ただ長生きするのではなく、健康な状態を保ちながら暮らしたいと願う人は少なくないでしょう。そこで重要になる考え方が「健康寿命」です。この記事では、健康寿命とは何か、なぜ健康寿命が大切なのかを解説します。記事の最後にはSDGsとの深い関係性も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
健康寿命とは
健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことを意味します。
(参考:厚生労働省)
日常生活が制限されるとは、病気で入院をしたり、介護を必要としたりなど、自立して元気に生活することができない状態のことです。ただ長生きするだけでなく、生活の質を考慮すべきという認識の高まりから、健康寿命に注目が集まるようになりました。
支援や介護が必要になる原因
厚生労働省が発表している統計によると、日常生活が制限されてしまう大きな要因は、
- 認知症
- 脳卒中
- 高齢による衰弱
の3つです。これ以外の要因には、関節疾患、骨折・転倒などが挙げられています。
健康寿命と平均寿命の違い
平均寿命とは、生まれてから亡くなるまでの平均的な時間のことを意味します。健康寿命が健康に生活できる期間のことを指すと言うことは、平均寿命から健康寿命を差し引いた残りの年数が、日常生活に制限を持ちながら暮らす時間となるのです。
健康寿命と同時に平均寿命も伸びている
もう一度、厚生労働省の発表した平均寿命と健康寿命のグラフを見てみましょう。健康寿命が伸びていることは素晴らしいことですが、同時に平均寿命も右肩上がりに伸びていることが分かります。
2019年段階で健康寿命と平均寿命の差は男性が8.73歳、女性が12.07歳となっています。この数字は、男女ともに約10年前後にわたり、健康上の問題で何かしら制限のある生活を送っていることを意味します。
平均寿命と健康寿命の差が生まれることの問題
平均寿命と健康寿命の差が生まれると、入院や介護が必要となる時間が長くなることが予想されます。ここで発生する問題が、医療費・介護費用の負担です。実際に、内閣府が55歳以上の高齢者を対象に実施した、年間で最も大きな割合を占める支出に関するアンケートでは、「健康維持や医療介護のための支出」が最も多い結果となっています。
介護や医療を必要とする時間が長いほど、これらの負担が大きくなってしまう点が大きな課題です。
日本における健康寿命の推移
日本の健康寿命は、2019年の段階で男性が72.68歳、女性が75.38歳となっています。平均寿命と同じく、女性の方が男性よりも健康寿命が長いことが分かります。
また、2001年と比較すると、男性側も女性側も約3歳伸びており、グラフも右肩上がりとなっています。
【2019年版】都道府県別健康寿命ランキング
それではここで、2023年6月時点で公表されている最新の数値である2019年(令和元年)の都道府県別健康寿命ランキングを見ていきましょう。厚生労働省が発表した統計を元にしています。
男性
順位 | 都道府県名 | 平均健康寿命年齢 |
1位 | 大分県 | 73.72 |
2位 | 山梨県 | 73.57 |
3位 | 埼玉県 | 73.48 |
4位 | 滋賀県 | 73.46 |
5位 | 静岡県 | 73.45 |
6位 | 群馬県 | 73.41 |
7位 | 鹿児島県 | 73.40 |
8位 | 山口県 | 73.31 |
9位 | 宮崎県 | 73.30 |
10位 | 福井県 | 73.20 |
女性
順位 | 都道府県名 | 平均健康寿命年齢 |
1位 | 三重県 | 77.58 |
2位 | 山梨県 | 76.74 |
3位 | 宮崎県 | 76.71 |
4位 | 大分県 | 76.60 |
5位 | 静岡県 | 76.58 |
6位 | 島根県 | 76.42 |
7位 | 栃木県 | 76.36 |
8位 | 高知県 | 76.32 |
9位 | 鹿児島県 | 76.23 |
10位 | 富山県 | 76.18 |
男性の健康寿命が最も長い都道府県は大分県、女性は三重県となっています。また、山梨県は男女ともに2位で、平均的に県民の健康寿命が長いことが分かっています。厚生労働省は、都道府県間の健康寿命の差は、地域間の健康格差を示していると指摘し、改善に向けて取り組んでいます。
世界の健康寿命の現状
世界的に見ると、日本は長寿の国として知られています。ここでは、2023年5月19日にWHOが発表した2023年版の世界保健統を参考に、世界の健康寿命の現状を見ていきましょう。
【2023年版】国別健康寿命ランキング
順位 | 国名 | 平均健康寿命年齢 |
1位 | 日本 | 74.1 |
2位 | シンガポール | 73.6 |
