株式会社Hanavie 代表 松野ゆかりさん インタビュー
松野ゆかり
2022年7月株式会社Hanavie設立 9月11日に文京区白山に生花店をオープン。 店舗やオンラインでの生花販売の他に規格外の花を取り扱う事業を行う。また、破棄される茎や葉を再生プラスチックやコンクリートに活用する新たなビジネスを視野に、持続可能な開発目標(SDGs)に取り組む。
introduction
コロナ禍以降、フラワーロスやロスフラワーという言葉をよく聞くようになり、花業界の現状に関心を持っている方も多いと思います。
廃棄されてしまう規格外の花を「プラスフラワー」と名づけ、花屋以外の店舗でも扱っているのが株式会社Hanavieです。
今回は、代表の松野ゆかりさんに、花の規格についてや、「プラスフラワー」の事業についてお話をおうかがいしました。
気軽に花を日常にプラス 規格外の花「プラスフラワー」で
–最初に、株式会社Hanavie様のご紹介をお願いいたします。
松野さん:
株式会社Hanavieは、東京都文京区白山に店舗を構える生花販売店です。
生花の花束やアレンジメント、観葉植物や胡蝶欄など、植物全般を取り扱っています。
また、販売ルートには乗らないような規格外の花を生産者から買い取り、「プラスフラワー」と名付けてイベントで使ったり販売したりする取り組みをしています。
–廃棄される花をロスフラワーなどと呼びますが、松野さんはなぜ「プラスフラワー」と名付けたのでしょうか。
松野さん:
花を飾ると気持ちが前向きになり、プラス思考になるということ。そして、皆さんに日常に花をプラスして楽しんでほしいという気持ちから「プラスフラワー」と名づけました。これは私の体験から名づけた名前でもあります。
私は、以前は花とは全く関係ない仕事に長く就いていました。
営業職をしていたのですが、仕事で大変なことがあり、気持ちが落ち込んだときに部屋に花を飾るようになりました。すると気持ちがとても癒されたんです。加えて、花を飾るとなると、部屋をきれいに片付けたくなり、生活が整いました。この時、花を飾るってすごくいいなと思いました。
欧米では、スーパーマーケットで食材を買うように、当たり前に花を買って楽しむ文化があります。でも、日本では日常的に花を飾る習慣があまりありませんよね。「冠婚葬祭や特別な日のためのもの」という意識が強いように思います。
そこで、もっと気軽に花を飾る日常を、日本中に広げる取り組みができないかと思いHanavieを立ち上げました。
–本日は主に「プラスフラワー」の取り組みについてお聞かせください。まず、「プラスフラワー」はどのような花なのでしょうか。
松野さん:
私たちが「プラスフラワー」と呼ぶ花は、規格外で市場への出荷が難しい花です。
花市場で取引される花は、花・茎・葉のバランスや花型花色などで「秀/優/良」と等級が決まっています。
茎の曲がりが強すぎるもの、太すぎたり短かすぎるもの、突然変異で色が変わってしまったものなどは、規格外となり出荷されない場合があります。
しかし花は生き物なので、こうした茎が曲がったものや色が混じってしまったもの、蕾の数が足りないものなども育ちます。
花市場に出荷しない花は、直接販売したり、肥料にするなど活用されていますが、廃棄されてしまうものもあります。
また、規格から大きく外れていなくても、少しの難点があると出荷しない選択をする生産者もいます。これは、自分たちがつくった花の評価を上げるためです。
花を仕入れる人は、同じ値段を出すのであれば、より品質の良い花を買いたいと思いますよね。
仕入れた花に品質の悪いものが混じっていたら、次からはその生産者や産地を避けるかもしれません。ですから、生産者の判断で出荷されない花もあります。
私たちは、様々な理由で市場に出回らない花を生産者から買い取ってプラスフラワーの事業に活用しています。
メリットがたくさん「プラスフラワー」事業
–では、プラスフラワーの取り組みではどんな事業をしているのかお聞かせください。
松野さん:
日常的に花を飾るきっかけを作ることがプラスフラワーの取り組みの大きな目的ですが、そもそも花屋は敷居が高くて入りづらいという声もよく耳にします。
そのために、皆さんのもっと身近なところに花を置き、買ってもらいやすくするために、「ハナスク」というスタイルで事業を展開しています。
「ハナスク」では、花の種類にかかわらず、1本200円3本500円という定額販売で、普段花に触れることのない方も、気軽に手に取れるようにしています。
また、カフェやレストランなどの飲食店、婦人服のお店、美容院、クリーニング店、ブックオフなどのリユースショップといった、花とは関係ない店舗で委託販売してもらっているのも特徴の一つです。
販売にかかる導入経費は無料で、花は弊社が配達し、残ってしまったものの回収も行います。販売してもらう店舗には売り上げに応じた手数料を支払います。
店舗側のメリットとしては、花が置いてあると店頭が明るく華やかになりますので、足を止めてくれる方が増えるようです。
また、今まで接点のなかった顧客が来てくれるようになることもあります。
花屋ではない場所に花があるので足を止め、販売されているプラスフラワーについて興味を持ってくれることが多いんです。それをきっかけに、その店舗に定期的に通ってくれるようになる顧客ができます。
