大久保 夏斗
2000年8月16日生まれ。合同会社HAYAMI代表/東京農業大学国際農業開発学科3年。18歳の時に兄の影響でバックパックを始め、大学に入りフィリピンでの国際ボランティアなどにも参加する。現在、学業と両立しながら草ストロープロジェクトを行なっている。
introduction
合同会社HAYAMIは、若手の起業家による草ストローの輸入販売を行っています。環境にやさしい製品を通じて、開発途上国の雇用創出をはじめとする暮らしの支援や、環境問題への課題解決を目指しています。
今回は、学生業の傍らCEOを務めている大久保夏斗さんにお話を伺いました。
ベトナムの植物を使ったストローづくり
-本日は、合同会社HAYAMIのCEO大久保さんにお話を伺います。よろしくお願いいたします。
大久保さん:
こんにちは。当社では、レピロニアという植物でできた草ストローの輸入販売を行なっています。生産地はベトナムのホーチミンから、車で3時間ほど離れた農村地帯です。
-ストローの原料となるレピロニアは、もともとベトナム人の暮らしに身近なものなのでしょうか。
大久保さん:
かつては工芸品の材料として育てられており、かごを編んで利用していました。しかし時代の変遷もあり、需要と供給のバランスが崩れてしまって。カゴの販売による収入だけでは少ないために草ストローの生産販売プロジェクトがはじまりました。
-ベトナムでは、以前から草ストローの利用はあったのでしょうか。
大久保さん:
いえ、コスト面が原因でなかなか普及せず、利用されていたのは高級レストランなどごく一部のみでした。しかし日本でなら値段を下げずに購入してくれる人もいるだろうと思い、現地生産者と協力し、輸入販売を始めました。適正な価格で取引をすることによって、フェアトレードを実現しています。
環境にやさしく、次の命をつなぐ草ストロー
-次に、草ストローの特徴について教えてください。
大久保さん:
草ストローは紙ストローと違い、水に浸けるとしなやかさを取り戻し、口当たりもよく使いやすい点が特徴です。オンラインショップでは、1箱20本入りから販売しています。一般の方はもちろん、オフィスでの利用や飲食店からの購入も多いです。
-植物をそのままストローにしているという点で、日本では特に衛生面が厳しいと思いますが、どのようにクリアしていますか?
大久保さん:
製品化する時点で高温・UV殺菌を行なっています。一般社団法人食品分析センターで実施される衛生検査を通過しているので、化学物質や農薬の心配もありません。また栽培時は農薬・化学肥料を使用しないため、製品の安全性はもちろん、生産者の健康や地域周辺の環境を汚染しないよう配慮しています。
-人や環境にもやさしいアイテムですね。
大久保さん:
はい。ストローは純粋な植物なので、使用後はコンポストに入れて堆肥化させれば、土に還すことも可能です。また、利用者の方から「うちのウサギやヤギが食べましたよ」と想定外の報告をもらったこともあります(笑)。動物の飼料としても使っていただいても、最後は排泄物となって外へ出て行き、土に還るのでおすすめです。
-プラスチックやステンレスと違って、そのまま土に還せるのは環境面で大きなメリットと言えそうです。
「刻印入り草ストロー」のオリジナル感がSNSでも反響
-オンラインショップには、通常のストロー以外にも刻印入りストローがありますね。これはどういった目的で作られたのか教えてください。
大久保さん:
いくら1度きりとはいえ、やはりお客様に使ってもらうなら、メッセージを刻印して、飲食店や企業のこだわり・思いを伝えられるようにしたいなと思って作りました。ベトナムの工場に依頼してオーダーメイドで刻印してもらえるので、たとえば企業のイベントブースのような場面にも使いやすい仕様です。
-文字入りが可愛い!と、SNSでも反響が集まりそうですね。
大久保さん:
そうですね。実際にSNSで写真を投稿してもらい、認知度が高まっていると感じます。今では飲食店や企業の方から声をかけてもらう機会が増えてきました。
コロナ禍での導入アプローチに難航するも、ニーズをくみ取り着実に拡大
-見た目もナチュラルですし、環境問題やSDGsに関心のあるカフェやレストランからも人気がありそうですね。全国の飲食店でも導入が進んでいるようですが、どのようにアプローチをしたのでしょうか。
大久保さん:
本格的に事業を始めた頃はコロナ禍だったので、オーガニックやヴィーガンを提供するカフェを中心に、受け入れ先を探し、電話やメールで導入を提案しました。
-実際に話をしてみて、店舗の反応はどうでしたか?