3位 | 韓国 | 73.1 |
4位 | スイス | 72.5 |
5位 | キプロス | 72.4 |
6位 | イスラエル | 72.4 |
7位 | フランス | 72.1 |
8位 | スペイン | 72.1 |
9位 | アイスランド | 72.0 |
10位 | イタリア | 71.9 |
グラフから読み取れるように、日本の健康寿命は堂々の1位となっています。2位にシンガポール、続いて韓国とアジア圏の国が並び、4位以降にはヨーロッパ各国が続きます。上位10位には先進国であるアメリカやカナダといった北米の国がランクインしていない点が特徴的です。
日本の健康寿命ランキングは世界1位
日本の健康寿命が1位の理由にはさまざまな見解がありますが、その中でも健康保険制度は世界的にみても優れています。日本には複数の社会保険制度がありますが、必ず入らなくてはいけない義務保険「国民皆保険制度」があるのは世界的にみても珍しい制度です。
海外では国民皆保険制度がある国が少なく、個人で民間保険に入るか、そうでなければ医療費は全て自費となってしまいます。そのため、民間保険に加入できない貧困層が定期的な健康診断や治療を受けられず、病気の早期発見・治療が困難になってしまうのです。
ここまで健康寿命について見てきましたが、平均寿命との違いがわからない方も多いと思います。次で確認しましょう。
健康寿命を伸ばすためにできること
近年徐々に健康寿命への認知が広まり、日本政府は2019年に「健康寿命延伸プラン」を策定しました。2040年までに健康寿命を男女ともに75歳以上とすることを目標とし、その施策をまとめています。
健康寿命延伸プランは、健康無関心層を含めた健康づくりの推進、地域・保険者間の格差の解消に向けて、環境づくりや疾病予防、介護予防を中心に取り組みを進めています。毎年実施される健康診断も、がん早期発見への取り組みであり、健康寿命を伸ばすことにつながります。
個人の取り組みも大切
健康寿命を伸ばすためには、個人の取り組みも重要です。要支援者となってしまわないように、定期的に運動をし、筋肉や間接、骨の運動機能を維持することが大切です。散歩に出かけたり、外出先で意識的に階段を使ったり、日常生活の中で体を動かすと良いでしょう。
また、読書する、絵を描くなど、脳を積極的に活性化させることは、要介護要因1位である認知症予防になります。体と脳をしっかりと活性化させることが、健康寿命を伸ばすための個人でできる取り組みです。
健康寿命とSDGs目標3「すべの人に健康と福祉を」
健康寿命とSDGsは、深い関わりがあります。
SDGsは、国連によって採択された人類が2030年までに達成すべき目標であり、貧困、紛争、気候変動、感染症といった課題を解決するために掲げられています。
SDGsが重視する課題の中でも、世界の人々の健康は重要なものです。ここでは、健康寿命に関わりの深い2つの目標を紹介します。
SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」は、あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確実にし、福祉を推進することを目標としています。健康保険制度が充実している日本ですが、人口1,000人当たりの医師数は2.4人と言われ、少子高齢化の影響で医療従事者の数が足りなくなることが懸念されています。
国民の健康寿命を伸ばすことは、医療を必要とする時期が少なくなることも意味するため、医療従事者不足の対策のひとつとなるでしょう。
高齢者の健康寿命が伸びることは、高齢者自身の生活の質を高めるだけでなく、長く働き続けられる人口が増えることにつながります。少子高齢化が進む日本では、働き手が少なくなってしまうため、高齢者の健康を促進することで、生産年齢人口の減少に対応することが可能になり、目標8「働きがいも経済成長も」の達成に貢献できます。
まとめ
長生きできることはもちろん良いことですが、健康に自分らしく生活することができればさらに素晴らしいですよね。
そのために政府は、国民の健康寿命を伸ばすために取り組みを進めています。ただし、健康寿命を伸ばすことが経済や社会に良いということを強調しすぎて、医療を必要とする高齢者が生きづらい社会となってしまえば本末転倒です。
医療を必要とする人々に届けるために、できるだけ健康であり続ける。これがSDGsの目指す健康な社会とも言えるでしょう。
健康でありたいという気持ちを大切に、健康寿命を伸ばす取り組みを個人でもしていくことが大切です。
参考:
厚生労働省:平均寿命と健康寿命
2023年版の世界保健統
厚生労働省:健康寿命延伸プラン
厚生労働省:介護の状況
厚生労働省:評価シート 様式2(案)委員作成資料