葉坂 廣次
宮城県出身。 東北工業大学・現ライフデザイン学部卒業後25歳で起業。デザイン事務所を経営する傍ら、クロワッサンの店、版画工房、社員教育インストラクター、オルタナ社外取締役、国際ライセンス事業会社社長、海外での講演活動、高円宮妃殿下晩餐会プロデュース等、多彩な経験を積み地元仙台に戻る。その矢先、東日本大震災と津波被害をまのあたりにし、事業構想プロデューサーとして「社会起業家ビジネスゲーム」を企画、構想、オルタナに監修を依頼し、「SDGsアウトサイドイン・ビジネスゲーム」を完成させた。企業及び個人の「存在意義への対峙」をテーマに活動している。
目次
introduction
宮城県仙台市に拠点を構える株式会社オークジャパンは、新事業のプロデュースや競争型助成金獲得支援など、さまざまな企業のサポートをすることで社会課題の解決を目指してきました。
そんなオークジャパンは現在、SDGsビジネス研究所を立ち上げて「SDGsアウトサイドインビジネスゲーム」を開発し、現在普及・拡大に努めています。
自らもさまざまなソーシャルビジネスやブランドデザインを手がけてきた、代表取締役の葉坂廣次さんに、今回の事業についてお聞きしました。
「ゼロからイチ」を創る!コンサルよりも一歩踏み込んだ存在
本日はよろしくお願いいたします。最初に、御社の事業内容についてお聞かせください。
私どもオークジャパンは、新しい事業を立ち上げるお客様を支援する会社です。私自身もデザイナーとして、コーポレート・アイデンティティ(以下CI)のプロジェクトを提供したり、新事業を具現化するための補助金や助成金を申請するお手伝いをしたりして、「ゼロからイチ」を生み出すための支援を行ってきました。
コンサルタントとはまた違う感じでしょうか。
そこからもう一歩踏み込んだ形ですね。単に提案して実行するのではなく、現場でお客様と共に動いてきました。戦略も答えも、現場を見なければわかりません。例えるならば「軍師」のような役割だと自認しています。
SDGsをテーマに活動する意義に気づかされた東日本大震災
葉坂さんがSDGsにまつわる事業を始めたきっかけは、何だったのでしょう。
2011年の東日本大震災の時、ある経営者の方と知り合ったのが大きな契機です。
彼はかろうじて津波から逃れて九死に一生を得たのですが、その後大規模な植林事業や防災活動に精力的に取り組み、リオ+20や世界銀行年次総会に出向き、東日本大震災復興・海岸林再生への支援を訴え続けてきました。
私も彼と一緒に仕事して世界を回ったり、国連に行ったりするうちに、防災やSDGsの意義を仙台から発信することの重要性に気づいたのです。
ご自身の気づきを通して、SDGsについて知ってもらいたい気持ちが大きくなっていったのですね。
そうですね。形だけ知るよりも「理解」し、「行動」して欲しい、そう強く思うようになりました。
CIデザインを考えるには企業の本質理解が欠かせないので、ちょっと職業病なところがあるかもしれませんが(笑)。
SDGsを掲げることで、世界はどんな社会を理想としているのか、そのために会社は・個人はどうあるべきか、という本質を理解してもらうために事業を始めました。
そのために開発したのが、「SDGsアウトサイド・インビジネスゲーム」なんですよ。
経営者気分で楽しめる「ビジネスゲーム」を開発
「SDGsアウトサイドインビジネスゲーム」とはどのようなゲームなのでしょう。
2019年に開始した、SDGsについて学ぶためのビジネスゲームです。お金や新規事業、プロモーション手法などが書かれたカードを組み合わせて事業を拡大するゲームで、経営的観点に踏み込んでいるのが特長です。
「2030SDGs」や「SDGs de 地方創生」など、SDGsについて学べるゲームは40種類以上あるそうなのですが、このゲームは一般向けというよりは、企業の研修などで使う想定で作りました。
「アウトサイド・イン」というアプローチに基づいて、ビジネスとSDGsを結びつけることを目的にしています。
「アウトサイド・イン」というのはどういうアプローチなのでしょうか。
一言でいうと「社会課題の解決を起点にビジネスを創る」ことです。
アウトは「社会」、インは「企業や組織に取り込む」ことを指します。
今までは市場ニーズに合わせて製品やサービスを作る「マーケット・イン」が主流でした。それを市場のニーズ(マーケット)から社会のニーズ(アウト)まで広げて、社会課題の解決を目指したビジネスをしようという考え方が「アウトサイド・イン」です。
なるほど。社会課題を起点に事業のアイディアを考えるゲーム、ということでしょうか。
そうですね。実は最近カードゲームを研修に使う企業が増えていまして、私どものビジネスゲームも、いくつかの大手企業で採用されているんですよ。
それはすごいですね!