大久保さん:
コロナ禍ということもあり、一番大きなネックとなったのはコスト面でした。どうしても従来のプラスチックストローと比べると値段が高く、「環境への貢献はもちろんしたいけれど、売り上げが落ちている中での切り替えは難しい」という反応のお店もありました。それでもこちらのストーリーや思いを伝えると熱意を受け止めてくれ、導入を決めてくれるケースもありましたね。
-コスト面との兼ね合いは、飲食店にとっては悩ましい点ですよね。それでも導入に至ったのは、店舗のコンセプト以外に、お客様からのニーズも関係があったのでしょうか?
大久保さん:
それもあると思います。アプローチをした店舗の中には、すでに環境に配慮して紙ストローを使っていたけれど、口当たりが悪くふやけやすいという理由から、お客様に「使いづらい」と言われて困っていたようです。また草ストローは使い捨てなので、ゴミが出ないという理由でステンレス製ストローを使っていたお店も、今は感染対策の観点から使いづらいとの悩みも耳にしました。
お客さまと店舗、双方のさまざまなニーズが、ちょうど草ストローのメリットと合致したのだと思います。
現役大学生の大久保さん。SDGsに興味を持ったきっかけは”ウミガメ”
-ところで、合同会社HAYAMIを立ち上げた大久保さんは学生さんとのことですが、改めて大学での専攻を伺ってもよいですか?
大久保さん:
はい。現在は東京農業大学の国際農業開発学科3年生です。国際農業開発という分野では、世界の農村、特に開発途上国へ農業を通して支援する取り組みについて学びます。SDGsでいうと、目標1「貧困をなくそう」をメインに、ほとんどの目標に当てはまりますね。そのため大学でもSDGsを取り扱う講義が多く、開発途上国の農業との関連を中心に勉強する機会があります。
-もともとSDGsに興味はあったのでしょうか。
大久保さん:
もちろん、大学で学んでいる関係もあり、以前からSDGsには興味がありました。ただ元をたどると、高校生の頃にSNSで発見した、”ウミガメの動画”が自分にとっての原点と言えます。
その動画では、海中で泳いでいるウミガメの周辺に大量のプラスチックが浮遊し、しかもウミガメの鼻にはプラスチック製ストローが刺さって出血していたんです。当時の自分にとっては衝撃的でした。自分の暮らす地球にはこんな問題が起きているんだと知り、そこから環境問題を中心に関心を持つようになりました。
-そんな中、一体なぜベトナムで育つ植物のストローを販売しようと思ったのでしょうか。
大久保さん:
きっかけは、兄がベトナムでバックパック旅行をしている最中に、ベトナムで作られているストローの存在を知り、帰国後私に教えてくれたことです。その頃の自分は大学1年生でしたが、大学で学んでいる専門分野や環境問題の課題解決との親和性を感じ、ぜひ日本で販売したいと思って事業を始めました。
授業で学んだ内容をすぐにアプトプットできる点は、学生ならではのメリットだと思います。
-学業と事業、どちらも精力的に取り組んでいて、本当に尊敬します。
自治体や企業・団体との連携で、さらなるSDGs貢献を目指す
-ところでSDGsの話に戻ると、HAYAMIさんのウェブサイトにはいくつかのパートナーが掲載されていますね。中でも相模原市とは「さがみはらSDGsパートナー」として連携を組んでいるようですが、ここにはどのような背景があるのか教えてください。
大久保さん:
相模原は私が生まれ育った町なのですが、2020年に相模原市が「SDGs未来都市」に選定されました。役場にSDGs推進室が設置され、SDGsに取り組んでいる企業や団体と連携する「さがみはらSDGsパートナー制度」が始まったんです。そこで何か一緒に出来ないかと思い、こちらから連絡をして話を聞いてもらうことになりました。
-そこではどのような活動をされているのでしょうか。
大久保さん:
同じくパートナー制度に登録しているほかの企業と連携し、一緒に出来ることを模索しながら実践しています。例えば今までには、サッカー競技場でHAYAMIのブースを出店し、選手やチームサポーターの皆さんに草ストローを知ってもらう機会がありました。ほかにも意見交換などを行ない、どんどんできることを実施していく予定です。
-自治体主導の制度に、企業が協力するのはとても効果が大きいと思います。これからの展開に期待ですね。ウェブサイトにはベトナムの団体の名前も載っていましたが、こちらはどのような団体ですか?
