印刷会社で3年経験を積んでから会社を継ぎました。神奈川県横浜市生まれで、幼いころから動植物など自然に慣れ親しんで育ったのに、自分の会社では大量の紙とインキを使い、インキの空き缶も山積みでした。それを見て非常に違和感を抱き、環境経営にシフトしたのです。仕事を通じて、環境問題を含む社会課題の解決をしたいと考えています。

社員一人一人の課題を知ることから始める社会課題解決

–環境問題のほかには、どのような社会課題に取り組んでいらっしゃるのですか?

大川さん:

社員の皆がそれぞれ感じている課題や願いを共有して、それを解決できるようにいくつかのチームでプロジェクトを進めています。

例えば働き方の改善を目指すプロジェクトチームでは、ライフステージの違う20代から60代の社員一人一人が自分らしく働けるようにと動いています。孫と遊ぶための「孫休」、ゴルフをするための「ゴルフ休」など、休みの名前を工夫し社内でオープンにするのは、休みを取りやすい会社にするための取り組みの一つですね。社員がボトムアップで進めています。

–社員さんたちが自主的に課題解決を図っているのは理想的です。しくみづくりに工夫があるのでしょうか。

大川さん:

毎年120分×4日間の話し合いの場を設けて、心から湧き上がる課題を共有しあっているのは他の会社との違いかもしれません。会社は老若男女が集まる社会の縮図で、年代や状況によって抱えている課題は本当に多様ですから。まずは知ることが大切です。

とはいえ、以前はトップダウンが当たり前で、経営者としてジレンマを感じていました。社員からやりたいことが上がってくるしくみが必要だと考えた結果が今の形です。

社会課題解決

–SDGsの「誰一人取り残さない」という原則にも通じますね。

大川さん:

「誰一人取り残さない」ということは実はそんなに容易いものではありません。しかし、心からの思いやりと助け合いで少しでも実現させようと努力することが必要と考えています。社員同士も相手を気遣って、立場を考えることから始めます。その中で、各自が仕事に誇りと責任がもてる会社を主体的につくりたいですね。

–互いを知ることが、よい働き方にもつながるのですね。

大川さん:

そう思います。難民認定申請をしている方が働いていたことがあったのですが、やはりその方の国で何が起こっているのか知ることから始めました。知ることによって自分たちの安全や幸せを改めて実感できますし、他者への感謝の気持ちも生まれます。今後は中小企業でも外国人の従業員が増えるでしょうから、より多様な方と働ける職場にしていきたいですね。

–素敵です。こういった取り組みに対するお客様の反応はいかがですか。

大川さん:

「環境印刷」に関心があるお客様は増えている印象で、コロナ禍であっても毎日お問合せをいただいています。以前からお付き合いのある食品関係・医薬品関係の方に加えて、現在は売上全体の1割ほどがSDGsやESGに関心のあるお客様です。社会全体が変化の真っ最中だと感じます。

–社会全体の環境問題への関心が高まっているので、先進的に取り組んでいらっしゃる大川印刷さんに依頼したい方も増えているのでしょうね。

大川さん:

ますます取り組みを深化させたいですね。私達は2021年2月に、中小企業の印刷会社として初のSBT(Science Based Targets)の認定を受けました。温室効果ガス排出を削減することによって、環境を守ることに貢献したい思いです。

私達の元に材料がくる前の木を切る際も、お客様の元で印刷物を使って廃棄・リサイクルするまでにも二酸化炭素は発生します。すべての過程で二酸化炭素削減が求められているので、大川印刷は印刷に関わる全過程でカーボンニュートラルへの取り組みをサポートできるようにしています。

大川印刷
SBTとは

パリ協定が求める水準(世界の平均気温上昇を、産業革命前より2℃を十分に下回る水準に保ち、また1.5℃に抑えることを目指す)と整合した、5年~15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のこと

(参考:環境省ホームページ

印刷会社だからこそ、社会をつなぐハブになれる

–今後の展望をお聞かせください。

大川さん:

デジタル化・ペーパーレス化が進んでいる中なので、印刷は斜陽産業と思う方もいるかもしれません。しかし、同時にアナログでエモーショナルな商品の人気も高まっているんです。手に取って触れられる、風合いを楽しめるアナログだからこその楽しみをつくっていきたいです。

大川印刷1

また、持続可能な社会の形成ができるよう、印刷を通して社会に貢献していきます。

今後紙だけに固執するつもりはないのですが、長い歴史の中ですべての業種・業界に入り込んできた印刷会社だからこそできることがあるはずです。幅広いネットワークを通じて、私達がハブとなって社会課題解決をしていきたいです。

–確かに、どの業種でも紙や印刷物は必要です。社会のすべてに関わる立場なのですね。

大川さん:

合わせて、「ことづくり」にも力を入れたいです。印刷会社はものづくり産業ですが、ものづくりの前に「ことづくり」が必要ですから。2022年3月、横浜駅東口に社会課題解決型スタジオ「with GREEN PRINTING」をリニューアルオープン予定です。

大川印刷2

コロナ禍でテレワーク主体となった社員の憩いの場である共に、社会課題解決に関する情報の受発信ができ、イベントもできる。そして人と人、企業や団体が繋がれる場にしていきます。

–印刷から社会全体へ。課題解決のための場づくりも進めていくのですね。今後の取り組みにも注目しております。本日はありがとうございました。

インタビュー動画

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