加えて、廃棄されてしまう花を救いたいという思いを持ってくださるお店の方々も多いですね。
花を買う人にとっては、わざわざ花屋に行かなくても、いつも通る店先で気軽に花を買うことができます。
その後、花を飾ることが楽しくなり、花屋に足を運ぶようになる人もいると聞いています。
いつもプラスフラワーを買っているが、もっとお花について知りたくなったと言って、白山の店舗のレッスンに参加してくださったこともあります。花を飾る楽しみを知り、「家に花がないとさみしい感じがする」と言ってくれる方もいます。
私たちのハナスクの配達の時間を把握していて、店舗で待ち構えてくれている方もいて、嬉しいですね。
このように、「ハナスク」の事業ではフラワーロスへの貢献のほかに、「プラスフラワー」をきっかけに興味を持ってもらい、正規の花も買って飾るきっかけになっていると感じています。
–委託販売の「ハナスク」以外の取り組みもしているのでしょうか。
松野さん:
会社の福利厚生や、マンションのオーナーから居住者へのサービス等にも使われています。
プラスフラワーをまとめて買い取ってもらい、シェアオフィスの会員の方々にお持ち帰りいただいたり、マンションのエントランスで、1世帯何本までと決めて花を配ったりする取り組みです。
自由に花の組み合わせを選んでもらうスタイルも取り入れていて大好評です。
また、商品購入のノベルティとして活用してくれる会社もあります。
その他に、イベント会場、オフィス、店舗の装花などもプラスフラワーを一部使用して装飾することもあります。
2022年、2023年と続けて、国際展示場駅にある東京ファッションタウンビルでクリスマスの装飾を手掛けました。
このように、いろいろなところでプラスフラワーを活用しているのですが、どうしても残ってしまうことがあります。その場合は、弊社でドライフラワーに加工してブーケや装飾に使うことも多いんです。
特に夏場は、生花は取り入れるのが難しいこともありますので、このようなドライフラワーの活用の要望も増えてきました。
そしてもう一つ、神社の花手水(はなちょうず)の取り組みがあります。
現在は毎月一日に、文京区の小石川大神宮の手水舎を一部プラスフラワーを使って装飾しています。
花手水は、花の部分だけを手水鉢に浮かべて装飾するため、茎が曲がっていても、短くても差支えないので、プラスフラワーととても相性がいいんです。
参拝に訪れた方にも喜んでいただいているようなので、今後もプラスフラワーの花手水の取り組みを増やしていきたいですね。
花を余すことなく活用し生産者にも貢献したい!
–御社では他にSDGsの目標達成のために取り組んでいることはありますか。
松野さん:
花を廃棄することなく、循環活用したいと思い準備していることがあります。
花は、売れ残ってしまう以外に、どうしても廃棄せざるを得ない部分がでてきます。たとえば、花に水をきちんと吸わせるための水揚げの際や、ブーケを作ったりするときに、取り除く葉、切ってしまう茎などです。プラスフラワーとして規格外の花の需要が増えても、この部分の廃棄はなくなることはありません。それを活用できれば花を無駄なく使用できると思うんです。
そこで、廃棄される葉や茎を乾燥し、粉砕してプラスチックの材料に混ぜ、プラスチックペレットをつくる準備をしています。このプラスチックを使って花器や鉢を作るのに活用したいと思っています。
現在、植物の乾燥や粉砕をする機械を持っている会社と共同で進めている最中です。
–花を扱う仕事をされていて、難しいと感じることは何かありますか。
松野さん:
近年の夏の暑さの影響は大変ですね。
私たちだけでなく、生産者の方々はもっと感じていると思いますが、夏の暑さ、台風、急激な豪雨など異常気象が多い中で花を扱うのは大変です。
花の生育も、大きく時期がずれることもあり、出荷の調整が難しいことも多いですね。
あまりに暑くて店頭の花が持たないために、ハナスクは8月はお休みにしなければいけないほどです。やはり、夏は花の持ちが悪いと認識されている方が多く、手に取ってもらいづらいこともありますから。
また、燃料の高騰などで花の値段の変動が激しく利益を得るのが難しいために、後継者がいない生産者も多く、これから先、国内で花の生産が持続できるのかとても心配です。
プラスフラワーをきっかけに、正規の花を手に取って日常に飾ってもらい、需要を増やしていくことで、生産者の方々に少しでも貢献したいと考えています。
–では、最後に今後どのように事業展開していくのか、展望をお聞かせください。
松野さん:
プラスフラワーを手に取ってもらう機会や回数をもっと増やしたいと思います。
現在、ハナスクは、毎日都内のどこかの店舗で開催されていて、常に購入できる体制になっています。でも、実施エリアが今のところ私たちが配達できる範囲に限られているので、今後はより広いエリア、多くの拠点でも開催していきたいと思います。
また、ハナスクだけでなく、活用先を工夫し広げていきたいと考えています。
–プラスフラワーが皆の日常に欠かせないものになると素敵ですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
株式会社Hanavie公式サイト:https://hanavie.co.jp/