誰でも経営者の視点を持つことができる面白さ
ところでなぜ、研修でも使えるようなゲームを作ろうと思われたのですか。
もともと、SDGsと経営は密接に関わりがあると考えていました。
私たちの生活には企業の経済活動が不可欠である以上、経営面からの取り組みなくしてはSDGsの目標は達成できませんからね。
そんな頃に、SDGsについて学ぶカードゲームが出てきたので、Project Designさんと共同開発したんです。
開発の際は、取り組みやすく、本質の理解につながるゲームを目指しました。
私がデザイナーから独立するときに、経営について学ぶために参加した研修で行われた「マネジメントゲーム」もヒントになっているんですよ。
ゲームとはいえ、経営的視点を持って取り組めるのは面白そうですね。
実際に参加された方々の反応はいかがでしたか。
皆さん夢中になって取り組んでいただけますね。ゲームの後に振り返りをするのですが、このゲームと振り返りをセットで行う点がとても好評です。
「体験したいくつかのSDGsのゲームのなかで、飛び抜けてよかった!」という嬉しいお声もいただいています。
それは素晴らしいですね。
ゲームも参加者も柔軟に変化させていく
導入に際して課題に感じたことはありますか。
コロナ禍で複数人・一箇所に集まっての研修が難しくなりました。
そこでオンライン版で提供することになりましたが、より参加者の会話に耳を傾けることができるようになり、思わぬ発見もありました。
迅速で柔軟な対応に驚かされます。
どのようなことに気づかれたのでしょうか。
参加者の多くが、業績や売上を伸ばすことにとらわれてしまい、その成果を競うことが目的になってしまっていたことです。
ビジネスパーソン向けの研修なので致し方ないとは思いますが、それではSDGsやアウトサイド・インの本質を理解することはできません。そのため、ゲームの最後には数字だけでなく、企業の目的、存在意義、理念、行動指針などを考えてもらうようにゴールを発展させました。
そこからどう変わっていきましたか。
最初は戸惑っていた方も少なくなかったようです。ですがゲームを続けるにつれて、理解を深め、皆さん積極的に提案してくださるようになりました。このようにみんながプレイヤーとして関わっていくのも、ゲームに研修を取り入れるメリットです。会社としての方針から、個人レベルでアウトサイド・インの意義を理解することにもつながっていますね。
葉坂さんの目指す「本質的な理解」に近づいたのですね。
そうですね。もうひとつ感じたのは、SDGsの理念を共有することは地方と都市の垣根や、会社の規模といった違いを超えられるということです。
当初、大企業さんに提案する時には気後れすることもありましたが、目的を明確に説明していくことでご理解いただき、活動を広げる上での励みにもなっています。
いろいろな形でSDGsの本質を伝え続けたい
最後になりましたが、今後の展望についてお聞かせください。
まずはアウトサイド・インゲームのブラッシュアップですね。
これまでのゲームはあくまでもスタートアップで、今後さらにその先を計画しています。
今開発しているものは、オンラインで24時間1人でも体験できるようにする予定です。グループでも取り組めるようセキュリティを強化して、今年の6月を目標にリリースする予定です。
リリースされたら、ぜひ取り組んでみたいですね。
もうひとつは、他のエンターテイメントとのタイアップを考えています。
具体的にはビジネスを題材にした漫画や小説などと組んで作品を作り、アウトサイド・インの本質的な概念をより楽しく、身近に感じていただけるようになればいいですね。
完成するのが今から楽しみですね。
そうですね。最後に、SDGsを次の世代へ伝えていくことも大事な使命だと思っています。
カードゲームとは少し離れますが、弊社では林業や農業など第一次産業の事業支援も行ってきました。今後は保育園など教育施設の現場と第一次産業を連携させることで、次代を担う若者や子どもたちにSDGsの理念を学んでもらえるような事業もしていければと思っています。
SDGsの本質や、人が生きる意味を理解することの大切さ。そのことを常に考えながら事業を続ける姿勢には頭が下がります。本日はありがとうございました!
取材 大越 / 執筆 shishido