大久保さん:
VIRI(Vetnam Rural Industries Resaerch and Development Institute)はNGO団体で、ベトナム現地で農村を支援する活動を行っています。昨年から連携を開始したのですが、コロナ禍の影響で直接赴くことはまだ実現していません。それでも今は、ストロー栽培の際にどうしても出てしまう葉や根などの部位を資源として利用したく、新たな製品の開発に着手しています。
ほかにも、現在は商品の売り上げがベトナム生産者さんの暮らしを助けられるような仕組みにしていますが、金銭面だけでなく、例えば図書館の設立や教材の提供を通した、別の形でのサポートも目指しています。
-まさにSDGs1「貧困をなくそう」やSDGs12「つくる責任、つかう責任」への貢献を目指しているのですね。ちなみに現在は草ストローのみの展開で、ほかの部位からも商品を展開予定とのことですが、それ以外のラインナップも考えているのでしょうか?
大久保さん:
はい。実はすでに、全く違う視点から新たな事業を展開しています。今年、メキシコで身近な植物であるサボテンを原料とした、ヴィーガンレザーの財布の販売を始めました。HAYAMIとはブランドを分けて「Re:nne」として活動しているのですが、サボテンからヴィーガンレザーを作るスタートアップ企業と一緒に事業を行っています。そのレザーを日本で100年近く活躍している革職人の方にお願いし、財布に仕立ててもらっています。
-それはまた新たな視点が入っているような気がします。海外だけでなく、国内での手仕事を絶やさず、雇用も生み出すきっかけになっているのですね。
大久保さん:
はい。ただ原点は「環境問題と貧困の課題解決」にあるので、あくまでも開発途上国の支援につながり、かつ環境に配慮した取り組みを意識しています。現在はオンラインショップのみで購入可能ですが、今後は全国のセレクトショップに卸すことを視野に入れて展開予定です。牛革のようになめらかな手ざわりで、とても上品な印象を与えてくれるアイテムですよ。
-実際に触ってみたいです。今後の展開を楽しみにしています!最後に、合同会社 HAYAMIとして今後の展望を教えてください!
草ストローを通して、循環の輪をつくりたい
大久保さん:
はい。SDGsは、2030年までにすべてを達成するのはほぼ不可能と言われています。しかし、目標に少しでも近づける努力はすべての企業がしなくてはならない。その中でわたしたちは、SDGs1と12、14、15の目標について特に貢献していきたいです。
また草ストローは、生産や販売のみならず、使用後にも焦点を当てているので、ただごみにするのではなく堆肥化や動物の飼料として活用できます。今後は個人や飲食店だけでの取組にとどめることなく、企業同士が連携して草ストローを資源化し、循環できる仕組みを構築したいと考えています。例えば、できた堆肥で作物を育て、飲食店やイベントで提供するといったように、点と点をつなげて循環の輪を作れたらなと。そのためにも草ストローの導入店舗を増やし、みんなで一緒にSDGsの目標達成に向かって歩んでいきたいです。
取材・執筆/ のり